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18 約束
しおりを挟む牢の中、友と言ってくれたアンドレイが処刑されると知った鳥の青年は、真っ青な顔で彼に言った。
「僕に名前をつければ、君は助かるかもしれない。僕と契約をして、君の望みを言ってくれれば、僕はこの体を燃やしてでも君を助けられる」
それは名前という契約だった。
名もなき不死鳥に名前を与え、不死鳥がそれを受け入れた時、契約は成立となる。
そして、契約者は望みを叶えるために不死鳥の命を使い、不死鳥はそれに従う。
永遠の命を願うのなら、不死鳥は自ら身を切り裂いて、その肉を食べさせるだろう。鉄格子の外を望むのなら、力の限り食い破り、歯が砕け、骨が折れようとも、外に逃がしてやるだろう。
命の限り、不死鳥は契約者の望みを叶え、ただ死ぬだけ。それが自分の運命なのだと、知っていた。
名もなき鳥は、世界をさ迷う渡り鳥だと嘘をつき、独り空を漂い続けていた。
何のために生まれ、何のために死んでゆくのか。それさえわからない。
いつかそれが運命だと言える日が来るのなら、自分は自ら望む者と契約したい。受け入れることで契約が成立するのなら、その時が自分の運命なのだと思えるのだろう。
「ならば、俺は名前をつけてやれない。それは、お前が望む奴のために取っておけ」
「それじゃあ君はっ、…アンドレイはどうなるの!?処刑されてしまうのに、僕には君を助けることができるのに!!」
「…誰かを犠牲にしてまで、俺は助かりたいとは思わない。例え契約の成立のもとに、それが成されたとして、なら前はどうなる?血だらけになって、骨まで砕けて、死んでしまうお前を残して、俺は自由になるのか?…それは違う。自由というのは、そういうもんじゃぁない。自由はそんなに苦しいものであっては駄目だ」
「僕は、…僕はただの鳥。不死鳥は、死んでもまた生まれ変わる。何も知らない、何も覚えていない、運命のままに流れゆく鳥として、生まれ変わるだけさ…」
ボロボロの翼を持った美しい青年は、アンドレイの処刑に涙を流していた。
生まれて初めて、友だと言ってくれた人間の彼は、今日処刑される。
青年は牢越しにアンドレイの腕を掴み、震える声で契約を願った。しかし、アンドレイは首を横に振り続ける。
名前をくれれば自分はきっと受け入れるのに。青年はアンドレイの顔を見つめ、縋るように服を掴んでいる。
そんな彼の姿に少しの胸の痛みを感じ、アンドレイは優しく微笑んで言った。
「そんなに泣くな。俺はお前が嫌いだから首を振るんじゃない。ただ、それが間違いだから頷くことができないだけだ。友を、自分のために殺してまで、俺は生きられない。」
「アンドレイ、でも、嫌だ、君に生きてほしい。それに言っていたでしょう?お父さんがいて、奥さんがいて、可愛い息子がいるんだって。君は彼らを残して死んでしまって、それでいいのかい?」
それを聞いてアンドレイの表情が苦しそうに歪んだ。しかし、アンドレイは首を振った。
青年は必死に説得するが、アンドレイはどうしても駄目だという。それが自分であり、人間としての尊厳であるのだと、彼は言った。
続けて彼は言った。青年の頬に両手で優しく触れ、視線を合わせる。
「名もなき鳥、俺の友、俺の願いはただ一つ。聞いてくれるか?」
「うんっ、うんっ、何でも聞くさ!君が望むなら、僕はきっと叶えてみせる…っ」
青年は溢れる涙を止められず、アンドレイはクスリと笑って指先で拭ってやる。
「…俺の息子、アリウスに伝えて欲しい。お前の母と、祖父を残して去る俺を、どうか許して欲しい。俺が死んでも悲しむ必要はない、誰もがいつかは死ぬんだ。俺の大切な息子、アリウスよ、いつも見守っている、愛していると、伝えて欲しい。そして、もし叶うなら、友よ、アリウスの傍で支えになってやってくれ。俺の親父と妻はきっと残された寿命は少ない。もし二人がアリウスを残していなくなってしまえば、アリウスは独りになってしまう。…友や、仲間はいれども、志す道の中に心を許せる者はいないかもしれない。俺の友、お前は、きっとアリウスの力に、支えになれる気がする。これほどに美しい心と、温かい瞳を持つお前なら、俺は安心してこの世を去ることができる。国のためとは言え、未練を残したままこの世を去るのは辛い。…この願い、叶えてくれるか?」
悲しそうに、苦しそうに、そう言ったアンドレイの表情は今にも泣きそうで、青年は溢れる涙のまま、必死に返事を返した。
「うん。きっと叶える。絶対にここから出て、僕は君の息子、アリウスを探すよ。君の言葉を伝えて、君の息子の助けになるからっ、だから…っ」
「ありがとう、友よ。それを聞いて安心した。これで俺は心残りなく、この世を去れる」
「…アンドレイっ」
安心したように、アンドレイは一筋の涙を流した。
青年はそんなアンドレイに声をかけようと口を開くが、その瞬間、牢の向こうで声が聞こえ、その方向へと視線を向けた。
「…時間だ。アンドレイ」
「ロゼイン…。いつか、あの世で会う時、まだお前に人の心があったなら、友として再び話をしよう」
「…っ、…行くぞ」
「アンドレイ!!アンドレイ、待って!!アンドレイーッ!!」
そうして、アンドレイは処刑された。
国のために騎士団長として、彼は戦い、死んだ。
十数年後、名もなき鳥は全身を血だらけにしながら、東の国から逃げ出した。
羽は抜かれ、刃物で傷つけられた体で、必死に飛び立ち、命からがらゼロ線上の島、通称ゼロ島へと逃げ延びたのだ。
時間が経てば傷は癒え、羽も生える。しかし、失った体力は戻ることはなく、傷跡には痛みが残る。
それでも鳥は生きようとした。アンドレイとの約束を生きる糧に、それだけが鳥の命を繋ぎとめる支えだったから。鳥は細い体で、西の国へと飛び立った。
アンドレイの息子、アリウスに会うために。
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