××男と異常女共

シイタ

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××男の一日

1-1

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「おにいさーん」

 呼んでる。
 
「おにいさーん」

 すぐそこから声がする。

「おにいさーん」

 ……うるさい。

「おにいさーん」

 …………。

「おにい――」

「うるさい」

 閉じていた目を開くと、目の前に小学生くらいでショートヘアの子供ガキ、ユウノが俺のことを見ていた。

「やっと起きた」

「……」

「ん?……ふぎゃ!」

 俺は無言で寝ていた身体を起こし、おもむろに目の前の鼻をつまみいじる。

「うるさいんだよ、いつもいつも。起こさなくてもいいって言ってんだろ」

「いいじゃんべつに~」

 俺が鼻をつまんでいるせいで、文字通り鼻がつまった声を出すユウノ。
 するとユウノの鼻が俺の指から離れていく。
 俺はユウノの鼻を放してもいなければ、力を弱めてもいない。
 まるでそこにあったものが、触れていたものが、途端に空気にでもなったかのような感覚。

「おにいさんの為にしたことなのに、感謝されるはずが何で怒られる?」

「ありがた迷惑って言葉を学べ」

「なにそれおいしいの?」

 とぼけた顔をしているユウノにイラっとした俺は、ユウノの顔めがけて枕を投げつける。
 しかし、投げた枕がユウノの顔に当たるはずが、そのまま彼女の顔をすき抜けて後ろの壁に衝突した。
 なにも知らない奴が見たら、仰天ものだろうという光景に、俺は動じない。
 そうなることを分かっていたし、そうなる理由も分かっている。
 だってこいつは、幽霊なのだから。

 ユウノは俺が住むアパートの二〇一号室の元住人であり、何年か前にこの部屋で殺された女の子だ。
 誰に殺されたか分からない、何故殺されたのか分からない、何故幽霊になっているのか分からない。
 分からないことだらけの『幽霊女』。
 そんな本人は何が面白かったのか、「はずれー」と言ってキャッキャっと笑っている。
 
 意味がわからない。

 俺はユウノを無視して、学校に行くための身支度を始めた。
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