不死鳥の愛した騎士団長【完結】

まむら

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レイを仲間に紹介する。
 
仲間はレイを見て、どう思うだろうか。
 
ゼロ島から来たと聞いて、嫌われないだろうか。

アリウスは少し表情を硬くさせ、訓練の手を止めさせた。皆の前にレイを連れて来ると、ザワッと皆の視線が二人に寄せられる。
 
「紹介する。彼はレイという。事情があってしばらく我らと共に生活することになったが、仲良くしてやってくれ。彼は騎士ではなく一般人だ。訳あってゼロ島からやってきた。訓練はしないが、とりあえず…」
「団長!!この子はこんなに可愛いのに、男子なのですか!?」
「…ん?」
「団長!!この子は団長の恋人ですか!?」
「……んん?」
「団長!!いつ奥さんができたんですか!?」
「………んんんんん?」
 
誰かがアリウスの言葉を遮り、団長、団長、とアリウスは質問攻めにあってしまう。思っていたのとは違ったが、この雰囲気からして、レイは受け入れられたのだろう。
 
皆がワイワイと騒ぎだしたのを見て、レイが吃驚した様子で目を丸くさせた。
 
「…レイ、すまない。これほど皆が興奮するとは思いもしなかった。驚かせてすまない。とりあえず部屋に戻って…」
「はじめまして、君たちはアリウスの仲間かな?僕はレイ。騎士ではないけど、仲良くしておくれ」
 
ニコッと花が咲くように笑ったレイを見て、騎士の皆が頬を染めて歓声を上げた。それを歓迎と見たレイが嬉しそうに笑顔で頷くと、益々皆の歓声が大きくなり、アリウスは言葉を失ってしまった。
 
レイは隣にいるアリウスを見る。
 
「ねえ、アリウス。僕は皆に歓迎されているのだよね?皆の気配は殺気立っていないし、どちらかと言うとこれは歓迎の色だよね」
「…ああ、そうだな」
 
ようやく表情を緩めたアリウスが苦笑しながら言う。
 
騒ぎ出した皆に向かって手を上げると、団長の合図を見た騎士たちは次第に静かになった。整列するように言い、アリウスは言葉を続けた。
 
「ゼロ島から来たレイは体が弱っていたため俺が救助した。レイが来た理由は聞かないで欲しい、事情があるんだ。だが、レイは敵でもスパイでもない。だから見かけたら声をかけてやってくれ。仲良くしてやってくれ」
「アリウス…」
「未だにレイの体は本調子ではなく、時々悪くなることもあるかもしれない。そんな時は出来るだけ早く教えてくれ。すぐに治療すれば良くなるだろう。レイ、何か言うことはあるか?」
「…ふふっ、アリウスが全部言ってしまったね」
 
レイが笑いながらそう言った。
 
「挨拶は以上だ!皆、訓練を続けろ!」
 
アリウスは浮足立った様子の皆に声をかけ一括し、訓練が再開した。先ほどのざわつきが嘘のように、皆、意識を集中させて訓練を続ける。
 
二人は静かにその場を去り、アリウスの部屋へと戻った。
 
するとアリウスがレイに言う。
 
「レイ、部屋をどこにするか迷っているんだが、どこがいい?」
「部屋?何の部屋かな?」
「レイの部屋だ。部屋が無いと不便だろう?」
「アリウスと一緒の部屋で構わないよ。僕は君と一緒に過ごしたいし、一緒に眠りたい。君が嫌と言うのなら仕方がない、僕はどの部屋でもいいけども」
「一緒に………、それは、その、どうなのか」
「??」
 
もごもごと口ごもり、やけにアリウスらしくない。
 
レイは不思議そうに首を傾げ、アリウスの顔をじっと見つめる。どうしたのだろう、何故顔が赤いのか。風邪だろうか、それとも疲れているのだろうか。
 
スッと白く細い手を伸ばし、アリウスの頬を撫でた。
 
「レ、レイ…っ」
「…アリウス、気分でも悪いのかい?やけに顔が赤いし、汗も出ている。もしかして僕のせいかい?何か僕が君を困らせるようなことをしたのかな?それならば言って欲しい。僕はあまり人間の気持ちがわからないから…」
 
レイが少し悲しそうにそう言った。アリウスは慌てて首を振る。
 
「レイは何もしていない。これは…、その…、そう、アレだ。今日はやけに天気が良くて暑かった。だから顔が日焼けしたんだ」
「僕は焼けていないけど?」
「それは、何と言うか、うん、そう、その、…俺が大きいからレイの日除けになっていたんだろう」
「そうだったかい?今日はそんなに天気が…」
「ああ、そう、天気が良かった。この話は終わりにしよう。これから少し会議があって俺は部屋を留守にするが、レイ、お前がこの部屋でいいというなら、俺もそれで構わない」
「本当かい?それは良かった。僕は君と一緒にいるのが好きなんだ。嬉しい」
「…っ、で、では、行ってくる」
「うん、行ってくるとい。僕は留守番をしているさ」
「…もし誰かが訪ねて来たら出ても構わない。レイのことは皆に紹介した。話がしたければすればいいし、出たくなければ居留守を使えばいい。…自由にしていなさい」
「…うん。ありがとう、アリウス」
「……ああ」
 
レイに見送られ、アリウスは真っ赤な顔のまま部屋を退出した。
 
 
 
 
 
顔が熱い。きっと真っ赤になっている。
 
最近、レイが自分に心を開いてくれていると実感していた。
 
レイの笑顔に癒され、心が躍っている自分がいる。体験したことのない感情だった。
 
「…はぁ」
 
本当は会議などない。真っ赤になった顔を見せるのが恥ずかしくて、已む無く部屋を出たのだ。
 
レイには好きなように生活して欲しかった。だからとりあえず部屋の希望を聞いただけなのに、結果的には今までのように同じ部屋で過ごすこととなった。
 
別に、下級騎士であれば一部屋を数人で使うし、二人部屋もある。自分は一応騎士団長としての立場があるため、広い部屋を一人で使っているだけなのだ。
 
この広い部屋で軽く住人は寝泊りできるだろう。なのでレイの一人や二人、増えたところで何の支障もない。
 
ただ、何やら気恥ずかしいものがあり、少し戸惑っているだけだ。しばらくすればこの心も落ち着くだろう。
 
そろそろ戻ってやらねば、寂しくしているかもしれない。そう思ったアリウスは、顔を手でパンッと軽く叩き、気合を入れた。
 
「…何をしているんだ、俺は」
 
そんな気合を入れるほどのことか、とアリウスは自分自身に向けて呆れて、重く深い溜め息を吐いた。
 
 
 
 
 
寂しく待っているだろう、と思ったのは間違いだったらしい。
 
部屋に戻れば、賑やかな大勢の声が聞こえてくる。ワイワイと何やら楽しそうだ。何故、自分の部屋で。
 
アリウスはそっと扉をあけ、中を覗き見た。
 
見れば、部屋の中心でレイを囲み、下級騎士やら隊長、食堂の調理人に何故か掃除婦まで。ここは騎士団長の部屋であり、連絡事項のための部下以外は滅多に人が来ることもない、はずだったが。
 
レイが嬉しそうに笑っている。
 
誰かがレイに言う。
 
「レイさんは団長とはどういう知り合いですか?」
「ん?どういうとは何かな?」
「団長と仲が良さそうだったんで気になって」
「僕はアリウスに助けられたのさ。傷の手当をして貰って親切にして貰っている」
 
確かに、どういう知り合いとはまあ、そういう知り合い方をした。ああ、確かに。アリウスはじっと皆の会話を聞く。
 
「レイちゃんは何歳なのかしら?」
「何歳に見えるかな?20歳?30歳?」
「あら、…まだ15歳くらいじゃないの?」
「僕は成人さ」
「まぁ、本当?てっきり十代かと思ってたわ」
「喜んだ方がいいかい?」
 
そういえばレイの年齢は聞いたことがないな、とアリウスは頷いた。今度聞いてみようか。
 
次にレイに話しかけたのは部下の一般騎士兵。彼は最近入ったばかりの新人だ。真面目に訓練に励んでいて、覚えも良い。
 
レイの手を掴み、自分と比べている。
 
「レイは手が小さいな~!俺の手と比べたらこんなに違う!ほら!」
「太さも違うね。さすが騎士さんだね、カッコイイ」
「照れること言うなよっ、団長に比べたら全然!」
「おや、どうしてそんなに照れているのかな?」
 
新人騎士は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。何やらソワソワしているようだ。何となくムッとしたアリウスは、ズンズンと足音を立てて部屋に入った。
 
それに一番に気付いたのはレイだった。アリウスを見て、嬉しそうに笑う。
 
「アリウス、お帰りなさい」
「…ああ」
 
ずいっとレイの前に立ち、顔を見つめるアリウス。集まっていた者たちは少し慌てているようだ。
 
そんな彼らを見て、アリウスは口を開いた。
 
「さて、これはどういう状況だ?別に咎めはしないが…」
「うふふ。それはね、君が出て行ってしまって少しつまらなくて、暇だった僕は部屋の扉から顔を出してキョロキョロしていたんだ。そしたら見かねた彼らが話し相手になってくれたのさ。とっても楽しかったよ」
「そう、だったのか。それはすまなかった。…皆、レイの相手をして貰ったようで、感謝する」
 
あまりにも嬉しそうにいうレイに、アリウスは毒気が抜けた様に脱力した。何故かイライラしていた心もすっかり静まり、皆に礼を言う。
 
皆はそんなアリウスを見て、少し驚いた様子だ。
 
「おや、皆、どうしたのかな?吃驚しているように見えるね」
「何かあるのか?」
 
レイとアリウスは不思議そうに彼らを見る。その中の一人が説明した。彼はどこかの守備部隊所属の騎士だった気がする。
  
「いえいえ、団長がいつもと違って、何ていうか、すごく優しいっていうか、ちょっと説明しにくいんですけど」
「何だその気になる言い方は。はっきり言え」
「つまり!…団長がレイを見る目が、すんご~く優しいってことです!」
「…んんっ、わ、わけのわからんことを。とにかく解散だ。今からレイと話があるんだ」
 
そう言って皆は部屋から出て行った。室内は一気に静かになってしまった。レイは気にした様子もなく、アリウスを見て言う。
 
「彼らはアリウスのことをとても尊敬していると言っていたよ。何だかとっても嬉しくなって、話が弾んでしまったよ」
「…そうか」
「アリウス?」
「…体調はどうだ?」
「大丈夫さ、治療のお陰ですっかり良くなったみたいだ」
 
レイ言ったレイを見て、アリウスは何か考えるような顔で黙っている。一体どうしたのか、何も言わないアリウスにレイは首を傾げる。
 
沈黙を破ったのはレイだった。
 
「アリウス、何か心配ごとでもあるのかい?それとも落ち込んでいるのかな?どこか元気がないようだね」
「…いや、そういうわけでは」
「悲しいことでもあったのかな?」
「違うが…」
「何か僕にできることはあるかい?」
「いや、別に、そいういうことではない。少し、こう、言葉に出来ないな…その、何だろうな」
 
自分は一体何をしているのか。アリウス自身にもわからない、この靄のかかった様な思考に戸惑っている。
 
レイが楽しそうに笑い、手に触れられているのを見て、何故か腹が立った。どこかそれが気に食わなくて、体が勝手に動き出し、気付けば彼らの中心にいたレイの目も前に立っていたのだ。
 
まるで子供のような行動に、アリウスは困惑した。
 
自分は、一体何をしているのだ。
 
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