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幽霊女と駄菓子屋ばあちゃん
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約束通り入口の前で待っていたユウノを連れて、俺はゲーセンから外に出た。
さっさと家に帰ろう、そう思って帰路に足を向けようとしたところで、ユウノが何やら行きたいところがあるらしい。そこまで遅くならないからとも言われたので、俺は軽く了承してそこに向かうことにした。
俺はユウノの後を追って歩くが、目的地は分かっていない。着いてからのお楽しみにと言われて、教えてもらえなかったのだ。
「まだかー」
「もう少しー」
そう言って駆け足になるユウノを見て、嘘ではないだろうと判断する。
実際、ユウノの目的地はその後すぐに着いた。
「……駄菓子屋か」
着いた場所にあったのは、子供達のたまり場とも言える、むかし懐かしの店だった。
駄菓子屋という名前の看板が置かれているわけではないが、開きっぱなしのドアから見える店内の大量のお菓子から、そこが駄菓子屋であるとすぐに分かる。
綺麗とは言えない店の状態を見るに、かなり昔からあるのだろう。今のご時世でよくやっていけてるものだ、と思わず感心してしまう。
「こんちはー!」
ユウノが開けっぱなしになっているドアをくぐって中に入って行き、俺も釣られて中に入る。
店の中は広いとは言えず、だが狭すぎるとも言えない。ユウノのような子供にとってはちょうどいい広さなのかもしれないが、俺にとっては狭いと言えた。
うめい坊、スローンヨーグルト、蒲焼くん次郎、キャベツ次郎、スナックポテト、フライポテト、果もち、ベイビースター……。
陳列するお菓子を見ると、本当に様々なものがある。こういうのを駄菓子屋の常連だった奴が見ると、懐かしいと感じられるのかもしれないが、俺には全然そんな感情は湧いてこない。なぜなら、駄菓子屋に来るのが今日はじめてだったからだ。
「おひさー、ばあちゃん」
店の奥で座っている婆さんに、元気よく話しかけるユウノ。この婆さんが駄菓子屋の経営をしている人なのだろう。
「いらっしゃい。久しぶりだね、ユウノちゃん。今日は一人じゃないんだね」
「そうだよ。おにいさんと一緒にゲームセンターの帰りにね。最近来れてなかったから、ばあちゃんとマーブルに会いに来たの」
「そうなのかい。それは嬉しいねぇ、ありがとう」
ユウノの言葉に嬉しそうな顔をする婆さん。
「マーブルはまだ帰って来てないの?」
「そうだね。そろそろ帰ってくると思うんだけどねぇ」
ユウノが婆さんの隣に座って聞くと、婆さんはお店の中にある針時計を見て言った。
「じゃあ、私マーブルを迎えに行ってくる!」
「それじゃあ、お願いね。いつもの公園にいると思うから」
「わかったー」と言って、ユウノは駄菓子屋を出て行った。店の中に残される、俺と婆さん。
俺が婆さんの方を見ると、婆さんはユウノが座っていた隣をポンポンと軽く叩き、隣に座るよう促してきた。俺はそれに従い、そこに座る。
「婆さんはユウノが見えるんだな」
「私は昔から見えていたのさ。霊感が強くてね。あんたもそうじゃないのかい?」
「いんや、俺は霊感なんて持ってねぇよ。あいつ以外の幽霊なんて見たことも、感じたこともない」
「そうなのかい。変わったこともあるもんだね」
「本当にな。婆さんはあいつとは長いの?」
「そうだねぇ。……かれこれ一〇年ぐらいになるかね」
「……あいつ何歳だよ」
見た目では一〇歳ぐらいの子供にしか見えないユウノだが、もしかしなくても俺より年上なのかもしれない。
幽霊になっても、歳を数えるかどうか知らないけど。それにしても、ユウノは子供すぎるような気がする。
「見たまんまの子供だよ、あの子は。いくら幽霊になって歳を重ねても身体は成長せず、心は年相応のものだからね」
「……まぁ、そうだな」
俺は今までのユウノを思い出してみて、その言葉に納得を見せる。
これまでにユウノが、見た目は子供、頭脳は大人というどこぞの名探偵みたいに、急に大人びた感じを見せるなんてことは一度もなかった。ユウノがいつも見せるのは、見た目同様の子供らしさだけである。
「だからこそ、私は嬉しいよ。私みたいな老いぼれた人間ではなくて、あんたみたいな若い子があの子を見てくれることにね」
「ほとんど、偶然と仕方なくで一緒にいるだけだけどな」
「それでも構わないさ。人間は一人では生きていけないからねぇ。特にあの子のような子供は、誰かの支えなしでは幸せになれないからね。まして、あの子は幽霊だ」
なんとも深いことを言う婆さんだなと俺は思いつつ、「そういうもんかね」と言って置く。
「あんたは子供の頃どうだったんだい? 支えてくれる誰かがいなかったかい?」
「……」
俺の子供の頃の支え……。そんなものあったのだろうか、考えたこともない。
俺は子供の頃のことを、少し思い出して見る。
……静かな空間、……重い空気、……そこに響く、耳障りな雑音。
安らぎはなく、幸せもない世界。
そんな世界で、子供の俺を支えてくれたものは――
さっさと家に帰ろう、そう思って帰路に足を向けようとしたところで、ユウノが何やら行きたいところがあるらしい。そこまで遅くならないからとも言われたので、俺は軽く了承してそこに向かうことにした。
俺はユウノの後を追って歩くが、目的地は分かっていない。着いてからのお楽しみにと言われて、教えてもらえなかったのだ。
「まだかー」
「もう少しー」
そう言って駆け足になるユウノを見て、嘘ではないだろうと判断する。
実際、ユウノの目的地はその後すぐに着いた。
「……駄菓子屋か」
着いた場所にあったのは、子供達のたまり場とも言える、むかし懐かしの店だった。
駄菓子屋という名前の看板が置かれているわけではないが、開きっぱなしのドアから見える店内の大量のお菓子から、そこが駄菓子屋であるとすぐに分かる。
綺麗とは言えない店の状態を見るに、かなり昔からあるのだろう。今のご時世でよくやっていけてるものだ、と思わず感心してしまう。
「こんちはー!」
ユウノが開けっぱなしになっているドアをくぐって中に入って行き、俺も釣られて中に入る。
店の中は広いとは言えず、だが狭すぎるとも言えない。ユウノのような子供にとってはちょうどいい広さなのかもしれないが、俺にとっては狭いと言えた。
うめい坊、スローンヨーグルト、蒲焼くん次郎、キャベツ次郎、スナックポテト、フライポテト、果もち、ベイビースター……。
陳列するお菓子を見ると、本当に様々なものがある。こういうのを駄菓子屋の常連だった奴が見ると、懐かしいと感じられるのかもしれないが、俺には全然そんな感情は湧いてこない。なぜなら、駄菓子屋に来るのが今日はじめてだったからだ。
「おひさー、ばあちゃん」
店の奥で座っている婆さんに、元気よく話しかけるユウノ。この婆さんが駄菓子屋の経営をしている人なのだろう。
「いらっしゃい。久しぶりだね、ユウノちゃん。今日は一人じゃないんだね」
「そうだよ。おにいさんと一緒にゲームセンターの帰りにね。最近来れてなかったから、ばあちゃんとマーブルに会いに来たの」
「そうなのかい。それは嬉しいねぇ、ありがとう」
ユウノの言葉に嬉しそうな顔をする婆さん。
「マーブルはまだ帰って来てないの?」
「そうだね。そろそろ帰ってくると思うんだけどねぇ」
ユウノが婆さんの隣に座って聞くと、婆さんはお店の中にある針時計を見て言った。
「じゃあ、私マーブルを迎えに行ってくる!」
「それじゃあ、お願いね。いつもの公園にいると思うから」
「わかったー」と言って、ユウノは駄菓子屋を出て行った。店の中に残される、俺と婆さん。
俺が婆さんの方を見ると、婆さんはユウノが座っていた隣をポンポンと軽く叩き、隣に座るよう促してきた。俺はそれに従い、そこに座る。
「婆さんはユウノが見えるんだな」
「私は昔から見えていたのさ。霊感が強くてね。あんたもそうじゃないのかい?」
「いんや、俺は霊感なんて持ってねぇよ。あいつ以外の幽霊なんて見たことも、感じたこともない」
「そうなのかい。変わったこともあるもんだね」
「本当にな。婆さんはあいつとは長いの?」
「そうだねぇ。……かれこれ一〇年ぐらいになるかね」
「……あいつ何歳だよ」
見た目では一〇歳ぐらいの子供にしか見えないユウノだが、もしかしなくても俺より年上なのかもしれない。
幽霊になっても、歳を数えるかどうか知らないけど。それにしても、ユウノは子供すぎるような気がする。
「見たまんまの子供だよ、あの子は。いくら幽霊になって歳を重ねても身体は成長せず、心は年相応のものだからね」
「……まぁ、そうだな」
俺は今までのユウノを思い出してみて、その言葉に納得を見せる。
これまでにユウノが、見た目は子供、頭脳は大人というどこぞの名探偵みたいに、急に大人びた感じを見せるなんてことは一度もなかった。ユウノがいつも見せるのは、見た目同様の子供らしさだけである。
「だからこそ、私は嬉しいよ。私みたいな老いぼれた人間ではなくて、あんたみたいな若い子があの子を見てくれることにね」
「ほとんど、偶然と仕方なくで一緒にいるだけだけどな」
「それでも構わないさ。人間は一人では生きていけないからねぇ。特にあの子のような子供は、誰かの支えなしでは幸せになれないからね。まして、あの子は幽霊だ」
なんとも深いことを言う婆さんだなと俺は思いつつ、「そういうもんかね」と言って置く。
「あんたは子供の頃どうだったんだい? 支えてくれる誰かがいなかったかい?」
「……」
俺の子供の頃の支え……。そんなものあったのだろうか、考えたこともない。
俺は子供の頃のことを、少し思い出して見る。
……静かな空間、……重い空気、……そこに響く、耳障りな雑音。
安らぎはなく、幸せもない世界。
そんな世界で、子供の俺を支えてくれたものは――
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