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道がありました
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アイラの領地は西にあるときいたので、方角だけ合わせてまっすぐ歩いているが、三日たっても森を出るどころか道すら見えてこない。
認めたくはなかったが、俺たちは完全に遭難している。
運が良いことに食べられる植物は多く、また狩りもできるので食料には困っていないので、すぐに死ぬほどの状況じゃない。
だが、精神面は違う。
後ろにいるアイラは慣れない野営を続けているため、疲れが取れていないようだ。日に日に食べる量が減っていて、同時に体力までも低下している。着ていたドレスは泥だらけで木の枝に引っかけて一部破けている。薄く強い太ももがさらされていて、俺じゃなければ劣情に負けて襲う男もいただろう。足にはマメができてしまったようで、移動速度は低下してしまった。
抱きかかえてあげたいとは思うが、魔物に襲われることを考えたらできない。
心を無にして歩き続けると、小さな泉を発見した。
鹿などの動物の姿はあるが魔物はない。水袋もだいぶ軽くなったので立ち寄っても良いだろう。
「少し休憩しましょうか」
「は、い……」
フラフラと左右に揺れながら、アイラは泉の近くでペタリと座り込んだ。
靴を脱いで素足をだす。布を巻いた、かかとの部分が真っ赤になっていた。血も出ているようだ。
新しい布に変えてあげたいが、代えはないので使い続けてもらうしかない。
「水をくんできます」
泉に近づくと鹿が逃げていった。
人間が敵であると知っているのだ。人里が近いのかもしれない。
しゃがみ込んで水袋を泉の中に入れる。満タンになったので立ち上がると、遠くから馬車の音が聞こえた。一瞬であったが間違いない。
急いでアイラの元に行く。
「近くに道があるかもしれません」
「本当ですか!?」
ようやく森から抜けられるかもしれない。
そういった期待が含まれる声だった。
「様子を見に行きましょう」
慌てて靴を履こうとしているが、ケガのせいで時間がかかっている。
音は遠ざかっているので待っている時間はない。
「失礼しますね」
「きゃっ」
危険だが今回は特別に空いている手でアイラを抱きかかえることにした。
「靴は手放さないくださいね」
「はいぃぃぃっ」
魔力で身体能力を強化して走る。
返事をしている途中だったアイラは体が固まり、俺に強く抱きつく。
二度目なのだが慣れてくれないようだ。
案外と怖がりで、そこがまた可愛いと思う。
辛い移動も文句一つ出さずに付いてくるし、後腐れ無い関係になれそうだったら手を出していたかもしれない。それほど魅力的である。
音がする方に向かっていると、すぐに人が作った道に出た。森の中を横断するように作られているのだろう。地面には何度も馬車が通った車輪の跡が残っている。
先ほど聞いた音はさらに遠くなっていて姿は見えない。
「道がありました」
ようやく森から脱出できる。俺たちは顔を見ながら笑顔になった。
近くに生えている木の根にアイラを降ろす。
「よかった。これで帰れるんですね」
座って靴を履きながら、感動のあまり泣き出してしまったようだ。腕で涙を拭っても次々と出てくる。
しばらくはそのままにしておくか。
何も言わず、隣に移動して周囲の警戒を続ける。
さほど人通りは多くないようで、誰も来ない。先ほどの音を聞き逃していたら、もっと森の中を彷徨っていただろう。危なかった。
「ここまで私を守ってくれてありがとうございます」
「まだ安全な場所についてません。お礼を言うのは早いですよ」
「あ、そうでした」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、靴を履き終わったアイラは涙を拭って立ち上がる。
「私を安全な場所まで連れて行ってくれますか?」
途中で見捨てるほど薄情な人間ではない。否定するなんて考えは一切なかった。
「そのつもりです」
「ありがとうございます。ちゃんと謝礼は用意しますからね!」
「期待していますよ」
おしゃべりしているだけじゃ、森からは出られない。充分に休憩を取った俺たちは道を歩く。
正面から五人ほどの護衛を連れた馬車とすれ違う。帆には鷹の絵が描かれていて、有名な商会に所属していそうだ。警戒されたが声をかけられることはなかった。
「馬車には木箱が一杯積まれていました。ルビーだと思うので彼らがいた場所に私の領地があると思います」
「見てもないのにどうして箱の中が分かったんですか?」
「鷹のマークがある商会はヴォルデンク家お抱えの商会で、ルビーの販売を一手に任せているのです」
そういうことならアイラが言っていたことは間違いないだろう。
「でしたら、助けを求めたら良かったのではないですか?」
「馬車に乗っていた商人は私の知り合いではありません。言ったところで信じてもらえなかったでしょう」
森の中を歩き続けていたこともあって、身なりは悪い。アイラの服もボロボロだ。誘拐されたこともあって証明する物なんて持っていない。
貴族の娘と言っても通用しない可能性は充分にあった。
「それに今回の誘拐事件が表に出ていない可能性もあり、今は慎重に行動したいのです」
娘が拉致されとた知れ渡れば、ヴォルデンク男爵家の名に泥を塗ることになる。
領民には知らせず、秘密裏に調査している可能性はあるだろう。
帰り道はわかった。死ぬ危険が少ない。であれば、確かにこのまま誰の助けも借りずに戻った方が良い。少なくとも情報をもう少し集めてから決断しても遅くはない。
身にまとっているフード付きのローブを脱ぐとアイラに渡す。
「それでは顔をも隠しますか」
「はい」
身につけてフードをかぶってもらったら、性別すら分かりにくくなった。
これなら正体がばれることはないだろう。
認めたくはなかったが、俺たちは完全に遭難している。
運が良いことに食べられる植物は多く、また狩りもできるので食料には困っていないので、すぐに死ぬほどの状況じゃない。
だが、精神面は違う。
後ろにいるアイラは慣れない野営を続けているため、疲れが取れていないようだ。日に日に食べる量が減っていて、同時に体力までも低下している。着ていたドレスは泥だらけで木の枝に引っかけて一部破けている。薄く強い太ももがさらされていて、俺じゃなければ劣情に負けて襲う男もいただろう。足にはマメができてしまったようで、移動速度は低下してしまった。
抱きかかえてあげたいとは思うが、魔物に襲われることを考えたらできない。
心を無にして歩き続けると、小さな泉を発見した。
鹿などの動物の姿はあるが魔物はない。水袋もだいぶ軽くなったので立ち寄っても良いだろう。
「少し休憩しましょうか」
「は、い……」
フラフラと左右に揺れながら、アイラは泉の近くでペタリと座り込んだ。
靴を脱いで素足をだす。布を巻いた、かかとの部分が真っ赤になっていた。血も出ているようだ。
新しい布に変えてあげたいが、代えはないので使い続けてもらうしかない。
「水をくんできます」
泉に近づくと鹿が逃げていった。
人間が敵であると知っているのだ。人里が近いのかもしれない。
しゃがみ込んで水袋を泉の中に入れる。満タンになったので立ち上がると、遠くから馬車の音が聞こえた。一瞬であったが間違いない。
急いでアイラの元に行く。
「近くに道があるかもしれません」
「本当ですか!?」
ようやく森から抜けられるかもしれない。
そういった期待が含まれる声だった。
「様子を見に行きましょう」
慌てて靴を履こうとしているが、ケガのせいで時間がかかっている。
音は遠ざかっているので待っている時間はない。
「失礼しますね」
「きゃっ」
危険だが今回は特別に空いている手でアイラを抱きかかえることにした。
「靴は手放さないくださいね」
「はいぃぃぃっ」
魔力で身体能力を強化して走る。
返事をしている途中だったアイラは体が固まり、俺に強く抱きつく。
二度目なのだが慣れてくれないようだ。
案外と怖がりで、そこがまた可愛いと思う。
辛い移動も文句一つ出さずに付いてくるし、後腐れ無い関係になれそうだったら手を出していたかもしれない。それほど魅力的である。
音がする方に向かっていると、すぐに人が作った道に出た。森の中を横断するように作られているのだろう。地面には何度も馬車が通った車輪の跡が残っている。
先ほど聞いた音はさらに遠くなっていて姿は見えない。
「道がありました」
ようやく森から脱出できる。俺たちは顔を見ながら笑顔になった。
近くに生えている木の根にアイラを降ろす。
「よかった。これで帰れるんですね」
座って靴を履きながら、感動のあまり泣き出してしまったようだ。腕で涙を拭っても次々と出てくる。
しばらくはそのままにしておくか。
何も言わず、隣に移動して周囲の警戒を続ける。
さほど人通りは多くないようで、誰も来ない。先ほどの音を聞き逃していたら、もっと森の中を彷徨っていただろう。危なかった。
「ここまで私を守ってくれてありがとうございます」
「まだ安全な場所についてません。お礼を言うのは早いですよ」
「あ、そうでした」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、靴を履き終わったアイラは涙を拭って立ち上がる。
「私を安全な場所まで連れて行ってくれますか?」
途中で見捨てるほど薄情な人間ではない。否定するなんて考えは一切なかった。
「そのつもりです」
「ありがとうございます。ちゃんと謝礼は用意しますからね!」
「期待していますよ」
おしゃべりしているだけじゃ、森からは出られない。充分に休憩を取った俺たちは道を歩く。
正面から五人ほどの護衛を連れた馬車とすれ違う。帆には鷹の絵が描かれていて、有名な商会に所属していそうだ。警戒されたが声をかけられることはなかった。
「馬車には木箱が一杯積まれていました。ルビーだと思うので彼らがいた場所に私の領地があると思います」
「見てもないのにどうして箱の中が分かったんですか?」
「鷹のマークがある商会はヴォルデンク家お抱えの商会で、ルビーの販売を一手に任せているのです」
そういうことならアイラが言っていたことは間違いないだろう。
「でしたら、助けを求めたら良かったのではないですか?」
「馬車に乗っていた商人は私の知り合いではありません。言ったところで信じてもらえなかったでしょう」
森の中を歩き続けていたこともあって、身なりは悪い。アイラの服もボロボロだ。誘拐されたこともあって証明する物なんて持っていない。
貴族の娘と言っても通用しない可能性は充分にあった。
「それに今回の誘拐事件が表に出ていない可能性もあり、今は慎重に行動したいのです」
娘が拉致されとた知れ渡れば、ヴォルデンク男爵家の名に泥を塗ることになる。
領民には知らせず、秘密裏に調査している可能性はあるだろう。
帰り道はわかった。死ぬ危険が少ない。であれば、確かにこのまま誰の助けも借りずに戻った方が良い。少なくとも情報をもう少し集めてから決断しても遅くはない。
身にまとっているフード付きのローブを脱ぐとアイラに渡す。
「それでは顔をも隠しますか」
「はい」
身につけてフードをかぶってもらったら、性別すら分かりにくくなった。
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