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第15話 でしたら、特等席で見てみますか?
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無表情だったベラトリックスが笑った。
腕を引っ張って遊ぼうと駄々をこねている子供たちが離れていく。
「あっ! 料理の仕込みを忘れてた! 後は頑張って下さいね~」
異変に気づいたエーリカは、立ち上がると足早に去って行った。良い感じだと思っていたのだが身を引くのが早い。
ベラトリックスは魔力で髪をふわりと浮かせ、蛇のように動かしながら彼女は近づいてきた。
「何を話されていたんですか?」
「勇者はクビになったんだぜって、話かな」
俺の隣にある地面をポンポンと叩く。
意図が伝わったのかベラトリックスは座ってくれた。
「本当はもっと別のことを話していたんじゃないですか」
頬を膨らませて拗ねている。
勇者として相応しくないなどと小言を言われると思ったら違うようだ。単純に他の女性と仲良くしていたら嫉妬しているのだと分かって可愛らしく思う。
「そんなことはない。こんなことで嘘をつくわけないだろ」
ベラトリックスの長い髪を触りながら顔を見る。
嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。
機嫌は直ったとみて良いだろう。チョロい女、というよりも俺への信頼や恋愛感情があるからこその反応だろう。
勇者として自分の理想を重ねているだけでなく、同時に異性として見られていることぐらい、ずっと前から知っている。ちょぴっと表現が過激なだけで可愛い女性なのだ。
まぁ俺は、女遊びをしたいから気づかないふりをしていたが。罪作りな男である。
「踊りは終わったのか?」
「目立って恥ずかしかったのでやめちゃいました」
「残念。見たかったな」
「でしたら、特等席で見てみますか?」
ベラトリックスは膝を抱えながら少し照れていた。
直接気持ちを伝えず遠回しな言い方をするのは彼女らしい。
出会ったときは何を考えているかわからず面倒な性格だなと思うこともあったが、十年も付き合っているとある程度分かるようになるし、控えめな態度をされると可愛いなと思うときもある。
もしかしたら俺の価値観はおかしくなっているのかもしれないが、今さら気づいても手遅れだな。
大切な人に入ってしまっているのだから。
返事をせずに立ち上がると、ベラトリックスの前で片膝をつく。
「俺と一緒に踊りませんか?」
普段とは違って淑女のように扱ったため、丁寧な口調を使った。
その効果はすぐに出てベラトリックスの顔が真っ赤になる。目が合わせられないようで、顔を背けるが拒否はされていない。
躊躇いがちに手が伸びてきたのだ。
「他にも可愛い人いるじゃないですか。エーリカさんとか」
「他の女性は関係ありません。俺はベラトリックスと踊りたいんです」
手を取ると甲に軽くキスする。
肌がすべすべで気持ちが良かった。
「ええええ、ああああああああ! どどどどどうしましょう!?」
過去に一度も見たことがないほど慌てている。
中型の汚染獣と偶発的な遭遇をしたときだって冷静だったのに。非常に珍しい姿だ。
「ダメ、ですか?」
「そんなことないです! めちゃくちゃ大丈夫ですっっ!!」
「では行きましょうか。お嬢様」
「は、はいっ!」
様子のおかしくなったベラトリックスを立ち上がらせると、俺たちは手を取り合いながら焚き火の近くに着た。
みんな好き勝手に踊っていて統一感はない。楽しければ何でも良いのだ。
手を腰に回して密着する。
笛から流れる音楽は聞いたことのない曲だが、ベラトリックスの動きに合わせながら焚き火を回るようにして踊る。
「勇者就任パーティーの時は、私の足を何度も踏んでいたのを思い出しました」
孤児が練習もなしに貴族が集まる会場で踊らされたんだ。
あの時は大恥をかいてしまった。
「トエーリエやヴァリィの足も踏んだな」
「ええ、みんなですごく恥ずかしい思いをしました」
昔を懐かしむような遠い目をしている。表情は柔らかい。
嫌味を言っているのではなく、良い思い出を振り返っているような気持ちなのだろう。俺も同じだ。
「だから必死に練習したんだぜ」
「知ってます。努力を怠らないところはポルン様の美点ですよ」
「俺だけじゃない。三人も同じだ。国を守るために努力を続けていた」
一人だけだったら、どこかで心が折れて努力を放棄していただろう。勇者という重圧に耐えられず逃げ出していたかもしれない。
ここまでこれたのは仲間がいたからだ。それだけは間違いない。
「ふふふ、改めて言われると恥ずかしいですね」
曲のテンポが上がった。そろそろ終わりが近いのだろう。
腰から手を離すとベラトリックスがくるりと回転して背中から倒れる動きをしたので、そっと支える。ぴたりと動きが止まるのと同時に曲が終わった。
どうやら村人たちの注目を集めていたみたいで、ぱちぱちぱちと周囲から拍手される。
これは恥ずかしい。
並んでお辞儀をしてから逃げるようにして焚き火から離れる。
宿に戻ろうとしてのだが建物から酒を飲んでいる人たちの声が聞こえたので、急遽予定を変更。誰もいない石碑のところで一息つくことにした。
「目立っちゃいましたね」
「でも楽しかった」
「はい!」
最近は恐ろしい面ばかり出ていたが、普段のベラトリックスは素直だ。エーリカとは違う魅力がある。
石碑に寄りかかりながら夜空を見る。
星がキラキラと輝いていて美しい。隣には気心知れた綺麗な女性もいるし悪くない時を過ごしていると実感していた。
「これからどうします?」
今晩ではなく、汚染獣対策について聞いているのだろう。
方針は決めてある。
「ベラトリックスから汚染獣討伐依頼の手紙を出してくれ」
放置されていた理由はわからないが、魔女とまで呼ばれる彼女の手紙は無視できない。新勇者を派遣してくれるはずだ。
「ポルン様から手紙を出さないのですか?」
「クビにした勇者の手紙は中身を見ずに捨てられる可能性があるからな。その代わり俺は俺にしかできないことをする」
エーリカが悲しまないよう村を守ると決めた。討伐が終わるまで、村人たちが心穏やかに過ごせるよう動くつもりである。
石碑の掃除だってしなきゃいけないし、やることは沢山あるのだ。
腕を引っ張って遊ぼうと駄々をこねている子供たちが離れていく。
「あっ! 料理の仕込みを忘れてた! 後は頑張って下さいね~」
異変に気づいたエーリカは、立ち上がると足早に去って行った。良い感じだと思っていたのだが身を引くのが早い。
ベラトリックスは魔力で髪をふわりと浮かせ、蛇のように動かしながら彼女は近づいてきた。
「何を話されていたんですか?」
「勇者はクビになったんだぜって、話かな」
俺の隣にある地面をポンポンと叩く。
意図が伝わったのかベラトリックスは座ってくれた。
「本当はもっと別のことを話していたんじゃないですか」
頬を膨らませて拗ねている。
勇者として相応しくないなどと小言を言われると思ったら違うようだ。単純に他の女性と仲良くしていたら嫉妬しているのだと分かって可愛らしく思う。
「そんなことはない。こんなことで嘘をつくわけないだろ」
ベラトリックスの長い髪を触りながら顔を見る。
嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。
機嫌は直ったとみて良いだろう。チョロい女、というよりも俺への信頼や恋愛感情があるからこその反応だろう。
勇者として自分の理想を重ねているだけでなく、同時に異性として見られていることぐらい、ずっと前から知っている。ちょぴっと表現が過激なだけで可愛い女性なのだ。
まぁ俺は、女遊びをしたいから気づかないふりをしていたが。罪作りな男である。
「踊りは終わったのか?」
「目立って恥ずかしかったのでやめちゃいました」
「残念。見たかったな」
「でしたら、特等席で見てみますか?」
ベラトリックスは膝を抱えながら少し照れていた。
直接気持ちを伝えず遠回しな言い方をするのは彼女らしい。
出会ったときは何を考えているかわからず面倒な性格だなと思うこともあったが、十年も付き合っているとある程度分かるようになるし、控えめな態度をされると可愛いなと思うときもある。
もしかしたら俺の価値観はおかしくなっているのかもしれないが、今さら気づいても手遅れだな。
大切な人に入ってしまっているのだから。
返事をせずに立ち上がると、ベラトリックスの前で片膝をつく。
「俺と一緒に踊りませんか?」
普段とは違って淑女のように扱ったため、丁寧な口調を使った。
その効果はすぐに出てベラトリックスの顔が真っ赤になる。目が合わせられないようで、顔を背けるが拒否はされていない。
躊躇いがちに手が伸びてきたのだ。
「他にも可愛い人いるじゃないですか。エーリカさんとか」
「他の女性は関係ありません。俺はベラトリックスと踊りたいんです」
手を取ると甲に軽くキスする。
肌がすべすべで気持ちが良かった。
「ええええ、ああああああああ! どどどどどうしましょう!?」
過去に一度も見たことがないほど慌てている。
中型の汚染獣と偶発的な遭遇をしたときだって冷静だったのに。非常に珍しい姿だ。
「ダメ、ですか?」
「そんなことないです! めちゃくちゃ大丈夫ですっっ!!」
「では行きましょうか。お嬢様」
「は、はいっ!」
様子のおかしくなったベラトリックスを立ち上がらせると、俺たちは手を取り合いながら焚き火の近くに着た。
みんな好き勝手に踊っていて統一感はない。楽しければ何でも良いのだ。
手を腰に回して密着する。
笛から流れる音楽は聞いたことのない曲だが、ベラトリックスの動きに合わせながら焚き火を回るようにして踊る。
「勇者就任パーティーの時は、私の足を何度も踏んでいたのを思い出しました」
孤児が練習もなしに貴族が集まる会場で踊らされたんだ。
あの時は大恥をかいてしまった。
「トエーリエやヴァリィの足も踏んだな」
「ええ、みんなですごく恥ずかしい思いをしました」
昔を懐かしむような遠い目をしている。表情は柔らかい。
嫌味を言っているのではなく、良い思い出を振り返っているような気持ちなのだろう。俺も同じだ。
「だから必死に練習したんだぜ」
「知ってます。努力を怠らないところはポルン様の美点ですよ」
「俺だけじゃない。三人も同じだ。国を守るために努力を続けていた」
一人だけだったら、どこかで心が折れて努力を放棄していただろう。勇者という重圧に耐えられず逃げ出していたかもしれない。
ここまでこれたのは仲間がいたからだ。それだけは間違いない。
「ふふふ、改めて言われると恥ずかしいですね」
曲のテンポが上がった。そろそろ終わりが近いのだろう。
腰から手を離すとベラトリックスがくるりと回転して背中から倒れる動きをしたので、そっと支える。ぴたりと動きが止まるのと同時に曲が終わった。
どうやら村人たちの注目を集めていたみたいで、ぱちぱちぱちと周囲から拍手される。
これは恥ずかしい。
並んでお辞儀をしてから逃げるようにして焚き火から離れる。
宿に戻ろうとしてのだが建物から酒を飲んでいる人たちの声が聞こえたので、急遽予定を変更。誰もいない石碑のところで一息つくことにした。
「目立っちゃいましたね」
「でも楽しかった」
「はい!」
最近は恐ろしい面ばかり出ていたが、普段のベラトリックスは素直だ。エーリカとは違う魅力がある。
石碑に寄りかかりながら夜空を見る。
星がキラキラと輝いていて美しい。隣には気心知れた綺麗な女性もいるし悪くない時を過ごしていると実感していた。
「これからどうします?」
今晩ではなく、汚染獣対策について聞いているのだろう。
方針は決めてある。
「ベラトリックスから汚染獣討伐依頼の手紙を出してくれ」
放置されていた理由はわからないが、魔女とまで呼ばれる彼女の手紙は無視できない。新勇者を派遣してくれるはずだ。
「ポルン様から手紙を出さないのですか?」
「クビにした勇者の手紙は中身を見ずに捨てられる可能性があるからな。その代わり俺は俺にしかできないことをする」
エーリカが悲しまないよう村を守ると決めた。討伐が終わるまで、村人たちが心穏やかに過ごせるよう動くつもりである。
石碑の掃除だってしなきゃいけないし、やることは沢山あるのだ。
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