不死鳥の愛した騎士団長【完結】

まむら

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12 琥珀色の瞳

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アリウスはレイを連れて街に出ていた。
 
「ねえ、アリウス。僕たちはどこに向かって歩いているのかな?」
「疲れたか?」
「これくらい平気さ」
「朝早く起こしてすまなかったな。久しぶりに街の様子を見ておこうと思ったのだが、レイにも見せてやりたかったんだ」
「そうだったのかい?嬉しいな。空からずっと見ていた景色が、こうして目の前にあるなんて、信じられないよ」
「それは良かった」
 
レイは嬉しそうに辺りをキョロキョロと見ている。子供のようにはしゃぐ姿はとても楽しそうで、アリウスはクスリと笑ってしまった。
 
様々な屋台が横並びに続き、立ち話をする人々や遊ぶ子供たち、とても賑わいのある街だった。
 
その中の一つの店の前でレイが止まった。少し興味があるらしい。アリウスも足を止め、店の商品を覗き込んだ。
 
その店は宝石を扱っているようで、金、銀、美しい石や真珠、サンゴ礁、貝殻など、装飾品に加工されて売られていた。
 
「これが全て手作りだなんて信じられない!とても器用なんだね!どうやって作るんだろう。この指輪はどうやってこんな形に作っているんだい?それにこの耳飾りも、もともとは金や銀なのでしょう?すごいね」
「技術を持った職人がいて、彼らは何十年とかけて修行したからこうして美しい装飾品が作れるようになるんだ。俺が剣術を訓練するように、彼らは技術を磨く」
「素敵だね。僕には街の皆がとても輝いて見えるよ。とても綺麗で、とても眩しい」
 
レイは目を輝かせながらそう言った。
 
アリウスの目に映ったレイの姿は、どこか儚く、まるで遠くにいる何かを見ているかのようだった。とても綺麗で、何故か寂しそうに見えた。
 
今にも目の前から飛んで消えてしまいそうな気がして、アリウスは無意識にレイの手を取った。不思議そうにレイがそれを見て、ニコリと笑う。
 
「どうしたんだい?」
「…あ、いや、これは…」
「僕が迷子になりそうに見えたのかな?」
「…そうだな。そう見えたのかもしれない」
「ふふふっ、僕はもう大人だから、迷子にはならないさ」
「なるかもしれない。そうだ、大人でも迷子になる時はある」
 
ゴホンッ、と咳払いをしてアリウスはレイの手をギュッと握った。レイは少し嬉しそうに握られた手を見つめている。本当に、嬉しそうに。
 
レイは再び装飾品に意識を戻し、楽しそうに店主と話をしている。
 
そこでアリウスはレイに一つ、商品の中から買うことにした。
 
「レイ、俺から君にどれか渡したい。どれがいい?気に入ったものを選んでくれ」
「僕に?」
「そうだ、どれにする?」
「こんな綺麗なもの、僕には…」
「俺がどうしてもレイに渡したいんだ」
「…なら、アリウスが選んでおくれ。どれも綺麗で、僕には選びきれないな」
「そう言うことなら、俺が選ぶをしよう」
 
そう言って、アリウスはレイに似合いそうな装飾品を選び始めた。
 
レイの白い肌には暗い色より明るい色がいい。赤い瞳と同じ赤い宝石の装飾品もいい。羽のように様々な色の入った飾りも美しいだろう。
 
吟味するように商品を眺めているアリウスに、レイが言った。
 
「僕、アリウスの瞳の色の首飾りがいい。君の琥珀色の瞳と同じ色の、綺麗な宝石が入った首飾りがいいな」
「俺の瞳と同じ色の?」
「うん。僕はそれがいい。首に飾っていれば、姿が変わってもいつでも掛けていられるからね」
「…では、そうしよう。店主、その…そこにある首飾りをくれ」
 
アリウスは代金を支払い、その首飾りをレイに掛けてやった。レイは嬉しそうに頬を染め、アリウスに礼を言った。
 
「アリウス、ありがとう。大切にするよ。アリウスの瞳の色…、嬉しい。これをつけていたら、僕がどんな姿でもすぐにわかるね」
「…っ、それは良かった。レイにはもっと華やかな宝石の方が似合うと思うが…、本当にそれで良かったのか?」
「…君の琥珀色の瞳は、遺伝かな?」
「ああ、祖父も、俺の父も琥珀色だった。この国でこの色の瞳をした人間はあまりいないな」
「そう…」
 
レイの首に掛けられた首飾りはとてもよく似合っていた。琥珀色の宝石が一つ、金の輪に通されている。
 
アリウスの言うように、西の国で琥珀色の瞳をしたものは先祖からの遺伝であった。小さい頃は異端と言われた色であったが、今では皆が認めるほどの腕を持ち、それを揶揄う者もいない。
 
自分の瞳の色を見るとたまに、祖父や父の姿を思い出す。その度に気合を入れ、戦ってきた。だからとても誇らしく、気に入っている。
 
だから、レイに好きな色だと言われ嬉しかった。
 
まだまだ時間はたっぷりある。二人は再び歩き出した。
 
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