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14.プレイバー
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「では、お言葉に甘えて」
男はスマートな動作で桐原の横に座った。
そういえば第一声は英語でなまりのない美しい発音をしていたが、さらに男の日本語のは発音も完璧だった。
「日系人?」
「そう。よくわかったね。見た目ではあまりわからないと思うけれども祖父が日本人」
「仕事柄海外の方とよく会うので」
何故わかったのかというと確信したわけではなく、カンみたいなものもある。
容姿だけなら西洋系なのだが、肌の色ときめ細やかさが純粋の白人の白さとはちょっと違うといったとこだろうか。
男は名刺入れから名刺を取り出すと、桐原に渡した。
アメリカの有名なコンサル会社の本社のCOOと日本支社のGMの肩書がある。かなりの立場の人間であることに、さすがに桐原も驚いた。
「アレクシス·カズイ·ライズです。アレクと呼んでください。あなたのことは何と呼べば?」
「…ケイ」
「ケイ、ね」
キリハラもケイジも外国人にとっては発音しずらい。
そのため、桐原は仕事上海外の人と呼びあう必要があるときはケイと名乗っている。
フルネームをいきなり名乗るのははばかられたので、慣れたその呼称を使うのはちょうどよかった。
「日本で仕事を?」
「今はアメリカと日本を行ったりきたりという感じかな。ケイは商社?外資系かな?」
「どうでしょう」
とりあえず無難な会話から始めたものの聞き返され曖昧に誤魔化す。
このような場で自分というものをどれだけさらす必要があるのかわからなかったからだが、アレクシスは桐原の警戒に気を悪くした様子はなかった。
実力に裏打ちされた自信に満ちた態度、強い光を宿す双眸からは理知と威厳が感じられた。
「そんなに警戒しないで。別に私はパートナーには困ってない。落ち着いて飲みたい時にここに来るんだ」
「パートナー探しでなく来る人もいるんですか?」
「普通に交流のために来る人もけっこういるかな。我々みたいなマイノリティにとっては横のつながりも重要だろう?…情報も色々入るし、ビジネスにも役にたつ時もある」
なるほど、と桐原は思った。
プレイバーはただの出会いとかプレイする場というわけでなく、思ったより社交的な場所のようだ。
「来たのは今日始めてなんですが、そんな風に利用されてんですね」
「文字通りプレイしに来る人もいるけどね。でもやはりパートナーは価値観や信頼度ないといいプレイできないから、簡単にパッとくっついたりはしない人のほうが多いかな」
最も私は来るものは拒まずだけどねと言うが、それが嫌味ではないのはさすがの貫禄だった。
確かに、カリスマとでもいうべき雰囲気があり、この男に従いたくなる気持ちはわかるような気がした。
ぽつぽつとプレイバーのあれこれを聞いていると、アレクシスの知り合いらしいSUBの青年が声をかかけてきた。
「アレク、今日はずいぶん美人さん連れてるね」
「連れじゃないよ。今日の初見さんだって。君と同じSUB」
「あ!そうなんですか。はじめまして、ミズキです」
どうやら資産家の息子らしく、今は仕事をしていない高等遊民なのだとうそぶいていたがミズキと名乗った彼は丁寧に色々なことを教えてくれ、途切れがちになる桐原の会話に適度に話題を投げかけたりしてくれ、かなり親切な印象を受けた。
はじめはアレクシスのプレイ相手の一人なのかと思ったのだが、常連になってるうちに知り合いになっただけらしく、桐原と同様にパートナーを探しているらしかった。
「何箇所かプレイバー行ってみたんですが、ここは雰囲気もよいし、変な人は少ないからよく来るんですよ」
偉そうなDOMって最悪ですよね、と、ミズキは笑った。
長期的なバートナーが欲しい人は大体、ぶらっときているうちになんとなく意気投合したり、人ずてに紹介しあうということもよくある流れらしいかった。
「ミズキさんはパートナーは?」
「なかなか見つからないんですよね。前のパートナーが忙しくなってなんとなく自然消滅してしまって。優しくてよい人募集中です」
「アレクは?」
「ああ、アレクは好みが煩いみたいですよ。モテるからプレイ自体は気軽に応じるみたいですが、僕は一人とじっくりプレイしたい派だから」
ミズキは明るく笑い、身を乗り出してきた。
「ケイさん、また来てくださいよ。僕は結構ここでうろついてるんですが、SUBの知りあいが少ないので、嬉しいです。SUB同士でしかわからないこととか話しましょうよし」
「そうですね。また顔を出せたら、来ますよ」
ミズキにねだられて連絡先を交換する。
この夜の成果はそれと、パートナー探しにはどうやら時間がかかるらしいということだった。
男はスマートな動作で桐原の横に座った。
そういえば第一声は英語でなまりのない美しい発音をしていたが、さらに男の日本語のは発音も完璧だった。
「日系人?」
「そう。よくわかったね。見た目ではあまりわからないと思うけれども祖父が日本人」
「仕事柄海外の方とよく会うので」
何故わかったのかというと確信したわけではなく、カンみたいなものもある。
容姿だけなら西洋系なのだが、肌の色ときめ細やかさが純粋の白人の白さとはちょっと違うといったとこだろうか。
男は名刺入れから名刺を取り出すと、桐原に渡した。
アメリカの有名なコンサル会社の本社のCOOと日本支社のGMの肩書がある。かなりの立場の人間であることに、さすがに桐原も驚いた。
「アレクシス·カズイ·ライズです。アレクと呼んでください。あなたのことは何と呼べば?」
「…ケイ」
「ケイ、ね」
キリハラもケイジも外国人にとっては発音しずらい。
そのため、桐原は仕事上海外の人と呼びあう必要があるときはケイと名乗っている。
フルネームをいきなり名乗るのははばかられたので、慣れたその呼称を使うのはちょうどよかった。
「日本で仕事を?」
「今はアメリカと日本を行ったりきたりという感じかな。ケイは商社?外資系かな?」
「どうでしょう」
とりあえず無難な会話から始めたものの聞き返され曖昧に誤魔化す。
このような場で自分というものをどれだけさらす必要があるのかわからなかったからだが、アレクシスは桐原の警戒に気を悪くした様子はなかった。
実力に裏打ちされた自信に満ちた態度、強い光を宿す双眸からは理知と威厳が感じられた。
「そんなに警戒しないで。別に私はパートナーには困ってない。落ち着いて飲みたい時にここに来るんだ」
「パートナー探しでなく来る人もいるんですか?」
「普通に交流のために来る人もけっこういるかな。我々みたいなマイノリティにとっては横のつながりも重要だろう?…情報も色々入るし、ビジネスにも役にたつ時もある」
なるほど、と桐原は思った。
プレイバーはただの出会いとかプレイする場というわけでなく、思ったより社交的な場所のようだ。
「来たのは今日始めてなんですが、そんな風に利用されてんですね」
「文字通りプレイしに来る人もいるけどね。でもやはりパートナーは価値観や信頼度ないといいプレイできないから、簡単にパッとくっついたりはしない人のほうが多いかな」
最も私は来るものは拒まずだけどねと言うが、それが嫌味ではないのはさすがの貫禄だった。
確かに、カリスマとでもいうべき雰囲気があり、この男に従いたくなる気持ちはわかるような気がした。
ぽつぽつとプレイバーのあれこれを聞いていると、アレクシスの知り合いらしいSUBの青年が声をかかけてきた。
「アレク、今日はずいぶん美人さん連れてるね」
「連れじゃないよ。今日の初見さんだって。君と同じSUB」
「あ!そうなんですか。はじめまして、ミズキです」
どうやら資産家の息子らしく、今は仕事をしていない高等遊民なのだとうそぶいていたがミズキと名乗った彼は丁寧に色々なことを教えてくれ、途切れがちになる桐原の会話に適度に話題を投げかけたりしてくれ、かなり親切な印象を受けた。
はじめはアレクシスのプレイ相手の一人なのかと思ったのだが、常連になってるうちに知り合いになっただけらしく、桐原と同様にパートナーを探しているらしかった。
「何箇所かプレイバー行ってみたんですが、ここは雰囲気もよいし、変な人は少ないからよく来るんですよ」
偉そうなDOMって最悪ですよね、と、ミズキは笑った。
長期的なバートナーが欲しい人は大体、ぶらっときているうちになんとなく意気投合したり、人ずてに紹介しあうということもよくある流れらしいかった。
「ミズキさんはパートナーは?」
「なかなか見つからないんですよね。前のパートナーが忙しくなってなんとなく自然消滅してしまって。優しくてよい人募集中です」
「アレクは?」
「ああ、アレクは好みが煩いみたいですよ。モテるからプレイ自体は気軽に応じるみたいですが、僕は一人とじっくりプレイしたい派だから」
ミズキは明るく笑い、身を乗り出してきた。
「ケイさん、また来てくださいよ。僕は結構ここでうろついてるんですが、SUBの知りあいが少ないので、嬉しいです。SUB同士でしかわからないこととか話しましょうよし」
「そうですね。また顔を出せたら、来ますよ」
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