魔王が始める世界征服

積木 

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第一章 『黙示録の魔王』

三話

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「意地が悪いぞルシル」

「それを言うのはオレの方だ。ルミスに心配させるような事を吹き込むな」

 家を後にした二人は、ロザリア法国の中心部に位置する聖堂に歩みを進めていた。
 沢山の家が立ち並ぶ舗装された街道には、修道服に身を包んだ多くの信徒が行き交っている。

 二人が身に包んでいるのは、式典に参加する際に着用する白を基調とした儀礼服だ。
 重要な祭事に参加する時は、必ず正装をする事が義務づけられている。

「ソレとコレとは話が別だよ、全く」

「同じだ。でも危険を冒してまで挑戦した甲斐はあっただろ?」

 隣に歩く友人に、ルシルは自信ありげな表情を浮かべて話す。
 それを目にしたアルムは、吐息を吐き出すように答えた。

「呆れた……。やっぱりソレが目的だったのか」

「当たり前だ。それ以外に何がある」 

「まあ、ようやく司祭になれるわけだしね。願ったり叶ったりだ」

「ああ。だが、それでもまだ司祭。最低でも司教にまで上り詰めなければ話にならない」

 二人が住むロザリア法国は、神を崇拝する聖なる国として形を成している。
 多種多様な国家が乱立する中でも、法国は歴史が深い国として他国に認識されていた。

 国の体制としては言わずもなが、法皇を頂点に幾多の階級が存在している。
 ルシルとアルム。二人の階級は一番下の助祭。
 法国に住む一般人、全ての信徒に与えられる階級だ。

 階級を登るには、法国に存在する様々な教育機関で一定の功績を上げることが必要になってくる。
 その中でも一番過酷と知らされているのが、二人が選んだ守護学院だった。

 守護学院は法国に住まう信徒を、あらゆる脅威から守る担い手を育成する教育機関。
 直接的な武力の行使を学ぶことできる、唯一の学院となっている。

「君は自分に厳しすぎる。最終試験に合格したんだし、今日くらい浮かれてもいいんじゃないか?」

 守護学院を卒業する為には、試験を突破する必要があった。
 試験は例年形を変えるが、おおよそ怪物の討伐が基準になっている。

 怪物には厳密に定められた階級が存在していて、討伐した怪物の数や階級によって合否が決まるという査定方式が採用されていた。

 本来なら階級の低い怪物を時間を掛けて数多く討伐し、評価を得るのが凡例。
 だが、ルシルが選択したのは真逆を行く選択。より高い階級の怪物を討伐することだった。

 結果的に長い歴史を誇る法国の守護学院でも、前代未聞とも言える結果を叩き出した二人の少年。
 学院は実力を認め、ルシルとアルムに異例とも言える速さで卒業許可を与えたのだ。

「浮かれてなどいられない。オレが求めているのはまだまだ先。それに本番はこれからだ。示される神託が解るまでは正直、気が気じゃない」

「ルシルは心配性だな。ボクはどんな神託が出てきても気にしないけどね」

 神託。それは個人が持つ資質を、神の名の元に顕現させる聖なる証の事だ。
 示された神託は、偏に強力で強大な力を、その身に発現させる。

 それは、恩恵や超越といった表現が最も似つかわしい程の確たる力。
 神託は示されるまで、何が顕現するのか誰にも解らない。

 ルシル自身は自分が欲する神託の種類を、個人的な調べによりある程度まで定めていた。
 けれど、どれだけ願った所で何が刻まれるのかは誰も知り得ない。

「お前が呑気すぎるだけだ。オレは戦闘系の神託が欲しい。とは言っても神託は個人の資質による影響が大きいのは事実だ。今までにできる事はやってきた……それでも結果は解らない。こればかりは運の要素が強すぎる」

「ルシルは運がないからね。もっと気楽に構えなよ。じゃないと、異端の神託が示されるかもしれないよ?」

「それは……冗談でも笑えないな」

 法国では、助祭の一つ上。司祭の階級に上り詰めた者に神託を示す権利が与えられる。
 理由としては、志や教養が無い物に神託を示してしまえば、力に溺れる可能性が高いからだ。
 その為に法国は一定の試験を設け、個人の資質を見極める事で暴挙に及ぶ可能性を最小限に抑えていた。

 それでも稀に、異常というのは予期せずに現れる。
 法国、延いては人の益には成り得ない。

 それどころか必ずと言って良い程、世界を混沌を撒き散らす災厄たる神託。
 それが異端の神託と呼称されるものだった。

「あはははは! 大丈夫だよ。ルシルに異端は示されない。ボクが保証する。君は性格は良くないけど、悪い奴じゃない」

「単純な悪口じゃないのか?」

「違うよ。褒め言葉だ」

 屈託のない表情をしながら、アルムは言った。
 ルシルは微笑を浮かべた後、お返しと言わんばかりに口を開く。

「アルムは馬鹿だが、頭が悪いわけじゃない」

「酷い!!」

「違う。褒め言葉だ」

 二人は互いの顔を見合って、笑みを浮かべる。
 その姿は誰がどこからどう見ても、気心の知れた友人にしか見えない。
 
「ルシル。例えどんな神託が示されたとしても、君とボクなら大丈夫だよ」

「何か根拠はあるのか?」

 唐突に切り出されたアルムの言葉に、ルシルは疑問符を浮かべる。
 すると、アルムは当たり前だとでも言うように言葉を紡いだ。

「今までもずっとそうだった。だからこれからもきっとそうだ。二人でならどんな事もできる。少なくともボクはそう信じてる」

「……お前は平気で恥ずかしい事を言う。先に行くぞ」
 
「なんだよ! 照れてるのか? 待ってよ、ルシル!」

    ルシルは自分の表情を悟られる前に、足早に歩き出す。
 その後を、アルムは駆け足で追いかけて行った。



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