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第三章(3/3)
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第三景
与えられた殿舎の一室で、日に二度三度と送られてくる皇帝からの手紙を読み返していた丹緋は、顔を上げた。
ふと、豈華の戻りが遅いなと思ったのだ。
豈華は今、宮城内の西の端にある洗濯場まで行っている。丹緋の着替えと、この殿舎で使っているいろいろな布を引き取りに行っているのだ。美信に罰を受けたというわりには豈華の手際はよく、仕事は早いので、普段であれば姿を捜したときには戻っている。
けれど、今日は陽も沈みかけているというのに、戻っている気配はない。
(まさか、迷ったなんてことはないわよね……)
迷路のような城内、不慣れな者が歩けば完全に迷子になる。
丹緋は机案の前を行ったり来たりしてから、(捜しにいこう)と決心した。長く室内をうろうろしてしまったのは、あまり城内を把握しておらず、自分が迷子になって迷惑をかけるのではないかと不安になったからだった。
(わたしがしくじれば、その分、お世話係の豈華さんが美信様に叱られるもの)
もう二度と、美信には手を上げてほしくない。なんとか豈華を護りたかった。
大きく深呼吸してから、憶えたての地図を脳内に広げて丹緋は殿舎を出る。
あまり出歩かないので知らなかったが、丹緋の殿舎の周辺には所々に武官が立っている。女の武官もいてどこへ行くのかと尋ねてきたので、ひょっとしたら護衛かもしれない。鈍い丹緋もここに至ってやっと、自分の恵まれすぎている環境を認識したのだった。
皇帝が送ってくれる手紙も、とても情熱的なものばかり。日によっては楽しい物語などを書き写してくれたりしていて、丹緋を退屈させないようにという気づかいがみられた。
(陛下もお忙しいでしょうに)
感謝を表しつつ護衛官に訊きながら、豈華が使うであろう路を進んでいく。
しばらく行って、小さな庭へと続く小路で途方に暮れている豈華を見つけた。
「豈華さん」
珍しく、彼女の背中が丸まっている。見慣れぬ後ろ姿のせいか、急に、知らない人物に思えてしまった。
「遅いなと思って、来てみたんだけれど。……え!?」
丹緋に声をかけられて振り返るその肩越しに、布が散乱しているのが見えた。数日前には雨が降っていた。雨は地面の窪みにいくつかの水溜りをつくっている。濁った水溜りに落ちているのは、衣類。どれも泥だらけになっていたのだ。
転んだのだろう、よくよく見れば豈華の膝のあたりにも泥がついていた。
「どうしたのっ?」
丹緋が尋ねれば、豈華は慌てて頭を下げたあとで紙と筆を取り出した。
「申し訳ありません丹緋様。近道しようと庭を抜ける途中で、水溜りに落としてしまって」
筆を動かす仕種から、丹緋は(違う)と察した。
「これは豈華さんの不注意じゃないんでしょう? なにかあったの?」
今日だけではない。
実は数日前にも、豈華は頭からずぶ濡れで帰ってきた。そのときは『庭師とぶつかって桶の水がひっくりかえったんです』という言葉を疑わなかったけれど。
この感じには覚えがあるのだ。
継母に、異母妹に、嫌がらせされたときと同じ感覚。
心にまでねっとりと絡みついてくるような、昏く澱んだ、痛みをともなう独特の残像。
あまり時間をおかずに何事かが行われた場合、その気配がうっすらと周辺に残るのだ。
わかる者にはわかってしまう、庭にはそれがあった。
丹緋は痛みを知っている。
喉許に不快な塊のようなものがせり上がってくる。
「……誰かに、なにかされたの?」
ねばり強く丹緋が問えば、豈華は観念したようにこくりと頷いた。
「誰かはわからないんです。いきなり後ろから突き飛ばされて」
(やっぱりだ!)
「ねえ、豈華さん。この前もずぶ濡れで戻ってきたでしょう。あのときも、そう?」
間をおいて、また頷きが返る。
「真横から水をかけられました」
「そ、そんな……」
豈華が遣いに出るのは決まった時刻なので、狙って嫌がらせしていることになる。
この季節、午を過ぎた申刻は外気の温度がぐんと下がってくる。冷えた空気の中で水をかければ風邪をひいてしまうかもしれないのに。最悪の場合、心の臓が凍りついて止まってしまうことだってある。
なんで豈華を?
憎むのは誰なのか……。
(……侍女同士で)
そこまで考えて丹緋はハッとなった。
前回、豈華が運んでいたのは、丹緋の身を飾る装飾品だった。玉をふんだんにあしらった腕輪や首飾りは水びたしになるだけでなく、所々が欠けたり壊れたりしていた。二人でそれを磨いてもとに戻すのは、たいへんな作業だったのだ。
今日は、丹緋が使う衣類。ほとんどは皇帝自らが取り揃えたという衣裳だ。
(全部、わたしの物。豈華さんじゃなくて、わたしを憎んでいる……?)
我知らず丹緋は「くっ」と呻いた。
殿舎の周りには武装した護衛がいる。
だから殿舎には近づけない。
丹緋を妬んだとしても、丹緋に恨みつらみをぶつけたくても、対象の女には近寄れないからだ。
卑怯なまねはきっと、采女の誰か。彼女達の仕業だろう。
一緒に入宮したのに、殿舎を与えられたのは丹緋だけ。ほかの采女は未だ、一つの殿舎で共同生活している。自由に使える空間は狭く、身を飾る物も衣裳も質素な品ばかり。
みな、皇帝に愛されるために後宮に入ったのに、夫となったその皇帝には会うことさえかなわない。年齢を重ねる前に――若く美しい頃の出会いに一縷の望みを託し、華やかに生きることを夢みているのに、夢は夢でついえてしまう女人がほとんどなのだ。
夢幻の一夜。彼女らが縋るもの。
たとえ両想いになれず、真実の愛を得られなくとも。皇帝の子を身籠り、出産すれば、後宮という競争社会の中で位を昇格できる。名誉と権力が手に入る。女の矜持によって生き抜くことができるようになる。
同じ采女の位にあっても、丹緋だけはいとも簡単に一線を越えた。
誰かが幸せなら、その影で不幸を、不運を嘆く者がいる。光と影が表裏一体のように。人生の表舞台で光を浴びる者がいれば、その影に潜んで生きていかねばならない者もいて。影の中でうずくまって生きるのが自分だと思っていた。自分には闇こそが似合いだと。
光を望んだわけではないけれど、いつの間にか憎まれて当然の存在になったのだ。
(だからって無関係の豈華さんをっ。ひどすぎるっ)
丹緋はぎゅうっと掌を強く握り締めた。
(これ以上豈華さんを傷つけたくない、わたしが護るって決めたのにッ)
丹緋の前髪がゆらゆらと揺れる。
足許から、閉じた指先から、ふわりと風が湧きあがっていく。
(許せない!)
煙のごとく白くたなびいて渦巻く小さな旋風は身体を包み、徐々に広がって――
「そこのお二方、どうされましたっ」
武官が二人、走ってくる。後方から大声で呼びかけられて。
吹きおこる風が唐突にやんだ。
自分の感情が制御できるようになったときには、豈華は武官二人となにやら筆談で話しこんでいた。
どう説明したのかはわからないが、武官は笑いながら去っていく。
「私達も戻りましょう。丹緋様がお風邪を召されたら、陛下が大騒ぎしますよ」
冗談めかして豈華が筆を振っている。
丹緋は、「あ……うん」と応じるのが精一杯だった。
このときの丹緋には知る術はなかったのだ。
――武官が走り寄る寸前、豈華がどんな表情を浮かべていたのか、など。
その翌日のことだった。
丹緋を「慰めるため」と、豈華が季節はずれに咲いた牡丹を殿舎の前庭へと移してくれたのは。
一輪だけ咲いている大輪の紅い牡丹は、とても華麗に花開いていた。
ここにいるよと自己主張するように。
牡丹はしおれずに咲き誇る。
それから更に数日が経って。
丹緋の耳に噂話が届く。
一緒に入宮した玄素昂も、丹緋と同じ嫌がらせをされているらしいと――。
与えられた殿舎の一室で、日に二度三度と送られてくる皇帝からの手紙を読み返していた丹緋は、顔を上げた。
ふと、豈華の戻りが遅いなと思ったのだ。
豈華は今、宮城内の西の端にある洗濯場まで行っている。丹緋の着替えと、この殿舎で使っているいろいろな布を引き取りに行っているのだ。美信に罰を受けたというわりには豈華の手際はよく、仕事は早いので、普段であれば姿を捜したときには戻っている。
けれど、今日は陽も沈みかけているというのに、戻っている気配はない。
(まさか、迷ったなんてことはないわよね……)
迷路のような城内、不慣れな者が歩けば完全に迷子になる。
丹緋は机案の前を行ったり来たりしてから、(捜しにいこう)と決心した。長く室内をうろうろしてしまったのは、あまり城内を把握しておらず、自分が迷子になって迷惑をかけるのではないかと不安になったからだった。
(わたしがしくじれば、その分、お世話係の豈華さんが美信様に叱られるもの)
もう二度と、美信には手を上げてほしくない。なんとか豈華を護りたかった。
大きく深呼吸してから、憶えたての地図を脳内に広げて丹緋は殿舎を出る。
あまり出歩かないので知らなかったが、丹緋の殿舎の周辺には所々に武官が立っている。女の武官もいてどこへ行くのかと尋ねてきたので、ひょっとしたら護衛かもしれない。鈍い丹緋もここに至ってやっと、自分の恵まれすぎている環境を認識したのだった。
皇帝が送ってくれる手紙も、とても情熱的なものばかり。日によっては楽しい物語などを書き写してくれたりしていて、丹緋を退屈させないようにという気づかいがみられた。
(陛下もお忙しいでしょうに)
感謝を表しつつ護衛官に訊きながら、豈華が使うであろう路を進んでいく。
しばらく行って、小さな庭へと続く小路で途方に暮れている豈華を見つけた。
「豈華さん」
珍しく、彼女の背中が丸まっている。見慣れぬ後ろ姿のせいか、急に、知らない人物に思えてしまった。
「遅いなと思って、来てみたんだけれど。……え!?」
丹緋に声をかけられて振り返るその肩越しに、布が散乱しているのが見えた。数日前には雨が降っていた。雨は地面の窪みにいくつかの水溜りをつくっている。濁った水溜りに落ちているのは、衣類。どれも泥だらけになっていたのだ。
転んだのだろう、よくよく見れば豈華の膝のあたりにも泥がついていた。
「どうしたのっ?」
丹緋が尋ねれば、豈華は慌てて頭を下げたあとで紙と筆を取り出した。
「申し訳ありません丹緋様。近道しようと庭を抜ける途中で、水溜りに落としてしまって」
筆を動かす仕種から、丹緋は(違う)と察した。
「これは豈華さんの不注意じゃないんでしょう? なにかあったの?」
今日だけではない。
実は数日前にも、豈華は頭からずぶ濡れで帰ってきた。そのときは『庭師とぶつかって桶の水がひっくりかえったんです』という言葉を疑わなかったけれど。
この感じには覚えがあるのだ。
継母に、異母妹に、嫌がらせされたときと同じ感覚。
心にまでねっとりと絡みついてくるような、昏く澱んだ、痛みをともなう独特の残像。
あまり時間をおかずに何事かが行われた場合、その気配がうっすらと周辺に残るのだ。
わかる者にはわかってしまう、庭にはそれがあった。
丹緋は痛みを知っている。
喉許に不快な塊のようなものがせり上がってくる。
「……誰かに、なにかされたの?」
ねばり強く丹緋が問えば、豈華は観念したようにこくりと頷いた。
「誰かはわからないんです。いきなり後ろから突き飛ばされて」
(やっぱりだ!)
「ねえ、豈華さん。この前もずぶ濡れで戻ってきたでしょう。あのときも、そう?」
間をおいて、また頷きが返る。
「真横から水をかけられました」
「そ、そんな……」
豈華が遣いに出るのは決まった時刻なので、狙って嫌がらせしていることになる。
この季節、午を過ぎた申刻は外気の温度がぐんと下がってくる。冷えた空気の中で水をかければ風邪をひいてしまうかもしれないのに。最悪の場合、心の臓が凍りついて止まってしまうことだってある。
なんで豈華を?
憎むのは誰なのか……。
(……侍女同士で)
そこまで考えて丹緋はハッとなった。
前回、豈華が運んでいたのは、丹緋の身を飾る装飾品だった。玉をふんだんにあしらった腕輪や首飾りは水びたしになるだけでなく、所々が欠けたり壊れたりしていた。二人でそれを磨いてもとに戻すのは、たいへんな作業だったのだ。
今日は、丹緋が使う衣類。ほとんどは皇帝自らが取り揃えたという衣裳だ。
(全部、わたしの物。豈華さんじゃなくて、わたしを憎んでいる……?)
我知らず丹緋は「くっ」と呻いた。
殿舎の周りには武装した護衛がいる。
だから殿舎には近づけない。
丹緋を妬んだとしても、丹緋に恨みつらみをぶつけたくても、対象の女には近寄れないからだ。
卑怯なまねはきっと、采女の誰か。彼女達の仕業だろう。
一緒に入宮したのに、殿舎を与えられたのは丹緋だけ。ほかの采女は未だ、一つの殿舎で共同生活している。自由に使える空間は狭く、身を飾る物も衣裳も質素な品ばかり。
みな、皇帝に愛されるために後宮に入ったのに、夫となったその皇帝には会うことさえかなわない。年齢を重ねる前に――若く美しい頃の出会いに一縷の望みを託し、華やかに生きることを夢みているのに、夢は夢でついえてしまう女人がほとんどなのだ。
夢幻の一夜。彼女らが縋るもの。
たとえ両想いになれず、真実の愛を得られなくとも。皇帝の子を身籠り、出産すれば、後宮という競争社会の中で位を昇格できる。名誉と権力が手に入る。女の矜持によって生き抜くことができるようになる。
同じ采女の位にあっても、丹緋だけはいとも簡単に一線を越えた。
誰かが幸せなら、その影で不幸を、不運を嘆く者がいる。光と影が表裏一体のように。人生の表舞台で光を浴びる者がいれば、その影に潜んで生きていかねばならない者もいて。影の中でうずくまって生きるのが自分だと思っていた。自分には闇こそが似合いだと。
光を望んだわけではないけれど、いつの間にか憎まれて当然の存在になったのだ。
(だからって無関係の豈華さんをっ。ひどすぎるっ)
丹緋はぎゅうっと掌を強く握り締めた。
(これ以上豈華さんを傷つけたくない、わたしが護るって決めたのにッ)
丹緋の前髪がゆらゆらと揺れる。
足許から、閉じた指先から、ふわりと風が湧きあがっていく。
(許せない!)
煙のごとく白くたなびいて渦巻く小さな旋風は身体を包み、徐々に広がって――
「そこのお二方、どうされましたっ」
武官が二人、走ってくる。後方から大声で呼びかけられて。
吹きおこる風が唐突にやんだ。
自分の感情が制御できるようになったときには、豈華は武官二人となにやら筆談で話しこんでいた。
どう説明したのかはわからないが、武官は笑いながら去っていく。
「私達も戻りましょう。丹緋様がお風邪を召されたら、陛下が大騒ぎしますよ」
冗談めかして豈華が筆を振っている。
丹緋は、「あ……うん」と応じるのが精一杯だった。
このときの丹緋には知る術はなかったのだ。
――武官が走り寄る寸前、豈華がどんな表情を浮かべていたのか、など。
その翌日のことだった。
丹緋を「慰めるため」と、豈華が季節はずれに咲いた牡丹を殿舎の前庭へと移してくれたのは。
一輪だけ咲いている大輪の紅い牡丹は、とても華麗に花開いていた。
ここにいるよと自己主張するように。
牡丹はしおれずに咲き誇る。
それから更に数日が経って。
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