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(107)※弘毅、理事に詰め寄る※
しおりを挟む文化祭の後片付けをしないといけないのだが、俺はそれをサボって、ある室へと向かった。
その室に着くと、深呼吸して扉をノックした。
こんこん。
「どうぞ。」
「失礼します。」
そう言って、その室内へと入った。
「おや、これは新・生徒会長さん。来るだろうなとは思っていたが、早かったね。」
「それなら話は早いです。」
そう言って、俺はポケットに入れていた紙を出した。
「この3人の処分を取り消してください。」
「なぜ?」
「処分を受けていいのは、俺だけ…、自分だけです。」
「どうして?」
「生徒会は関係ないです。あれは生徒会の余興ではありません。お願いします。」
ふう…、とため息をついて、机の向こうに座ってる人は口を開けてきた。
「私は、それを書いて3人に見せる様にと、3人の教員に言った。」
「でも・・」
「松井君。生きていくという事は順風満帆の人生ばかりではないんだよ。」
「それは分かります。だけど」
「ハゲが居たら、その3人は間違いなく退学になるだろう。そして、君は停学に。
それと、留年と、どっちが良いのかな?」
「人、それぞれだと思います。でも、関会長と高田書記はエスカレーターだけど…。宮田副会長は大学を受験されると聞いてます。今までの3年間の努力を無にさせたくないんです。」
「なるほど。君は、この留年が彼らの人生の汚点になると思っているのか。」
(な、なんで理事長は、俺の気持ちが分かるんだ…。さすが理事長だな…。)
俺の目の前の机の向こうに座ってる人は、3人の理事長のうちの一人。
何を考えているのか、唯一分からない人だと聞いている。
でも、俺にはこの理事は寂しそうな感じを受ける。
その理事長は、いきなり口調を変えてきた。
「ところで、松井君。あの『ブラック』というグループだが、彼らは良い音を出すね。」
「ありがとうございます。」
急に話を変えてきた。何を言うつもりなんだろう。
「身構えなくて良いよ。よく、あの連中を動かすことが出来たね。」
そう言って、にっこりと笑ってきた。
「松井君。君に、もう一人の人間を動かしてもらいたい。」
「え、動かすって…」
「その一人の人間を動かすことが出来たら、さっきの3人の留年の件、白紙に戻してあげよう。」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。」
「あ、でも動かすって、どうやって」
「彼を本気にさせることだ。彼は眠っていた。今の段階では、その眠りは浅くなってきている。
もう少しで目が覚め起きてくるだろう。
それには、あの連中を、あそこまで動かした君の力が必要だ。」
俺は聞いていた。
「その人は誰ですか?どの様な人ですか?」
「それを聞いたら、もう手は引けないよ?」
「あの3人が留年しなくて済むのなら、構いません。」
それなら、と理事長は1ヶ月という期限付きで、紙に書いてくれた。
当然ながら、ヒントは貰った。
・彼らと同じ不良グループ
・金持ちの坊ちゃん
・彼自身も強いが、彼のガードをしてる人も強い
・いつも2人でいる
そのヒントを書いてくれた紙を見てるのだが…。
この学園に来ている生徒は、弘毅も含め、皆が皆、金持ちの坊ちゃんだ。
しかも、皆、なにかしらの武術を習っていて、そこそこ強い。
弘毅は溜息をついていた。
いや、でも3人の留年を取り消してもらうんだ。
その理事長は、新・生徒会長が出て行ったあと、昔に思いを馳せていた。
(松井弘毅。君は、あの男に似ている。まあ、悟が指南しているだけあって、身体能力も開花してきてる筈だ。7階から落ちても怪我をせずに着地できるのは知っている。
あの男そっくりにならないのは分かってる。それでも天然気味なところと仲間思いにキラキラした眼差し。よく似ている…。)
はあ…と溜息付いて零れた呟きは、同室に居た誰の耳にも届いていなかった。
「オーストラリアか…。ボス…、遠いな……」
そう、このふさふさ髪の理事は。
悟も含め、同じ大学で同じ学部の、しかも同じゼミを取っていた人物だった。
宮田基典(みやた もとのり)
これは、婿養子に入ったが為の名前だ。
本名は、『河田基典』(かわだ もとのり)。
全国に名高い「河田総合病院」の院長の長男だ。
そして、あの10人に次ぐ、11人目の人物でもある。
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