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第44話 お怪我はありませんか?
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深く呼吸をしながら大気中の魔力を体内に取り込み、光属性に変えると矢に注ぎ込んでいく。
魔力が大きく減っているので、時間がかかる作業ではあるがこうやって補充していくしかない。
矢を番えながら戦況を確認する。セレーヌはベラトリックスに向けて光の球を相殺する以上の瘴気の塊を放ち、反撃していた。
「トエーリエ! ベラトリックスを守れないか!?」
「やってみます!」
攻撃を防ぐ【結界】の複数起動は難しい。左右の手で別々の文字を書くようなもので常人には不可能なのだが、彼女ならできると信じている。
光の玉の数が増え、瘴気の塊を迎撃していく。
そこら中に爆発音がしていて耳が痛くなるほどだ。
魔法をあんな使い方していたら、魔女と呼ばれるほどの力を持つベラトリックスでもすぐに魔力が底をついてしまう。
早く助けたいのだが、矢の準備は終わっていない。
俺は動けない。
声には出さず、仲間を信じて待つ。
「面倒ね。一気に消滅させましょうか」
人間ごときに全力を出すまでもないと思っていたようで、セレーヌは今まで手を抜いていたみたいだ。
家を飲み込むほどの巨大な瘴気の塊を生み出した。
周囲の汚染が一気に進む。
光の矢が放つ浄化の力によって俺と近くにいる仲間たちは無事だが、長くは持たないだろう。
「私が欲しいのはポルンだけよ。あなたは邪魔だから消えなさい」
巨大な瘴気の塊が放たれた。
「いけます!!」
トエーリエが叫ぶのと同時に二つ目の【結界】が作られた。
巨大な瘴気の塊と衝突すると大きく歪んだが壊れることはない。弾力性を持たせて衝撃を吸収させたのだろう。
さすが聖女様、器用なことをする。
光の矢の輝きが一層強くなった。
俺の方は準備が終わり、今できる全力の攻撃を放てる。
弦を全力で引くと弓が大きくしなる。
何も言わずともトエーリエが俺たちを守る【結界】を一時的に解除したので、光の矢を放った。
周囲の瘴気を浄化しながら真っ直ぐに進む。セレーヌは気づき、目の前に瘴気の壁を複数作り出すが、そんなものまったく意味がない。
すべて貫通させてセレーヌの左胸に刺さり、周辺の肉体をえぐり取りながら貫通した。
傷口から光属性の魔力が侵入して体内に保有している汚染物質を浄化していく。セレーヌは自己修復しようと瘴気の放出を止めた。
それは悪手だぞ。
「たぁぁああああっっ!!」
吹き飛ばされたヴァリィが目で終えないほどの速度で近づき、セレーヌの首をはねた。
宙を舞う。
「勇者とは仲間の力があってこそ、ね。勉強になったわ」
残った僅かな魔力をかき集めて小さな矢を作ると、放ち、頭部を消滅させる。
何を学んだか知らんが、次に活かされることはないだろう。
急速に大量の魔力を使ってしまい立っている力が残っていない。弓を手放して仰向けに倒れそうになると、トエーリエが抱きしめてくれた。背中に柔らかい胸の感触がする。
大型と思われる汚染獣と戦った報酬がこれなら悪くはない。むしろ最高だ。金よりも、こういうのでいいんだよ。あとは、お相手が後腐れ無い女性なら文句はない。
覗き込むようにしてトエーリエが俺の顔を見た。
隣にはテレサもいる。
涙ぐんでいて感極まるみたいな顔をしているのは、俺が活躍したからだろう。心の底から勇者が好きなんだな。
「お怪我はありませんか?」
「だいじょう……ぶ、だ」
力が入らないので上手く口が動かせない。すぐ元に戻るだろうが、しばらくは聞き取りにくい声で我慢してもらおう。
「それならただの魔力切れですね。あの化け物を前にして無傷で終わるなんて奇跡ですよ」
「べらと、りっくす」
「彼女なら無事ですよ。ほら」
温かくツルツルとした手で頬を挟まれると首を動かされた。
視線が動く。
ヴァリィとベラトリックスがハイタッチをして勝利を祝っている姿が見える。
セレーヌだったものは灰の山となっていた。汚染獣が完全に浄化されたときと同じ死に方だ。
であれば、彼女は汚染獣ということになる。
光教会にすら残っていない言葉を話すタイプ、か。やっかいだな。もしあんなのが樹海に潜んでいるのであれば人類は思っている以上に危うい状況なのかもしれない。
「休める場所に移動しましょうか」
「ま、て」
ふと灰の山が動いたように見えた。
触手を使う小型の汚染獣を思い出す。あれは倒した後に別の汚染獣が生まれた。もしかしてセレーヌも同じじゃないだろうか。
嫌な予感がする。
警告を発したいが、声は上手く出せない。
「はい、が……」
「どうされました?」
俺の変化に気づいたのはテレサだった。危険を察知してくれたようで落とした弓を拾って構える。
続いてトエーリエが灰の山を見た。
「うそ……動いている」
驚きの声を聞いてベラトリックスとヴァリィが異変に気づく。
灰の山から裸のセレーヌが生まれ出るのと同時に、テレサから光の矢が放たれる。
左腕に突き刺さるると、光属性の魔力が全身へ回る前にセレーヌは引きちぎった。
ヴァリィが剣を振り下ろし、ベラトリックスが上空に大岩を出現させるが、瘴気の竜巻が発生してすべてを吹き飛ばしてしまう。
「せっかく蘇ったというのに物騒な挨拶ね」
力は衰えていない。完全再生によるリスクはないのか?
何度倒しても復活するなら勝つなんて不可能だ。
魔力が大きく減っているので、時間がかかる作業ではあるがこうやって補充していくしかない。
矢を番えながら戦況を確認する。セレーヌはベラトリックスに向けて光の球を相殺する以上の瘴気の塊を放ち、反撃していた。
「トエーリエ! ベラトリックスを守れないか!?」
「やってみます!」
攻撃を防ぐ【結界】の複数起動は難しい。左右の手で別々の文字を書くようなもので常人には不可能なのだが、彼女ならできると信じている。
光の玉の数が増え、瘴気の塊を迎撃していく。
そこら中に爆発音がしていて耳が痛くなるほどだ。
魔法をあんな使い方していたら、魔女と呼ばれるほどの力を持つベラトリックスでもすぐに魔力が底をついてしまう。
早く助けたいのだが、矢の準備は終わっていない。
俺は動けない。
声には出さず、仲間を信じて待つ。
「面倒ね。一気に消滅させましょうか」
人間ごときに全力を出すまでもないと思っていたようで、セレーヌは今まで手を抜いていたみたいだ。
家を飲み込むほどの巨大な瘴気の塊を生み出した。
周囲の汚染が一気に進む。
光の矢が放つ浄化の力によって俺と近くにいる仲間たちは無事だが、長くは持たないだろう。
「私が欲しいのはポルンだけよ。あなたは邪魔だから消えなさい」
巨大な瘴気の塊が放たれた。
「いけます!!」
トエーリエが叫ぶのと同時に二つ目の【結界】が作られた。
巨大な瘴気の塊と衝突すると大きく歪んだが壊れることはない。弾力性を持たせて衝撃を吸収させたのだろう。
さすが聖女様、器用なことをする。
光の矢の輝きが一層強くなった。
俺の方は準備が終わり、今できる全力の攻撃を放てる。
弦を全力で引くと弓が大きくしなる。
何も言わずともトエーリエが俺たちを守る【結界】を一時的に解除したので、光の矢を放った。
周囲の瘴気を浄化しながら真っ直ぐに進む。セレーヌは気づき、目の前に瘴気の壁を複数作り出すが、そんなものまったく意味がない。
すべて貫通させてセレーヌの左胸に刺さり、周辺の肉体をえぐり取りながら貫通した。
傷口から光属性の魔力が侵入して体内に保有している汚染物質を浄化していく。セレーヌは自己修復しようと瘴気の放出を止めた。
それは悪手だぞ。
「たぁぁああああっっ!!」
吹き飛ばされたヴァリィが目で終えないほどの速度で近づき、セレーヌの首をはねた。
宙を舞う。
「勇者とは仲間の力があってこそ、ね。勉強になったわ」
残った僅かな魔力をかき集めて小さな矢を作ると、放ち、頭部を消滅させる。
何を学んだか知らんが、次に活かされることはないだろう。
急速に大量の魔力を使ってしまい立っている力が残っていない。弓を手放して仰向けに倒れそうになると、トエーリエが抱きしめてくれた。背中に柔らかい胸の感触がする。
大型と思われる汚染獣と戦った報酬がこれなら悪くはない。むしろ最高だ。金よりも、こういうのでいいんだよ。あとは、お相手が後腐れ無い女性なら文句はない。
覗き込むようにしてトエーリエが俺の顔を見た。
隣にはテレサもいる。
涙ぐんでいて感極まるみたいな顔をしているのは、俺が活躍したからだろう。心の底から勇者が好きなんだな。
「お怪我はありませんか?」
「だいじょう……ぶ、だ」
力が入らないので上手く口が動かせない。すぐ元に戻るだろうが、しばらくは聞き取りにくい声で我慢してもらおう。
「それならただの魔力切れですね。あの化け物を前にして無傷で終わるなんて奇跡ですよ」
「べらと、りっくす」
「彼女なら無事ですよ。ほら」
温かくツルツルとした手で頬を挟まれると首を動かされた。
視線が動く。
ヴァリィとベラトリックスがハイタッチをして勝利を祝っている姿が見える。
セレーヌだったものは灰の山となっていた。汚染獣が完全に浄化されたときと同じ死に方だ。
であれば、彼女は汚染獣ということになる。
光教会にすら残っていない言葉を話すタイプ、か。やっかいだな。もしあんなのが樹海に潜んでいるのであれば人類は思っている以上に危うい状況なのかもしれない。
「休める場所に移動しましょうか」
「ま、て」
ふと灰の山が動いたように見えた。
触手を使う小型の汚染獣を思い出す。あれは倒した後に別の汚染獣が生まれた。もしかしてセレーヌも同じじゃないだろうか。
嫌な予感がする。
警告を発したいが、声は上手く出せない。
「はい、が……」
「どうされました?」
俺の変化に気づいたのはテレサだった。危険を察知してくれたようで落とした弓を拾って構える。
続いてトエーリエが灰の山を見た。
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