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第9話 痛みは消えたか?
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残された俺はあえて、少し遅れてから後を追うことにした。
借りている部屋のドアが開きっぱなしだったので中を覗くと、女主人がベッドの上で寝ていてベラトリックスが手をかざしていた。指先が光っているので体内の状態を確認する魔法でも使っているのだろう。
邪魔をするわけにはいかない。
作業が終わるまで見守ることにした。
「内臓、骨、筋肉は問題なし。血管の中に異物……これは汚染物質が入っているみたい。濃度は、かなり高い。よく動き回れてたね」
魔法を解除したベラトリックスは頭を優しく撫でた。
慈しむような眼をしている。
先ほどまで俺の命を狙っていたとは思えないほどだ。
「ポルン様がそこにいるのは気づいています。状況はわかっていますよね? 私にできることは何もないので早く対処してください」
「任せろ。これは俺の仕事だ」
汚染物質に犯された人を何度も浄化したことがある。中には皮膚が真っ黒に変色した末期患者まで回復させた経験があるのだ。
この程度ならすぐにでも治せる。
部屋に入ると女主人の手を取った。
冷たい。
瘴気を経由して汚染物質が蓄積された人体は、こうやって体温が下がるのだ。放置しておくと体内の活動がゆっくりと弱まっていき、最後は停止してしまう。
これだけ聞くと楽に死ねそうだと勘違いしてしまいそうになるが、実際は理想とはかけ離れている。
死ぬ直前まで意識がハッキリしているのに体は動かせず、激しい痛みに耐え続けなければいけないのだ。もちろん声なんて出せない。ただじっと痛みに耐えるしかないのである。
また五感は大きく低下しているので他人を感知する方法はない。
何も感じられず孤独の中、激痛にさいなまれて死ぬ。
それが汚染された生命の最後なのだ。
「もう大丈夫だ。必ず俺が、君を助けるから」
安心させるように声をかけながら、接触している皮膚を経由して光属性の魔力を女主人へ注いでいく。
これが一般的な浄化の方法だ。魔法なんて高度な技術は不要なのである。
光属性の魔力を注ぎ込んで数秒ぐらいだろうか。体温が戻ってきた。
「体が活性化していますね。さすがポルン様です」
昔から人助けをしていると、ベラトリックスの機嫌は良くなる。嬉しそうだ。胸を揉んでいたことも今なら許してくれるだろう。
体内に滞留した汚染物質がほぼ消えてきたので、仕上げとして一瞬だけ光属性の力を強める。女主人の体が僅かに光った。
これで完全に排除した。
出会ったときから悪かった顔色も良くなっている。健康体だ。
手を離して声をかける。
「痛みは消えたか?」
ゆっくりと目を開けた女主人が俺を見た。
「はい。おかげさまで元気です。旅人さんは勇者様だったんですか?」
自分が汚染物質に犯されていたことを理解していたのだろう。
光属性の魔力で浄化されたと気づいたようだ。
回復したばかりの彼女に細かい事情を話すのは悪いし、今は適当に説明しておくか。
「事情があって身分は隠している。広めないで欲しい」
「わかりました。誰にも言いませんので、名前ぐらいは教えてもらえませんか?」
「俺の名前はポルン、連れはベラトリックスだ。君は?」
「私はエーリカです」
お互いの名前も分かったことだし、仲はもっと深まりそうな気配がある。
俺、こういうのに敏感なんだぜ。
良い感じの雰囲気になってきた。
お互いに見つめ合っていると、パンと手を叩く音がした。
「元気になったんでしたら起きてください」
エーリカは笑いながら言われたとおりに起き上がり、ベラトリックスを抱きしめる。
「恩人の男性は取らないから安心してください」
「そ、そんなんじゃないから!」
「だったら、私が手を出しても良いんですか? お金なんて持ってないから体を使ってお礼しようかな」
「不潔です! そんなのダメです! 困っている人を助けるなんて当然のこと!! お礼なんて不要ですからっっっっ!!」
珍しい光景だ。あのベラトリックスが一方的に押されている。
四人で行動していたときは見たことがなかった。
「では、もっと人助けしてみませんか?」
「どういうことですか……?」
「実は私みたいに倒れている人が他にもいるんです」
やはりか。瘴気の影響で死にかけた最初の事例がエーリカだったというのは都合が良すぎる。他にも汚染物質が体内に溜まって倒れてしまった村人はいるはずだ。
ベラトリックスは眉を下げながら俺を見ている。
判断待ち、って感じだ。
「何人いるんだ?」
「全員で五人です」
「最初に倒れた人は何日前になる?」
「半月ぐらい前……かな。もう手遅れでしょうか」
「いや、時間はないがなんとかなるだろう。明日の朝、倒れた人たちの所へ案内してくれないか」
光属性は汚染物質を消す力しかなく衰弱した体を癒やす力はない。あれはトエーリエの領域なのだ。
浄化したけど起き上がれずに衰弱死しました、なんてケースは結構ある。
今回はなんとか間に合いそうで安心していた。
「もちろんです! 任せて下さい」
ベラトリックスから離れたエーリカは、俺に軽く抱きついた。
首に腕が回って耳元に口が近づく。
「また私の胸を揉ませてあげますね。もちろん、何をされても誰にも言いません」
悪魔的な誘惑をされてしまった。
一階での出来事はしっかり覚えていたようだ。
初期症状だったから意識だけでなく感覚も残っていたのだろう。
「いいのか?」
「未亡人ですから、後腐れなく楽しめますよ」
今の言葉でテンションが急激に上がった。
俺の見立ては間違ってなかったのだ! エーリカは未亡人である! 今確定したッ!!
借りている部屋のドアが開きっぱなしだったので中を覗くと、女主人がベッドの上で寝ていてベラトリックスが手をかざしていた。指先が光っているので体内の状態を確認する魔法でも使っているのだろう。
邪魔をするわけにはいかない。
作業が終わるまで見守ることにした。
「内臓、骨、筋肉は問題なし。血管の中に異物……これは汚染物質が入っているみたい。濃度は、かなり高い。よく動き回れてたね」
魔法を解除したベラトリックスは頭を優しく撫でた。
慈しむような眼をしている。
先ほどまで俺の命を狙っていたとは思えないほどだ。
「ポルン様がそこにいるのは気づいています。状況はわかっていますよね? 私にできることは何もないので早く対処してください」
「任せろ。これは俺の仕事だ」
汚染物質に犯された人を何度も浄化したことがある。中には皮膚が真っ黒に変色した末期患者まで回復させた経験があるのだ。
この程度ならすぐにでも治せる。
部屋に入ると女主人の手を取った。
冷たい。
瘴気を経由して汚染物質が蓄積された人体は、こうやって体温が下がるのだ。放置しておくと体内の活動がゆっくりと弱まっていき、最後は停止してしまう。
これだけ聞くと楽に死ねそうだと勘違いしてしまいそうになるが、実際は理想とはかけ離れている。
死ぬ直前まで意識がハッキリしているのに体は動かせず、激しい痛みに耐え続けなければいけないのだ。もちろん声なんて出せない。ただじっと痛みに耐えるしかないのである。
また五感は大きく低下しているので他人を感知する方法はない。
何も感じられず孤独の中、激痛にさいなまれて死ぬ。
それが汚染された生命の最後なのだ。
「もう大丈夫だ。必ず俺が、君を助けるから」
安心させるように声をかけながら、接触している皮膚を経由して光属性の魔力を女主人へ注いでいく。
これが一般的な浄化の方法だ。魔法なんて高度な技術は不要なのである。
光属性の魔力を注ぎ込んで数秒ぐらいだろうか。体温が戻ってきた。
「体が活性化していますね。さすがポルン様です」
昔から人助けをしていると、ベラトリックスの機嫌は良くなる。嬉しそうだ。胸を揉んでいたことも今なら許してくれるだろう。
体内に滞留した汚染物質がほぼ消えてきたので、仕上げとして一瞬だけ光属性の力を強める。女主人の体が僅かに光った。
これで完全に排除した。
出会ったときから悪かった顔色も良くなっている。健康体だ。
手を離して声をかける。
「痛みは消えたか?」
ゆっくりと目を開けた女主人が俺を見た。
「はい。おかげさまで元気です。旅人さんは勇者様だったんですか?」
自分が汚染物質に犯されていたことを理解していたのだろう。
光属性の魔力で浄化されたと気づいたようだ。
回復したばかりの彼女に細かい事情を話すのは悪いし、今は適当に説明しておくか。
「事情があって身分は隠している。広めないで欲しい」
「わかりました。誰にも言いませんので、名前ぐらいは教えてもらえませんか?」
「俺の名前はポルン、連れはベラトリックスだ。君は?」
「私はエーリカです」
お互いの名前も分かったことだし、仲はもっと深まりそうな気配がある。
俺、こういうのに敏感なんだぜ。
良い感じの雰囲気になってきた。
お互いに見つめ合っていると、パンと手を叩く音がした。
「元気になったんでしたら起きてください」
エーリカは笑いながら言われたとおりに起き上がり、ベラトリックスを抱きしめる。
「恩人の男性は取らないから安心してください」
「そ、そんなんじゃないから!」
「だったら、私が手を出しても良いんですか? お金なんて持ってないから体を使ってお礼しようかな」
「不潔です! そんなのダメです! 困っている人を助けるなんて当然のこと!! お礼なんて不要ですからっっっっ!!」
珍しい光景だ。あのベラトリックスが一方的に押されている。
四人で行動していたときは見たことがなかった。
「では、もっと人助けしてみませんか?」
「どういうことですか……?」
「実は私みたいに倒れている人が他にもいるんです」
やはりか。瘴気の影響で死にかけた最初の事例がエーリカだったというのは都合が良すぎる。他にも汚染物質が体内に溜まって倒れてしまった村人はいるはずだ。
ベラトリックスは眉を下げながら俺を見ている。
判断待ち、って感じだ。
「何人いるんだ?」
「全員で五人です」
「最初に倒れた人は何日前になる?」
「半月ぐらい前……かな。もう手遅れでしょうか」
「いや、時間はないがなんとかなるだろう。明日の朝、倒れた人たちの所へ案内してくれないか」
光属性は汚染物質を消す力しかなく衰弱した体を癒やす力はない。あれはトエーリエの領域なのだ。
浄化したけど起き上がれずに衰弱死しました、なんてケースは結構ある。
今回はなんとか間に合いそうで安心していた。
「もちろんです! 任せて下さい」
ベラトリックスから離れたエーリカは、俺に軽く抱きついた。
首に腕が回って耳元に口が近づく。
「また私の胸を揉ませてあげますね。もちろん、何をされても誰にも言いません」
悪魔的な誘惑をされてしまった。
一階での出来事はしっかり覚えていたようだ。
初期症状だったから意識だけでなく感覚も残っていたのだろう。
「いいのか?」
「未亡人ですから、後腐れなく楽しめますよ」
今の言葉でテンションが急激に上がった。
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