赤髪

碧井永

文字の大きさ
上 下
5 / 8

しおりを挟む
   4

 

 タクシーに乗っても、私の頭の中はまとまらなかった。
 写真の兄は、大学生のころに違いない。私と兄は、歳が三つ離れている。私と乃木さんも三つ、ということは、兄と同級になる。ならば友人でも不思議はない。
 雲雀ひばりという名も滅多にあるものではない。私が史矢ふみやの妹であると気づかないはずがないのに、どうして乃木さんが黙っていたのか、その真意がつかめないから苛々した。
 それに、怖かった。
 自分が生きるためにも、家族のことは忘れてしまったほうがいいと思っていた。生きることは難しく、死ぬことは簡単だから。あっけなく人は死ぬから、家族につられて死を選ばないようにと、そう思っていたのだ。
 けれど、どうしてか。
 乃木のぎさんとの距離が近づくにつれ、家族のことを思い出す時間が増えてしまった。これでもし、兄と友人だったなら。それを知ったら、私は果たして平常心でいられるだろうか。
 自信がないから怖いのだ。
 記憶が過去へと1ページずつ捲れていく。
 どうしても思い出してしまう。
 仕事が忙しかった父とは、年々話す時間が減っていたが、ちょっとでも会話をすれば空いた時間はすぐに埋まった。それだけ父は、家族のことをちゃんと見ていた。どれだけ仕事で疲れていようとも、それを家族に愚痴ることなく、八つ当たりすることもなく、家のことを第一に考えていた。男同士で、しかも長男だからか、とりわけ兄とは仲がよく、兄が成人してからは二人で飲みに出かけることも多かった。
 働き盛りの父と遊び盛りの兄、普通の家庭ならば個人主義真っ盛りであろう二人が、世間を無視するように肩を並べていそいそと出かけて行く。私は母に「妬けちゃうね」と笑って言ったものだが、生真面目なところがある母は「妬けてしまうくらいが、ちょうどいい家族の幸せなのよ」と、ほぼかわらなくなった二つの背中を静かに見つめていた。
 母は高校生のころ華道を習っていたらしく、玄関にはいつも、家族を出迎えるように生け花が飾られていた。
 ストレリチアが好きで、毎年この季節になると別名・極楽鳥花と呼ばれる派手な花が生けてあったものだった。
 
 冬の花、ストレリチアには赤いリボンが似合うのだ。

 夜のかなり遅い時間だが、構わず私は乃木さんを訪ねた。「どうしたの?」と訊かれ、私は玄関の三和土入り口に突っ立ったままで、定期券ケースを差し出した。
「あの、定期券が私のバッグの中に混ざってしまったみたいなので」
 受け取りながら乃木さんは、「見つかってよかったよ」と笑った。「わざわざ」と言いかけたところで、彼の言葉を遮るようにして私は切り出した。
「すみません、ケースの中を見てしまいました」
 乃木さんは、なにを言うでもなく黙っていた。
「それ、兄です。私の」
 彼はどう切り返すだろうか。
 そんな戸惑いがバカみたいに感じる速さで彼はこたえる。
「うん、知ってた。大学時代の、俺の唯一無二の親友だから」
 やっぱりか。
 私は自分の至らなさを呪った。
 兄が死んだとき、兄のケータイに登録されている人間には片っ端から電話をかけた。知っていることがあるなら教えてほしい、と。友人ならば、そのときには乃木さんにも連絡をしていたはずなのに。記憶から消したくて、憶えていなかったのだ。
 忘れたかったのに。
 もうダメだ。
 考えるより先に、「お願いです」と叫んでいた。
「兄はなにかを調べていたんです。父と母があんなふうに死んでしまって。あの日まで、ずっと様子がおかしくて、私、心配していたのに」
 差し延べられた乃木さんの手をつかんだ。
「いつも安全運転してたのに、事故に遭うなんておかしいです。きっとなにかよくないことを考えていてハンドル操作を誤ったに違いないんです。お願いです、あの1ヵ月で兄がなにを調べていたのか、なにを考えていたのか、知っているなら教えてください」
 家までは、あと少しの距離だった。
 外が騒がしくなって、嫌な予感がした私は家を飛び出した。慣れたはずのカーブを曲がりきれず、煉瓦塀に突っ込んだ兄の車がそこに停まっていた。大した事故ではないように見えたのに、運転席の兄は血まみれで。
 頭から流れる血が目に入ったからか、記憶に残る兄の両眼は赤い。
 薄暮に降り出した雪は、流血のせいで紫色に染まっていた。
 泣いても人生はかわらない。誰も助けてくれない。ならば新しい人生を生きるしかない。
 けれど、手がかりがあるのなら。
「警察に言ったのに、なんにも調べてくれなかったんです」
「俺が悪かった」
 なにを謝ったのか、わからなかった。「頼むから部屋へあがってくれないか」と言われ、そこでやっと私は、泣いていることに気づいたのだった。

「電話をかけてきてくれただろ? 10年前に、史矢のことで」
 ソファに座ると、乃木さんはホットミルクを出してくれた。
「俺は子どものころからずっと、人とうまく付き合うことができなくて、独りでいるのが当たり前だったんだ。かまわれると、逆にうんざりしてしまうくらいで。でもね史矢は、俺が迷惑そうにしてるのにドカズカと俺の領域に入ってきて、独りにさせてくれなかった。ほっといてくれと何度も言ったのに、しつこくまとわりついてきて。気づけば唯一の友だちになってたよ」
 大学時代が懐かしいと、乃木さんは小さく笑った。
「雲雀さんが電話をくれた日、俺はケータイを忘れて出かけていたんだ。元々友だちがいないから、そういうのを持つ癖がなかったんだよ。そんなところも、よく史矢に怒られたな」
 ごめん、と乃木さんは謝った。
「電話には親父が出て、伝言も預かってたのに。用件を聞いて、友人のことだからなにかしてあげたいと思った。けど、できなかったんだ」
 長い沈黙のあとで乃木さんは、「その直後、親父が行方不明になったからね」と言った。
 私は情けなくなって俯いた。
 人には人の人生があり、そこには事情があるのに、そんなことも考えず彼に一方的に詰め寄ったのだ。
「俺は後悔したよ。なんであのとき妹さんの力になってあげなかったのか、って。たった一人の大切な友だちのことなのに、自分の事情を優先させた心の狭さに腹が立った。だから10年経って雲雀さんが面接に来たときに、今度こそって思ったんだ」
 職がなく困っている私のために、強く推薦してくれたのだ。
 私がたくさんの意味を込めて「すみません」と謝ると、察したらしい乃木さんは、また小さく笑った。
「兄の様子がおかしいと思ったことはなかったですか?」
「うん、ごめん。俺と史矢の後期試験の最終日がバラバラだったってのもあるんだけど、それぞれ1月の終わりから春休みに入ってしまうだろ? そのころ会ってないんだよ」
 兄の交通事故は2月の終わり。すべては2月に起こったことだ。
「最初に死んだのは、父でした。服毒自殺で」
 学校が終わり家に帰ると、母が書斎のドアの前で半狂乱になっていた。
 驚いた私が駆け寄ると、それでも母親としての意識が働いたのか、母はドアを塞いで中を見せようとしなかった。あとで聞いた話だが、その日、父は会社を休んだらしいのだ。突然帰ってきた父に母も驚いていると、父はそのまま書斎にひきこもってしまったという。しばらくして様子を見に行った母は、吐瀉物にまみれた父の死体を見つけたらしい。あまりにも酷い姿で、私に見せたくなかったのだそうだ。
「その次が母でした。私、一緒に夕飯の支度をしてたんです。隣で野菜を切っていたのにまな板を叩く音が不自然にやんで、私がそちらを見たときには母は泣いていて。突然、包丁で髪を切り出したんです」
 引きちぎるようにザクザクと、母は髪を切っていた。耳まで切れていたのに、痛みなんてどうでもいいという顔をしていた。あまりのことに、私はどうすることもできなかった。声も出ず、身体も動かず、怯えるように私は突っ立っていた。
「一瞬のことでした。止める間もなくて。握っていた包丁で、母は喉を掻き切りました」
 ざっくりとあいた喉の傷から、血がだらだらと垂れていた。ひゅうひゅうとこすれるような母のか細い息遣いが、今でも鮮明に甦る。でも、それだけだ。なにをどうしてどうなったのか、よく憶えていない。目覚めとともに兄の顔が視界に飛びこんできただけだった。
「兄はそのときのことを私に思い出させたくなかったのか、なにも訊きませんでした。淡々と葬儀の準備を進めるだけで。自分だって苦しいはずなのに、私の心配ばかりしていて、どこまでも優しかった」
 思えば、あのころから様子がおかしかったのだ。
「兄妹なんだからと、口癖のように呟くようになりました。最初は私が心配だから、不安にさせないようにそう言ってるんだと思っていたんですが」
 考えこむように難しい顔をして黙ることが多くなった。食事もとらないようになった。「お前は大丈夫だ」「俺がなんとかする」と壊れたロボットのように繰り返すようになって、ようやく私も、兄の異変に気づいたのだった。
「なんとかするって兄が言ったとき、今後の生活のことを言ってるんだと思っていたんです。でも、きっと、違ったんです。父も母も兄も、なにか問題を抱えていて、それで」
 三人は立て続けに死んだ。
 そうとしか、考えられない。
「スポーツクラブもバイトも休むようになって、私が学校へ行っている間はずっと家にいたようでした。なにかを探しているふうだったんですが、訊いてもうまく話を逸らされて」
 帰宅するたびに、家具がちょっとずつズレていた。それは父と母のものばかりで、明らかになにかを探していたのに、兄は「気のせいだよ」と笑うばかりだった。
「史矢はほかになにか言ってた?」
 なにも言わなかったのだ。兄との最後の数日間には、それだけの会話しかなかった。
「雲雀さんはどうしたいの?」
 乃木さんの口調は、責めているわけでも詰問しているわけでもない、普段どおりの柔らかいものだったが、どうしてか胸に突き刺さるような痛みを覚えた。
「前に雲雀さんがこの家に来たとき、俺は親父の話をしただろ? あれ、わざとなんだ。あの話につられて雲雀さんも家族の話をしてくれたら、きっとそのことを引きずっているだろうから力になろうと思った。でも、雲雀さんは話さなかったし、そもそも俺のことすら憶えてなかったよね? だから俺、雲雀さんは忘れようと努力してるんだと思ったんだ」
 史矢のことを黙っていたのもそれでだよ、と続けた。
 このとき私は、乃木さんの顔を見ていてひとつ気づいた。
 話の内容と表情が時々一致しないのは、彼なりに苦しみを乗り越えて、感情をセーブできるようになったからではなかろうか。私も乗り越えたのだ、ここで、来た道を戻りたくはなかった。
「乃木さんて、鋭いですね。私の考えてることなんてお見通しって感じで、言葉が胸に痛いですよ。本当にそのとおりなんです、私は残りの人生を独りで生きていかなくちゃならないから、感情が負のほうに振れる想い出は忘れようとしてました。だから、もういいんです」
『どうしたいの?』
 そう訊かれて胸が痛んだのは、忘れたかったから。
 人はいつでも死ねる。
 父と母のように、死ぬ日は自分で決められる。兄のように、望まずとも死んでしまうことがある。だったらもう少し生きてみてもいいではないか。所詮それが死を前提にした人生でも、生き続ければなにかがかわるかもしれないのだ。
「ずっと独りで生きていくつもり?」
「そうですね。なんやかんや言っても私、トラウマがありますので。尖端恐怖症もそうですし、料理するのも一苦労の女と付き合おうっていう度胸のある男性っていないでしょうからね。それに乃木さんには見られてしまいましたけど、これからだってなにかがキッカケとなって家族のことで取り乱すかもしれないです。それを考えたら、家族をもつことになる結婚なんて無理ですよ」
「度胸はあるよ俺」
 いきなりのことで、私は返事が遅れた。「はい?」と聞き返してしまったほどだ。
「雲雀さんが取り乱すところも目撃したし、俺に遠慮することなんてもうないだろ?」
 それもそうだなと、私は頷いた。
 だが乃木さんは、物足りなさそうな顔をした。
「ああ、いや、ええっと」
「あ、すみません。夜も遅いのに、遠慮もナシに押しかけて。もう帰ります」
 彼は「そうじゃない」と動揺まじりの大きな声を出した。
 らしくないせいで、私の肩がちょっとだけ跳ねるほどの。
「俺ね、学生のころに雲雀さんと史矢が並んで歩いてるのを何度か見かけたことがあるんだ。俺は一人っ子だから、最初はすごく憧れた。仲のいい兄妹だなって、羨ましく思っていたんだ。史矢の隣で、雲雀さんはいつも笑ってて、俺は他人のことには無関心だったのに、二人には無感情でいられなかった」
 史矢の妹さんだからってこともあっただろうけど、と聞き取るのがやっとの早口で付け足した。
 いつもの乃木さんとは微妙に雰囲気が違ったし、なによりこちらに目を向けないことが気にかかり、私は言葉を挟むことなく黙っていた。
「ああ、いや、つまりね」
 好きだったんだ、と言われた。
 うまく頭が回らなかった私は、「ありがとうございます」とだけ答えた。
 なんとも居心地悪そうに乃木さんが座りなおした拍子に、腕を縫った痕がちらりと見えた。それで私は、今までの彼とのやり取りを思い出し、その優しさに納得したのだ。
 そして、もうひとつ納得した。
 優しくされて嬉しかった理由は極めて単純明快だった。
 
 私も彼を好きだったのだ、と。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

硝子のカーテンコール

鷹栖 透
ミステリー
七年前の学園祭。演劇部のスター、二階堂玲奈は舞台から転落死した。事故として処理された事件だったが、七年の時を経て、同窓会に集まったかつての仲間たちに、匿名の告発状が届く。「二階堂玲奈の死は、あなたたちのうちの一人による殺人です。」 告発状の言葉は、封印されていた記憶を解き放ち、四人の心に暗い影を落とす。 主人公・斎藤隆は、恋人である酒井詩織、親友の寺島徹、そして人気女優となった南葵と共に、過去の断片を繋ぎ合わせ、事件の真相に迫っていく。蘇る記憶、隠された真実、そして、複雑に絡み合う四人の関係。隆は、次第に詩織の不可解な言動に気づき始める。果たして、玲奈を殺したのは誰なのか? そして、告発状の送り主の目的とは? 嫉妬、裏切り、贖罪。愛と憎しみが交錯する、衝撃のミステリー。すべての謎が解き明かされた時、あなたは、人間の心の闇の深さに戦慄するだろう。ラスト数ページのどんでん返しに、あなたは息を呑む。すべての真相が明らかになった時、残るのは希望か、それとも絶望か。

騙し屋のゲーム

鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。

授業

高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
 2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。  中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。  ※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。  ※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。

復讐の旋律

北川 悠
ミステリー
 昨年、特別賞を頂きました【嗜食】は現在、非公開とさせていただいておりますが、改稿を加え、近いうち再搭載させていただきますので、よろしくお願いします。  復讐の旋律 あらすじ    田代香苗の目の前で、彼女の元恋人で無職のチンピラ、入谷健吾が無残に殺されるという事件が起きる。犯人からの通報によって田代は保護され、警察病院に入院した。  県警本部の北川警部が率いるチームが、その事件を担当するが、圧力がかかって捜査本部は解散。そんな時、川島という医師が、田代香苗の元同級生である三枝京子を連れて、面会にやってくる。  事件に進展がないまま、時が過ぎていくが、ある暴力団組長からホワイト興産という、謎の団体の噂を聞く。犯人は誰なのか? ホワイト興産とははたして何者なのか?  まあ、なんというか古典的な復讐ミステリーです…… よかったら読んでみてください。  

Springs -ハルタチ-

ささゆき細雪
ミステリー
 ――恋した少女は、呪われた人殺しの魔女。  ロシアからの帰国子女、上城春咲(かみじょうすざく)は謎めいた眠り姫に恋をした。真夏の学園の裏庭で。  金木犀咲き誇る秋、上城はあのときの少女、鈴代泉観(すずしろいずみ)と邂逅する。だが、彼女は眠り姫ではなく、クラスメイトたちに畏怖されている魔女だった。  ある放課後。上城は豊(ゆたか)という少女から、半年前に起きた転落事故の現場に鈴代が居合わせたことを知る。彼女は人殺しだから関わるなと憎らしげに言われ、上城は余計に鈴代のことが気になってしまう。  そして、鈴代の目の前で、父親の殺人未遂事件が起こる……  ――呪いを解くのと、謎を解くのは似ている?  初々しく危うい恋人たちによる謎解きの物語、ここに開幕――!

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

処理中です...