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1.最悪な宣告
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--何もかもがイライラする。
桐原圭司の心はささくれだっていた。
なにせ、不愉快な宣告を受けたばかりなのだ。
新宿の高層ビル群の中でも特に高く、特に新しいビルにあるオフィスフロアは空調で快適な温度が保たれているはずなのだが、そのフロアの部門長である桐原が冷ややかな空気を醸し出していると、それだけで緊迫した空気が漂ってしまう。
やもすると冷淡に見えてしまう端正な美貌だけにその印象は余計強まるのだった。
桐原はまだ29歳と若いが、この現在の職場であるロビンソン インダストリーズに入社するまでにすでに数社を渡り歩いてきた叩き上げである。
ロビンソンは外資のため出世は能力次第だが、その辣腕で若きエース社員として抜きんじて出世しているうちの一人である。日本支部のトップGeneral Managerに次ぐ地位が部門長だから、そんな彼が不機嫌だと影響は大きい。
そんな彼であるが、イライラのもっかの原因は昨日、会社の産業医に呼び出されたことに端を発する。
「先日の健康診断の結果なのですが」
産業医は社員の心身の健康管理等を行ためにいる医師だが、
呼ばれたからには、何か身体に不具合があったのだろう。
最近痛む胃だろうか、それともイライラしっぱなしで脳の血管でも切れる寸前なのだろうか、などと自虐的に考えていた桐原だが、次の医師の言葉に無表情になった。
「あなたのダイナミクスはSUBですよね」
「………はい」
答えたくはない。
ない、が、事実であるので渋々ながら桐原は答えた。
仕事の鬼、鉄面皮、冷徹、威圧的、青い血が流れているなど散々影で言われ、回りからきっとDOMだと思われている桐原だが、実はSUBである。
ダイナミクスとは比較的最近判明した第二の性である。
男女の性とは別に、支配と庇護の性のDOM、被支配と従属の性のSUB、そしてどちらでもないusualが存在する。
そして、DOMとSUBは欲求が満たせない場合体調不良や情緒不安が起こりやすくなるという厄介な性質がある。
この状態は抑制剤を飲めば緩和されるが、信頼できるパートナーを持ち、コマンドという命令を使ったプレイで解消することが最もよいとされる。
だが、桐原は誰かと「プレイ」するなんて、まっぴらごめんだった。
そもそも、自分が人に従い、ひざまずいて歓びを覚えるSUBだなんて、本当は認めたくなんてない。
----SUBだと自認したくないというのは、桐原に限った話ではない。
被虐の性と思われているSUBは一般的にイメージが悪く、からかわれたり偏見の目で見られたり、時にトラブルに発展することも多々ある。そのため、SUBは第二性を隠す傾向にある。
桐原も例にもれずダイナミクスをひた隠しにしているし、普段は抑制剤を飲んでいた。
今までパートナーを持ったことも、持ちたいと思ったこともない。
しかし。
「あなたの血液検査の結果、SUB値が高くなってます。今まで抑制剤を使っていたと思いますが、効きが悪くなってきた感じがしませんか?」
「…いや、自分では全くわかりません」
医師にはそう返したものの、確かに言われてみると以前より全体的に不調なことが多い気もする。
だが、忙しい日々や睡眠不足のせいだと思っていた。
「この値ですと、そのままでは精神不安定や体調不良になる可能性が高いですよ。投薬だけでは限界でしょう。急いでパートナーを探すことをおすすめします」
「そうしないとどうなる?」
「下手すれば死ぬこともありますよ」
脅すように言われて、桐原は頭を殴られたような気がした。
一生薬でやりすごそうと思っていたので晴天の霹靂である。
しかも、パートナーを探せ、と簡単に言うが、見た目でわからないダイナミクスのパートナーはただでさえ見つけるのは難しい。
医師は国が運営しているマッチングのアプリや、施設があることを教えてくれたが、桐原は気が重くなった。
どうにかしてパートナーを見つけなければいけない…ことは理解したが、気持ちは追いつかない。
どこかにドライに割り切って事務的にプレイするだけの、しかも面倒でない相手はいないのだろうか…。
そんな勝手なことを思いながら診断の結果や諸々の案内書類の入った封筒をもらい、憂鬱になりながら自分のデスクに戻る。
机の書類の山の中に何気なく置いたその封筒を、桐原は忙しさにかまけているうちにすっかり忘れてしまった
彼らしくないミスであったが、後から思い返すと意識が散漫になっていたとしか思えない。
桐原圭司の心はささくれだっていた。
なにせ、不愉快な宣告を受けたばかりなのだ。
新宿の高層ビル群の中でも特に高く、特に新しいビルにあるオフィスフロアは空調で快適な温度が保たれているはずなのだが、そのフロアの部門長である桐原が冷ややかな空気を醸し出していると、それだけで緊迫した空気が漂ってしまう。
やもすると冷淡に見えてしまう端正な美貌だけにその印象は余計強まるのだった。
桐原はまだ29歳と若いが、この現在の職場であるロビンソン インダストリーズに入社するまでにすでに数社を渡り歩いてきた叩き上げである。
ロビンソンは外資のため出世は能力次第だが、その辣腕で若きエース社員として抜きんじて出世しているうちの一人である。日本支部のトップGeneral Managerに次ぐ地位が部門長だから、そんな彼が不機嫌だと影響は大きい。
そんな彼であるが、イライラのもっかの原因は昨日、会社の産業医に呼び出されたことに端を発する。
「先日の健康診断の結果なのですが」
産業医は社員の心身の健康管理等を行ためにいる医師だが、
呼ばれたからには、何か身体に不具合があったのだろう。
最近痛む胃だろうか、それともイライラしっぱなしで脳の血管でも切れる寸前なのだろうか、などと自虐的に考えていた桐原だが、次の医師の言葉に無表情になった。
「あなたのダイナミクスはSUBですよね」
「………はい」
答えたくはない。
ない、が、事実であるので渋々ながら桐原は答えた。
仕事の鬼、鉄面皮、冷徹、威圧的、青い血が流れているなど散々影で言われ、回りからきっとDOMだと思われている桐原だが、実はSUBである。
ダイナミクスとは比較的最近判明した第二の性である。
男女の性とは別に、支配と庇護の性のDOM、被支配と従属の性のSUB、そしてどちらでもないusualが存在する。
そして、DOMとSUBは欲求が満たせない場合体調不良や情緒不安が起こりやすくなるという厄介な性質がある。
この状態は抑制剤を飲めば緩和されるが、信頼できるパートナーを持ち、コマンドという命令を使ったプレイで解消することが最もよいとされる。
だが、桐原は誰かと「プレイ」するなんて、まっぴらごめんだった。
そもそも、自分が人に従い、ひざまずいて歓びを覚えるSUBだなんて、本当は認めたくなんてない。
----SUBだと自認したくないというのは、桐原に限った話ではない。
被虐の性と思われているSUBは一般的にイメージが悪く、からかわれたり偏見の目で見られたり、時にトラブルに発展することも多々ある。そのため、SUBは第二性を隠す傾向にある。
桐原も例にもれずダイナミクスをひた隠しにしているし、普段は抑制剤を飲んでいた。
今までパートナーを持ったことも、持ちたいと思ったこともない。
しかし。
「あなたの血液検査の結果、SUB値が高くなってます。今まで抑制剤を使っていたと思いますが、効きが悪くなってきた感じがしませんか?」
「…いや、自分では全くわかりません」
医師にはそう返したものの、確かに言われてみると以前より全体的に不調なことが多い気もする。
だが、忙しい日々や睡眠不足のせいだと思っていた。
「この値ですと、そのままでは精神不安定や体調不良になる可能性が高いですよ。投薬だけでは限界でしょう。急いでパートナーを探すことをおすすめします」
「そうしないとどうなる?」
「下手すれば死ぬこともありますよ」
脅すように言われて、桐原は頭を殴られたような気がした。
一生薬でやりすごそうと思っていたので晴天の霹靂である。
しかも、パートナーを探せ、と簡単に言うが、見た目でわからないダイナミクスのパートナーはただでさえ見つけるのは難しい。
医師は国が運営しているマッチングのアプリや、施設があることを教えてくれたが、桐原は気が重くなった。
どうにかしてパートナーを見つけなければいけない…ことは理解したが、気持ちは追いつかない。
どこかにドライに割り切って事務的にプレイするだけの、しかも面倒でない相手はいないのだろうか…。
そんな勝手なことを思いながら診断の結果や諸々の案内書類の入った封筒をもらい、憂鬱になりながら自分のデスクに戻る。
机の書類の山の中に何気なく置いたその封筒を、桐原は忙しさにかまけているうちにすっかり忘れてしまった
彼らしくないミスであったが、後から思い返すと意識が散漫になっていたとしか思えない。
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