不死鳥の愛した騎士団長【完結】

まむら

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09 甘い毒草、苦い薬草(後)

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さあ、これを飲みなさい。
とても甘いだろう?
次にこれを飲みなさい。
とても苦いだろう?
毒は甘いが、薬は苦いものさ。
 
この葉を食え。
毒草だが甘く、解毒作用がある。
次はこの葉を食え。
とても苦いが、毒を中和してくれる。
良い薬ってのは、苦いもんなんだよ。
 
 
 
 
 
夢を見た。昔の夢だ。
 
彼らの優しい声を思い出すたび、胸が痛くなる。人間という生き物に救われたこと、今では大切な思い出だ。もう会うことは出来ないが、きっと一生忘れない。
 
目覚めたばかりでぼんやりとしているレイにアリウスが声をかける。
 
「レイ、やはり顔色が悪いな。回復したと思って油断していた。やはりまだ休息が必要らしい」
「…アリウス、僕…」
「煎じた薬を飲ませたいが、時間がかかる。どうだ、待てそうか?」
「アリウス…」
「ん?」
「アリウス…、アリウス…」
「…少し手荒だが、直接食べた方が早い。レイ、体を起こすぞ」
「ん…」
 
どこか様子のおかしいレイを見て、アリウスは薬草を煎じることを諦め、直接食べさせることにした。どちらでも効果は変わらないが、口にするのであれば煎じた方が良い。
 
だが、レイがアリウスの服を掴んだまま離そうとしないので、無理に離れるのも可哀想だった。
 
アリウスは包みの中から薬草を取り出し、レイの口元に寄せる。
 
「レイ、この薬草を食べなさい。先日、お前の体を回復させるために煎じて飲ませた薬草だ」
「…んん、…甘い」
 
朦朧としていた意識が戻って来たのか、レイが反応した。アリウスはクスリと笑って、起こしたレイの上半身を支えてやる。

「本来であれば毒草として扱われ使用することはまずない。だが、即効の解毒作用がある。時として毒草も薬草になる、と祖父や父が言っていた」
「…うん、甘いね、とても」
 
レイは毒草と聞いても疑うことなく食べている。そんなレイを見て特に気にすることもなく、アリウスは言葉を続けた。

「次に毒を中和するための薬草を食べるんだ。だがこの薬草は、」
「とても苦いのでしょう?」
 
言葉の途中でレイが言った。その通りだった。アリウスは少しレイを見つめたあと、その苦い薬草を口に入れてモグモグと咀嚼する。
 
レイはとても苦いと言いながらも、少し嬉しそうな顔をしてそれを飲み込んだ。口の中に苦みが広がる。この味は、あの時彼から貰った薬草と同じ味だ。
 
思い出の中の彼と同じことを言おうとしているアリウスを見て、レイは静かに笑っている。 
 
少し戸惑うような顔をしていたアリウスが口を開いた。
 
「…毒草は…」
「甘いけど毒があるし、薬草は、苦いもの、なのでしょう?」
「…薬草の知識があるのか?」
「いいや、僕にはそんな大層な知識はないさ。でも、薬とは、そういうものだよね?」
「…ああ。そういうものだ」
 
アリウスは目を閉じてそう呟いた。いつか父と祖父が言っていたセリフは、全てレイに盗られてしまった。
 
レイの肩に乗せていたアリウスの手に力が入り、レイの体が少しだけアリウスの方に引き寄せられた。静かな部屋の中で、二人は肩を寄せ何も話さない。だが、不快ではない。むしろいつまでもそうしていたい。
 
いつの間にか、またレイは眠っていた。薬草が効き始め、睡魔がやってきたのだろう。このまま朝まで眠ればいい。
 
起きた頃には今度こそ、すっかり良くなっているはずだ。
 
静かにレイの体を寝台に沈め、アリウスはそっと立ち上がった。部屋で少しだけ仕事をして眠るつもりだ。
 
任務の方は国王の命令で、しばらくの間は信頼を寄せている副団長のドランに任せているから大丈夫だろう。彼は肩書としては副団長の立場にあるが、その実力はアリウスに並べるくらい優れている。
 
アリウスにとって大変有能な信頼できる部下であり、年齢も差ほど変わらないため、友のような存在である。
 
書類にサインをしながら今後のレイをどうするべきか考える。
 
「外に出すべきか、それとも出すべきでないか。…いや、それでは幽閉じゃないか。やはり外に出して、皆と会話をして食事をして、遊んで、そういう生活をさせてやらないとな…」
 
レイ、君は自由でなければ。それが君の本来の姿であると思うよ。
 
君は一羽の鳥。美しく、自由な鳥なんだ。
 
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