勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~

わんた

文字の大きさ
上 下
15 / 106

第15話 でしたら、特等席で見てみますか?

しおりを挟む
 無表情だったベラトリックスが笑った。

 腕を引っ張って遊ぼうと駄々をこねている子供たちが離れていく。

「あっ! 料理の仕込みを忘れてた! 後は頑張って下さいね~」

 異変に気づいたエーリカは、立ち上がると足早に去って行った。良い感じだと思っていたのだが身を引くのが早い。

 ベラトリックスは魔力で髪をふわりと浮かせ、蛇のように動かしながら彼女は近づいてきた。

「何を話されていたんですか?」
「勇者はクビになったんだぜって、話かな」

 俺の隣にある地面をポンポンと叩く。

 意図が伝わったのかベラトリックスは座ってくれた。

「本当はもっと別のことを話していたんじゃないですか」

 頬を膨らませて拗ねている。

 勇者として相応しくないなどと小言を言われると思ったら違うようだ。単純に他の女性と仲良くしていたら嫉妬しているのだと分かって可愛らしく思う。

「そんなことはない。こんなことで嘘をつくわけないだろ」

 ベラトリックスの長い髪を触りながら顔を見る。

 嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。

 機嫌は直ったとみて良いだろう。チョロい女、というよりも俺への信頼や恋愛感情があるからこその反応だろう。

 勇者として自分の理想を重ねているだけでなく、同時に異性として見られていることぐらい、ずっと前から知っている。ちょぴっと表現が過激なだけで可愛い女性なのだ。

 まぁ俺は、女遊びをしたいから気づかないふりをしていたが。罪作りな男である。

「踊りは終わったのか?」
「目立って恥ずかしかったのでやめちゃいました」
「残念。見たかったな」
「でしたら、特等席で見てみますか?」

 ベラトリックスは膝を抱えながら少し照れていた。

 直接気持ちを伝えず遠回しな言い方をするのは彼女らしい。

 出会ったときは何を考えているかわからず面倒な性格だなと思うこともあったが、十年も付き合っているとある程度分かるようになるし、控えめな態度をされると可愛いなと思うときもある。

 もしかしたら俺の価値観はおかしくなっているのかもしれないが、今さら気づいても手遅れだな。

 大切な人に入ってしまっているのだから。

 返事をせずに立ち上がると、ベラトリックスの前で片膝をつく。

「俺と一緒に踊りませんか?」

 普段とは違って淑女のように扱ったため、丁寧な口調を使った。

 その効果はすぐに出てベラトリックスの顔が真っ赤になる。目が合わせられないようで、顔を背けるが拒否はされていない。

 躊躇いがちに手が伸びてきたのだ。

「他にも可愛い人いるじゃないですか。エーリカさんとか」
「他の女性は関係ありません。俺はベラトリックスと踊りたいんです」

 手を取ると甲に軽くキスする。

 肌がすべすべで気持ちが良かった。

「ええええ、ああああああああ! どどどどどうしましょう!?」

 過去に一度も見たことがないほど慌てている。

 中型の汚染獣と偶発的な遭遇をしたときだって冷静だったのに。非常に珍しい姿だ。

「ダメ、ですか?」
「そんなことないです! めちゃくちゃ大丈夫ですっっ!!」
「では行きましょうか。お嬢様」
「は、はいっ!」

 様子のおかしくなったベラトリックスを立ち上がらせると、俺たちは手を取り合いながら焚き火の近くに着た。

 みんな好き勝手に踊っていて統一感はない。楽しければ何でも良いのだ。

 手を腰に回して密着する。

 笛から流れる音楽は聞いたことのない曲だが、ベラトリックスの動きに合わせながら焚き火を回るようにして踊る。

「勇者就任パーティーの時は、私の足を何度も踏んでいたのを思い出しました」

 孤児が練習もなしに貴族が集まる会場で踊らされたんだ。

 あの時は大恥をかいてしまった。

「トエーリエやヴァリィの足も踏んだな」
「ええ、みんなですごく恥ずかしい思いをしました」

 昔を懐かしむような遠い目をしている。表情は柔らかい。

 嫌味を言っているのではなく、良い思い出を振り返っているような気持ちなのだろう。俺も同じだ。

「だから必死に練習したんだぜ」
「知ってます。努力を怠らないところはポルン様の美点ですよ」
「俺だけじゃない。三人も同じだ。国を守るために努力を続けていた」

 一人だけだったら、どこかで心が折れて努力を放棄していただろう。勇者という重圧に耐えられず逃げ出していたかもしれない。

 ここまでこれたのは仲間がいたからだ。それだけは間違いない。

「ふふふ、改めて言われると恥ずかしいですね」

 曲のテンポが上がった。そろそろ終わりが近いのだろう。

 腰から手を離すとベラトリックスがくるりと回転して背中から倒れる動きをしたので、そっと支える。ぴたりと動きが止まるのと同時に曲が終わった。

 どうやら村人たちの注目を集めていたみたいで、ぱちぱちぱちと周囲から拍手される。

 これは恥ずかしい。

 並んでお辞儀をしてから逃げるようにして焚き火から離れる。

 宿に戻ろうとしてのだが建物から酒を飲んでいる人たちの声が聞こえたので、急遽予定を変更。誰もいない石碑のところで一息つくことにした。

「目立っちゃいましたね」
「でも楽しかった」
「はい!」

 最近は恐ろしい面ばかり出ていたが、普段のベラトリックスは素直だ。エーリカとは違う魅力がある。

 石碑に寄りかかりながら夜空を見る。

 星がキラキラと輝いていて美しい。隣には気心知れた綺麗な女性もいるし悪くない時を過ごしていると実感していた。

「これからどうします?」

 今晩ではなく、汚染獣対策について聞いているのだろう。

 方針は決めてある。

「ベラトリックスから汚染獣討伐依頼の手紙を出してくれ」

 放置されていた理由はわからないが、魔女とまで呼ばれる彼女の手紙は無視できない。新勇者を派遣してくれるはずだ。

「ポルン様から手紙を出さないのですか?」
「クビにした勇者の手紙は中身を見ずに捨てられる可能性があるからな。その代わり俺は俺にしかできないことをする」

 エーリカが悲しまないよう村を守ると決めた。討伐が終わるまで、村人たちが心穏やかに過ごせるよう動くつもりである。

 石碑の掃除だってしなきゃいけないし、やることは沢山あるのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...