××男と異常女共

シイタ

文字の大きさ
110 / 111
Ignorance is bliss.

6-21

しおりを挟む
〇何がしたい?〇 sight : キリヤ

 夜の帳が下りた町。
 民家が建ち並び、街灯で照らされた夜道を俺と姶良は二人並んで歩いていた。
 夜道に俺達以外の人影は見当たらず、寂しく不気味な雰囲気が漂っている。
 何故俺と姶良がこんな夜中に二人で歩いているのかというと、ミイラ女こと木乃伊みいら未来みらいからバイトのメールが届いたからだ。
 メールが届いたのは、姶良をゲーセンに連れて行った次の日。日付に時間そして場所の位置情報が送られてきた。
 いつもと変わらない文面――と思いきや、少しだけいつもと違うところが最後にあった。
 
『女の子が泣いてたら、あなたはどうするのかな?』

 そんないきなりの問いに、俺は口に出して「は?」と言ってしまった。
 何故こんなことを訊くのかと疑問に思いながら、メールの返信には『知るか』と適当に送っておいた。
 その後の返信はなく、バイトの日を迎え今に至る。
 何故あんなことを問いてきたのか。未来の考えていることはよく分からないが、どうせ今日も帰りの車の中にいるだろうからそこで聞いてみようと思ってる。
 とりあえずは、さっさと面倒な仕事を終わらせるだけだ。今回はどんなゴミが放り出されているのやら。
 
 チラリと隣を歩く姶良に目を向けてみれば、彼女はキャスター付きの大きなゴミ箱を運んでいる。
 俺は手ぶらで何も持たず歩いているが、別にゴミ箱を運ぶのが面倒で姶良に運ばせているという訳じゃない。自分が運ぶと姶良が言うから、運ばせているのだ。……他意はない。
 ゲーセンに連れて行った日から、変わらず機嫌の良さそうな姶良。――いや、少しだけあの日よりも変わったと言えるところがある。それは、機嫌の良さが増しているというところだ。
 具体的に言えば、姶良とゲーセンで別れた時から、彼女の機嫌の良さが増しているところが伺えた。理由は多分、あの日のゲーセンで言った俺の言葉が効いているのだと思う。

 ……慣れないことをしたものである。その甲斐あって、情緒不安定な姶良を落ち着かせることができたんだが。

 慣れない行動も結果的には良かったと言える。しかし、不安があった。
 俺は姶良が人間になれると信じているが、もしも彼女が人間になれなかったらどうなるか、という不安だ。
 期待が大きければ大きいほど、その分絶望も大きくなる。やっと人間になれると期待に溢れている今の姶良が、その期待を裏切られて人間になれなかったら、彼女は生きるのを諦めてしまうのではないだろうか。
 元から姶良は人間になれるかもと期待していたが、その期待を元以上に膨らませたのは間違いなく俺だ。
 もしも姶良が人間になれなかったことに絶望し、生きるのを諦めてしまったら、責任の一端は俺にもあるのかもしれない。
 多分大丈夫だとは思うが、念の為、不安は取り除いて置きたい。

「なぁ、姶良。お前が話してた小学校の先生って、名前は何て言うんだ?」

「……佐江見さえみ先生」

「下の名は?」

「…… 栞 しお

「佐江見栞先生か。……聞いて置いてなんだが、よく覚えてるな。小学校の先生の名前なんて」

「……先生の名前だけは、覚えてた」

「ふーん。ちなみに何処小(学校)だったんだ?」

「……◯◯小学校。……なんでそんなこと訊くの?」

「会話を求めてだよ。無言で歩き続けるのも飽きてきたし」

「……そう。……キリヤは何処の小学校だったの?」

「××小学校。知ってるか?」

「……知らない」

「だろうな」

 一般の常識さえ把握しているのか怪しい姶良だ。他校のことなんて知らなくて当然だろう。
 まあ、俺も◯◯小学校なんて知らないんだけど。

「そういえば、お前人間になったらゴミ拾いとかどうすんだ?」

「……?」

「今まで人間になるためにゴミを拾ってきたんだろ。だったら、人間になったらゴミを拾う理由もなくなる。こんな夜中のバイトもしなくてよくなるんじゃない……か……」

 自分で言ってて、大事なことに気付く。それは、姶良がこのバイトを辞めてしまったら、必然的に俺も辞めざるを得ないということだ。
 このバイトで俺がしていることは、言ってしまえばほとんどない。強いて言うなら、姶良の付き添いをしているぐらい――というか、彼女に付き添うことこそが、このバイトでの俺の仕事みたいなもんだ。

「…………!」

 前方から誰かが歩いてきた。
 さっきまではなかった緊張感のようなものが、広がっていく。
 こんな夜中に一人で出歩くなんて不用心な男だ。自分達のことを棚に上げて、そんなこと思う。
 俺達から見て通路の左側を通り過ぎていく長髪の男は、チラリとこちらに視線を向けてきた。おそらく、夜中遅くに高校生二人が歩いているのが珍しいのか、危なっかしいとでも思っているのであろう。
 目は合わせないよう、注意は向けつつ無視である。

 そんなことがあった中、姶良はいつも通りだ。夜道で通行人に出くわしたとしても、特に気にすることなく歩いている。
 少しは警戒心やらを出して欲しいのだが、それを言っても姶良の場合、何故警戒する必要があるのか? と疑問が出てくるだけだろう。
 さっきも言った通り、姶良は一般常識というものが欠けている。そのためか、彼女の出す答えは一般的な答えよりもズレることがある。
 その例が、今行なっているバイトの認識だ。姶良はこのバイトを普通だと思ってしまっている。
 一番初めに会った時だって、警察に見つかりそうだったというのに、何故隠れるのかと聞いてしまうぐらだ。つまり、このバイトの危なさヤバさを姶良は理解できていないのである。
 だから、そこら辺のことをカバーするために未来は俺を呼んだという。
 だが、姶良がバイトを辞めるというのならそれも必要なくなる。このバイトに俺は必要なくなるということだ。

 それは困るが、仕方ないか。そうなったら、他のバイトを探すとしよう。

 そう考えていると、姶良が首を振って口を開いた。

「……辞めない。……人間になっても、ゴミ拾いはする」

「なんでだ?」

「……好き…だから」

「…………そうか」

 その答えを聞いて、安心する。どうやらこのヤバくて美味しいバイトは、まだ辞めなくて済みそうだ。

「姶良は、人間になったら何がしたい?」

「……ゴミ……。……………………………………」

 まるで反射的に出た言葉を飲み込むように、俯きになって黙る姶良。いつものように「ゴミ拾い」と言いそうになって口を閉じたのだろう。
 成長の瞬間だ。とうとう、ゴミ拾い以外の答えを姶良の口から聞けるかもしれない。

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 いささか、長い沈黙である。どれだけ黙考すれば答えが出るのであろう。
 長く考えるということは、やりたいことが見つからないのか、やりたいことがありすぎて答えに迷っているのかのどちらかだろう。
 できれば後者であって欲しい。そして早く答えを出して欲しい。そろそろ答えを出してくれなければ、目的地に着いてしまうから。

「…………ぇむ」

「ん?」

「……また、クレーンゲームがしたい」

「……」

「……あの子みたいに、一番を二つ持ちたい」

「……」

「……友達、作ってみたい」

「……なら、友達第一号に立候補しとくかな」

「……うん」

 そこで『会話を求めて』という名目で始まったお喋りは終わりを告げ、目的地へと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...