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03 紹介
しおりを挟むレイを皆に紹介しなければならない。
突然降って湧いたかのような人間を隣に歩かせても皆は不振がるだろう。アリウスはどのように説明するか考えていた。
「家族…、親戚…、いや、どうみても種族が違う。拾ってきたなどとは言えるわけもなし。…どう説明するべきか」
「恋人とか」
「レイは男だろう」
「うん」
「…俺は偏見はしないタイプだが、そう振る舞う自信はない。却下」
「えー」
鳥を拾ったなどと言っても姿は人間だし、鳥のままでいてもらうには少し面倒だ。もしかすると鶏肉として捕獲されて気が付けば焼き鳥にされている可能性も無きにしも非ず。
やはり人間の姿でいてもらう方がいい。
それならばレイの説明はどうしたものか、とアリウスは悩んだ。できれば自分の近く、目の届く範囲で生活していてほしいのだ。何かあった時にすぐに対処ができる。
「レイ、この西の国に辿り着くまでは何処にいた?」
「…前?何故それを聞くのかい?」
「皆にレイの説明をしたいんだ。突然現れた人間を普通は不振に思うだろう?だから皆がある程度納得できる理由が欲しいだけだ」
北の国から来たとか、南の国から来たとか、そういうことを聞いている。とアリウスは言う。特に何かを疑っているわけでもないことは目を見ればわかる。
レイは考えるように視線を上に向けた。何かを思い出すようにぼんやりとしている。
「言いたくないなら別にいい。適当に…」
「『ゼロ線上の島』から来た」
「…何?ゼロ線上の島といえば今はもう…」
『ゼロ線上の島』とは通称『ゼロ島』と呼ばれている。東西南北の国の中央に位置する島で、周りは海で囲まれている。どの国にも所属せず、干渉されず、見放された島。
そこには少しだけ人間が住んでいる。ゼロ島に住むのは皆、戦争の中で命からがら逃げてきた者たちばかりだ。
アリウスは眉間に皺を寄せ、レイの言葉を聞く。
「ゼロ島は東の国が侵入してきてほとんどの人間が死んだよ」
「…何だと?それは本当か?数年前、四つの国の協定が結ばれたはずだ。その内容の中には侵略行為を避け、干渉することなく、平衡を保つとしたものだったはずだが」
「でも実際にはこうして戦争は起こった。静かにひっそりと生きていた人間は犠牲になった」
「…レイもその犠牲の一人ということか?」
「犠牲?…僕は鳥だよ、いくらでも空を飛べる。…いくらでも、何処へでも、僕は僕の意思とは関係なく空を飛び続けるだけさ」
軽く何でもないことのように言うレイだが、声は小さい。何かを思い出すように目を閉じた。
「僕は鳥。世界を放浪するだけのただの鳥。ゼロ島にいたとは言っても少し休憩していただけ。ちょっと疲れていたから、そこらにあった木の上で人間の生きる姿をぼんやりと見ていただけさ。ただ、それだけ、それだけさ…」
何でもないことのように話すが、レイの表情は怒るでもなく、悲しむでもなく、何の感情もない。淡々と話す姿はまるで抜け殻だ。
最近、北と南で征服戦争があったというのは初耳だ。
北と南が戦争を行うにはゼロ島を通過するのが一番手っ取り早い。そのため島の人間は巻き込まれてしまうのだが、何故協定が破られたのか。
武器を持たず、戦う力もない。戦争のたびに弱い者たちは犠牲になる。ならば何故、ゼロ島にいるのかと思うだろう。何故ならば、彼らは国を恐れているから。どの国へ逃げようと彼らは敵とみなされ殺されてしまう。
だから最終的に行き着くのはゼロ島しかない。嫌でも恐ろしくても、そこにしか居場所がない者たちなのだ。
「…報告がない、ということは未だに情報が届いていない、ということになる。協定が結ばれたせいで国全体の気が緩み過ぎていたようだ。即刻報告にいかねば…、しかしどう報告すべきか」
まずは情報の出所が必要になる。証拠もなく突然そのようなことを言い出せば、自分自身の信用がなくなってしまう。騎士団長として、そのようなことはできない。
そんなアリウスの考えを見こしてか、レイが提案する。
「僕がゼロ島から逃げてきた人間としてその情報源になれば、僕の紹介と戦争の報告ができて一石二鳥じゃないかな?」
「…レイはそれでいいのか?」
「別に構わないさ。アリウスの役に立つのならそれくらい、お安いご用さ。僕の看病をしてくれた恩も返せるし、僕にとっては一石三鳥だね」
何でもないことのように話すが、つまりレイは国から追われゼロ島に逃げてきた人間、という扱いになる。そういう者もごくまれにいることはいるが、訳ありということで良い待遇は受けられないだろう。
下手をすれば雑用、もしくは奴隷になる可能性もある。
しかし証人としての功績が認められれば少しはマシになるはず。そこで自分が騎士団長の特権でどうにかすればいい。
「レイ、感謝する。しかし国王への報告は俺だけでは出来ない。当事者の証言が必要だ。俺と共に王の謁見室へと来てもらうことになるが、いいか?」
「いいさ。西の国王の顔はまだ見たことがないから一度見て見たかったんだ」
「つまり他の国の国王の顔は見たことがあるのか?」
「北と南は昔見たことがあるけど、この十数年で代が変わったね。東の国の国王は、長生きしてるね…」
「ああ、噂では呪術で寿命を延ばして今は齢200を超えると専ら噂が絶えないという。だが我らの時代は人間の寿命など、どう足掻いてもせいぜい80年。それ以上生きれば大往生と言われている。まさか本当に呪術など有るはずがない。密かに変わっているのを言わないだけだろう」
「…そう、だね」
「?」
少しレイの言葉の引っ掛かりを感じ、アリウスは不思議そうにその表情を見る。しかしレイはそんなアリウスの視線から逃げるように寝台に横になった。
少し疲れたような顔をしてレイは言う。
「ねぇ、アリウス」
「…どうした」
「……おなか、すいた…」
「………何?」
「おなかすいたんだよ~」
「…ああ!それはすまない!そう言えば先ほどから何か音が聞こえると思えば、腹の虫だったか…」
「もう何日も食べてないんだよ~」
朝見た時も思ったが、レイはとても痩せている。もともとなのか飢餓していたからかは知らないが、とにかく空腹らしい。
苦笑しながらアリウスは簡単に衣服を整えた。
「すぐに準備しよう。国王への謁見はその後からでも遅くはない。待っていてくれ。…何か食べれないものはあるか?」
「強いて言えばお肉かな。動物、魚、特に鶏肉。まるで共食いしているような気分になるからね、というより共食いなんだけど」
「…それは、そうだな。俺はよく食べているが、そう言われると申し訳なくなってくる」
「君たち人間は仕方のないことだから気にすることはないさ。食物連鎖は生物が生きる上でとても重要なことだからね。お肉も魚もいっぱい食べて丈夫な体を作るべきだと思うよ」
「それはどうも。食事を持ってくるから少し待っていてくれ。すぐに戻る」
見た目の割に年寄りのようなことを言うレイに、アリウスは頭をかきながら部屋を出て行った。
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