不死鳥の愛した騎士団長【完結】

まむら

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14 体の傷

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レイはたまに体調を崩していた。
 
雨の降る日や風の強い日、体中が冷たくなり、起きているのが辛いという。
 
アリウスは寝台で横になっているレイに付き添い、看病している。
 
国王の命令で副団長に任せていた仕事はすでにアリウスが復職し、騎士団長として働いているが、今日は生憎の雨。
 
訓練は中止になり、城の警備は下の者が行うので、執務は部屋で行うため特に問題はない。
 
「背中が痛むのか?」
「…うん、少し」
 
少し熱があるようでぼんやりとしたレイがそう訴える。
 
執務の合間にたまにレイの様子を見ているが、今日は特に全身が怠いらしい。本人曰く、背中が痛いのは古傷のせいということだ。
 
「痛み止めは効いていないか?」
「うん、でも、平気…」
「…顔色が悪い。それに何だ、やけに体が冷たいな。寒いだろう、もっと部屋を暖かくしようか」
「……」
 
そう言ってアリウスは立ち上がろうとした。すると、レイがアリウスの手を掴んだ。
 
「どうした?何かして欲しいことがあるなら言ってくれ。俺に出来ることなら何でもしてやるから」
「…本当かい?」
「ああ。嘘を言ってどうする?何が欲しい?飲み物か、果物か、それとも甘い菓子か?」
「一緒に寝て…。寒いから、お願い…」
「レイ…?」
 
今にも泣きそうな顔のレイに、アリウスはその手を掴み返した。あまりにも冷たく、まるで氷のようだった。
 
よほど寒いのか、レイの体がカタカタと震えている。体温が、感じられない。
 
アリウスは不安になり、寝台に乗って布団を捲るとレイの隣に横になった。二人で布団を被り、アリウスはレイの体を大きな体で抱き締めてやる。
 
するとレイが嬉しそうに笑い、アリウスの胸元に顔を寄せた。
 
「…アリウス、あったかい…」
「そうか。レイ、苦しくないか?」
「うん、すごく体が熱いね、ありうすは…」
「俺が熱いんじゃない。レイの体が冷たくなっているんだ。一緒に寝てやるから安心して寝ろ…」
「…うん……」
 
自分の体温をレイに移すように、アリウスはレイの全身が隠れてしまうくらい抱き寄せ、目を閉じた。
 
すぐにレイの寝息が聞こえ、アリウスの意識もいつの間にかなくなっていた。
 
 
 
 
 
それほど長い時間は眠っていないようだ。
 
先に目覚めたのはアリウスだった。気が付けば自分も眠っていたらしい。
 
もう夕飯の時刻はとっくに過ぎたが、レイが起きる気配はない。ぐっすり眠っているようだ。
 
レイの手や頬に手を当ててみると、寝る前までの冷たさはなかった。
 
安心したようにフウと息を吐き、アリウスはそっと寝台から降りた。
 
備え付けの浴槽に向かい、湯を入れた桶と布を持って戻って来る。一度着替えさせようと思い、レイに言う。
 
「レイ、着替えを持ってきた。体を拭くから…」
「………」
 
レイはよく眠っており、全く目覚める様子がない。迷ったが、とりあえず体を拭いて着替えさせようと思い、眠ったままのレイの体をそっと起こして服を脱がした。
 
白く細いレイの体を見て、アリウスは少し不安になった。
 
「…痩せすぎだろう。もともと細いのか、それとも何かがきっかけで痩せたのか…。」
 
レイの体は成人の男性よりもやけに痩せている。鳥、とはいえ、今は人間の姿をしている。やけに食が細いことも気になっていたが、これがレイにとって正常な状態だとはあまり思えなかった。
 
本人は気にしていないのかもしれないが、これでは体力も付かないだろう。
 
あまり食欲がないのなら、軟らかく煮た野菜や水分を多くしたリゾットでもいい。栄養のあるものを食べさせて、今まで以上に元気なレイになって欲しかった。
 
これからの食事について考えながら、アリウスはレイの体を拭いていく。
 
するとアリウスの手がピタッと止まり、その視線がレイの背中を見つめたまま動かない。
 
「何だ…、この…、傷痕は…っ」
 
視線の先にあるレイの背中には、無数の傷痕があった。白い肌に目立つ赤い傷痕は何度も刃物で裂かれたような形をしており、その小さな背中全体を染めていた。
 
よく見れば腹や足、腕にも薄っすらと痕が残っている。
 
アリウスの手が震え、持っていた布が床に落ちた。
 
その時、レイが目を覚ました。
 
「…ん……」
 
しばらくぼんやりとしていたレイだったが、アリウスの顔が真っ青なことに気付くと、それが自分の体にある傷を見てなったことだとわかり、困ったように苦笑した。

「レイ…、起きたか…」
「うん、おはよう」
「…すまない、見てしまった」
「見られて困るようなことなんてないさ。ただ、この傷を見たら、アリウスは困ってしまうと思って、言わなかっただけさ…。…気味が悪いでしょう?こんな…」
「…レイ」
 
少し悲しそうな顔で、レイはそう言った。
 
特に、傷痕は背中に多い。だからレイは背中の痛みを訴えていたのだろう。古傷とはいえ、この量は相当だ。消えないほどの深い傷跡、何をすればこれほどの傷ができるのだろうか。
 
アリウスは後ろから、そっとレイの体を抱き締めた。優しく囁くように、静かに言う。
 
「レイ、少し驚いたが、気味が悪いなどとは思わない。言いたくないなら言わなくていい。ただ、苦しかったり辛かったりすれば俺に言ってほしい。レイの苦しみを、隠さないで、俺に吐き出してほしい」
「…ありがとう、アリウス」
 
今は効くべきでないのだろう。いつか言いたくなれば言ってくれるはず。無理に心の傷まで掘り返す必要はない。
 
苦しいのなら、辛いのなら、頼って欲しい。アリウスは心からそう思った。
 
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