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01 近藤太一1(後輩/25歳)

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その工場は、街のはずれの工業地帯にあった。
 
様々な工場が並んでおり、その中の一つに結城久弥の働く工場が、ひっそりと建っている。
 
結城は今年で37歳。
 
この工場で働いて十年以上、一般作業員の中でもまあまあベテランな方だ。中には腕利きの職人がいて、勤務歴30年以上の者もいるらしい。
 
勤務歴二年の近藤太一は大柄で、結構力持ちである。
 
そのため近藤よりも小柄な結城に普段からよく使われていた。近藤は結城に懐いており年の離れた弟のようで、結城もかなり近藤を気に入っている。
 
温厚な性格の結城は、工場で働く皆からよく話しかけられ、笑って楽しそうに話をしているのを近藤はよく見かける。
 
皆から頼りにされている結城は、いつでもニコニコと笑って愛嬌のある人物だ。
 
近藤は最近、結城が気になって仕方がない。それは先輩後輩ということではなく、恋愛対象として気になっているということなのだが。
 
 
 
「はあ~」
 
 
 
昼休み、工場の片隅で昼飯を食べている近藤は大きな溜め息を吐いていた。
 
食堂で食べてもいいが、近藤は静かに食べる方が好きなので、いつもこうして適当な場所で食事をしているのだ。
 
 
 
「はあ~」
 
 
 
また溜め息だ。一体どうしたというのか、近藤は何度も溜め息を吐き、ぼんやりと持っていたパンを見つめていた。
 
結城が好きになってしまったのだ。気持ちが止まらず、それを打ち明けきれずにモヤモヤしているらしい。
 
ペシッ
 
 
 
「いてっ、誰だよっ、あ、…どうも」
 
 
 
あまりにも気の抜けた近藤の頭に、軽い衝撃が起こった。誰かに頭を叩かれたのだ。
 
ムスッとした顔で近藤は後ろを振り返った。するとそこには、現在進行形で脳内の大半を占めている人物、結城久弥の姿があった。
 
 
 
「さっきから溜め息ばかり吐いて、悩み事か?」
 
 
 
ニコッと笑いながら結城が近藤の隣に座った。
 
ドキッ
 
 
 
「いや、えっと、別に~」
 
「うん?別に何もないのに、そんなに大きな溜め息が出るのか?面白い奴だな、ははっ」
 
 
 
ドキッ
 
結城に話しかけられる度に心臓が波打ち、笑顔を向けられても心臓が弾んだ。これはまさしく恋、心の中で近藤はそう叫んでいた。
 
少し顔の赤い近藤を見て、結城が近藤の額に手を伸ばした。
 
 
 
「うへえっ!?」
 
「…熱はないし、太一、本当に大丈夫か?具合が悪いならもう帰った方が…」
 
 
 
結城は心配したように目を伏せ、近藤はそんな久弥の顔をじっと見つめる。
 
いつも笑顔を絶やさない結城は童顔で、周りの作業員と比べてもとても若く見える。
 
ふんわりと穏やかな性格で、話し方もおっとりで優しい印象があり、仕事もできる。
 
ムチッとした尻と引き締まった腰、筋肉は無駄がない程度についており、肌は艶があって色白な方だ。
 
身長も高い方だが、どう見ても女には見えない。
 
誰がどう見ても男にしか見えない。それなのに、近藤にはその全てがセクシーでエロく見えてしまうのだ。恋する男の偏見ではない、事実だ。
 
結城が顔を上げ、近藤と視線を合わせる。間近で見る結城の顔に、近藤は心臓が止まりそうなほど高鳴り、今にも飛んで逃げ出しそうになった。
 
いつも一緒に仕事をしているのに、今は二人だけしかいない。
 
近藤の熱い視線に結城が少し困ったように笑い、視線を逸らした。
 
あまりにも見つめ過ぎて変に思われてしまったのだろうかと近藤は焦るが、結城は気にした様子もなく、そのまま自分の持っていた弁当を開けた。
 
一緒に食べるつもりのようだ。
 
結城が弁当の蓋を取り、近藤は少し驚いたように目を輝かせた。
 
 
 
「うわあっ、美味そう!何この色どり、すげえ…」
 
「ん?」
 
 
 
母親の手作りだろうか、それとも彼女がいて作って貰っているのか。彼女だとしたら少しショックだが、諦めも付く。どちらにしても美味しそうな弁当の中身を見て、近藤は驚いていた。
 
そんな近藤の様子に、結城が小さく笑った。
 
 
 
「実は俺の手作りだ」
 
「えーっ!?本当に!?」
 
「ホントホント」
 
「すんげえっ」
 
 
 
結城はニコニコしながら持っていた蓋を置き、箸を持つとおかずを取り、そのまま近藤の口に入れた。
 
 
 
「むぐうっ!?…むぐむぐむぐ、…美味いっ!!」
 
「自信作だぞ、これも食えっ」
 
「むぐっ!!…もぐもぐもぐ、…美味いっ!!」
 
「うんうん」
 
 
 
近藤の絶賛の声に嬉しそうに笑い、結城は弁当を食べだした。
 
まさかこの弁当が結城の手作りだとは、驚きだった。
 
まるで完璧な主婦の手作り弁当のようにバランスよく入った中身に、近藤は尊敬の眼差しを送った。
 
箸で取ったおかずを口に入れ、ゆっくりと咀嚼する姿に、何故か近藤の顔が赤くなった。何かやましい想像でもしたのだろうか、結城は気にすることなく食事を続けている。
 
それから食事が終わると二人は、昼休みが終わるまで喋り続けていた。近藤の顔もすっかり元の色になり、仕事モードへと気持ちを切り替えた。
 
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