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〈Chapter2〉認識

〈2-3〉詮索

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俺は走っていた。もちろん、追っ手などから逃げるためではない。



さっき、俺はノイズの中で確かにを見た。
その瞬間、ノイズがいきなり消え、意識や体の感覚がはっきりしてきたと思ったら、道端で倒れてしまっていたためか、通りかかった宅配便の人にゆすり起こされていた。

その人に、ひどく心配され、何度も大丈夫なのか問われたが、すぐに笑い返し、その場を後にした。


自分の身体の心配などをしている場合ではなかった。

心臓が動き、息ができ、意識があり、体が動く。ならば、それだけでよかった。



・・・自分が気が気でなかった。


だが、一瞬でも見てしまった、知ってしまった・・・


俺は認識してしまったんだ。そこに映った少年と少女の悲劇の終末を・・・






その事実を確かめるために俺はひたすら走っている。






・・・自分はなぜ生きているのか、それが一番気になったが、まずはその原因となっている事件自体が、本当であるのかを確かめることを最優先とした。
だが、それを調べるためには「WMC」を駆使したところで過去の情報を探ることはできない。仮に検索したとしても、表示できるのは調べたその日からせいぜい、過去一か月ぐらいのみ。

「WMC」は確かに人間の生活の幅を広げるが、大きな機能を搭載すればするほど、当然人間の脳にかかる負担は多くなってしまう。よって、それらの情報は人間の脳の処理と同じように生活に必要ないと判断された物から次々と自動で選別、削除されていく。
だが、俺が見ることができた自分自身の姿はあまりにも幼く、相当前であることが考えられた。
となると当然、さっき俺が見たものの真実を探るためにはあまりにも、検索可能な年月が少なすぎ、結果今入手できる情報だけではその事件の欠片の一つもわからなかった。
よって、そのことについて少しでも情報を得るために俺は、走った。探した。
過去の事件などが大量に記され、保管されている電子図書館を・・・・



目的の建物である電子図書館は商店街を抜けた少し先の角を曲がっていくと見えてくるので着くまでにそれほど時間もかからなかった。



だが、その少しの時間ですら俺には永遠のように感じられた。
それほどに必死だった・・・・



上がってしまった呼吸を整えつつ、電子図書館内部に入ると、今日起こった事件や日本の経済から始まり、文学小説や動物やスポーツや料理や歴史などと様々なジャンルの事柄が視界中に様々な色のウィンドウとなって表示された。
本来ならここで、おすすめされたトピックをみて興味を抱き、それを探し始めるという娯楽に長けた場所として多くは使われるようになっているのだが、今回は一つに定まったものを探しに来ているためそれらの情報を視界の左上にあるコントロールボタンから情報のオート表示設定を「OFF」にして一度シャットアウトする。
そして、図書館内に設置された、幾つもの木製でできた本棚・・・に思われるが、エフェクトでそう見せているだけで、本当は膨大な量の情報が詰まったコンソールの棚が並んでいるところを歩いて見て回る。ちなみに、それぞれの棚はそれぞれがしっかりとジャンル別で区切られていた。その中には、先ほどおすすめとして表示されたときに見た「文学小説」「料理」「スポーツ」などもあった。

今は、それらは関係ないので、自分の頭の中から外し、目的の棚を探す。

見つかったのは「過去事集」という主に過去に起こった事件、事故などを大量にまとめられたコンソールの棚だった。
そこから、出来る限りの情報を絞っていき、自分が見たものと同じ写真を探した・・・
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