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第11話 後は任せた
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ベラトリックスが寝ている子供たちの体内調査を始めた。
四人はすぐに終わったが、大型汚染獣の影響を受けた男の子は入念に確認している。
魔力回復に努めている俺は、床に転がりながらそんな姿を見ていると外が騒がしくなってきた。
「うちの娘はどうなったんですか!」
「中に入らせてくれ!」
男女が入り交じった声だ。
「今は治療中なので待ちなさい!」
「うるさい! どけ!」
「きゃっ」
止めているエーリカが吹き飛ばされたようだ。
ドアが半分ほど開く。外の様子が少し見えるようになった。
「ダメだからっ!」
中年の男性にエーリカが飛びかかった。押し倒せはしなかったが中に入るのは邪魔できたようである。
任せた仕事を全うしようとする心意気に心打たれ、女性に手を出した中年男性に怒りが湧く。
彼女は未亡人で、もしかしたら俺の初めてを受け入れてくれるかもしれない人なんだッ!
お前みたいな男が傷つけて良い相手ではないッッ!
「全員、汚染物質が浄化されているのを確認しました」
よし、もう時間を稼いでもらう必要はなくなった。
魔力も回復したので起き上がるとドアの前に立つ。
「静かにしろ」
入り口にいる全員の視線が集まった。
来訪者は男女二名ずつか。
子供の親とみて間違いないだろう。
「治療は終わった。全員無事だ」
「本当か!?」
声を上げたのはエーリカに止められていた男だ。
こっちに向かってきたので軽く腹を殴りつける。
「ガハッ……なに……を」
「女性に手を出すクソ野郎に制裁を加えただけだ。文句あるか?」
指の骨をポキポキと鳴らして、反論すれば戦いになるぞとアピールしておく。
勇者として活動していたときは魔物や人間とも戦ったことはある。なんならエルフやドワーフとだって争ったことがあり、田舎村の男に負けるほど弱くはない。
「どうした? 何か言えよ」
「ぐっ……」
抵抗できない女には強気に出られても、俺には声すら上げられないようだ。
情けない。少しは立ち向かう気概というのを見せてもらいたいものである。
「子供が心配で気が動転しているのだと思います。ポルン様、そろそろ許してもらえませんか?」
戻ってこない俺が気になったのだろう。ベラトリックスが心配そうな声で言った。
あえてこのタイミングで割り込んでくれたのは理由がある。騒動を収めるきっかけを作ってくれたのだ。
こういった場面ではいつも助けてもらっているな。
提案を断れば引っ込みが付かなくなるので、ありがたく受け入れることにする。
「わかった」
腕を降ろして怒りを静める。
見守っている人たちから一気に緊張感が抜けたように見えた。
「子供は本当に無事なのでしょうか?」
「もちろん。衰弱しているが死ぬことはないだろう」
「……っっ!」
感極まったのか二人の母親らしき女性は泣き出してしまった。
男の方も涙を溜めている。
「私は他の方にも伝えてきますね!」
服に付いた土を叩いて落とすと、エーリカはどこかに行ってしまった。
これから村中が騒ぎになる。
他にもやることがあるので、捕まる前に逃げ出すか。
「調べたいことがあるので出かけてくる。後は任せた」
何か言いたそうな顔をしたベラトリックスを置いて宿に戻ると、部屋から槍を持ち出す。
汚染獣の体の一部がどうなっているのか確認するために、急いで村から出て草原を歩くことにした。
まだ昼前なので太陽は昇りきっていない。
草を踏みしめながら進む。
目的の場所は方角ぐらいしか分からないが、それで十分である。山脈とは別に草原にも瘴気の濃い場所があるから迷うことはない。
しばらく進むと草原が枯れてきた。汚染物質によって植物が死にかけているのだろう。
ここまでくると人体にも影響が出てくる。空気を吸い込めば体が重くなって頭痛や吐き気といった症状がでるはずだ。俺は光属性のおかげで健康そのものだが。
まともな生物がいない。ある意味安全な場所をさらに進んでいくと、草はなくなり真っ黒な地面が露出するようになる。
ようやく瘴気を発している中心部に来たのだ。
視線の先には地面から生えた触手が見えた。全長は十メートルほどか。根元から数十センチほどで枝分かれしていて数十本の触手が存在する。
大きさと瘴気の濃さからして小型から分離した体の一部だろう。
不規則にゆらゆらとしていて全体がテカテカと光っており、先端は大きな針がある。一部に穴が空いてあるのは血を吸うためだろう。汚染獣の中には生き血を吸うのが好きなタイプもいたから、推測は間違ってないはず。
「どうするかなぁ」
手に持った槍をクルクルと回しながら、処分方法を考える。
光属性の魔力で完全に消し去ることもできるが、汚染獣の手がかりもなくなってしまう。それは悪手だ。
触手から情報を得たいので原形を留めておく必要はある。
「すべて斬り落として無力化するか」
方針を決めると、ゆっくり歩き出す。
俺の存在を認知した触手は、すべての先端を俺に向けると黒い液体の玉を放った。
槍に光属性を付与してから当たりそうなものだけ叩き落とす。地面に当たると、じゅわっと音がして消滅した。
「吸うだけじゃなく吐き出すこともできるのか」
ベラトリックスは、よくあれから肉片を手に入れたな。さすが魔女である。
歩みを止めずに進んでいると黒い液体の玉を放つのが止まった。近くなったので別の攻撃方法を試すつもりか。
警戒していると触手が伸びてきた。先端の針で突き刺そうとしてくるので、最小の動きでかわし続ける。
汚染獣は肉体の一部だけでも本能に従って動くが、その能力は本体の力に依存する。この程度なら、やはり元は小型で間違いない。すると大型は別の所に潜んでいる可能性があるのか……?
四人はすぐに終わったが、大型汚染獣の影響を受けた男の子は入念に確認している。
魔力回復に努めている俺は、床に転がりながらそんな姿を見ていると外が騒がしくなってきた。
「うちの娘はどうなったんですか!」
「中に入らせてくれ!」
男女が入り交じった声だ。
「今は治療中なので待ちなさい!」
「うるさい! どけ!」
「きゃっ」
止めているエーリカが吹き飛ばされたようだ。
ドアが半分ほど開く。外の様子が少し見えるようになった。
「ダメだからっ!」
中年の男性にエーリカが飛びかかった。押し倒せはしなかったが中に入るのは邪魔できたようである。
任せた仕事を全うしようとする心意気に心打たれ、女性に手を出した中年男性に怒りが湧く。
彼女は未亡人で、もしかしたら俺の初めてを受け入れてくれるかもしれない人なんだッ!
お前みたいな男が傷つけて良い相手ではないッッ!
「全員、汚染物質が浄化されているのを確認しました」
よし、もう時間を稼いでもらう必要はなくなった。
魔力も回復したので起き上がるとドアの前に立つ。
「静かにしろ」
入り口にいる全員の視線が集まった。
来訪者は男女二名ずつか。
子供の親とみて間違いないだろう。
「治療は終わった。全員無事だ」
「本当か!?」
声を上げたのはエーリカに止められていた男だ。
こっちに向かってきたので軽く腹を殴りつける。
「ガハッ……なに……を」
「女性に手を出すクソ野郎に制裁を加えただけだ。文句あるか?」
指の骨をポキポキと鳴らして、反論すれば戦いになるぞとアピールしておく。
勇者として活動していたときは魔物や人間とも戦ったことはある。なんならエルフやドワーフとだって争ったことがあり、田舎村の男に負けるほど弱くはない。
「どうした? 何か言えよ」
「ぐっ……」
抵抗できない女には強気に出られても、俺には声すら上げられないようだ。
情けない。少しは立ち向かう気概というのを見せてもらいたいものである。
「子供が心配で気が動転しているのだと思います。ポルン様、そろそろ許してもらえませんか?」
戻ってこない俺が気になったのだろう。ベラトリックスが心配そうな声で言った。
あえてこのタイミングで割り込んでくれたのは理由がある。騒動を収めるきっかけを作ってくれたのだ。
こういった場面ではいつも助けてもらっているな。
提案を断れば引っ込みが付かなくなるので、ありがたく受け入れることにする。
「わかった」
腕を降ろして怒りを静める。
見守っている人たちから一気に緊張感が抜けたように見えた。
「子供は本当に無事なのでしょうか?」
「もちろん。衰弱しているが死ぬことはないだろう」
「……っっ!」
感極まったのか二人の母親らしき女性は泣き出してしまった。
男の方も涙を溜めている。
「私は他の方にも伝えてきますね!」
服に付いた土を叩いて落とすと、エーリカはどこかに行ってしまった。
これから村中が騒ぎになる。
他にもやることがあるので、捕まる前に逃げ出すか。
「調べたいことがあるので出かけてくる。後は任せた」
何か言いたそうな顔をしたベラトリックスを置いて宿に戻ると、部屋から槍を持ち出す。
汚染獣の体の一部がどうなっているのか確認するために、急いで村から出て草原を歩くことにした。
まだ昼前なので太陽は昇りきっていない。
草を踏みしめながら進む。
目的の場所は方角ぐらいしか分からないが、それで十分である。山脈とは別に草原にも瘴気の濃い場所があるから迷うことはない。
しばらく進むと草原が枯れてきた。汚染物質によって植物が死にかけているのだろう。
ここまでくると人体にも影響が出てくる。空気を吸い込めば体が重くなって頭痛や吐き気といった症状がでるはずだ。俺は光属性のおかげで健康そのものだが。
まともな生物がいない。ある意味安全な場所をさらに進んでいくと、草はなくなり真っ黒な地面が露出するようになる。
ようやく瘴気を発している中心部に来たのだ。
視線の先には地面から生えた触手が見えた。全長は十メートルほどか。根元から数十センチほどで枝分かれしていて数十本の触手が存在する。
大きさと瘴気の濃さからして小型から分離した体の一部だろう。
不規則にゆらゆらとしていて全体がテカテカと光っており、先端は大きな針がある。一部に穴が空いてあるのは血を吸うためだろう。汚染獣の中には生き血を吸うのが好きなタイプもいたから、推測は間違ってないはず。
「どうするかなぁ」
手に持った槍をクルクルと回しながら、処分方法を考える。
光属性の魔力で完全に消し去ることもできるが、汚染獣の手がかりもなくなってしまう。それは悪手だ。
触手から情報を得たいので原形を留めておく必要はある。
「すべて斬り落として無力化するか」
方針を決めると、ゆっくり歩き出す。
俺の存在を認知した触手は、すべての先端を俺に向けると黒い液体の玉を放った。
槍に光属性を付与してから当たりそうなものだけ叩き落とす。地面に当たると、じゅわっと音がして消滅した。
「吸うだけじゃなく吐き出すこともできるのか」
ベラトリックスは、よくあれから肉片を手に入れたな。さすが魔女である。
歩みを止めずに進んでいると黒い液体の玉を放つのが止まった。近くなったので別の攻撃方法を試すつもりか。
警戒していると触手が伸びてきた。先端の針で突き刺そうとしてくるので、最小の動きでかわし続ける。
汚染獣は肉体の一部だけでも本能に従って動くが、その能力は本体の力に依存する。この程度なら、やはり元は小型で間違いない。すると大型は別の所に潜んでいる可能性があるのか……?
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