××男と異常女共

シイタ

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幽霊女と駄菓子屋ばあちゃん

5-4

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 それから、一ヶ月が経った。

 私は変わらず、お母さんを家で待っていた。
 今日は帰ってこなくても、明日はきっと帰ってくる。私はそう自分に言い聞かせて、家でお母さんの帰りを待った。でも、いくら待っていてもお母さんは一向に帰ってくることはなく、そんな気配も全くなかった。

 学校には行かなくなった。
 途中まではちゃんと通っていたけれど。誰も知っている子がいない、自分のクラスがない、居場所がない。そんな学校は行ってもつまらないもので、行きたいと思えなくなった。
 学校に行かなくなった代わりに、私は外に出歩くことにした。初めは家のまわりと、学校のまわりの知っている場所だけで。
 他の子はみんな学校に行っているのに、私だけ外に出て違うことをしているという感覚は、後ろめたさもあったけど何か興奮させるものもあった。
 
 そうやって今までとは違う、悲しくもあり、つまらなくもあり、面白くもある、そんな時間を過ごしいき、自分の周りに起こっている異変を感じながら、自分の身に起こっている異変にも気付き始めていた。
 本当は初めから気づいていたのかもしれない、気付かないようにしていただけかもしれない、気付いてないふりをしていただけかもしれない。もしそうだったとして、気づいてないふりを続けられなくなったのは、それが限界に近づいたからだろう。

 まず初めに気づいた異変は、『おばけ鏡』の前に立った時のことである。鏡の前に立ったのに、写し出されるはずの私の身体はそこにはなく、あるのは後ろにあった廊下だけだった。
 私はそのことに驚き、何かの間違いだとその事実を否定した。鏡は反射するものだ、反射して人や物を写すものだ。子供の頃から知っている、どんな人でも知っている、当たり前のこと。そんな当たり前のことが、目の前でひっくり返り、動揺を隠せなかった。
 目の前で起こっていることなのに、それを受け入れることができない。そして、私は結論づけた。これは、『おばけ鏡』の所為なんだと。
 
 私は鏡に自分が写ることを信じて疑わず、それを確かめるためにトイレに向かった。
 何の言われもない、何の変哲も無い、トイレにあるただの鏡。これにだったら、私は普通に写るはず。
 そう思って、私はトイレにある鏡の前に立って――絶句した。その鏡にも、私は写し出されなかったから。
 私は、鏡に写らない女の子になっていた。

 次に気付いた異変は、その後のことだった。
 私は他の鏡なら、と信じて別の鏡があるところに向かった。だけど、どの鏡にも私は写らなかった。

 なんで、なんで、なんで……。

 私は鏡に自分が写らないことに動揺して、彷徨さまようように廊下を歩く。
 すると前の方から、白衣を着た女の先生がこっちに向かって歩いてきた。
 多分、保健室の先生だ。白衣を着ているというだけでそう決めつけて、私は保険の先生に自分が鏡に写らないことを相談しようと思った。

「先生!」

 平常心を失っている所為か、思いのほか大き声を出してしまう。なのに先生は私の声に全く反応を見せず、隣を素通りして行く。

「先生!!」
 
 今度は意識して、大声で呼びかけた。だけど先生は振り向かず、私を置いて先の方に歩いて行ってしまう。

「無視しないで!」

「きゃっ」

 無視されたことにカッとなった私は先生の元に走って行き、先生の着る白衣を引っ張った。先生は引っ張られたことに驚いた声を上げ、私の方を見てくる。

「やっと見てくれた」

 私が文句を言うように呟いて、睨むように上目遣いで先生を見る。先生は何故か困惑顔で、「今、何か……」と何やら小さく言っているが、そんなの今は関係ない。

「先生、聞いて欲しいことがあるの! 私、鏡に写らなくなちゃったの!」

 私は「見て!」と言って、すぐ近くに取り付けられていた鏡の方に向かい、前に立つ。鏡には相変わらず、私の姿は写らない。

「ほらっ!」

 私は鏡に指を差してそれを見てもらおうとする。
 そして先生は――

 ――また私を無視して歩き出した。

「無視しないでよ!」

 大声で呼びかけるのに、先生は振り向かない。
 
「こっちを見てよっ!!」

 もう一度声をかけるが、先生の背中は遠ざかって行く。
 
「先生っ!!」

 最後は懇願するように私は叫んだ。すると、先生はやっとこちらを振り向いてくれた。そして、言った。

「誰かいるの?」

 ……え?

 私は先生の問いかけの意味が分からず、一瞬固まってしまった。

「……な、なに言ってるの、先生? ここにいるじゃん。私がいるじゃん。……ふざけないでっ!!」
 
 こっちが本気で話をしているのに、無視して何処かに行こうとした先生が意味わからないことを言い出したから、私は怒鳴った。怒りをむき出しにして、先生を見る。先生に向かってこんな風に口を出したのは、こんな風な態度を取ったのは、初めてのことだった。
 そんな私を見て先生は「気のせいね」と言って再び歩きだし、行ってしまった。
 置いていかれた私は、ワナワナと肩を震わせて下を向く。

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……。

 目には涙を浮かべて、手を力強く握る。

「うっ、うう……」

 泣きそうになるのを我慢する。……だけど、それは無理なことだった。

「……うわあああああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁ!」

 空気が悲鳴をあげるように震えだす。

「ああああぁぁぁっぁ、うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ピキッ、と音を立てて鏡にヒビが入る。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああぁぁぁぁぁ」

 無視された怒りを撒き散らすように。置き去りにされたことを悲しむように。私は一人、泣き叫んだ。
 私は、誰にも見てもらえない女の子になっていた。
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