恋人は副会長

福山ともゑ

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(78)授業モードになる

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1時間ほど、副会長の温もりを感じていた。
すると、声が聞こえた。
 「今日は帰る。明日、むか」
 「自分で戻れます。大丈夫です。逃げませんから。」
副会長の言葉を遮って、自分の意思を伝えた。
そっかと言って、俺の頭をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
お休みなさい。
そう言うと、返事が返って来た。
 「おやすみ」という言葉と、優しいキスが。

そのキスで覚悟を決めた。
俺は逃げない。明日は、ユウに謝って、副会長と別れる。

副会長が持って来てくれた荷物には、俺の服が一式と、iPhoneと財布が入っている。
家に電話したいが、明日でも良い。
病院内を少し歩いてるとコンビニがあり中に入るとATMを見つけた。金を下ろし、ジュースを買って誰も居ないソファに座っては飲み始めた。
明日、ユウにちゃんと謝ろう。なんて言って謝ろう。
ぶつぶつと、一人で言っていた。

コウキは気付いていなかった。
着かず離れずの距離を保って、自分の側にいる存在に。
文雄は、コウキの呟きを耳にしていた。
さっき言ってた「逃げません」という言葉と、今呟いてる言葉。
それを聞きながら、文雄は思っていた。
(コウキは良い。問題はユウだな。あいつは今迄もそうだったから、今回も逃げるだろう。
テルとマサにも協力してもらうか。)

少し経つと、コウキは病室に戻った。
それを見届けた文雄は、家に帰った。


入院してから2泊後の13時前、コウキは退院した。
ほんとは11時前に退院する筈だったのだが、入院費を払って病院を出ようとした時に、刑事が来たから時間が遅くなったのだ。
病院を出てしばらく歩くと、理容店と和菓子屋が見えた。
コウキは、理容店に入ると小ざっぱりにしてもらい、和菓子屋で買うことにした。
店に入ると、ウサギとカメがいる。
あれ、もしかしてここって…。
 「いらっしゃいませ。何か、お探しですか?」
 「あ、はい。お勧めって、何ですか?」
俺はウサギとカメのセットを4人分と、先生の家に1つに、親の分と合わせて6箱を買った。
金は、それなりにした。
だけど、逃げないと決めたんだ。それを思えば、これぐらい安いもんだ。
てくてくと歩くこと数分もすると、自分の家が見えてきた。
こんな近くに、あの和菓子屋はあるんだ。
いやいや、先生の家が先だ。
中学を目指して歩き、北門までぐるっと回って、そこから真っ直ぐ歩く。

ユウ、ごめんね。
もっと考えれば良かった。許して貰えないだろうけど、謝りたい。
副会長にも分かってもらおう。
こんな自分と一緒だと迷惑掛けてしまうから、別れて下さい。と、はっきりと言うんだ。


えっとぉ、どこだっけ…?
でも、迷ったのは少しだけだった。自転車が置いてある。
そうだ、自転車も持って帰らないと。

門の前に立ち、深呼吸した。
いきなり、その門の勝手口が開いた。
 「どちら様?何か御用ですか?」
副会長の声は、イラついてるみたいだ。
でも、今の俺は違う。
そう、俺は授業モードに入ってるんだ。
副会長に言った。
 「ユウ君に話があって来ました。」
そう言うと、副会長は目を瞠り立ち尽くしてしまった。
お邪魔します。
そう言って、俺は開けて貰った勝手口から入り、開けっ放しになっている玄関ドアの中に入った。


ユウの部屋は2階だ。
でも、副会長は俺を止めてくる。しかも、セットしたヘアスタイルをわしゃわしゃとしてくれる。
俺は、その手を払ってセットし直した。
その繰り返しを2度、3度とする羽目になり、とうとう俺は副会長の足を踏ん付けた。
 「ってぇ…」
邪魔するなっ!と、目で睨んでやる。

リビングでは、宮田と高田先輩が座ってる。
ヒュー!
高田先輩は口笛を吹いてくる。
 「ちょっと、ちょっとぉ…、誰、あのイケメン?」
フミオ?お前、何してるんだ…?
それにしても、コウキ遅いね。迷ってるのかな?ねえ、マサ?
 「マサ…、マサッ!」
 「いっ・・・」
 「何、じっと、あのイケメンを見つめてるんだよっ」
 「テ、テル、痛いっ!」
 「まあ、俺でさえもイケメンだと認めざるを得ないルックスだけどね」
しかし、イイ男だ・・・。
2階に上がって行ったぞ。


とんとんとん。
…返事がない。
もう一度、ノックする。

とんとんとん。
居るはずだ。


俺は授業モードのまま、そのドアに向かって言った。
 「ユウ君。今回の事で、君に話があるんだ。顔を見せて。」

ガチャ…と開き、ドンッ!と、ドアが俺の顔に突撃してきた。
 「あのね、ん…。なぜ避けないの?」
って、え…、君、誰?

階下から高田先輩の声が聞こえてくる。
 「ぷっ…。どんくせえイケメンだな。マサ、コウキを迎えに行こうよ。どうせ迷ってる筈だ。」
ほら行くよっ、と言いながら宮田を引っ張ってるみたいだ。

俺はユウを見ていた。
 「ごめんなさい。あんな事になってしまって…。もっと気を付けるべきだった。
だけど、ユウの気持ちもわかるよ。本当に、ごめんなさい。
今後は、このような事は、こんな嫌な気持ちにはさせない。
本当に、ごめんね。」
ユウは、俺の言葉を聞いていたのか疑わしい事を言ってくる。
 「あの、君、誰?で、何の事を言ってるのか、分からないんだけど?」
 「分かるはずだよ。目を逸らさないで。」


授業モードの俺は、真っ直ぐユウを見ていた。


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