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(53)ユウ&弘毅の母
しおりを挟むその男の子は、ハルカに良く似ている。
まるで、初めて会った頃のハルカにそっくりでビックリした。
その男の子が声を掛けてきた。
「あ、あの…、コウキのお母さんですよね?」
「え…」
お父ちゃんが、口を挟んできた。
「ユウ。お前知ってるのか?」
「中学の頃、週2の割合で、家に遊びに行ってたから。」
すると、その女性は驚きの表情から、納得顔になった。
「ああ…、あの可愛くて利発そうな子ね。」
「か、可愛くは無いです。」
その人は微笑んでる。
「高校生ともなると、大人びてくるのね。弘毅とは大違い…」
なんて返せばいいのか分からず、一言だけにした。
「あ、ありがとうございます。」
ハッと気が付き、俺は言った。
「あの、お茶を淹れてきます。クッキーを焼いたので、それも持ってきますね。」
そう言ってキッチンに向かった俺に、お父ちゃんの声が聞こえてくる。
「ユウ。俺は要らないから、2人分な。」
「はーい」と返事をして、2人分のお茶とクッキーを用意してリビングに持って来た。
「どうぞ。」
「ありがとう。」と言って、遠慮なくクッキーを口にするコウキの母親。
ん、美味しい、と呟きが聞こえてくる。
そう言ってくれると、俺も嬉しかった。
「では、そろそろ連れてきますね。」
と、お父ちゃんが声を掛けてきた。
コウキの母親は、どの様にしてるのか見たいと言って、地下にある文兄のスタジオに降りて行った。父親も一緒に。
地下には、ピアノだけでなくドラムもあり、ザウターも置かれていた。
「こちらにどうぞ」と、担任の声が誘ってくる。
入り口から入ると、音の洪水が耳に入ってくる。
ああ、気持ちよさそうな歌声。この声の持ち主は、歌うのが凄く好きなんだ、という感じを受ける。
このギターも。とても低音がしっかりと響いて、重厚感を醸し出してる。
『ロック魂』というのを感じる。
ドラムも、リズム感が安定しており、時々アドリブっぽい音を入れてるのが分かる。
どっしりと地に足を付けて、他の楽器の音を殺すことはしない。
電子ピアノは、他の楽器とは違い、音が飛んだりミスったりしている。不安定なのは弘毅が弾いてるのね。
そして、弘毅が副会長と呼んでた男の声が、弘毅に的確なアドバイスをしてる。
「ピアニスト交代」という言葉が聞こえてきた。
誰と交代したのだろうと思い、小窓から見てると、副会長と呼ばれてる男だ。
その人が出す音は、安定感がある。ロックやパンク系の音なのに、心地よい音だ。
そして、もう1曲。
「〆の、いくぜー!」という元気のいい声。
すかさず、別の声も聞こえてきた。
「コウキ。指は止めるなっ。ソロの所、リズムに乗ってればシンプルでも良いんだからなっ。」
「はいっ!」
「テル。本番のつもりで歌え。遠慮するなっ!」
「OK!」
「マサ。お前も遠慮するなっ!」
「OK!」
「シュータ。ラストまで気を抜くなっ。例の16拍、決めろっ!」
「うしっ!」
先ほどとは違い、ボーカルの声が凄く響いてくる。
なに、この子。高校生とは思えない、この声量に迫力。
この歌声だけでも、ゾクゾクしてくる。
ギターの音も、先ほどとは違う。ギターを変えたみたいだ。
ドラムは、本当に安定している。
バンドを組んで一番大事なのは、ドラムとベースの低音だ。
ベースの音は無いが、まるでベースの音も聞こえてきそうだ。
そして、ピアノ。
まだまだ不安定だけど、他の楽器がフォローしてくれてる感がある。
今までは、ずっとソロだったから精神的な面が出てるのだろう。
そして、各自のアドリブによるソロ演奏に、ソロのアドリブ歌。
そして、ラストのドラムだけの音。
決まったわね。
カッコいい。
ふと見ると、弘毅の母親の隣りで聴いてた男性二人は「オー!」と、小さくガッツしている。
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