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適度に力を抜くんだよ

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 しっかりと朝食を食べた後、俺たちは村を出てメスゴブリンの目撃証言がある森に入った。

 間伐をしているようで、適度に明るく歩きやすい。村人たちが山菜や薬草の採取で定期的に入っていると聞いているので、ちゃんと管理しているのだろう。

 先頭を歩くレベッタさんは、弓を持ちながら地面を見ている。
 痕跡を探しているみたいだ。

「止まって」

 レベッタさんが腕を上げると、膝をついて指で土を触りだした。

 俺たちは安全を確保するために周囲を警戒する。

 遠くに猪が見えたものの近寄っては来なかった。警戒しているのだろう。そういえばまだ肉食動物は見かけていない。ここは比較的安全なのかもしれない。

「メスゴブリンじゃなかった。多分、兎の足跡だね」

 すぐに見つかるとは期待していなかったので、ガッカリした感じはしない。静かに立ち上がったレベッタさんが移動を再開したので、俺たちも後を付いていく。

 昨夜は嵐だったこともあって水たまりがいくつもある。土は軟らかくなっていて靴は泥だらけだ。足を持ち上げるとき、いつもより力を入れなければいけないので少しだけだが疲れてきた。

「休む?」

 服がふれあうほど近くにいるヘイリーさんの提案に、首を横に降って答えた。探索を始めてそんなに時間は経ってないのだ。休む前にもっと進もう。

「そう。もう少しで目的地に着くから」
「行く場所が決まっているんですか?」

 そういえば今回のメスゴブリン退治について詳細を聞いてなかった。冒険者として失格だ。意識が低かったことを反省しながら、ヘイリーさんの話を聞く。

「洞窟が三つある。どこかにいるらしい」

 いる、というのはメスゴブリンのことだ。寝床が分かっているのであれば、時間をかけずに退治できるかもしれない。と、楽観的な考えをしてしまうのは経験が浅いからだろうか。

 油断をすれば死ぬかもしれない。

 自分の頬を叩いて気合いを入れ直してから、まっすぐ前を見る。

「適度に力を抜くんだよ」

 俺の尻をひと撫でしたメヌさんのアドバイスだ。

 あなたは気を抜きすぎなんじゃないですかと思いつつも、何も言わなかった。

「絶対に守るから」

 ヘイリーさんの気持ちはありがたいが、守られてばかりではダメだ。俺だって役に立つところを見せて、かっこつけたい。

 今自分にできることを完璧にこなし、少しだけ無理をする。そんな感じで成長できたら良いなと思った。


 しばらく歩くと森の中に小さな山が出てきた。一度休憩を入れてから周囲を歩いていると、レベッタさんが急に立ち止まる。

「入り口が埋もれているね」

 大小様々な岩が積み重なっていた。この先に洞窟があるのだろう。

「昨日の嵐で落ちてきたのか?」
「みたいだね」

 アグラエルさんの疑問に答えると、レベッタさんが埋もれてしまった洞窟の入り口に近づき、地面を調べる。

「消えかかっているけど、メスゴブリンの足跡が残っている。ここを寝床にしていた可能性は高いね」

 三人の視線がメヌさんに集まった。何を期待しているのか経験の浅い俺でもわかる。力業で岩を排除しようと考えているのだ。

「私がやるより魔法の方が早いんじゃない?」
「念のため温存しておきたい」
「メスゴブリンごときに温存する必要はない思うけど……」
「イオちゃんがいるんだぞ?」
「それ言われたら反対できないじゃん。ズルい」

 なんて言いながらメヌさんは、手に持っているハンマーをブンブンと音を立てながら振り回し、岩で入り口が塞がっている洞窟に近づいた。

「よーし。私の良いところでも見せちゃおっかなっ!!」

 腰を落としてひねり、ハンマーを地面に水平にした。体のねじりが大きくなって力を溜めているようだ。普段から力の強いメヌさんが本気を出したら、どうなるのか。

 その結果が目の前で起こった。

 爆発音と間違えてしまうほどの大きな音とともに、入り口を塞いでいた岩が散弾銃を撃ったように吹き飛んだのだ。山全体が揺れたのではと思うほどの威力である。

 たった一度、ハンマーを振るっただけで入り口の半分が見えるようになった。俺の常識を越える力に驚愕して言葉が出ない。

「中を見てくる」

 ランタンを片手に持ったレベッタさんが、洞窟の中に入っていった。ヘイリーさんも後に続く。誰かが指示を出さなくても己の役割を全うする姿は、彼女たちが優秀な冒険者だと物語っていた。

「私たちも中に入るよ」

 時間を空けて俺とアグラエルさんも洞窟に入る。最後尾はメヌさんだ。戦闘をしない俺がランタンをもって奥に進む。

 戦闘音はしないが、所々に緑色の肌をした小人が倒れていた。顔をみると鷲鼻と鋭い黄色い牙があった。

「メスゴブリンだね。外傷はないけどレベッタが倒したのか? いや、この様子だと違うか」

 発見したメスゴブリンは手で喉を押さえているだけで、剣や矢による傷はなさそうだ。

 何が起こったんだ。一瞬、毒ガスかと思ったが、もしそうなら俺たちも倒れているはず。恐らく入り口が完全に密閉されていたことで酸欠にでもなったんだろう。

「洞窟内の様子がおかしいのは確かです。急いでレベッタさんと合流しましょう」

 止めようとした二人を置いて急いで走り出す。

 洞窟内部は、さほど大きくなかったようで、すぐに奥へ到着した。

 先に入っていた二人は無事なようで俺の方を見ている。

 元気なようで安心した。声をかけようと口を開く。

 洞窟内が大きく揺れて膝をついてしまった。

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