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第23話 よく生きていたな
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ユリアにため息を吐かれて冷たい目をされてしまったが、翌日には執務室に新しいデスクが入った。どうやら予備がいくつかあるみたいで、大した時間はかからなかったのだ。
もしかしたら父も俺と同じように、怒りにまかせて破壊することがあるのかもしれない。
* * *
仕事に忙殺される日々は続いている。政務が減ることはない。特に魔物の被害がひどい。冒険者ギルドを立て直しても、状況は改善されていないのだ。
唯一の希望があるとしたら、父の調査が始まって三週間ほど経過しているので、そろそろ戻ってくることだろう。同行していた騎士たちさえいれば魔物討伐の処理が進む。俺も手が空くので、外に出て魔物討伐の指揮を執れるようになる。
じり貧ではあるが希望はある。今は我慢の時だ。
心配はない。時間が解決すると言い聞かせながら、執務室で魔物討伐報告書を確認していると足音が聞こえてきた。
屋敷内で走っているようだ。
平時なら絶対似ない状況に不吉な予感を覚える。
「緊急事態ですッ!!」
ドアが思いっきり開くと、副騎士団長のローバーが入ってきた。長いことブラデク家に仕えているが、慌てる姿を見るのは初めてだ。
それだけ衝撃的な内容なのだろう。
一度だけ深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「何があった?」
「前線の砦が崩壊しました! ご当主様が戦死されたようです!!」
オーラの技術は騎士以上で俺に匹敵する。歳を取ったとはいえ魔物に囲まれたとしても負けることはない。だからこそ周囲は前線の砦に行かせることを許したのだし、俺も絶対に帰ってくる安心感があったのだ。
それなのに父は死に、砦が突破されただと?
信じられるはずがないッ!!
「証拠はあるのかッ! 妄言だったら、ただではおかないぞ!」
「こちらを!」
デスクに一つの指輪が置かれた。ブラデク家の紋章が彫られていて、代々当主が受け継いできたものだ。これがあるということは、父は既に持っていないことになる。
だが、これだけじゃ本当に死んだのか確信が持てない。実は生き残っていて助けを待っているんじゃないかと思ってしまう。
「証人はいるのか?」
「生還した騎士がいるのですが、その中にご当主様が殺される場面を見た者がいました」
「私が直接、話を聞きに行く」
席を立つと剣を持って執務室から出る。ローバーが先頭を歩いていて廊下を歩く。
周囲が騒がしい。メイドたちが慌てている。よく見ると血の付いた布を大量に持っていた。
「派遣した騎士のほとんどが死にました。戻ってきたのは十名ほどで、全員が重傷者です」
魔の森で劣勢になったのであれば通常は全滅する。単独ですさまじい戦闘能力を持つ騎士でも例外ではないので、生き残れていたとしても一名ぐらいだと思ってた。
「まさか十名も生還できるとはな」
「ご当主様が騎士を逃がすために最後まで戦っていたようです」
「父様は最後まで責務を全うされたのか……」
極論ではあるが、領民を守るのが俺たちの仕事だ。そのために領地を繁栄させ、魔物を殺し、他貴族との関係に気を使っている。
もちろん見返りはある。税収だ。俺たちが平民よりも良い生活ができるのも、庇護されていることに満足し、喜んで金を支払ってくれるからである。
そして騎士だって少ないながら税金は支払っているので、父が自分を犠牲にする理由にもなるのだ。
「素晴らしい最後だったと聞いております」
「世辞はいらない。俺が知りたいのは真実のみだ」
「かしこまりました」
父がどれほど素晴らしいかは、他の誰よりも俺が深く知っている。うわべだけの賞賛をされても気分が悪くなるだけ。
黙ってしまったローバーの案内にしたがって屋敷を出ると、普段は騎士が訓練している広場に着いた。布が敷かれていて負傷者が横たわっている。離れているここからでも濃い血の臭いが漂ってきた。
ブラデク家が雇っている専属の医者と助手たちが治療をしているが、人手が足りていない。適当に包帯を巻かれて放置されている騎士たちもいる。
助けてやりたいが、早めに目的を達成せねば。
もたもたしている間に死なれても困るからな。
「父様の最後を見た騎士は?」
「こちらです」
横たわっている騎士の間を抜けて一番奥にいる男の前で止まった。
全身を包帯で巻いている。特に顔回りが重傷なようで、鼻や耳が欠けているようだ。片目は潰れているが意識は正常なようだ。
「お前の名前は?」
「クルードです」
かすれた声だ。喉が渇いているのだろう。水を飲ませてやりたいが、余計なこことだと思って止めておく。
「父様の最後を見たと聞いた。詳細を教えてくれ」
「砦に戻って次回の調査について計画をまとめていたら、砦に魔物が押し寄せてきました。ご当主様はすぐに騎士を率いて討伐に出て、圧勝します」
当然だろう。魔物ごときに殺されるほど弱くはないからな。
「いつもであれば魔物を全滅させて終わりなんですが、その時は違いました。第二陣、第三陣と魔物が波のように押し寄せてきたんです」
「そいつらに負けたのか?」
「いえ。ケガを負う騎士はいましたが全勝しました」
「ではなぜ、父様は死んだ」
「魔族です。魔物の戦いで疲れ切った我々の前に、三体の魔族が襲ってきたんです」
個として圧倒的な力を持つ魔族は集団行動しない。特に戦闘面においては嫌がる傾向が強くあり得ないのだ。なぜ三体も同時に、しかも魔物を使って騎士たちを疲弊させるような方法まで使った? 普通は嫌がるだろ。疑問ばかりが浮かぶ。
もしかしたら父も俺と同じように、怒りにまかせて破壊することがあるのかもしれない。
* * *
仕事に忙殺される日々は続いている。政務が減ることはない。特に魔物の被害がひどい。冒険者ギルドを立て直しても、状況は改善されていないのだ。
唯一の希望があるとしたら、父の調査が始まって三週間ほど経過しているので、そろそろ戻ってくることだろう。同行していた騎士たちさえいれば魔物討伐の処理が進む。俺も手が空くので、外に出て魔物討伐の指揮を執れるようになる。
じり貧ではあるが希望はある。今は我慢の時だ。
心配はない。時間が解決すると言い聞かせながら、執務室で魔物討伐報告書を確認していると足音が聞こえてきた。
屋敷内で走っているようだ。
平時なら絶対似ない状況に不吉な予感を覚える。
「緊急事態ですッ!!」
ドアが思いっきり開くと、副騎士団長のローバーが入ってきた。長いことブラデク家に仕えているが、慌てる姿を見るのは初めてだ。
それだけ衝撃的な内容なのだろう。
一度だけ深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「何があった?」
「前線の砦が崩壊しました! ご当主様が戦死されたようです!!」
オーラの技術は騎士以上で俺に匹敵する。歳を取ったとはいえ魔物に囲まれたとしても負けることはない。だからこそ周囲は前線の砦に行かせることを許したのだし、俺も絶対に帰ってくる安心感があったのだ。
それなのに父は死に、砦が突破されただと?
信じられるはずがないッ!!
「証拠はあるのかッ! 妄言だったら、ただではおかないぞ!」
「こちらを!」
デスクに一つの指輪が置かれた。ブラデク家の紋章が彫られていて、代々当主が受け継いできたものだ。これがあるということは、父は既に持っていないことになる。
だが、これだけじゃ本当に死んだのか確信が持てない。実は生き残っていて助けを待っているんじゃないかと思ってしまう。
「証人はいるのか?」
「生還した騎士がいるのですが、その中にご当主様が殺される場面を見た者がいました」
「私が直接、話を聞きに行く」
席を立つと剣を持って執務室から出る。ローバーが先頭を歩いていて廊下を歩く。
周囲が騒がしい。メイドたちが慌てている。よく見ると血の付いた布を大量に持っていた。
「派遣した騎士のほとんどが死にました。戻ってきたのは十名ほどで、全員が重傷者です」
魔の森で劣勢になったのであれば通常は全滅する。単独ですさまじい戦闘能力を持つ騎士でも例外ではないので、生き残れていたとしても一名ぐらいだと思ってた。
「まさか十名も生還できるとはな」
「ご当主様が騎士を逃がすために最後まで戦っていたようです」
「父様は最後まで責務を全うされたのか……」
極論ではあるが、領民を守るのが俺たちの仕事だ。そのために領地を繁栄させ、魔物を殺し、他貴族との関係に気を使っている。
もちろん見返りはある。税収だ。俺たちが平民よりも良い生活ができるのも、庇護されていることに満足し、喜んで金を支払ってくれるからである。
そして騎士だって少ないながら税金は支払っているので、父が自分を犠牲にする理由にもなるのだ。
「素晴らしい最後だったと聞いております」
「世辞はいらない。俺が知りたいのは真実のみだ」
「かしこまりました」
父がどれほど素晴らしいかは、他の誰よりも俺が深く知っている。うわべだけの賞賛をされても気分が悪くなるだけ。
黙ってしまったローバーの案内にしたがって屋敷を出ると、普段は騎士が訓練している広場に着いた。布が敷かれていて負傷者が横たわっている。離れているここからでも濃い血の臭いが漂ってきた。
ブラデク家が雇っている専属の医者と助手たちが治療をしているが、人手が足りていない。適当に包帯を巻かれて放置されている騎士たちもいる。
助けてやりたいが、早めに目的を達成せねば。
もたもたしている間に死なれても困るからな。
「父様の最後を見た騎士は?」
「こちらです」
横たわっている騎士の間を抜けて一番奥にいる男の前で止まった。
全身を包帯で巻いている。特に顔回りが重傷なようで、鼻や耳が欠けているようだ。片目は潰れているが意識は正常なようだ。
「お前の名前は?」
「クルードです」
かすれた声だ。喉が渇いているのだろう。水を飲ませてやりたいが、余計なこことだと思って止めておく。
「父様の最後を見たと聞いた。詳細を教えてくれ」
「砦に戻って次回の調査について計画をまとめていたら、砦に魔物が押し寄せてきました。ご当主様はすぐに騎士を率いて討伐に出て、圧勝します」
当然だろう。魔物ごときに殺されるほど弱くはないからな。
「いつもであれば魔物を全滅させて終わりなんですが、その時は違いました。第二陣、第三陣と魔物が波のように押し寄せてきたんです」
「そいつらに負けたのか?」
「いえ。ケガを負う騎士はいましたが全勝しました」
「ではなぜ、父様は死んだ」
「魔族です。魔物の戦いで疲れ切った我々の前に、三体の魔族が襲ってきたんです」
個として圧倒的な力を持つ魔族は集団行動しない。特に戦闘面においては嫌がる傾向が強くあり得ないのだ。なぜ三体も同時に、しかも魔物を使って騎士たちを疲弊させるような方法まで使った? 普通は嫌がるだろ。疑問ばかりが浮かぶ。
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