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第38話 あと少しだ!
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しばらくして汚染獣は完全に灰だけになったが、まき散らされた瘴気は残ったままである。すぐに浄化をする必要はあるのだが、今は後回しだ。
急いでトエーリエの所に戻ると腹に空いた穴は自身の魔法で癒やしたようで出血は塞がっている。体内に汚染物質が入ってしまったようで、全身の肌は黒く変色しているが、すぐに死ぬような危険性はない。
「ちょっと、失礼する」
「あっ。ちょっとパンツ見えちゃいますってっ」
抗議を無視して体を持ち上げると肩に乗せて走り出す。
近くで倒れているヴァリィのところまでついた。
彼女も全身の肌が黒くなっている。さらに呼吸も止まりかけているように見えて猶予がないとわかる。
トエーリエを肩に乗せたままヴァリィへ残り僅かになった魔力を注ぎ込むと、頭、胸、腹の辺りを重点に浄化していく。しばらくして呼吸が戻ってきた。まだ弱々しいが、それでも確実に良い方向へ向かっている。この様子なら数日はもつだろう。
しかしすべての汚染物質を取り除くのは不可能だ。
戦いで魔力を消費しすぎで足りないのである。
魔力を使いすぎ、また急場を脱し安堵したこともあって、急に力が抜けてしまった。肩に乗せたトエーリエを地面に落としてしまう。
ぞんざいな扱いをしたというのに抗議の一つもなく、自由に動けるようになった彼女は傷ついている俺やヴァリィを回復魔法で癒やしてくれるが、汚染物質は残ったままである。
聖女と呼ばれるほど回復系のエキスパートになっても、汚染された人の前では無力。それが現実だった。
傷は癒えたが魔力は戻っていない。座っていることすらできずにヴァリィの上に倒れてしまう。
腹が上下に動いていて生きていると感じられる。
偶然にも視線の先にトエーリエの顔があった。
「私たちボロボロですね。こんなの初めてです」
勇者時代、ここまで力を使い果たしたことはなかった。
まさかクビになったあと、死にかけるとは思わなかったぞ。まったく、人生というのは何が起こるかわからないな。早く俺のことを知らない街に行って女遊びをしたい。
返事をしてあげたいところだが、口を動かす力すら残ってない。
三人のなかで余力のあるトエーリエは、俺の体を持ち上げると膝を枕代わりにして俺の頭を置く。
「ようやく会えました。ずっと寂しかったんですよ」
髪を優しく撫でながら背筋がぞっとするほどの粘着質な声が聞こえた。
「ベラトリックスだけずっと側にいてズルいと思っていたんです。本当はすべてを投げ捨てて駆けつけたかったんですが、家の周りが怪しい動きをしていたのでポルン様のために情報を集めていました」
王家ではなくトエーリエの家にも何かあったようだ。
貴族たちが忙しく動いているのであれば良い傾向ではない。
好ましくない策略を練っていそうだな。
「まだ何が起こっているのか掴めていません。ヴァリィがまとめている騎士団も同じです。この後、私たちは王都に戻りますが、いつか必ずポルン様の元にもどります。それまで……」
トエーリエの顔が耳に近づいた。唇が軽く触れる。
「他の女性に手を出してはいけませんからね」
汚染獣と戦うときよりも強い恐怖心を感じた。
「落ち着いたら私たちと結婚しましょう。そうしたら妻としてすべてを差し上げます」
いやいや! どうしてそうなる!
仮に結婚するとしても色んな女性と遊んだ後にしたい。家庭を持つなんて後回しで良いだろ!?
ものすごく抗議したいが体は動かせないので何も言えない。
彼女の手が俺の股間にまで伸びると軽く掴まれる。
「ですから、未婚のまま女性と関係を持つことはしないでくださいね。もしそんなことしたら斬り落として、私も死にますから」
頭の中では疑問がいっぱい浮かんでいる。トエーリエはこんな女性だったっけ。結婚に強いこだわりを持っていることは知っていたけど、なぜ相手は俺なんだ?
貴族なんだから平民なんて候補にすらならないと思っていたのに。
普通、勇者という肩書きがなくなったら離れていくもんじゃないのか!?
「ポルン様ーーーっ!!」
「ご無事ですか!?」
内心で戸惑っていると遠くから別の声が聞こえた。
ベラトリックスとテレサの二人だろう。汚染獣が消滅したから駆けつけてくれたのか。
「細かいことは、また今度、しっかりと話しましょうね」
最後まで好き勝手言ったトエーリエが顔を離した。
駆け寄ったベラトリックスが俺の体を触ってケガの状態を確認している。テレサは一歩離れて不安そうな顔をしながら手を組んで祈っていた。
声を出していなかったので気づくのが遅れてしまった。驚くことにメルベル宰相までもいる。手には金色のランプがあって周辺の瘴気を吸い込んでいるようだ。
「あの汚染獣を倒せるとは、さすがポルン様ですね。期待通りの実力をお持ちです」
人を見下すような目をしながら言う内容じゃないだろ。
汚染獣との戦いを前にしても貴族というのは、とことん平民を認めないようだ。
そう考えると、トエーリエなんかは異端児なんだろうな。なんせ、俺と結婚したがっているのだから。
急いでトエーリエの所に戻ると腹に空いた穴は自身の魔法で癒やしたようで出血は塞がっている。体内に汚染物質が入ってしまったようで、全身の肌は黒く変色しているが、すぐに死ぬような危険性はない。
「ちょっと、失礼する」
「あっ。ちょっとパンツ見えちゃいますってっ」
抗議を無視して体を持ち上げると肩に乗せて走り出す。
近くで倒れているヴァリィのところまでついた。
彼女も全身の肌が黒くなっている。さらに呼吸も止まりかけているように見えて猶予がないとわかる。
トエーリエを肩に乗せたままヴァリィへ残り僅かになった魔力を注ぎ込むと、頭、胸、腹の辺りを重点に浄化していく。しばらくして呼吸が戻ってきた。まだ弱々しいが、それでも確実に良い方向へ向かっている。この様子なら数日はもつだろう。
しかしすべての汚染物質を取り除くのは不可能だ。
戦いで魔力を消費しすぎで足りないのである。
魔力を使いすぎ、また急場を脱し安堵したこともあって、急に力が抜けてしまった。肩に乗せたトエーリエを地面に落としてしまう。
ぞんざいな扱いをしたというのに抗議の一つもなく、自由に動けるようになった彼女は傷ついている俺やヴァリィを回復魔法で癒やしてくれるが、汚染物質は残ったままである。
聖女と呼ばれるほど回復系のエキスパートになっても、汚染された人の前では無力。それが現実だった。
傷は癒えたが魔力は戻っていない。座っていることすらできずにヴァリィの上に倒れてしまう。
腹が上下に動いていて生きていると感じられる。
偶然にも視線の先にトエーリエの顔があった。
「私たちボロボロですね。こんなの初めてです」
勇者時代、ここまで力を使い果たしたことはなかった。
まさかクビになったあと、死にかけるとは思わなかったぞ。まったく、人生というのは何が起こるかわからないな。早く俺のことを知らない街に行って女遊びをしたい。
返事をしてあげたいところだが、口を動かす力すら残ってない。
三人のなかで余力のあるトエーリエは、俺の体を持ち上げると膝を枕代わりにして俺の頭を置く。
「ようやく会えました。ずっと寂しかったんですよ」
髪を優しく撫でながら背筋がぞっとするほどの粘着質な声が聞こえた。
「ベラトリックスだけずっと側にいてズルいと思っていたんです。本当はすべてを投げ捨てて駆けつけたかったんですが、家の周りが怪しい動きをしていたのでポルン様のために情報を集めていました」
王家ではなくトエーリエの家にも何かあったようだ。
貴族たちが忙しく動いているのであれば良い傾向ではない。
好ましくない策略を練っていそうだな。
「まだ何が起こっているのか掴めていません。ヴァリィがまとめている騎士団も同じです。この後、私たちは王都に戻りますが、いつか必ずポルン様の元にもどります。それまで……」
トエーリエの顔が耳に近づいた。唇が軽く触れる。
「他の女性に手を出してはいけませんからね」
汚染獣と戦うときよりも強い恐怖心を感じた。
「落ち着いたら私たちと結婚しましょう。そうしたら妻としてすべてを差し上げます」
いやいや! どうしてそうなる!
仮に結婚するとしても色んな女性と遊んだ後にしたい。家庭を持つなんて後回しで良いだろ!?
ものすごく抗議したいが体は動かせないので何も言えない。
彼女の手が俺の股間にまで伸びると軽く掴まれる。
「ですから、未婚のまま女性と関係を持つことはしないでくださいね。もしそんなことしたら斬り落として、私も死にますから」
頭の中では疑問がいっぱい浮かんでいる。トエーリエはこんな女性だったっけ。結婚に強いこだわりを持っていることは知っていたけど、なぜ相手は俺なんだ?
貴族なんだから平民なんて候補にすらならないと思っていたのに。
普通、勇者という肩書きがなくなったら離れていくもんじゃないのか!?
「ポルン様ーーーっ!!」
「ご無事ですか!?」
内心で戸惑っていると遠くから別の声が聞こえた。
ベラトリックスとテレサの二人だろう。汚染獣が消滅したから駆けつけてくれたのか。
「細かいことは、また今度、しっかりと話しましょうね」
最後まで好き勝手言ったトエーリエが顔を離した。
駆け寄ったベラトリックスが俺の体を触ってケガの状態を確認している。テレサは一歩離れて不安そうな顔をしながら手を組んで祈っていた。
声を出していなかったので気づくのが遅れてしまった。驚くことにメルベル宰相までもいる。手には金色のランプがあって周辺の瘴気を吸い込んでいるようだ。
「あの汚染獣を倒せるとは、さすがポルン様ですね。期待通りの実力をお持ちです」
人を見下すような目をしながら言う内容じゃないだろ。
汚染獣との戦いを前にしても貴族というのは、とことん平民を認めないようだ。
そう考えると、トエーリエなんかは異端児なんだろうな。なんせ、俺と結婚したがっているのだから。
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