恋人は副会長

福山ともゑ

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(98)ヤリチンはチキン?

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コウキがどこに向かって走ってるのかが分かったのか、松岡はダッシュを掛けてコウキの横を走り抜けると、タックルしかけてきた。

ゴンッ!

 「ったー…」
 「コウキ、体力付いたんだな。追いかけがいがあるよ」
 「うー…」
 「頭から落ちる様にしたからな。暫らくは痛むだろう」
 「あ、頭の、中が…、パーになったら、許さんっ」

ふっ…、と微笑んで身体の上に覆い被さってきた。
 「今度こそ逃がさんからな」
 「や、め」

これだけは聞いておきたかった。
コウキは、松岡に聞いた。
 「どうして、俺を狙う?」
 「中学の時は、お前が好きで欲しいと思った。だから、抱こうとしたんだよ。でも、邪魔が入った。ここで再会した時は、本当に驚いたんだよ。ああ、やっぱりコウキを忘れるな。という啓示なんだな。そう思ったね。」
 「でも、俺は」
 「コウキ。俺は一度抱いたら、二度目は無い。だから、素直に抱かれるんだ」
 「だから、ヤリチンだと言われるんだ」
 「プレイボーイと言って欲しいな」


校内に居ては聞いていた人は、走りながら聞いていた。
 「ヤリチン…」
 「えっ、ヤリチンって、もしかして」
 「あの野郎…」


はっきりと、コウキの声が聞こえる。
 「でも、俺は嫌だ。好きでもない奴に抱かれようとは思わない」
 「言っておくが、逃げ道は無いぞ」
 「どうだろうね…」

コウキは、松岡に話を持ち掛けた。
 「ねえ、松岡先輩。賭けをしてみない?」
 「賭け?」
 「そうだよ」
コウキは、ある箇所に指で示した。
 「あそこのフェンスがあるでしょ。あの下には、広場がある。フェンスの向こうに立って、そこから下りようよ」
 「なにバカなことを…。死ぬぞ」
 「あのね、人間って簡単には死なないんだよ。怪我はするかもしれないけどね」
ほら、どいて。
と、コウキは痛む頭を抑えて、松岡を押しのけて立ち上がった。
頭がふらふらとする。
でも、ここは弱みを見せられない。

松岡先輩の手を引っ張ってフェンスまで来た。
先に、コウキはフェンスを越えて、広場の見える先端まで行った。
片手を、まだフェンスを越えてない松岡先輩に向かって差し出す。
 「ほら、一緒に」

その時、向こうから走ってくる人影が見えた。
 「先輩って、チキンなんですね。」
 「待ってろ。そっちへ行く。」
ムカついた声で言って、松岡先輩はフェンスを越えてきた。
つかつかと歩いてきた松岡先輩は、下をチラッと見ただけだ。
 「コウキ」
 「はい」
 「俺は生きていたい。生きてるからこそ、喜びや楽しみが味わえるんだ」
 「それなら、チキンのヤリチン。そう呼ばわれても良いという事ですね」
 「そう呼びたければ呼べ」

ニヤリと不気味な顔をしてきては、こう言ってきた。
 「だが、お前が生きて口がきけるなら、の話だっ」

そう言って、松岡はコウキを突き飛ばし蹴った。



声が聞こえた。
 「なにをっ」

 「弘毅っ!」



(頭が重い。痛い…)
先程の、コンクリートで頭を打った衝撃が、痺れが…、まだ続いてる。


あれが無かったら、弘毅は一人でも無事に下りられたであろう。


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