勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~

わんた

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第8話 服汚れちゃいました……

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 不味い食事を終わらせてから、ベラトリックスと外に出て夜道を歩いている。

 村人たちの姿はない。体調が悪い中働いて疲れて家にいるのだろう。

 動物が逃げ出すような土地になっているので、鳴き声や遠吠えは聞こえない。生きているのが俺たちだけと錯覚するほど静かだ。

「明るくしますね」

 周囲に光る小さな球がいくつか浮かんだ。意思の力だけで魔法が使える。これが魔女の特権だ。

 体内には膨大な魔力を蓄えており、格闘術も長けている。俺が戦っても勝てるイメージはわかない。

 戦闘能力は非常に高い女性である。

「石碑はどこにあるんだ?」
「こちらです」

 下調べは終わっているようで、目的の場所はわかっているらしい。足取りに迷いがない。

 どんどん村の中心から離れていく。

 建物がなくなり柵の近くにくると、勇者の偉業をたたえる半壊した石碑があらわれた。長い間放置されていたようでツタが絡んでいる。

「これまた酷い扱いだな」

 最も高潔で優しい勇者でも、死後はこんな扱いになってしまうのか。この場所を知らない村人もいるんじゃないだろうか。

 ぞんざいな扱いをされていることに、怒りや悲しさよりも空しさを覚える。

 他人のために生きて汚染獣から助けて当時感謝されても、最後はこうやって歴史に埋もれて消えてしまう。

 歴代の勇者はそれでも良いと思っているかもしれないが、俺は違うぞ。

 自分のためだけに生きる。

 改めて俺の選択が正しいことを確信した。

「このままじゃ可哀想です。少しお時間いただけますか」
「もちろん。好きにして良いぞ」

 ベラトリックスが腕を前に出した。

 次の瞬間、石碑に絡みついていたツタが一斉に燃える。離れた場所にいても熱を感じるほどの火力だ。ものの数秒で灰になった。

 石碑は無事だ。狙ったところだけを燃やすコントロール能力も素晴らしい。

 炎を消すとベラトリックスは石碑の前に立ち、袖で汚れを落としていく。

「綺麗な服が汚れるぞ」
「いいんです。私より勇者様の方が大事ですから」
「死んでいてもか?」
「もちろんです。彼らは偉業を成し遂げた方々なのですから」

 ベラトリックスの美点であり欠点でもあるのだが、一度決めたらまっすぐに進み続ける。

 今の状況だと、俺が何を言っても作業は止めないだろう。

「……ふぅ。仕方がないな」

 昨日までは勇者だったのだ。偉大な先達に対して敬意を表するのも悪くはないだろう。

 膝をついて俺も服の袖で下の方の汚れを取っていく。ゴシゴシとこすっても炭の跡が広がるだけで綺麗にはならなかった。

「いまのままだと一生終わらない。本格的な掃除道具が必要だ」

 明日にしようぜと提案しようとして顔を上げる。

「ポルン様……」
「どうした?」

 泣きそうな顔をしている。相変わらず感情が不安定だな。

「私の自己満足に付き合わせてごめんなさい」

 謝られてしまった。

 気まぐれで手伝っただけ、なんて言えそうな雰囲気ではない。

 立ち上がって膝に付いた土をはたき落としてから、ベラトリックスの顔を真っ直ぐ見る。

「間違ったことはしてないのに謝るなよ」
「でも、服汚れちゃいました……」
「元から汚れている。ほら、ここなんてなんかよく分からない謎の跡が残ってるんだぜ」

 腕を降ろすと隠れる場所に小さなシミがあるので見せつけた。

 他にも糸がほつれた箇所もあって全体的に痛んでいる。勇者ならもっと立派なものを持っているべきなのだが、どうしても衣服に金を使いたくないのだ。もったいないと思ってしまう。

 トエーリエは「清貧ですね!」なんて喜んでいたけど、ベラトリックスは勇者に相応しくないと怒っていたな……あ、慰めようとして逆効果だったか!?

「もっと新しい服を買わないんですか?」

 もう勇者じゃなくなったからだろうか。

 小言を言われることはなかった。

 ベラトリックスも変わってきてるんだな。

「金は他のことに使いたかったからな」

 手持ちで金貨三十枚。他にも隠れ家に貴重な素材、武具なども置いているが、すべては女遊びのために貯めていたのだ。

 新しい服を買えば女遊びが遠ざかる。そう思えば節制も苦ではなかった。

「他って何ですか?」
「誰かのために使う、それしか決めてない」

 女遊びのためとは言えないので誤魔化しておいた。

「そんな曖昧なことのために節約をしてたんですね」
「助けられなかったと後悔したくなかったからな」
「……っっっっ!!」

 格好つけてみるとベラトリックスは感動してしまったようだ。目が潤んでいて、俺に心酔しているようにも見える。

「話は終わりだ。また今度来るぞ」
「はいっ」

 手をつなぐことはしないが、やや近い距離で一緒に歩く。

 石碑を後にして静かな夜道を進み宿に戻ると、一階の食堂は静かになっていた。

 旅人なんて俺たちぐらいしか居ないから、食事していた人たちは家に戻ったのだろう。

 部屋に戻ろうとして進むと女亭主が床に倒れていた。

「大丈夫か!?」

 驚きながらも頭は冷静だった。

 先ずは生死の確認である。

 呼吸をしているのか調べるため胸に手を当てると上下に動いていた。

 よかった。死んだわけじゃなさそうだ。

「ベッドに運ぶぞ!」

 振り返ってベラトリックスに指示を出す。

 手に例のナイフを持っていた。

「で、何をするつもりなんですか?」
「他にケガをしてないか調べるんだよ」
「嘘です」
「なわけないだろ! どうしてそう思うんだ!」
「その卑猥な手がいけないんです」

 さっきから気持ちいいなーと思ってたんだが、どうやら錯覚ではなかったようである。

 胸の動きを確認した後はムニムニとずっと揉んでいたようだ。

「す、す、すまん! これはだな……ッ」

 手を離したいのに動かない。

 まだ揉んでいる。

 どうしても言うことを聞いてくれないんだ!

「これは、とは何を言いたいんですか?」
「悪魔的な魅力があって感動しているッ!」

 開き直ったらナイフを振り上げられた。

「すぐに卑猥な手をしまえば緊急時だったと言うことで許しますが」
「あはは、ごめん。すぐは難しい……かも?」

 無言で振り下ろしてきたので後ろに飛んで回避する。

 距離ができるとナイフを投擲してきた。

 腕の動きが速く一瞬見失ってしまうが、なんとか首を傾けてやり過ごす。失敗していたら脳天に穴が空いていただろう。本気で殺すつもりだったみたいだ。

「できたじゃないですか」

 ゴミを見るような目で俺を見ながら女主人を抱きかかえると、ベラトリックスは二階に行ってしまった。

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