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11 友として
しおりを挟む「お前は綺麗で美しい。今はそうしてボロボロになってしまった羽も、色を見ればわかる。きっと美しいのだろう。一度でいいからその姿を見ていたいものだ。翼を広げたお前の姿はきっと綺麗だ」
「そんなこと…」
「ああ、それに、その瞳も宝石のように赤くて、見つられると魅入ってしまう。ずっと、いつまでも見ていられる。」
「いや、そんなこと…」
「その白く長い髪も、光が当たれば透けて輝きが増す。肌もそこらの女より断然白いし、肌理がある」
「…綺麗とか美しいとか、何言ってるのさ」
青年は恥ずかしそうに俯いてしまった。男はそんな青年を見て、とても楽しそうな様子だ。
男は何故こうして牢に入れられてしまったのだろうか。奴隷、人質、生贄。きっと彼はそのような目的で囚われたに違いない。
しかし、やけにあっけらかんとした態度に、青年はどこか不安のようなものを感じた。
気になってレイは男に尋ねる。
「ねえ、君はどうして牢に入れられてしまったの?救けは来るのかい?」
「ん?何故って言われると答え難いな。強いて言うなら国のため、って言うべきか。言っておくが犠牲になったわけじゃない。俺は国を、東と西、どちらの国もこれ以上犠牲者を出して欲しくないだけだ。そのために俺はこうしてここにいる。それが騎士団長アンドレイとしての俺の使命であり、尊厳だ。」
アンドレイと名乗った彼は誇らしげに笑う。騎士団長の彼にとって、守るべき命は自国のみに非ず、この地に生きる全ての命だった。
もっとも輝ける魂を持った男だ。
「アンドレイ…、君は、これからどうなるの?」
「聞いてどうする」
「どうもしないさ。ただ、聞いただけだよ」
「俺は答えるべきか?」
「嫌なら言わないでいいさ」
青年はそう言って黙り込んでしまった。
アンドレイは少し考え、話題を変えることにした。
「なぁ、お前の名前は何て言うんだ?俺の名前は今言った。お前のことを教えてくれ」
「…僕のこと?」
「ああ。一体どこから来て、何故ここにいるんだ?」
アンドレイは頷く。青年の背中には羽があり、白い肌、白い髪、赤い瞳、そんな人間は見たことがなかった。だが不思議と嫌悪感はない。ただ、美しいと思った。
青年は困ったように笑う。それはまるで何かを諦め、何かを失ったかのような。
「僕には名前何て無いさ。僕はただの鳥、単なる一羽の鳥さ」
「鳥?」
「そう。今はこうして人の形をしているけど、元々の僕は名も無き鳥。この牢に入れられてからというもの、鳥の姿に戻ることが出来なくなってしまったのさ」
「何かされているのか?」
「…さあ、何故だろうね。昔、力尽きて死にそうになった時に鳥の姿に戻ったことはあるけど」
そう言って、青年は何かを思い出すように笑って言った。
アンドレイは冗談じゃないと言って少し怒った。本当にそうなったことがあるのだから、冗談ではないのだが。
それにしても、と青年はアンドレイを見て、不思議そうに問う。
「…君は、僕が恐ろしくないのかい?気味が悪くはないの?」
「別にそういう偏見はない。世の中には色々なことがあるもんだ。強いて言うなら、まぁ、お前は美しい。鳥だろうがなんだろうが、綺麗だと思うぞ」
「またそんなこと言って…」
「嘘じゃぁない。俺は嘘は言わん、嘘は一番嫌いだ。心から美しいと思った、それだけだ。美しいものを美しいと言って何が悪い」
「…うん、その、ありがとう。そんなこと言われたの初めてで、嬉しいな。僕はいつも独りだったから、こうして君と話すことが嬉しいし楽しい」
青年はようやくアンドレイの言葉を信じたらしい。照れた様に下を向いてお礼を言う。
いつも独りでいたという鳥の青年は、本当に嬉しそうに笑った。アンドレイはそんな青年に一つ、提案した。
「ここで出会ったのも何かの縁だろう。名も無き鳥よ、俺と友になってくれ。…少しの間の仲ではあるが、それでも友にはなれる」
「友?僕と君が?僕と、友になってくれるのかい?…鳥と人間なのに?」
アンドレイは青年に友になろうと言った。青年は驚いた様子でアンドレイの顔を見つめる。
「鳥と人間が友になってはいけないという決まりでもあるのか?俺は心からお前と友になりたいと思った。友になることがそんなに難しいことか?簡単なことだ、裏切らなければいい。信じて、尊敬し合う、それが友ってもんだ」
「なら…、今日から君と僕は友なんだね?僕は名も無き鳥だけど、アンドレイ、君のことを裏切ることはないよ。だって君が僕を信じてくれるのでしょう?なら僕も、君を信じる」
「決まりだ!」
「ふふっ」
初めて出会った鳥と人間は、出会ったその日に友になった。運命というものがあるのなら、縁というものがあるのなら、それは必然だったのかもしれない。
それから数日後、アンドレイは名も無き鳥に別れを告げることになる。
運命があり、縁がある。
アンドレイの死も、運命だったのだろう。
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