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38.キツいほう

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「中あったかくてめちゃくちゃ気持ちいい…」

呟く犬飼の声が強い欲情の色をはらんでいて、体中にぞくぞくと喜悦が広がった。  
キスされながらズブズブと出し入れすると、意識が蕩けそうになり、桐原の唇からは感じているままに奔放な言葉が迸った。

「犬飼っ!そこ…もっと…ッ」

「ここがいい?」

中をこじ開きながら入ってくる切っ先が気持ちがよい部分を掠める。
もっとそこから生じる快感を味わいたくて、桐原は促すように腰をゆする。欲望のままになまめかしく腰を蠢かす桐原の媚態に犬飼の息使いが荒くなる。

「優しいのと、きついのとどっちがいいですか?」

犬飼がいきなり律動を止めてしまい、桐原は思わず犬飼の腕を掴みしめた。
途中で快感のラインを引き下げられるのは生殺しでつらい。
多分犬飼もそれは一緒なのに、彼が不意に腰を引いたせいで深い快感に耽溺しかけていた桐原は焦れた。

「…っ、そんなの、どっちでもいいからーー」

自ら下肢をこすりつけようとしたが、その度に犬飼が腰を逃がすので思うように快感を味わうことができない。

「ちゃんと言って」

 
『ちゃんとsay言って


これがコマンドならばーーと思うと、どこかで何かがズクンと疼いた気がした。
今の犬飼の言葉はコマンドの力を持たない。
だが、気持ちがない相手とは精神的に深く絡むプレイをしたくないから、これでいいと自分は思ったはずだ。
本能的な欲望よりも、気持ちを優先したのだから桐原は自分の選択肢を後悔はしていない。
それだけは間違いない。

「ーーキツくし・・・あッ!!」

無意識に唇から言葉がもれた瞬間、焦れていたのは桐原だけでなかったらしく、返事をするかしないかというタイミングで犬飼がぐっと押し入ってきて桐原は衝撃に喉をのけ反らせた。
貫く犬飼の張り詰めたモノの熱さに強く求められているのを感じ身体中に歓喜が広がる。そうすると、意図しなくても襞がより相手を感じようと収縮するのがわかった。

「すごい閉まってきた。エロい。気持ちいい」

上ずった声に硬く勃起しきった剛直が感じるいくつかのポイントをあまさず押し上げながら強く抜き差しされ、キツく、と言った通りに容赦ないセックスが与えられる。
強すぎる刺激に無意識に逃げようとする体を引き戻され最奥を突き上げられる度に、桐原の白い内腿から爪先までビクビクと痙攣がはしった。

「…う…あ………」

腰と尻の肉がぶつかる度に境目からグチュグチュという濡れた音が響き、前からも蜜が滴るのがわかる。
シャワーで清めたばかりの下肢が早くも体液とローションでべとべとになった。
高みに押し上げられてはいるが、そこだけでは極められない。高いところからそれ以上は上がることも、しかし下りることもできないままにつらいほどの快楽にさらされた桐原は早く上りつめて終わりたくて自らのものを扱こうとするが、犬飼の手にて首を掴まれて静止されてしまう。

「おい、イかせろよ…!」

「すぐイッちゃったら何回も体力もたないでしょう。今日はキツいのがいいんですよね。だからだめです」

「む、り…」

「我慢して。そのほうがもっと気持ちよくなれるから」

何回もは無理、と言いかけたところで耳もとに囁かれ、マゾヒスティックな官能にゾワッと背筋が食いあらされる。
その先、焦らされ、苦痛にも似た快感の果てを想像するだけでたまらなく感じた。

同時に、きつくしてくれと思わず言ったのは確かに自分だが、明らかに最近以前より被虐的なセックスを好むようなっていることに気づく。
それが満たされていないSUBの性の発露な気がして不安を感じる時があった。

「いっ!」

不意に胸の粒を噛まれ、襞がぎゅうっと閉まる。
犬飼が呻いて欲望を放った。
奥深くにどくどく熱い迸りを感じ、桐原も極まりかけたその瞬間、犬飼に屹立の根本を抑えられ、身悶えた。

「いぬかいっ!はなせ…くる、しい!」

イかせてもらえず体中を吐き出せなかった欲情が渦巻き、視界がちかちか明滅する。絶頂したのにしてないような苦しい快感を逃そうと、桐原は身体を震わせた。
下肢がだるくて熾火のような快感が体の芯に留まり、残っている。
桐原は桐原の様子をあまさすうかがっている犬飼を睨みつける。

「お前、自分だけ…」

桐原はまだ生殺しの状態だ。 
タイミングを外されたので、達するまでまた快感の頂まで上りつめなければいけない。
焦れったいままの身体を持て余していると、犬飼が肉茎を抜き、その刺激で再び桐原を身悶えさせた。
ヌプリと抜かれた瞬間、犬飼の形に開かされてすぐに閉じきれなた穴からどろりと生暖かいものが溢れた。

「やらしい眺め」

「…っ…」

羞恥心が脳を灼く。
犬飼がキスをしてきて口の中を舐められ舌を絡められると、甘い愉悦が生れてまたじりじりと体中の神経が疼き出す。
自らの中の欲望を御そうと荒い息を吐いていると、体勢を入れ替えられられ上にされる。
下になった犬飼が桐原の腰を支えるようにし、狭間に屹立を押し当てた。
吐精をはたしたばかりだというのに、犬飼のそれはすでに硬度をとりもどしかけていたから、手を放されると桐原のそこは苦もなくそれをのみこんでしまう。
自重での深い挿入による鋭い快感に、桐原は思わず犬飼にしがみついた。

「い、っ・・・」

「桐原さん。ねぇ・・・」

するりと、指の間に長い指がすべりこんでくる。
恋人繋ぎをされて、指先で手の甲を撫でられるとその柔らかい刺激は心を撫でられるようで、やたら気持ちよく感じだ。

「ーー名前で呼んだら駄目?」

「・・・じょう、だん、やめろ。社内で間違って呼んだらどうするんだ」

ねだるような口調に、流されまいと応える。

「…そんなことを言うなら、良いっていうまでイかせないようにしようかな」

「お前ーーこのっ!・・・」

口を開くとなにかめちゃくちゃな事を口ばしってしまいそうで、桐原は唇を噛んだ。
そんな桐原から言質をとろうというのか、犬飼の動きが意図を持った巧みなものになる。
いいところばかり狙って突かれると、先程吐精をゆるされなかった肉茎がズキズキ疼いた。
後ろを貫かれる陶酔にも似た快感と、弄られて今は放置されている胸の突起からの切ないようなもどかしさと、身体中で生まれさせられた色々な快感がないまぜになって、わけがわからなくなりそうだった。

桐原が望む通りに手ひどく抱きながらすがるような目をしている犬飼を見ると、何でも聞いてやりたくなるから困る。
コマンドが、グレアが使えなかろうが、一緒にいてやりたい。

そんな事を思いながら、桐原は解放をゆるされないままのいつまでも続くかのような苦しい快感に溺れていった。

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