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第28話 不味くて感動するぞ

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「申し訳ございません。ポルン様がお怒りになるのもごもっともです」

 ガタガタと体を震わせながら、彼女は頭を下げて謝罪した。

 神の怒りに触れた。

 そんなことを思っているのかもしれない。

「謝罪が聞きたいわけじゃない。すぐに顔を上げて破棄された経緯を教えてくれ」
「それが分からないのです」
「光教会の図書館に忍び込み、誰にも気づかれることなくソーブザが戦った大型の記録だけ破棄された、そういうことか」
「……他にもいくつか消えている書物はありますが間違いございません」

 最後の言葉には悔しさや後悔といった感情が込められているように感じた。

 光教会が意図的に資料を隠蔽や破棄してないのであれば、犯人はドルンダ周辺が濃厚となる。しかし、そんなことを彼らがするだろうか。

 汚染獣は人類共通の敵だからこそ立場を越えて手を取り合っていた。それは今も変わらないため、貴重な資料を破棄する理由が思い浮かばない。

 目的や犯行時期、その他すべてが不明確だ。

「これは我々の失態です。ポルン様に同行して挽回のチャンスをいただけないでしょうか」

 戦力が増えるのは歓迎だ。光教会なら裏切るようなことはせず実力もあるので、安心して背中を任せられる。

 しかも遠距離攻撃が主体なので俺とのバランスも良い。

 大型の汚染獣と戦ったことはないが、もし見つかって戦闘になった場合、一人で勝てる見込みはない。安全を考えるのであれば断る理由はなかった。

「もちろんだ。汚染獣と戦う者同士、一緒に戦おう」

 手を前に出すと躊躇いがちに腕は伸びたが、途中で止まって触れられることはなかった。

「私は光教会の特別司祭テレサ、ポルン様のためにこの身を捧げます」
「俺じゃなく勇者に捧げろ」
「かしこまりました」

 俺たちは今回限りの関係なので訂正したら、ちゃんと受け入れてくれて安心した。

 俺の意図を正しく理解してくれたのだろう。

「先ずは大型が封印されていた所に行きたいのだが案内は頼めるか?」
「お任せください。ポルン様が一緒であれば結界が張った場所まで辿り着けると思います」

 話が終わるとテレサは道を外れて山を登り始めた。

 瘴気が濃い方に向かっているようである。

 復活した大型は別の場所に移動していると思うが、痕跡ぐらいは残っているだろう。

 * * *

 枯れ木を踏み、乗り越え、道なき道を歩いている。

 瘴気が濃い方に向かっているので植物は死滅していて恐ろしいほど静かだ。

 気軽におしゃべりする仲ではないので黙ったまま進んでいるが、体力は温存できているので特に不満はない。むしろ気が楽だと思っているぐらいである。

 小休憩を何度か挟んで山の中腹ぐらいまで来た。

 麓に比べて瘴気の濃度は体感で五倍ぐらいある。

 俺がテレサに光属性の魔力を付与しているため元気にしているが、対策をしていない人間であれば即座に死ぬレベルだ。

「この奥に洞窟があります」
「そこに封印されていたのか?」
「はい。奥に大きな穴があって、そこに大型の汚染獣を封印したと、口伝ですが我々に伝わっていました」

 顔を上げると分厚い雲があった。

 雨が降りそうだ。

 探すついでに雨宿りできそうである。

「わかった。そこに行こう」
「こちらです」

 案内に従ってまた歩き出す。目的地は近かったようで、しばらくして洞窟の前に着く。

 天候はさらに崩れていてポツポツと雨が降り出していた。

 すぐ本降りになるだろう。

「洞窟に入ったら少し休憩しよう」
「かしこまりました」

 結界があった場所に何があるか分からない。万全を期すため、洞窟に入るとゴツゴツとした岩に座り体を休める。

 テレサは照明の魔法を使って周囲に光る球を浮かべると、少し離れた場所に移動してリュックから食べ物を取り出した。

 大きめなパン、干し肉、果物まである。それらを口いっぱいにいれて頬を膨らませながら食べており、リスを彷彿とさせる。

 そんな光景を見ていたら小腹が空いてきたので、エーリカから買った木の実をいくつかつまんで口に放り込む。苦くてマズイが沢山食べれば腹は満たさせる。

 しかめっ面をしながらポリポリと音を立てて噛んでいると、視線を感じたのでテレサを見た。

「あの……それは美味しいのですか?」
「一つやるから食べてみろよ。不味くて感動するぞ」

 木の実を投げると、テレサは口を開いてそのまま中に入れた。なんて器用なことをするんだ。

 感心しているとボリボリと音がしてすぐに口を押さえた。吐き出しそうになっているのを我慢しているのだろう。おぇっと、何度かえずいていた。

「出してもいいぞ」
「だべです」

 涙目になりながらも、テレサはなんと飲み込んだ。

「ポルン様から下賜された貴重な食べ物を粗末になんてできませんっ! それが猛毒であっても私はすべてを飲み込みます!」

 そんな宣言されても嬉しくはないのだが、否定して良い雰囲気ではないので沈黙を保つ。話が通じなさそうなときこそ余計なことは言わない。これが正解なのだ。

「大変美味しい食材をいただきましたのでお礼をさせてください」

 持ち込んだ食料を両手いっぱいに抱えて、テレサは俺の前で跪いた。

「お好きなものをお選びください。必要とあればすべて献上いたします」

 ずっとマズイ飯を食べていたので断るなんてできない。

 今回ばかりはありがたいと思って受け入れよう。


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