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13 東の国王
しおりを挟む東の国の王は長寿である。
噂ではすでに人間としての寿命は尽き、その命は悪魔に繋げられていると言われている。
とある書物を手に入れた王は、不死の肉体を手に入れるため、伝説の不死鳥と言い伝えられている鳥を牢に入れたらしい。
そして、毟った羽根に長寿の願いを込め、血を啜ることで傷を癒し、肉を食らうことで永遠の命を手に入れたらしいが、噂なので確かではない。
もしかすると別の方法で生きながらえているのかもしれないし、本当は死んでいるのかもしれない。
だが最近、偵察隊の情報から東の国王が存命だということを知る。姿を見たと聞き、顔の特徴を事細かに伝えられた老臣たちが、記憶に残る顔と一致するということで首を縦に振った。
つまり、東の国王は未だ健在であり、その寿命は人間の領域を超えている、ということになる。
「悪魔に魂を売った獣となったか」
西の国王は、激しく嫌悪するようにそう言って顔を顰めた。
その書物を一体どこで手に入れたのかは知らないが、禁呪であることに間違いはない。
この世には言葉では表せない、摩訶不思議な現象が起こることがある。
伝説の不死鳥もその一つだった。
遥か昔、東の国王は一冊の書物を手に入れた。
そこに記されていた内容はあまりにも信じ難く、真実味のない内容であった。
伝説とされている不死鳥の存在と真実。契約によって叶えられるとされる、永遠の命を手に入れる方法。
東の国王が手にしたそれは、世に出回ることさえあるはずのない、禁書と呼ばれるものだったのだ。
永遠の命を欲した東の国王は、不死鳥の存在を信じ、探すことにした。
十年、二十年、三十年、刻々と国王の命の期限は近づいてゆく。存在定かではない鳥を探すのは困難を極め、王は歳をとった。
ついに髪は白くなり、皮膚には皺が刻まれ、腰は曲がった。老人と呼ばれる年齢となった。だが、それでも諦きれず探していた。
ある日、視察に訪れていた城の上空を一羽の鳥が飛んでいるのを見た王は、驚きのあまり腰を抜かした。
見上げた先に飛んでいた鳥の姿は、極彩色の美しい羽を持ち、黄金に輝く幾本もの尾を靡かせ、空を流れていたのだ。
まるで人間たちを見て楽しむかのように、クルクルと旋回し、遊んでいた。
王はそばで控えていた護衛兵の弓を奪い、慌てて鳥の羽を射た。すると突然の衝撃に鳥は悲鳴を上げ、森の中へと逃げるように落ちて行く。
騎士らを連れ、自ら先頭となり馬に跨ると、森へと向かった。
ついに見つけた。東の国で不死鳥はとうとう捕まったのだ。
王は喜び、興奮した。
地面でぐったりとして倒れているが、しっかり息はしている。
「これが不死鳥、伝説の不死鳥だ!ついに、ついに儂は不死鳥を手に入れた!」
そう叫び、見下ろした先には、一人の青年が倒れていた。
白銀色の美しい髪を地面に広げ、白く細い腕は矢が刺さり真っ赤な血が流れている。そして、背中には翼が生えていた。落ちた時に傷だらけになったようで、辺りには羽根が抜けて散らばっていた。
その青年こそ不死鳥のもう一つの姿だった。不死鳥は空を彷徨い、時には人の姿で現れるという。
この姿になっているのはもしかすると、弓の矢で射られた時の衝撃で森に逃げ落ち、混乱して人の姿になったまま気絶したのかもしれない。
「密かに宮殿に連れ帰り手当てをした後、縛ったうえで儂の部屋に連れてくるのだ」
「…はっ、すぐに!」
王は護衛にそう言うと再び馬に跨り、すぐに宮殿に戻った。
汚れを落とし手当てを受けた青年は、手を後ろで拘束されたまま王の部屋へと連れられてきた。地面に膝をつかされ、俯いている。
全ての人間を部屋の外に下がらせると、王は青年に近付き、口を開く。
「そう、この姿、これこそあの書に記されていた不死鳥だ」
「…っ」
その言葉を聞いた瞬間、青年の血の気が引いた。間違いではなかったらしい。
王は気味悪く笑う。
「不死鳥よ、名を名乗るがいい」
「……」
「さあ、早く名乗れ」
「…名前なんてない。僕はただの鳥、名も無き一羽の鳥さ」
「『名が無い』と?…ふ、ふふっ、ふははははっ!!」
「……っ」
王は愉快そうに声を上げて笑った。狂ったように笑い、目は狂気に満ちていた。
不死鳥はその姿を見て、恐怖を感じた。何かが憑りついたかのような表情に、体が震える。
すると王は不死鳥に言った。
「ならば不死鳥よ、儂が名を授けてやろう。名を受け入れ、そして、我が願いを聞き入れよ」
「……」
そして王は、再び狂ったように声を上げて笑った。
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