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ストーカー女のストーカー
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それから一年が経ち、僕は二年に先輩たちは三年生になった。
そして新たな一年生たちが入学してきて、勧誘活動は怖そうな先輩のおかげで大変だったが、男子二人の新入生が剣道部に入部してくれた。
綺麗な先輩はそのことにとても喜んでいて、彼女の笑っている姿を見て、僕も勧誘活動には力を入れて本当に良かったと、その時だけは思った。
新入部員が入ってきて、前年の僕の時と同じように綺麗な先輩は彼らに構うようになり、僕からは離れるようになった。
僕は黙々と竹刀を振り続け練習に勤しんでいると、目の端では綺麗な先輩が一年生たちに竹刀の握りや振り方などを指導しているのが、チラチラと見える。
僕はその光景がとても疎ましくとても妬ましかった。
練習に集中することができず、先輩たちには飲み物を買ってくると言って、僕は一人部室にいた。
イライラする。今の僕の心境はこれだけだった。
綺麗な先輩が一年生たちに構うのは、剣道好きになってもらいたいという理由なのは分かっているのだが、我慢できない。
前まではあの一年生たちの立ち位置は自分だったのに。あの一年生たちが入部して来なければ、今もあそこに立っているのは自分なのに。
だが一年生たちが剣道部に一人も入部して来なければ、綺麗な先輩はあんな笑顔を見せてくれなかっただろう。また一人公園か何処かで?悲しい顔をしてしまうだろう。
それはダメだ。綺麗な先輩を悲しませることだけはしたくない。
そんなジレンマに頭を悩ませていると、パサッと何かが落ちる音が耳に入った。音のした方をみると?先程までなかったピンク色のタオルが、床に落ちている。
僕はそのタオルを拾って広げると、端の方に刺繍で名前が書かれている。そのピンクのタオルは、見覚えどおり綺麗な先輩のものだった。
僕が一年生の時にも使っていたこのタオルは、綺麗な先輩のお気に入りで、あの試合の日もこれを使っていた。
僕はそのタオルをジッと見て、あることを考えていた。
綺麗な先輩のお気に入りのタオル、綺麗な先輩の汗を拭ってきたタオル、綺麗な先輩の匂いが染み付いたタオル、綺麗な先輩の肌を触れ続けたタオル、綺麗な先輩の唇に触れたタオル、綺麗な先輩の側にあったタオル、綺麗な先輩が好きなタオル、ーー綺麗な先輩の癒しの塊。
僕は無意識にそのタオルにそっと顔を埋めたーー。
「あっれー、メガネくん。こんなところでサボりかな?」
部室のドアが開いた音がして、すぐにその声を聞き、綺麗な先輩が入ってきたのだと、僕は見なくても分かった。
「違いますよ。母親からメールが来てたので、返信してただけですよ」
「ふーん、まっ、そういうことにしといてあげる」
「信じてくれないんですね、いいですけど。先輩こそどうしたんですか? 一年生の世話を焼かなくていいんですか?」
「今は小休憩中だよ。それより私のタオル見てない。ピンク色で私の名前が刺繍されてるの?」
「先輩がいつも使ってるやつですね。僕は見てないですよ」
「あれれ、何処やったのかな?」
「教室にでも忘れたんじゃないんですか、それか持ってくるのを忘れたのか」
「うーん、朝にしっかりと鞄に入れたのは、覚えてるんだけどな。じゃあ、ちょっと教室まで行ってくるから、みんなには言っといてメガネくん」
綺麗な先輩はそう言って部室を出て行った。
僕は綺麗な先輩が出て行ったことに、安堵し息を吐く。胸に手を添えると心臓がドクンドクンと激しく脈打っている。
僕は鞄のチャックを開くと、その中にはピンク色のタオルが入っていた。
その時から僕はたがが外れたかのように、綺麗な先輩に執着するようになった。
部活で綺麗な先輩の癒しを得ることができないのであれば、他のものから癒しを得ればいいと気づきはじめた僕は、先輩が所持しているハンカチに髪どめ、シャーペンや消しゴムにキーホルダーやアクセサリーにまで手を付けた。
たまに綺麗な先輩が怪しむことがあったけど、なんとか気付かれずにやっていた。モチベーションを保つために仕方のないことだと自分に言い聞かせて……。
また綺麗な先輩が安心して学校に登下校できるよう、僕は後ろからこっそりと見守ることにした。学校には綺麗な先輩のファンは少なからずいるけど、学校では怖そうな先輩がいて近づく人はほとんどいない。
だが、登下校の時は違う。その時は綺麗な先輩も一人になるため、その時を狙ってくる不敬な奴らがいるかもしれない。そんな奴らから僕は綺麗な先輩を守るために、行動した。
彼女は僕のものだ。
綺麗な先輩も僕の気持ちに気付いてくれている、綺麗な先輩も僕を気に入ってくれている、綺麗な先輩も僕を一人の男として見てくれている、綺麗な先輩も僕を許容してくれている、綺麗な先輩も僕のことを好きでいてくれている。
いつしか僕はこんな考えを持ち始め、綺麗な先輩を見ることが多くなった。
この勘違いに僕が気付いたのは、綺麗な先輩が学校を去る卒業式の日だった。
綺麗な先輩たちの卒業式が終わって、僕が先輩を探していると、その場面に遭遇した。
その場面とは、綺麗な先輩があの怖そうな先輩に告白しているものだった。
そして怖そうな先輩の答えは、綺麗な先輩の意に沿った。
僕はそれを見て自分の勘違いに気付いた、気付かされてしまった。
綺麗な先輩は僕のことを好きではなかった。
綺麗な先輩は僕のものではなかったのだ。
そして新たな一年生たちが入学してきて、勧誘活動は怖そうな先輩のおかげで大変だったが、男子二人の新入生が剣道部に入部してくれた。
綺麗な先輩はそのことにとても喜んでいて、彼女の笑っている姿を見て、僕も勧誘活動には力を入れて本当に良かったと、その時だけは思った。
新入部員が入ってきて、前年の僕の時と同じように綺麗な先輩は彼らに構うようになり、僕からは離れるようになった。
僕は黙々と竹刀を振り続け練習に勤しんでいると、目の端では綺麗な先輩が一年生たちに竹刀の握りや振り方などを指導しているのが、チラチラと見える。
僕はその光景がとても疎ましくとても妬ましかった。
練習に集中することができず、先輩たちには飲み物を買ってくると言って、僕は一人部室にいた。
イライラする。今の僕の心境はこれだけだった。
綺麗な先輩が一年生たちに構うのは、剣道好きになってもらいたいという理由なのは分かっているのだが、我慢できない。
前まではあの一年生たちの立ち位置は自分だったのに。あの一年生たちが入部して来なければ、今もあそこに立っているのは自分なのに。
だが一年生たちが剣道部に一人も入部して来なければ、綺麗な先輩はあんな笑顔を見せてくれなかっただろう。また一人公園か何処かで?悲しい顔をしてしまうだろう。
それはダメだ。綺麗な先輩を悲しませることだけはしたくない。
そんなジレンマに頭を悩ませていると、パサッと何かが落ちる音が耳に入った。音のした方をみると?先程までなかったピンク色のタオルが、床に落ちている。
僕はそのタオルを拾って広げると、端の方に刺繍で名前が書かれている。そのピンクのタオルは、見覚えどおり綺麗な先輩のものだった。
僕が一年生の時にも使っていたこのタオルは、綺麗な先輩のお気に入りで、あの試合の日もこれを使っていた。
僕はそのタオルをジッと見て、あることを考えていた。
綺麗な先輩のお気に入りのタオル、綺麗な先輩の汗を拭ってきたタオル、綺麗な先輩の匂いが染み付いたタオル、綺麗な先輩の肌を触れ続けたタオル、綺麗な先輩の唇に触れたタオル、綺麗な先輩の側にあったタオル、綺麗な先輩が好きなタオル、ーー綺麗な先輩の癒しの塊。
僕は無意識にそのタオルにそっと顔を埋めたーー。
「あっれー、メガネくん。こんなところでサボりかな?」
部室のドアが開いた音がして、すぐにその声を聞き、綺麗な先輩が入ってきたのだと、僕は見なくても分かった。
「違いますよ。母親からメールが来てたので、返信してただけですよ」
「ふーん、まっ、そういうことにしといてあげる」
「信じてくれないんですね、いいですけど。先輩こそどうしたんですか? 一年生の世話を焼かなくていいんですか?」
「今は小休憩中だよ。それより私のタオル見てない。ピンク色で私の名前が刺繍されてるの?」
「先輩がいつも使ってるやつですね。僕は見てないですよ」
「あれれ、何処やったのかな?」
「教室にでも忘れたんじゃないんですか、それか持ってくるのを忘れたのか」
「うーん、朝にしっかりと鞄に入れたのは、覚えてるんだけどな。じゃあ、ちょっと教室まで行ってくるから、みんなには言っといてメガネくん」
綺麗な先輩はそう言って部室を出て行った。
僕は綺麗な先輩が出て行ったことに、安堵し息を吐く。胸に手を添えると心臓がドクンドクンと激しく脈打っている。
僕は鞄のチャックを開くと、その中にはピンク色のタオルが入っていた。
その時から僕はたがが外れたかのように、綺麗な先輩に執着するようになった。
部活で綺麗な先輩の癒しを得ることができないのであれば、他のものから癒しを得ればいいと気づきはじめた僕は、先輩が所持しているハンカチに髪どめ、シャーペンや消しゴムにキーホルダーやアクセサリーにまで手を付けた。
たまに綺麗な先輩が怪しむことがあったけど、なんとか気付かれずにやっていた。モチベーションを保つために仕方のないことだと自分に言い聞かせて……。
また綺麗な先輩が安心して学校に登下校できるよう、僕は後ろからこっそりと見守ることにした。学校には綺麗な先輩のファンは少なからずいるけど、学校では怖そうな先輩がいて近づく人はほとんどいない。
だが、登下校の時は違う。その時は綺麗な先輩も一人になるため、その時を狙ってくる不敬な奴らがいるかもしれない。そんな奴らから僕は綺麗な先輩を守るために、行動した。
彼女は僕のものだ。
綺麗な先輩も僕の気持ちに気付いてくれている、綺麗な先輩も僕を気に入ってくれている、綺麗な先輩も僕を一人の男として見てくれている、綺麗な先輩も僕を許容してくれている、綺麗な先輩も僕のことを好きでいてくれている。
いつしか僕はこんな考えを持ち始め、綺麗な先輩を見ることが多くなった。
この勘違いに僕が気付いたのは、綺麗な先輩が学校を去る卒業式の日だった。
綺麗な先輩たちの卒業式が終わって、僕が先輩を探していると、その場面に遭遇した。
その場面とは、綺麗な先輩があの怖そうな先輩に告白しているものだった。
そして怖そうな先輩の答えは、綺麗な先輩の意に沿った。
僕はそれを見て自分の勘違いに気付いた、気付かされてしまった。
綺麗な先輩は僕のことを好きではなかった。
綺麗な先輩は僕のものではなかったのだ。
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