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見てもらえますか?
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「言いたくないのであれば詮索するつもりはありません。ご安心ください」
怪しい場所で出会った他人だしな。すぐ事情を話せないのも納得できる。当然だ。話すとしてもお互いのことを知ってからだろう。
巻き込んでしまうとヒントを出している時点で心根が優しい人だというのがわかる。それだ分かれば充分だ。
貴族らしい傲慢な態度がないので、人として好感を持ってしまった。
「ですが、これからどうされるつもりで?」
「そうですね……」
拉致されていたようなので、帰り道どころか現在地すら分からないだろう。
答えに詰まるのは当然だし、女性を見捨てるなんて俺にはできない。
「よければ人がいる場所まで護衛しましょうか?」
そうするのが当たり前だという感じで提案した。
期待と不安が入り交じった目をしながら、アイラは俺を見ている。
他に手段はないとはいえ、初対面の人に付いていくべきか悩んでいるのだろう。
だったら安心させてやるまでだ。
腰につけているポシェットから、丸めた羊皮紙を取り出すと紐を解いて開く。
「一応、身分証明として、こんなものがあります。見てもらえますか?」
内容を要約すると、俺の身分を国王のドルンダ・ポエーハイムが保証して、国外の移動を許可するという内容が書かれている。貴族と同等の扱いをしろとまで書いてあって、身分証明書の中でも最高峰に位置するものだ。
勇者について触れてはいないが、王族が認める存在だというのがわかれば、ある程度は信用してくれるだろう。少なくとも盗賊とは思われないはず。
「証明書の紋章はポエーハイム王家が使っているもの……すごい、本物ですね」
真面目に貴族令嬢として勉強をしていたのであれば、隣国の王家ぐらい知っていて当然だ。
ドルンダには色々と苦労させられたが、後ろ盾としてなら役立つ男だ。
「もしかして、ポルンさんは元貴族ですか?」
「まさか。俺は代々平民の家系ですよ」
幼い頃に両親が死んでしまったので、もしかしたら違うかもしれないが、細かいことはどうでもいいだろう。俺が平民だと思っていれば、それがすべてなのである。
「平民で王家の後ろ盾、ですか。結構、有名な方なんですか?」
「さあ。俺にはわかりませんね」
国内に限定すれば有名ではあると思うが、自慢しても元勇者だとバレる可能性が高まるだけだ。
他国に来てまで勇者という目で見られ、清貧を期待されてしまうのは困る。先入観はない方がよいので誤魔化しておいた。
「後ろ盾してくれている王家に誓って変なことはしませんので、安全な場所に着くまで護衛させてもらえないでしょうか?」
改めて提案した。
さすがに受け入れてくれると思ったのだが、顎に手を当てて悩んでいる。他に頼る当てがないというのに、意外な反応である。
決断できないのはアイラが抱えている事情というのに関わってくるのだろうが、聞き出せないのであれば何も言えない。
答えが出るまで待っていると、近くでガサッと草を踏む音が聞こえた。
視線を向ける。緑の毛をした狼が三匹いた。襲っては来ないが、こちらに興味を持っているようだ。
今見えているのが斥候で、後から群れの本隊がやってくるのであれば、アイラを守りながら戦えないだろう。今のうちに逃げるか。
「この場を離れましょう」
「あっ」
動物は逃げている生き物を追いかける習性があるので、アイラの手を握って背中を見せないようにゆっくりと後ろに下がる。
狼は一定の距離を保ちながら追ってきた。
仲間を呼ばれる可能性もあるため攻撃しない。
怯えたアイラは俺の腕にしがみつき、手を握る力がつよくなった。緊張によって汗が浮かび上がり、呼吸が浅くなっている。
「何があっても守りますから」
不安に負けて取り乱されたら困るので笑顔を作って安心させてみるが、あまり効果は無かったようだ。
頭では大丈夫だと言い聞かせても心は違うのだろう。まあ、当然だよな。
心中でアイラが取り乱さないことを祈りながら後ろに下がっていると、一匹の狼が飛び出した。
攻撃といった感じではないのだが、脅しとしては充分だ。
「きゃっ」
驚いたアイラがバランスを崩したので、手を引きながら支えつつ槍を振るう。
当たる前に狼は後ろに飛んで回避した。
これでいい。近づけば危ないと理解したはずだ。
手を離してアイラを背に隠すと槍を構える。
しばらく睨み合いを続ける。
動けない状況が続き……どこからか遠吠えが聞こえ、狼は去って行った。
「死ぬかと思いました~~」
緊張から解放されたアイラが情けない声を出しながら、ペタリと座り込んでしまった。
「まだ安全ではありません。すぐにこの場から離れましょう」
「実は、腰が抜けてしまって……」
恥ずかしそうに下を向いている。
「仕方がありませんね。これは緊急事態です。決して、やましい気持ちがないことを先に言っておきます」
ちゃんと宣言をしてから片手でアイラを抱きかかえた。
すごく柔らかい。長い髪から良い匂いがする。
欲望が湧き出てしまいそうだったので、意識を外へ向けることにした。
「へ? え、ああ!!」
「暴れないでください。落ちますよ」
手を伸ばして離れようとしていたのを無視して、走り出す。
反射的にだろうが、俺の首に腕を回してピッタリとくっつく。
やばい、これは良い! 役得だな!!
怪しい場所で出会った他人だしな。すぐ事情を話せないのも納得できる。当然だ。話すとしてもお互いのことを知ってからだろう。
巻き込んでしまうとヒントを出している時点で心根が優しい人だというのがわかる。それだ分かれば充分だ。
貴族らしい傲慢な態度がないので、人として好感を持ってしまった。
「ですが、これからどうされるつもりで?」
「そうですね……」
拉致されていたようなので、帰り道どころか現在地すら分からないだろう。
答えに詰まるのは当然だし、女性を見捨てるなんて俺にはできない。
「よければ人がいる場所まで護衛しましょうか?」
そうするのが当たり前だという感じで提案した。
期待と不安が入り交じった目をしながら、アイラは俺を見ている。
他に手段はないとはいえ、初対面の人に付いていくべきか悩んでいるのだろう。
だったら安心させてやるまでだ。
腰につけているポシェットから、丸めた羊皮紙を取り出すと紐を解いて開く。
「一応、身分証明として、こんなものがあります。見てもらえますか?」
内容を要約すると、俺の身分を国王のドルンダ・ポエーハイムが保証して、国外の移動を許可するという内容が書かれている。貴族と同等の扱いをしろとまで書いてあって、身分証明書の中でも最高峰に位置するものだ。
勇者について触れてはいないが、王族が認める存在だというのがわかれば、ある程度は信用してくれるだろう。少なくとも盗賊とは思われないはず。
「証明書の紋章はポエーハイム王家が使っているもの……すごい、本物ですね」
真面目に貴族令嬢として勉強をしていたのであれば、隣国の王家ぐらい知っていて当然だ。
ドルンダには色々と苦労させられたが、後ろ盾としてなら役立つ男だ。
「もしかして、ポルンさんは元貴族ですか?」
「まさか。俺は代々平民の家系ですよ」
幼い頃に両親が死んでしまったので、もしかしたら違うかもしれないが、細かいことはどうでもいいだろう。俺が平民だと思っていれば、それがすべてなのである。
「平民で王家の後ろ盾、ですか。結構、有名な方なんですか?」
「さあ。俺にはわかりませんね」
国内に限定すれば有名ではあると思うが、自慢しても元勇者だとバレる可能性が高まるだけだ。
他国に来てまで勇者という目で見られ、清貧を期待されてしまうのは困る。先入観はない方がよいので誤魔化しておいた。
「後ろ盾してくれている王家に誓って変なことはしませんので、安全な場所に着くまで護衛させてもらえないでしょうか?」
改めて提案した。
さすがに受け入れてくれると思ったのだが、顎に手を当てて悩んでいる。他に頼る当てがないというのに、意外な反応である。
決断できないのはアイラが抱えている事情というのに関わってくるのだろうが、聞き出せないのであれば何も言えない。
答えが出るまで待っていると、近くでガサッと草を踏む音が聞こえた。
視線を向ける。緑の毛をした狼が三匹いた。襲っては来ないが、こちらに興味を持っているようだ。
今見えているのが斥候で、後から群れの本隊がやってくるのであれば、アイラを守りながら戦えないだろう。今のうちに逃げるか。
「この場を離れましょう」
「あっ」
動物は逃げている生き物を追いかける習性があるので、アイラの手を握って背中を見せないようにゆっくりと後ろに下がる。
狼は一定の距離を保ちながら追ってきた。
仲間を呼ばれる可能性もあるため攻撃しない。
怯えたアイラは俺の腕にしがみつき、手を握る力がつよくなった。緊張によって汗が浮かび上がり、呼吸が浅くなっている。
「何があっても守りますから」
不安に負けて取り乱されたら困るので笑顔を作って安心させてみるが、あまり効果は無かったようだ。
頭では大丈夫だと言い聞かせても心は違うのだろう。まあ、当然だよな。
心中でアイラが取り乱さないことを祈りながら後ろに下がっていると、一匹の狼が飛び出した。
攻撃といった感じではないのだが、脅しとしては充分だ。
「きゃっ」
驚いたアイラがバランスを崩したので、手を引きながら支えつつ槍を振るう。
当たる前に狼は後ろに飛んで回避した。
これでいい。近づけば危ないと理解したはずだ。
手を離してアイラを背に隠すと槍を構える。
しばらく睨み合いを続ける。
動けない状況が続き……どこからか遠吠えが聞こえ、狼は去って行った。
「死ぬかと思いました~~」
緊張から解放されたアイラが情けない声を出しながら、ペタリと座り込んでしまった。
「まだ安全ではありません。すぐにこの場から離れましょう」
「実は、腰が抜けてしまって……」
恥ずかしそうに下を向いている。
「仕方がありませんね。これは緊急事態です。決して、やましい気持ちがないことを先に言っておきます」
ちゃんと宣言をしてから片手でアイラを抱きかかえた。
すごく柔らかい。長い髪から良い匂いがする。
欲望が湧き出てしまいそうだったので、意識を外へ向けることにした。
「へ? え、ああ!!」
「暴れないでください。落ちますよ」
手を伸ばして離れようとしていたのを無視して、走り出す。
反射的にだろうが、俺の首に腕を回してピッタリとくっつく。
やばい、これは良い! 役得だな!!
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