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いいのみーつけたっ!

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 アグラエルさんの尻尾に抱きしめられながら、壁に貼られた依頼書を見ている。

 薬草や食べられる植物や肉、商隊の護衛、他にも特定の魔物の退治依頼など、俺が想像していた内容は全て網羅されている。荷運びなど町の中で働くような依頼もあるのだが、しばらくはスキルの習熟度を上げたいので、外に出る依頼を受けたい。

「私たちランクBでイオちゃんはランクDだから、中間のランクCの依頼までは受けられるぞ」

 救済処置があって助かった。ランクCの依頼なら外に行く依頼が多いので、遠慮なくスキルを使えるだろう。

「その中でも良さそうなのは……あれとかは、どうだ?」

 アグラエルさんが選んだ依頼は魔物退治で、冒険者ランクCの依頼だ。相手は猪といった動物ではなく、二足歩行の亜人に分類されるメスゴブリンだ。子供ぐらいの知能はあるらしく、動物よけの罠を壊して畑を荒らしていると書いてあった。依頼主は近くの村なので、生活に直結する問題であるように感じた。

「足跡で確認出来たのは、メスゴブリン数匹と書いてありますね。危険はないんですか?」
「群れからはぐれたゴブリンなら危険はない。だが、オスゴブリンを求めて移動を続けている群れの先遣隊なら、推奨冒険者ランクはAまで跳ね上がる」

 ゴブリンも男が少ないようで、捕まえるために集団で探すのか。

 想像しただけで恐ろしくなるな。

「だったら他の依頼にします?」
「そんなこと言ってたら、受けられる依頼なんてなくなるぞ」

 万が一を恐れていたら何も出来ないか。

 確かにアグラエルさんが言うことにも一理ある。

「ゴブリンの群れと遭遇するなんて可能性は低い。冒険者ギルドだって事前調査はしているだろうし、我々は群れからはぐれたメスゴブリン退治をすればいいだけだ」

 冒険者ギルドも依頼内容を精査しているのであれば、内容に間違いはないだろう。

 受けてみようかなと思い、依頼書に手を伸ばす。

「いいのみーつけたっ!」

 他の人に奪われてしまった。早い者勝ちとは聞いていたが、露骨に横取りされるとは思わなかったぞ。俺が受けようとした依頼書を奪い取った人物を見る。レベッタさんだった。

 目が合うとパッと笑顔になる。

「これ、一緒に受けようよ」

 どうやら横取りしたことに気づいていないらしいが、俺のために選んでくれたと思えば文句なんていない。

「いいですね。受けましょう」
「だって! ヘイリーとメヌ、アグラエルも良いよね?」

 三人とも頷いて肯定した。これで皆が賛成したことになる。

「じゃ、受けてくるね-」

 依頼書を持ったレベッタさんがギルドの奥にあるカウンターで手続きを始めたようだ。受付嬢と何か話している。

 興味はそそられるが、身動きは取れない状態なので今回は諦めよう。次に俺が依頼を受ければ良いのだ。

 手続きは一分もかからなかったように思う。レベッタさんは最後に身分証明書と冒険者タグを見せたら、俺たちの所に戻ってきた。

「今から馬車で移動すれば夕方までに着くけど、どうする?」

 経験の浅い、というかゼロの俺に聞かれても困る。プロの判断に任せたいのだが。

 誰に聞くべきかなんて、もう決まっている。

「アグラエルさんは、どう思います?」

 依頼のことを丁寧に教えてくれた彼女であれば、しっかり考えて答えを出してくれるだろう。そういった信頼感はレベッタさんよりも上である。ヘイリーさんは何を考えているか分からないし、メヌさんは頭の中はセクハラでいっぱいだろうから聞くだけ無駄だ。

 付き合いは長いとは言えないけが、間違っていない自信があった。

「携帯食料だけ買えば、すぐに移動しても問題はないな」

 プロからの許可が出た。これなら大丈夫だろう。

「では、今すぐ行きましょうか」

 俺たちは冒険者ギルドを出ると干し肉をいくつか買って、集団で移動する馬車に乗り込んだ。移動ルートは決まっているようで、複数の町を行き来するらしい。バスみたいな乗り物だな。

 客車は十人程度が乗れるようになっていて、女性の冒険者が二人乗っていた。

「失礼します」

 中へ入るときに声をかけてみたが、二人からの返事はない。腕を組んで目をつぶっている。不干渉でいて欲しいようだ。

「イオちゃんは、入り口の所に座ってね」

 他の冒険者から最も遠い席だ。レベッタさんは近づけたくないらしい。

 男バレは困るので素直に従って腰を下ろす。堅い木の板の感触があった。王族が使っている馬車とは座り心地が全然違うな。

 他の四人も適当な位置に座る。俺の隣を奪い合うことはしてない。他人がいるから争うようなことはしないのだろう。ちゃんと周囲の状況を見て判断しているのは流石だな。

「定刻になったので出発します」

 御者が宣言すると、馬車がガラガラと音を立てて動き出した。町の中は舗装されていたので振動は小さかったが、町の外に出た途端、上下の振動が激しくなる。

 ケツが、ケツが痛い。背骨に響く。他の人たちは気にしてないようで談笑を続けている。

 痛みを感じるのは慣れてないからだろうか。

 町を出てそんな時間は経っていないのに泣き言なんていってられない。我慢しなければ。

 気を紛らわすために外を見る。

「雨だ」

 最初見たときは小雨ぐらいだったが、すぐに勢いが強まる。今は雷の音まで聞こえるほどだ。さらに風が強くなったようで、客車がグラグラと揺れる。痛い上に気持ち悪くなってきたぞ……。

「すぐに止むかなぁ」

 局所的に降っているのであればすぐに晴れる。だがそうじゃなければ、しばらくは続くだろう。

「この感じだと無理そうだね。今日は雨が続くと思うよ」

 揺れているというのに、しっかりと立っているメヌさんが教えてくれた。

「村に着いたら晴れるまではお休みだね」

 話ながら俺の体を持ち上げると、メヌさんが座席に座った。膝の上に置かれる。

「これならお尻痛くないでしょ?」
「ありがとうございます」

 気を使ってくれたみたいだ。痛みを感じなくなった。気持ち悪さは残っているが我慢できる範囲だ。

 助かったので、下半身をまさぐっているのは気にしないでおこう。
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