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Ignorance is bliss.
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◯ハロー××ちゃん◯ Sight : キリヤ
窓の外から入る朝の日差しが、六畳一間の部屋の中を明るくする。
部屋の中はテレビから流れるニュースの声で静かとは言えず、また騒がしいとも言えない。だが、どちらかといえば静かな方だろう。
静かな部屋に流れるテレビの音は、朝の目覚めにはちょうどいい感じである。
そんな部屋の中で俺はテレビを見ながら、朝食を済ませていた。朝食はバナナヨーグルトという飲料ゼリーだけ。朝起きてからそこまで腹が空かない俺は、いつもこれで朝飯を済ませている。
「そんなので栄養取れるの?」
折りたたみ式のテーブルに肘を付くユウノが、俺の飲む飲料ゼリーを見ながらそう聞いてくる。
「……取れてるだろ。バナナとヨーグルトだし」
「おにいさんは、朝にご飯とかパンとか、もしくはシリアルとか食べたいと思わないの?」
「別に。お前はどれだったんだ?」
「私は全部試したことあったよ。基本はご飯だったけど、時間がなかったらパンにしてたし、シリアルにもハマったし。でも、おにいさんみたいな朝ごはんはしたことなかったや」
「そもそも、お前が生きてた時ってこんな飲料ゼリーとかあったの?」
「……うーん、分かんない。私がお母さんと一緒にコンビニとかスーパーに行っても、だいたいお菓子コーナーしか見てなかったから」
「そうか」
まぁ、コンビニやスーパーで子供が目を引かれる売り物なんてそんなもんだろ。
俺は大して興味もなさげに、ユウノの答えを聞いて朝食を食べ終える。
すると、ガタガタンという物音が後ろの壁から聞こえてきた。
俺とユウノはそちらに顔を向ける。音がした壁の向こうは、二〇二号室の部屋がある場所。つまり『ゴミ女』の御五智姶良が住む部屋だ。
普段まったく物音がしないのに、朝からどうしたのだろうか。
疑問に思いつつ、俺は時間を確かめながら登校の準備をした。
「いってらしゃーい」
ユウノの見送りの言葉をいつものように流して聞き、俺は家のドアを閉めて鍵をかける。
確かめるように隣を見るがそこには誰も立っておらず、アパートの下も確認するがそこにも誰も見当たらない。いつもなら、先に姶良が待っているのだが珍しいこともあるもんだ。
今朝方聞こえてきた物音に関係があるのかなと考えて、俺はスマホをいじりながら姶良が部屋から出てくるの待ってみるが、一〇分ぐらいしても出てこない。
このまま時間が過ぎれば、学校まで走っていかなければならなくなる。それは御免被りたいところだ。疲れることはしたくない。
俺は姶良を置いていくかという決断をしようとしたところで、ドアが開く音がして二〇二号室の部屋から姶良が出てきた。
「……おはよう」
「……モーニング」
姶良がドアの鍵を閉めるのを見届けると、俺は先に階段を降りていき、後ろから姶良が階段を降りてくる音が聞こえてくる。
とりあえず、走って学校に行かずに済んだのは良かった。
一安心をつきながら、俺は姶良に遅かった理由を訊くことにする。
「珍しく遅かったけど、朝騒がしかったのと関係でも?」
「……そう」
「何かあったのか?」
「……あった。とても良いことがあった」
その声がいつもよりも僅かに弾んでいることに俺は気付き、姶良の顔を横から確認してみる。その顔には、近くから見なければ分からないほど僅かに口角が上がっていて、姶良の確かな嬉しさが滲み出ていた。
俺はそんな姶良を物珍しげに、しげしげと見る。
こんな嬉しそうな姶良を見るのは本当に久々だ。ましてや、彼女が笑顔を見せるのは本当に珍しい。今までに俺が彼女の笑った顔を見たのは、数えてみてもたった一度だけである。
あの時は、今日みたいな弾んだ声までは聞けなかった。感情の起伏がほとんどない姶良が声にまで嬉しさを出すということは、よっぽどの良いことが彼女に起こったのであろう。
「……あ!」
何かを見つけたような声を出した姶良が、駆け足でどこかに走って行く。
どうせ落ちていたゴミを見つけただけだろうが、ゴミを見つけて漏らしたその声は、いつもより少し大きい。
素早く軍手を両手に嵌め、右手にトング、左手にゴミ袋といつもの装備を身につけた姶良は、落ちていたゴミを拾いゴミ袋にいれる。
もう見慣れすぎた光景。誰がみても特にいつもと代わり映えのしないものだと思うだろう。
だけど、いま目の前でゴミを拾う姶良の姿が、いつもとは少し違っているということが俺には分かる。
そこら辺のにわかな奴らが見ても、気付きはしないだろう。何回、何十回、何百回とその光景を見た俺だから、いつもとは違う僅かな違いに気付く。
今日の姶良は、まるで鼻歌でも歌い出しそうなぐらい陽気だ。その姿から、彼女の機嫌の良さが容易に窺えた。
窓の外から入る朝の日差しが、六畳一間の部屋の中を明るくする。
部屋の中はテレビから流れるニュースの声で静かとは言えず、また騒がしいとも言えない。だが、どちらかといえば静かな方だろう。
静かな部屋に流れるテレビの音は、朝の目覚めにはちょうどいい感じである。
そんな部屋の中で俺はテレビを見ながら、朝食を済ませていた。朝食はバナナヨーグルトという飲料ゼリーだけ。朝起きてからそこまで腹が空かない俺は、いつもこれで朝飯を済ませている。
「そんなので栄養取れるの?」
折りたたみ式のテーブルに肘を付くユウノが、俺の飲む飲料ゼリーを見ながらそう聞いてくる。
「……取れてるだろ。バナナとヨーグルトだし」
「おにいさんは、朝にご飯とかパンとか、もしくはシリアルとか食べたいと思わないの?」
「別に。お前はどれだったんだ?」
「私は全部試したことあったよ。基本はご飯だったけど、時間がなかったらパンにしてたし、シリアルにもハマったし。でも、おにいさんみたいな朝ごはんはしたことなかったや」
「そもそも、お前が生きてた時ってこんな飲料ゼリーとかあったの?」
「……うーん、分かんない。私がお母さんと一緒にコンビニとかスーパーに行っても、だいたいお菓子コーナーしか見てなかったから」
「そうか」
まぁ、コンビニやスーパーで子供が目を引かれる売り物なんてそんなもんだろ。
俺は大して興味もなさげに、ユウノの答えを聞いて朝食を食べ終える。
すると、ガタガタンという物音が後ろの壁から聞こえてきた。
俺とユウノはそちらに顔を向ける。音がした壁の向こうは、二〇二号室の部屋がある場所。つまり『ゴミ女』の御五智姶良が住む部屋だ。
普段まったく物音がしないのに、朝からどうしたのだろうか。
疑問に思いつつ、俺は時間を確かめながら登校の準備をした。
「いってらしゃーい」
ユウノの見送りの言葉をいつものように流して聞き、俺は家のドアを閉めて鍵をかける。
確かめるように隣を見るがそこには誰も立っておらず、アパートの下も確認するがそこにも誰も見当たらない。いつもなら、先に姶良が待っているのだが珍しいこともあるもんだ。
今朝方聞こえてきた物音に関係があるのかなと考えて、俺はスマホをいじりながら姶良が部屋から出てくるの待ってみるが、一〇分ぐらいしても出てこない。
このまま時間が過ぎれば、学校まで走っていかなければならなくなる。それは御免被りたいところだ。疲れることはしたくない。
俺は姶良を置いていくかという決断をしようとしたところで、ドアが開く音がして二〇二号室の部屋から姶良が出てきた。
「……おはよう」
「……モーニング」
姶良がドアの鍵を閉めるのを見届けると、俺は先に階段を降りていき、後ろから姶良が階段を降りてくる音が聞こえてくる。
とりあえず、走って学校に行かずに済んだのは良かった。
一安心をつきながら、俺は姶良に遅かった理由を訊くことにする。
「珍しく遅かったけど、朝騒がしかったのと関係でも?」
「……そう」
「何かあったのか?」
「……あった。とても良いことがあった」
その声がいつもよりも僅かに弾んでいることに俺は気付き、姶良の顔を横から確認してみる。その顔には、近くから見なければ分からないほど僅かに口角が上がっていて、姶良の確かな嬉しさが滲み出ていた。
俺はそんな姶良を物珍しげに、しげしげと見る。
こんな嬉しそうな姶良を見るのは本当に久々だ。ましてや、彼女が笑顔を見せるのは本当に珍しい。今までに俺が彼女の笑った顔を見たのは、数えてみてもたった一度だけである。
あの時は、今日みたいな弾んだ声までは聞けなかった。感情の起伏がほとんどない姶良が声にまで嬉しさを出すということは、よっぽどの良いことが彼女に起こったのであろう。
「……あ!」
何かを見つけたような声を出した姶良が、駆け足でどこかに走って行く。
どうせ落ちていたゴミを見つけただけだろうが、ゴミを見つけて漏らしたその声は、いつもより少し大きい。
素早く軍手を両手に嵌め、右手にトング、左手にゴミ袋といつもの装備を身につけた姶良は、落ちていたゴミを拾いゴミ袋にいれる。
もう見慣れすぎた光景。誰がみても特にいつもと代わり映えのしないものだと思うだろう。
だけど、いま目の前でゴミを拾う姶良の姿が、いつもとは少し違っているということが俺には分かる。
そこら辺のにわかな奴らが見ても、気付きはしないだろう。何回、何十回、何百回とその光景を見た俺だから、いつもとは違う僅かな違いに気付く。
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