上 下
81 / 106

信じられない……

しおりを挟む
 作戦会議が終わると、ルビー鉱山が乗っ取られ、奪還するために動くことを屋敷内に広めた。また同時にメイド長を泳がす意味が無くなったので拘束して牢に入れている。これでバドロフ子爵への情報漏洩は止まったはずだ。

 翌日になると朝日が昇る前にヴァリィとトエーリエが率いる兵とテレサ、臨時で雇った冒険者は町を出発して村の防衛へ向かう。

 一方のアイラは馬車を一台用意して乗っている。俺とベラトリックスは先頭、護衛の兵二人は馬車の後方を警備配置だ。全員馬に乗って走らせているので昼過ぎぐらいには目的地へ到着するだろう。

 天候はよく、移動は順調だ。

 ルビー鉱山へ向かう途中に襲撃か罠ぐらいあるかと思って警戒していたが何も起こらない。平和だ。

「どうして仕掛けてこないのでしょうか?」

 馬を操作して俺の隣に来たベラトリックスが聞いてきた。

「格下に本気を出す必要ないって思われているんだろうよ。それか攻めに来ても返り討ちにする戦力があるかだな」

 俺たちがどう動いても奪還なんてできないという傲慢な考えが透けて見える。

 それだけ今回の作戦に自信があるのだろう。

「子爵ごときがポルン様を下に見ている? 生意気な……」

 魔力の制御が甘くなって髪の毛が蛇のようにうねりだした。

 殺気すら漏れ出していて馬が怯えている。

 バドロフ子爵が舐めているのは俺じゃなくアイラなんだが、そんな単純なことにすら気づけてないほど感情的になっているのだ。

「ベラトリックス」

 やや厳しめな口調で名を呼ぶと、ハッとした表情になって俺を見た。

 理性が残っているようで安心したよ。

「申し訳ありません。つい……」
「気持ちはわかる。が、怒りは表に出して発散するんじゃない。内に秘め、決して折れることのない闘志に変えるんだ」
「はい」

 しゅんとして肩を落としてしまった。

 言い過ぎてしまったか? まだルビー鉱山にすら着いてないのに戦意を落とされても困る。フォローしなければ。

 馬を近づけると手綱を握っている小さな手に触れる。温かい。俺よりも体温は高いみたいだ。

「ただ、俺のことを思ってくれたのは嬉しい。ありがとう」
「いえ! そんなことはっ!?」

 山の天気のようにコロコロと表情がよく変わる。

 元気になったようで安心したよ。

「あぁっ」

 手を離すと残念そうな声を出されてしまった。もう少しつながっていても良いかなと思わせるほど、切実さがこもっていたのだが今回は諦めてもらうしかない。

 まだ距離はあるがルビー鉱山のある山が見えてきたのだ。標高は低い。子供でも山頂に行けるぐらいだ。

「麓に管理小屋がある。俺は先行して状態を確認しにいく。馬車の護衛は頼んだぞ」
「お気を付けて」
「そっちもな」

 馬の腹を軽く蹴って見通しの良い街道を走らせる。

 しばらくして山が近づくと木々が増えてきた。誰かが隠れている様子はなく引き続き順調だ。

 待ち伏せもなく小屋の近くにまで来たので馬から下りて木につなぐ。

 槍を手に持ち、木々に隠れながら管理小屋に近づいた。

「やはり、こうなっていたか」

 燃えかすしか残っていない。地面がえぐれていることから火炎系の魔法――ファイヤボールを使って破壊したとわかった。

 周囲に人の気配はない。

 さらに近づいて炭になってしまった管理小屋に使われていた木を触る。

 冷たい。時間が大分経っているのでルビー鉱山を襲撃するときに破壊されたのだろう。

 さらに調べていくと黒くなった死体を五つ発見した。ルビー鉱山に派遣された兵の一部だ。肉体は散り散りに吹き飛んでいるので爆発に巻き込まれたことがわかる。これじゃ即死だっただろう。

 苦しみを感じずに死ねたのであればよいのだが……。

 安らかに眠れることを祈っていると、草を踏む音が聞こえた。

 振り返り構えると、金属鎧を身につけ、剣を抜いている兵らしき男が三人いる。ヴォルデンク家は、このような立派な装備は用意できない。仲間でないことは明白だ。

 様子を見ていると俺を囲むように動いた。

「お前は冒険者か?」
「違う。今はヴォルデンク家に仕えている」

 リーダーらしき男が聞いてきたので正直に答えると、殺気が高まった。

 わかりやすい反応をされてしまえば正体なんてすぐにわかる。

「バドロフ子爵の子飼いか。ルビー鉱山を返してもらうぞ」

 俺の左右に回り込んだ兵が同時に斬りかかってきた。

 大きく後ろに下がって回避すると、槍で二連の突きを放って鎧を突き抜けて心臓を穿つ。

 これで数の有利はなくなった。

「なっ!?」

 圧倒的な力量の差に怯え、兵のリーダーは後ずさる。

「お前には聞きたいことがある。すべてを話せば生きて返してやるが、どうする?」
「嘘だ。信じられない……」

 一瞬でためらいもなく殺してしまったのが原因なのか、俺の言葉は受け入れてもらえなかった。失敗してしまったな。

 覚悟を決めたような顔をされてしまう。

「うぁぁぁああああああッ!!!! 死ぬ前に殺すんだッ!」

 叫び声によって恐怖をねじ伏せ、剣を振り上げて走っている。

 お粗末だ。

 リーダー格だと思った男は、新兵レベルの技量しか持っていない。装備だけが立派な張りぼてだったようだ。

 振り下ろされた剣を柄で弾き、蹴りを放って腹にぶち当てる。

 ゲロをまき散らしながら地面に転がって倒れてしまった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...