勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~

わんた

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あなたはッ……!!

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 方針が決まると俺たちは黙ってパンをスープに浸すと食べて、すぐ横になった。

 固い床にローブを敷いただけなので、寝心地は悪いが野営するよりかはマシだ。風が強く隙間風から入ってくるが、気温は高いので凍えることはない。死にはしないだろう。

 古びた天井を見ながら明日のことを考えていると嗅ぎ慣れた臭いがした。

 首を動かしてアイラを見ると既に寝ているようだ。貴族令嬢にとっては過酷な移動だったし、疲れが溜まっていたんだろうな。しばらくは起きないだろう。

 体を起こして、槍を持つと外へ出る。

 強く木の枝が大きく揺れている。
 雲はないが風は非常に強いようだ。

 魔力で身体能力を強化すると屋根に飛び乗った。眼下には点在する家があり中から光が漏れている。村人たちはまだ起きているようだ。騒ぎもなく、平和そのもの。

 だからこそ、風に乗って届いてくるかすかな臭いが不安をかき立てる。

「汚染獣がいるのか?」

 近くではない。

 かなりの距離がある。普通の人たちなら気づかないだろうが、俺は光属性によって瘴気に敏感であるため察知できた。

 目を集中的に強化して遠くを見ると、何かが動いているようにも見えた。

 歩いているのか?

 暗いため遠目からではよく分からない。

 討伐しに行きたいが、俺が離れた瞬間にアイラがバドロフ子爵の手下に襲われるかもしれないので、一人にはできない。また周囲に被害が出ているわけでもないため、見逃すしかないだろう。

 戦うのを諦めると、風を切る音が聞こえた。

 敵襲かもしれないと槍を構えながら振り返る。

 音の正体はクリスタルで作られた鳥だった。ベラトリックスの使い魔だ。

 俺の隣に降り立つ。

 森を出たらすぐ居場所を突き止められてしまったみたいである。

 痕跡は残してないはずなのだが、どうやって見つけているのだろう。

 魔法なのだろうか?

 超長距離の探索なんて普通はできないのだが……。

 聞いても答えてくれないだろうし、謎は深まるばかりである。

 いつもは使い魔が手紙を持ってきて合流場所を指定されるのだが、今回は違うようだ。じっと俺を見ているだけで何も持っていない。

「俺の伝言を待っているのか?」

 彼女たちがどこまで事態を把握しているかはわからないが、汚染獣がいるなら力を借りたかったところである。またヴォルデンク家の問題解決にも協力してもらおう。

 逃げ出しておいて必要になったら助けてほしいとお願いするなんて都合が良すぎる話ではあるが、彼女たちは喜んで受け入れてくれるだろう。結局俺も、元勇者という立場を利用して仲間に頼っている。離れていてもお互いに求めあっていた。

 クリスタルの鳥を抱きかかえると、屋根から飛び降りて部屋へ戻る。

 羊皮紙やペンなんてものはないので、ちょっと太めな薪に炭で文字を書く。

 内容は汚染獣がいるかもしれないこと、身分を隠して誘拐されていたヴォルデンク家の令嬢を守っているから、できれば手伝って欲しいということだけ。これだけ書けば独自で調べて協力してくれるだろう。

 薪を投げ渡すとクリスタルの鳥がくわえ、歩いてドアの前まで移動する。

 足を器用に使って開けた。

 静かに飛び立つ姿を見送ると、寝ることにした。



 翌日は日が昇る前に起きると出発の準備をする。

 疲れが残っていそうな顔をしているが、家のことが心配なアイラは不満なんてこぼさない。黙って俺の後をついていき村から出て道を歩く。

 途中で行商人を見つけたので、交渉すると銀貨数枚で町まで連れて行ってもらえることになった。荷台の隅に座っていると、アイラの頭が俺の肩に乗る。どうやら寝てしまっているようだ。

 町に着けば落ち着く暇なんてないので、今は少しでも休ませてあげよう。

 周囲の警戒は俺だけがすることにした。

 * * *

 丸一日かけてヴォルデンク家の屋敷がある町に着いた。

 フードをかぶって正体を隠していたためアイラが戻ってきたとは誰も気づいてない。

 顔は確認されることすらなかった。警備が緩い。

 町にある市場へ着くと、行商人と別れてアイラと屋敷に向かう。

「ドキドキしてきました。大丈夫でしょうか」

 手を胸の前に持っていくとギュッと握っていた。
 不安だらけで怖いのだろう。

「正直なところわかりません。ですが、何があってもアイラ様はお守りしましょう」
「ありがとうございます」

 お礼を言われたが表情は暗い。

 家のことを案じているからだ。

 かける言葉が見つからず黙って歩き続け、屋敷の近くに着いた。高い塀に囲まれていて中が見えないようになっている。

 入り口には門番が一人いた。

「人気の無いタイミングがあれば、塀を登って侵入することもできそうですね」
「おすすめはしません。警報のなる魔道具が設置されています。隠し通路なんてものは作っていませんし、今回は正面から行きましょう」

 金がかかっているな。ルビー鉱山の収益で魔道具を購入したのだろう。

 アイラは門番の前に行ったので、サポートするために俺も続く。

「ここはヴォルデンク男爵の屋敷だ。何用だ?」

 返事はせず、フードを外して素顔を晒す。

「あなた様はッ! ご病気では……!?」

 さすがに顔は覚えていたようで、門番が声を上げそうになった。

 素早く俺が後ろに回り込んで口を塞ぐ。

「彼は私の味方です。声を出さず、大人しくしてくれるならすぐに離します」

 門番から力が抜けたので解放した。

 アイラの後ろに戻って様子を見守る。

「家で私のことはどのように広まっていますか?」
「病にかかって部屋で寝たきりだと。伝染病であるため、ご当主以外誰も入ってはいけないと厳命されております」
「……そうなっていたんですね」

 やはり誘拐されていることを隠していたようだ。理由はわからないが、ここでアイラが戻ってきたと広めてもヴォルデンク男爵の顔を潰すだけであるであり、面子を重視している貴族にとって、やってはいけないことだ。

 護衛にはちゃんと伝えておく必要があった。

「私は屋敷に戻りますが、しばらくは外に出ていたことは秘密にしてください」
「かしこまりました。何も見ていないことにします」
「ありがとう。助かります」

 門番が横に移動して道を空けてくれた。

 先に俺が前に屋敷の敷地内に入ると、後ろから声が聞こえる。

「あ、そういえば今、お客様が来ております。誰にも見つかりたくないのでしたら、裏口から入ってください」

 門番からのアドバイスだ。素直に従おう。
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