俺様ボスと私の恋物語

福山ともゑ

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 「……てい」
 「ん?」
 「削除決定」
 「え、なんで?」とiPhoneをひったくられたが…。
フンッだ、いつまでも昔の思い出に浸るなよな。
そう思った私は、ひろちゃんに爆弾落としてやる。
 「言っとくが、その女は現実には居ない人間だ。いつまでも昔に浸るな。」
削除するんだから、貸せ。

 「イヤだ。どうしてそう言う?お前に何が分かるっ!」
 「それなら言ってやるっ!
そいつは、2年前の夏、ドイツで開催されたフェスに行ってた。
それで、隣にいる医学オタクにセクハラされてたんだ。
その証拠に、そいつは鼻の下伸ばしてるだろ。
それに私は医学だけど、教養では声楽を取ってはドイツに、そこに行ってたんだ。
だから分かるんだ。」
ひろちゃんは何も言わずiPhoneと私とを交互に見ていた。

なので、続いて爆弾落とす。
 「おたく、その医学オタクと知り合いなんだろ。
マルクなんとかと。」
 「なんとかではなく、マルク=ボルディーヌだ。」
 「そのマルクから何も聞いてないのか?
1人の人間について。医学部だけど、声楽で歌ってる人のこと。なにしろ医療の事についてはドイツ語で専門用語の話しができた。ってことを。」
 「・・・・・・・」
なにやら思い出してる様子だ。

iPhoneをひったくり、その拡大した写真を私の顔の隣に持っていき、その状態で次の言葉を言い放つ。
 「よーく見て、なにか分からない?」
写真と同じ笑顔になってみせる。

写真と私とを見比べている、ひろちゃんの真剣な顔つきに目つき。

 ……。

暫らくたって、ようやく声が聞こえてきた。

 「まさかっ・・・」
ひろちゃんは、小声で零した。
驚愕した表情を見た。

 「だから、この写真は削除するの。お分かり?」
素直に頷いてくれる。
ん、聞き分けのいい人だね。
素直な人って好きよ。
すると、とんでもないことを言ってきた。
 「でも、これは持っておく。」
iPhoneは、すでにひろちゃんの手の中にあった。

 「なっ…」
 「だって、そうだろ。」
 「なにが?」
 「女装すると、こんな美女になるんだ。とっておきな、貴重な一枚だ。」
そのiPhoneに…、写真にキスをしては嬉しそうな顔をする。
てことで、この写真には鍵を掛けておこう。
ホクホクとしながら、それこそとっておきな至福の表情で。

しかし、分からないもんだな。
手に入らないと思っていた女性が、実は女装した男だったとは。
しかも、その男が側にいるんだからな。
世間は狭いというが、ほんとに狭いんだな。
ブツブツと言ってるひろちゃんを隣に感じながら、私は違う意味で悔しくなってきた。


布団を頭までスッポリと被ったが、隣に誰かがいると泣けない。
リビングで酒でも呑むか、それともピアノでも弾くか。
でも、弾こうという気が起きないので、やっぱり酒を呑むことにする。
持ってきてくれた日本酒は呑む気がおきず、自分のを呑む。
ソファに寝転んではクローゼットから持ってきた声楽アルバムを開き眺めてた。


段々と気持ちが落ち着いてきた。 
明日、起きたら謝らないとな。
一時の感情で気分を害させてしまい、あんな表情をさせてしまった。
させる気なんて、無かったのに。
ごめんなさい…。




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