恋人は副会長

福山ともゑ

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(134)告白

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俺は、文雄さんの胸に顔を埋めたまま言っていた。
 「あのね…」
 「うん?」
 「1年前の、あの時…。助けてくれたのは、店長なの。」
 「え?」
 「その時、店長は俺に言ってくれたんだ。『付き合う人間を選べ』と。
刑事からは、こう言われた。『よく頑張ったな。でも、逃げようとする気持ちを無くすなよ』と。
文化祭の、あの時だって…。俺は理事長に3人の処分の取り消しをお願いした。その時、理事長から言われたんだ。『退学処分と留学。どちらが良いのか、それは誰にも分からない。だけど、それは汚点ではない。彼等の生き方は彼等自身が決める事であって、君が選ぶものではない。』
だけど、俺は留年を取り消して貰う為に、ミッションをクリアした。俺の為に…、俺が、あんな事を起こした為に、3人が留年になるのは許せなかった。
今だから思うことがあるんだ。店長と刑事と理事長。この3人は、同じ大学の医学部を卒業してるのだけど、ここまでくるのに色々とあったんだな、と。
俺も、この3人みたいに精神的に強くなりたい。大人になりたい。
そう思ったからこそ、バイトを始めたんだ。
でもね、それでも、好きな人の側に居たいの。
俺の我儘なんだけどね…。」

そして、今度は文雄さんの顔を見ながら言った。
 「俺は、文雄さんが好き。
あの時、告られた時に感じた。気になってるのではなく、好きなんだ、それに、もっと知りたい。
そう思っていたし、今も、そう思ってる。
ねえ、文雄さん。俺、貴方に関しては貪欲なんだよ。もっと好きになっても良い?」

文雄さんは、にっこりと微笑んでくる。
 (うっ…。やっぱり、この笑顔は反則だ)
そう思ってると、今度は文雄さんから言ってくる。
 「うん。もっと俺を知って、もっと好きになって。ユウが居るからと言ってだけど、副会長呼びは止めてほしいな。それに、いつもよりニュアンス違ってたよな…」
 「ばれてた?」
 「うん、ばればれだったよ」
 「なんかね、違和感があったの」
 「だろうな。それと、」
デコピンされた…。
 「ってぇ……」
 「一本指で、指すんじゃないっ!」

その、メッという表情にやられた。
 「ごめんなさい」


今度は、文雄さんが気持ちを言ってくれた。
 「俺はね、3人兄弟の真ん中なんだよ。
一番、孤独を感じる位置に当たるんだ。
生まれてからはマサとずっと一緒だった。親も、どちらかが付いていた。それが、ユウが生まれてからは、母親をユウに取られた。
だけど、マサと俺には父親が居た。それが、段々とマサは長男っぽくなっていき、ユウを可愛がり出してきた。俺には、そういうのが無かったんだ。俺は一人でも良いや、という気持ちで居た。
それが、母親とマサだけでは飽き足らずに、ユウが小学校に行き出してからかな…。
俺に懐いてきた。懐く、というよりも何だろうね…。真似をするようになったんだ。
俺が持ってる物を、同じ物を持ちたがるようになってきた。
母がピアノを弾くのを側で見て教えて貰ってたのだけど、いつの間にかユウも一緒に教えて貰っていた。それを見て、俺は一時だけどピアノを弾くのを止めたね。
その止めてた間は、俺は剣道をするようになったんだ。
ユウもやりたがっていたが、あいつは体験をしただけで剣道は性に合わないと思ったのだろう。
だから、俺は剣道をしてる時だけは、自分は生きてる。そう思えたね。
ユウは、頭が良いだろ。だから、自分に都合のいい方法を取るんだ。
マサが、「テルが恋人なんだ」と紹介してきた時は驚いたが、ユウも驚いたみたいだよ。それからは、ユウはマサには懐かなくなったんだ。その代わり、俺にくっ付く様になってきた。
まだ真似をしたがっていた時の方が良かった。そう思えたね。
だから、ユウが弘毅を好きだと知った時は驚いたよ。
冗談じゃない、なんでそこまで同じなんだ?そう思ったね。」

文雄さんは、俺をぎゅっと強く抱きしめて、続けて言ってくれる。
 「実は…、そう思った日に、弘毅に告白したんだ。
自分の好きになった物を真似とはいえ、お兄ちゃんだからという理由で、弟にあげてね、と言われては取られてきた。
だけど、好きな人だけは絶対に取られたくない。振られたら、そこまでなんだけどね…。
でも、振られなかった。
俺は、自分の一番大事な物や人は手離したくないんだ…。」

それは、泣いてるように感じ取れた。
 「ありがとう。文雄さんの気持ちが聞けて嬉しい。」



その後、文雄さんが作ってくれた食事を温め直して食べた。
俺は、言っていた。
 「あのね…」
 「今度はなんだ?」
 「今日、俺の誕生日なんだ」
 「えっ…」
 「教えてなかったけど、誕生日の夕食がカレーでなくて良かったよ。この煮魚、凄く美味しい。
ありがとう。さっきの言葉もそうだけど、今までよりも最高のプレゼントだ。」
 「そういう事は、もっと早くに言えよっ」

ケーキも買って帰ったので、夕食後は、2人して1ホールを食べきった。
太るー、と言いながら…。
そして、夕食後は誕生日プレゼントだと言われながら、俺は抱かれた。
文雄さんの言い分は、これだ。
 「なにしろ、ユウが邪魔してくれて最後までやってないからな。それに、去年もプレゼントしてないという事になるじゃないか」
 「ううん、去年はバイクに乗せてくれたよ。海でエッチ…した、のを…覚えてる?」
 「あの日か…」
 「うん」




一方、ユウは。
コウキに冷たくあしらわれたユウは、ヤスオの家に居た。
泣きながら言ってる。
 「コウキに振られた。あんな…、あんなコウキは初めてだ。しかも、文兄とキス…」

その泣き虫ユウに対し、溜息をついてヤスオは言い返していた。
 「ジメジメと鬱陶しい。キスの1つや2つでグダグダと言ってくるな!1ヶ月以上も、ここに居てどうするつもりなんだ?とっとと、自分の家に戻れっ!」
 「俺は恋人だろ」

ヤスオは怪しく言ってくる。
 「ごっこの時間は終わりだ」
 「何を言って…」
 「いつ、お前を抱きたいって言った?いつ、お前を好きだと言った?ネンネ坊やは、自分の家に戻るんだな。」
 「で…、でも」
 「甘々の坊ちゃんが、自分を甘やかしてくれる兄が居ないから、俺の所に来た。そうだろ?
お前の周りには居ない人種だから、物珍しさもあり押しかけて来た。違うか?
自分を甘えさせてくれる。そう思ったんだろう。
人選を間違えたね、お坊ちゃま。
コウキは、ああ見えても冷たいところがある。おそらく友人を一人無くした。そう思ってるだろう。
ま、今はガードマンが居るので、手出しは出来ないだろうな…。」


まあ良いさ。
あの男が、俺のライバルを蹴散らしてくれる。
コウキは、いつでも手が出せる距離に居るからな。
おチビちゃん、人を見る目を養うんだな。


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