俺の気持ちはブレない 第二部

福山ともゑ

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親子と言えども人間だ!

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そのボスの様子をユタカは庭から見ていた。
ド―ベルマン5匹はユタカの膝に頭を乗せて寝そべっている。
 「はい、お終い。降りろ、お前等…」
仕方なく頭をずらして地面に寝そべる5匹は、まるで小さい子供の様だ。

すると、病棟から桑田が出てきたのでユタカは声を掛けていた。
 「どうした?誰かの見舞いか?」
ギクッと身体を捩った桑田は声がした方を振り返ると銀髪が目に映る。
 「うわっ・・、酒臭ぇ…」
 「昨夜、呑んだからな」
 「酔っぱらい君、病棟から出てきたよな?」

まだ酒が残ってるのだろう、ヒックとしゃくり乍ら桑田は愚痴にも取れる事を話しだした。
 「それを、あいつに言ったのか?」
 「言いたかったが、言わせて貰えなかった」
 「なら良い。あいつには言うな」
 「なんでだっ?あいつは親としての気持ちは分かってないっ!」
 「大声で怒鳴るなっ」
 「お前にも、私の気持ちは分からないっ」
 「ああ、分からないね。私は親になった事は無いからな。でも見守る側の気持ちなら分かるぞ」

すると、愚痴とも取れる事を桑田は言っていた。
酒の力が無いと言えない事を。
 「泳ぐ事しかしてこなかった…。それを、それをドクターストップ掛けられて…」
 「一番苦しいのは本人だ。違うか?」
 「あの子は、何も言わない…」
 「だけど、分かってくれる人が1人でも居ると気持ちの持ちようは違う」
 「分かってくれる人?」
 「ああ、それは親でなくても良い。友人だったり、同僚だったり、恋人だったり」
 「新田の子供か…」
 「誰なのかは分からない…。ただ本人が苦しんでいても、その苦しみは当人しか分からない。
見守る側としては辛いけど…」
 「その苦しみを言ってくれる事も無いんだぞっ」
 「それは言える人だと認識されてないからだろ」


その言葉に、桑田は目を逸らした。
ユタカは友明の事を思い乍ら桑田に話していた。
 「自分の受けた苦しみは、当人にしか分からない。だけど、当人が認めた相手には言うのではないか?苦しんでるのを知っていても、手を差し伸べたくても拒否される。
それは自分が全てを曝け出しても良いと認識されてないからだ。でも、認識している相手なら、そいつに対して泣いたり甘えたりするだろう。
だから一喜一憂してしまう。
自分の事をどう思ってるのか、それを知りたい。だけど、知るのが怖い。
お前もそうなのではないか?
薄っぺらな関係は直ぐ剥がれる。
親子と言えども、お互いに認識が低かったり、親だと…、子供だと、そういう目で見てきてないと信頼も何も無い。ただ、何かあると金を出して、金でカタを付ける。
そういうのは親子では無いと思う。
私は……、私は、そう思ってる。親子と言えども人間だっ」

ユタカの表情が険しくなってるのに気が付いた桑田は、何を言えば良いのか困ってる。
そんな桑田に、ユタカは続けて言う。
 「もし気になるのなら、覚悟を決めて当人に聞くんだな…」


私は怖くて聞く勇気も無い。
友…。
お前は、私をどう思ってる?




深夜。
 「うっ…、ふ……」

はっと目が覚め起きてしまう。
原因は分かってる、昼間のあれだ。
はあ…、と溜息を吐いて友明はベッドから出る。
魘されるよりは、外に出る方が良い。

 「寒い…」
まあ、今は冬だからな。
外に出てみると、仲間はいるみたいだ。
パジャマの上に防寒着を着た人間が一人、空を見上げている。
近くに寄ると、あちらも気が付いたのだろう、振り向いてくる。
 「あ、クリニック・ボスも眠れないんですか?」

この声は、もぐら君の子供か。
 「こんな時間に何をしてるの?」
 「観光出来ないので、せめてものオーストラリアの空気を感じてるんです」
 「お父さんは?」
 「酔っぱらいはベッドの中です」
友明は気になってた事を聞いた。
 「君はドクターストップを貰っても驚かないんだな」
 「日本で貰いましたから。あの時は本当に驚きました」
 「もう、一生スポーツは出来ないんだよ?」
 「でも、いつかは出来るでしょう?」
 「えらく軽い言葉だね…」
 「俺は、あと1回オリンピックに出場したら、育成に専念するつもりだったんです。
お店をやり乍ら…、でも、約束の、その1回が無理そうだ…」
 「泣きたい時は泣けば良い」
そう言ったら、その子は友明に抱き付いてきた。
 「俺、約束したの。高瀬に、あんたを超えてやる、と。
クリスにも言ったんだ。4回制覇してやるって……」

暫らくの間泣かせてたら、身体が離れていく。
 「良い身体してますね」
 「ありがとう」
 「何がしてるのですか?」
 「大学卒業までだけどね」
 「何をされてたんですか?」
 「合気道と少林寺」
 「凄い…」


昼間、この子が言っていた「自分に素直に生きる」という言葉は、友明にとって耳の痛い言葉で逃げる様に部屋を出て行ったのだけど、今なら言えるかもしれない。



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