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幽霊女と駄菓子屋ばあちゃん
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◯やっぱり××が一番◯ Sight : ユウノ
私がばあちゃんと出会ったのは、おにいさんが家に来る少し前のことだった。
いつもより少し遠出をして外に遊びに言った時、私は一匹の犬を見つけた。別に一匹や二匹の犬ぐらい、道を歩いていれば普通に見つけることができる。例えば野良の犬だったり、飼い主に連れられたペットだったり。
でも、その犬は野良ではなかった。誰かのペットと分かるように、ちゃんと首輪を付けている。だけど、近くに飼い主が見当たらない。犬はポツンと一匹、公園の隅で座っていた。
私は気になってその犬に近づいて行くと、犬は大きく尻尾を振り出した。そして、犬も私のところへ近づいてきて、目の前でまた座った。
私は、触ってもいいのかな? と思って、おそるおそるといった感じに、手を犬の頭に持っていく。
昔の私なら飛びついてでも触りに行ってたけど、今はそれができない。昔と違って、私は犬を怖がるようになったから。
私は幽霊になってから、何故か犬に嫌われるようになった。少し近づいただけなのに、いきなりめちゃくちゃ吠えられるようになったのだ。
私はそれにビビるようになり、あまり犬に近づかないようにしていた。
でも、今回は違う。本当は少しでも吠えられる感じがしたら逃げようと思ってたけど、犬が自らこちらに近づいてきた。目の前まできても吠える様子はなく、尻尾振ってこちらを見ている。
私はその犬の頭をそぉっと触り、撫でた。犬は吠えず、逃げもしない。撫でられることが嬉しそうに、いっそう尻尾の振りを大きくする。
私も犬を撫でれたことに嬉しくなって、いっそう激しく撫でていく。それから少しの間、私は犬の頭や身体をわしわしと撫でたり、ぎゅっと抱きついたりした。こんなに犬を触れたのは、今までで初めてのことだ。
すると、その犬が一回「わん!」と鳴き、私は触りすぎたと思って手を離した。
私が離れると、犬はトテトテと何処かへ歩きだす。その姿を見て、釣られるように私も犬の後ろを歩いていく。
公園を出て着いた場所は、一つの小さなお店だった。開けられたお店のドアをくぐって犬が中に入って行き、私はこっそり中の様子を確かめる。
中にはたくさんの種類のお菓子が並び置かれていた。お菓子に興味を引かれた私は、半分無意識にお店の中に足を運んだ。
「いらっしゃい」
「え?」
声がした方を見ると、店の奥におばあちゃんが座っていた。その隣にはさっきの犬が横たわっていて、おばあちゃんはその犬を撫でている。
「初めて見る子だねぇ。ここら辺の子じゃなさそうだけど、そろそろ帰らないと親が心配するよ」
その言葉は私の耳には入らず。私は開けられたドアの前に立ち尽くしながら、おばあちゃんを見る。
「おや? なんだいあんた、幽霊なのかい。幽霊がうちの駄菓子屋に来るなんて、珍しいこともあるもんだ」
おばあちゃんの言葉に目を見開く。
「お名前はなんて言うんだい?」
「……ユウノ」
「ユウノちゃんって言うのかい、かわいい名前だねぇ」
私は自分の名前を褒められたことよりも、自分の名前を久々に聞いたことに心を動かされる。
「どうしたんだい? そんなところに立ってないでこっちにおいで。この年寄りに、ユウノちゃんのことを聞かせておくれ」
「……おばあちゃんは、私のことが見えるの?」
私は、さっきから気になっていたことを聞く。
聞かなくても、今までの会話から分かってはいた。聞く必要のない質問である。だけど、私はそのおばあちゃんの言葉から、ちゃんと聞きたかった。
「見えるさ、聞くこともできる。その姿も、その声も。見える人と会うのは、初めてかい?」
「……うん!!」
私は、私のことを見てくれる、私の言葉を聞いてくれる、そんな生きている時には当たり前であった人を目の前にして歓喜した。
その後、私はマーブル(おばあちゃんの犬)を挟んで座り、久々の人と人との会話を楽しんだ。
私が質問し、おばあちゃんが答え、おばあちゃんが質問し、私が答える。幽霊になった後のことを話して、おばあちゃんが相づちを打つ。おばあちゃんが今までに見てきた幽霊の話をして、「えー」とか「わぁー」とか、私が声を出す。
あんなにお喋りを楽しいと感じたのは、生きていても、死んでいても、初めてのことである。
その時に私は、ばあちゃんと、マーブルと、お友達になったのだ。
私の友達である、優しいばあちゃんと可愛いかったマーブルをあんな目に遭わせたやつは、……絶対に許さない。
泣き叫ぶばあちゃんを見て、動かないマーブルを見て、私はそう思った。あんなに怒りを感じたのは、初めてのことである。
私は、ばあちゃんを泣かせたやつを、マーブルを殺したやつを、見つけようとした。
でも、私は幽霊だから見つけようとしてもできることは限られる。だから、ばあちゃんと一緒になって、周りの人達にその日公園で何があったか知らないかを聞いていった。私は、横で聞いてるだけだったけど……。しかし、何かを知っている人は見つからず、マーブルがなんで死ぬことになったのかを知ることはできなかった。
ばあちゃんは探すのを諦めて、私に「もういいよ」と言ってきたけど、私は諦めない、……諦めたくない。
でも、どうすればいいか分からない。どうすれば、マーブルを殺したやつを見つけることができるのか、……分からない。
分からない末に私がおこなったのは、マーブルが死んだ公園にずっといることだった。マーブルを殺したやつが、公園に戻って来ると思って。
だけど、そいつがどんなやつなのか、どんな顔をしているのか、私は知らない。私は公園に来る人達の雰囲気などで、探るしかなかった。
数日が経ったが、マーブルを殺したと思われる人物は一向に現れない。
公園に来たのは、ほとんどが子供か、その子供の親だけ。その中には、ばあちゃんが話を聞いた人達もいた。
目の前の公園では、私と同じくらいの子供達が遊具や砂場で遊んでる。私はそれを公園の端のベンチに座って、ただ見ているだけ。誰も私を見ない、誰も私に話しかけない、誰も私に気付かない。
すると、誰かが私の隣に座った。
「……おにいさん」
隣に座ってきたのは、私と同じ部屋に住む八切キリヤだった。
私がばあちゃんと出会ったのは、おにいさんが家に来る少し前のことだった。
いつもより少し遠出をして外に遊びに言った時、私は一匹の犬を見つけた。別に一匹や二匹の犬ぐらい、道を歩いていれば普通に見つけることができる。例えば野良の犬だったり、飼い主に連れられたペットだったり。
でも、その犬は野良ではなかった。誰かのペットと分かるように、ちゃんと首輪を付けている。だけど、近くに飼い主が見当たらない。犬はポツンと一匹、公園の隅で座っていた。
私は気になってその犬に近づいて行くと、犬は大きく尻尾を振り出した。そして、犬も私のところへ近づいてきて、目の前でまた座った。
私は、触ってもいいのかな? と思って、おそるおそるといった感じに、手を犬の頭に持っていく。
昔の私なら飛びついてでも触りに行ってたけど、今はそれができない。昔と違って、私は犬を怖がるようになったから。
私は幽霊になってから、何故か犬に嫌われるようになった。少し近づいただけなのに、いきなりめちゃくちゃ吠えられるようになったのだ。
私はそれにビビるようになり、あまり犬に近づかないようにしていた。
でも、今回は違う。本当は少しでも吠えられる感じがしたら逃げようと思ってたけど、犬が自らこちらに近づいてきた。目の前まできても吠える様子はなく、尻尾振ってこちらを見ている。
私はその犬の頭をそぉっと触り、撫でた。犬は吠えず、逃げもしない。撫でられることが嬉しそうに、いっそう尻尾の振りを大きくする。
私も犬を撫でれたことに嬉しくなって、いっそう激しく撫でていく。それから少しの間、私は犬の頭や身体をわしわしと撫でたり、ぎゅっと抱きついたりした。こんなに犬を触れたのは、今までで初めてのことだ。
すると、その犬が一回「わん!」と鳴き、私は触りすぎたと思って手を離した。
私が離れると、犬はトテトテと何処かへ歩きだす。その姿を見て、釣られるように私も犬の後ろを歩いていく。
公園を出て着いた場所は、一つの小さなお店だった。開けられたお店のドアをくぐって犬が中に入って行き、私はこっそり中の様子を確かめる。
中にはたくさんの種類のお菓子が並び置かれていた。お菓子に興味を引かれた私は、半分無意識にお店の中に足を運んだ。
「いらっしゃい」
「え?」
声がした方を見ると、店の奥におばあちゃんが座っていた。その隣にはさっきの犬が横たわっていて、おばあちゃんはその犬を撫でている。
「初めて見る子だねぇ。ここら辺の子じゃなさそうだけど、そろそろ帰らないと親が心配するよ」
その言葉は私の耳には入らず。私は開けられたドアの前に立ち尽くしながら、おばあちゃんを見る。
「おや? なんだいあんた、幽霊なのかい。幽霊がうちの駄菓子屋に来るなんて、珍しいこともあるもんだ」
おばあちゃんの言葉に目を見開く。
「お名前はなんて言うんだい?」
「……ユウノ」
「ユウノちゃんって言うのかい、かわいい名前だねぇ」
私は自分の名前を褒められたことよりも、自分の名前を久々に聞いたことに心を動かされる。
「どうしたんだい? そんなところに立ってないでこっちにおいで。この年寄りに、ユウノちゃんのことを聞かせておくれ」
「……おばあちゃんは、私のことが見えるの?」
私は、さっきから気になっていたことを聞く。
聞かなくても、今までの会話から分かってはいた。聞く必要のない質問である。だけど、私はそのおばあちゃんの言葉から、ちゃんと聞きたかった。
「見えるさ、聞くこともできる。その姿も、その声も。見える人と会うのは、初めてかい?」
「……うん!!」
私は、私のことを見てくれる、私の言葉を聞いてくれる、そんな生きている時には当たり前であった人を目の前にして歓喜した。
その後、私はマーブル(おばあちゃんの犬)を挟んで座り、久々の人と人との会話を楽しんだ。
私が質問し、おばあちゃんが答え、おばあちゃんが質問し、私が答える。幽霊になった後のことを話して、おばあちゃんが相づちを打つ。おばあちゃんが今までに見てきた幽霊の話をして、「えー」とか「わぁー」とか、私が声を出す。
あんなにお喋りを楽しいと感じたのは、生きていても、死んでいても、初めてのことである。
その時に私は、ばあちゃんと、マーブルと、お友達になったのだ。
私の友達である、優しいばあちゃんと可愛いかったマーブルをあんな目に遭わせたやつは、……絶対に許さない。
泣き叫ぶばあちゃんを見て、動かないマーブルを見て、私はそう思った。あんなに怒りを感じたのは、初めてのことである。
私は、ばあちゃんを泣かせたやつを、マーブルを殺したやつを、見つけようとした。
でも、私は幽霊だから見つけようとしてもできることは限られる。だから、ばあちゃんと一緒になって、周りの人達にその日公園で何があったか知らないかを聞いていった。私は、横で聞いてるだけだったけど……。しかし、何かを知っている人は見つからず、マーブルがなんで死ぬことになったのかを知ることはできなかった。
ばあちゃんは探すのを諦めて、私に「もういいよ」と言ってきたけど、私は諦めない、……諦めたくない。
でも、どうすればいいか分からない。どうすれば、マーブルを殺したやつを見つけることができるのか、……分からない。
分からない末に私がおこなったのは、マーブルが死んだ公園にずっといることだった。マーブルを殺したやつが、公園に戻って来ると思って。
だけど、そいつがどんなやつなのか、どんな顔をしているのか、私は知らない。私は公園に来る人達の雰囲気などで、探るしかなかった。
数日が経ったが、マーブルを殺したと思われる人物は一向に現れない。
公園に来たのは、ほとんどが子供か、その子供の親だけ。その中には、ばあちゃんが話を聞いた人達もいた。
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すると、誰かが私の隣に座った。
「……おにいさん」
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