桜ノ森

糸の塊゚

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2章:望執dream truth.

目が覚めて、そして。

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 『ボク、病室の外で待ってるからねぇ、何かあったら呼んでねぇ!』

 そう言いながら直季が病室を出ていき、あまり話したことのない実父と二人きりにされて数分間程経つものの、その間オレらは二人揃って無言で目も合わせられない程の気まずい空間が出来上がっていた。

 「……直季君、だっけ。優しくて良い友達が出来たんだね」

 そう言って先に沈黙を破ったのは親父だった。

 「あの子ね、君が轢かれた後からずっと傍を離れなくてね。他の子達が何を言っても『勇樹くんが目が覚めるまでは絶対に帰らない』って譲らなかったんだよ」

 実に直季らしい話だ。穏やかそうな雰囲気を発しといてあいつは意外と頑固な奴で、一度こうと決めたら中々意見を変えたりしない奴だったとオレは笑う。
 そんなオレを見た親父は、少し目を丸くすると、酷く優しい顔で微笑んだ後、再び後ろめたそうに目を逸らした。

 「……ごめんね」

 とても小さい声だった。学園で演説をした時のような堂々とした佇まいはなりを潜めたまま親父は続ける。

 「今となってはただの言い訳にしかならないけど、僕が全てを知ったのは優香ちゃん……君のお姉さんが亡くなった時だった。君たちをどうにかあの家から解放したいって思って目の前の事ばかりに集中しすぎたせいで、また僕は肝心な事に気づけないまま、あんな事になってしまって。……正直な事を言うなら、あのまま君が辛く苦しく生きているくらいなら、死んでいた方が良いかもしれない、なんて思って」

 「本当に、僕は最低な人間で、父親失格だよね」と大粒の涙を零しながら笑う親父にオレは、別に、と小さく呟いてから口を開いた。

 「別に、あんただけが悪い訳じゃ……というかそもそも悪いのはオレらを引き離したあのクソジジイだろ。……それに、最低なのはオレもだよ。オレ、あんたの話を何一つ聞かないままこうだっけ決めつけて……傷つけたんだし。だから、オレも謝る。ごめん」
 「そんな、勇樹が謝る必要なんて……」
 「あー!もう、ごちゃごちゃうっせぇな!お互い謝ったし今までの事は全部チャラ!それで良いだろ!?」
 「でも、」
 「い、い、だ、ろ!?」

 そのオレの剣幕に親父は戸惑いながらも「う、うん」と頷いた。そのまま二人で笑いながら今まであったことやこれからの事を話し合って朝。仕事があるのに帰りたがらない親父を直季と二人で蹴り出して、午後には直季から連絡を貰ったらしい間乃尋達がお見舞いにやってきた。

 「わざわざ見舞いになんか来なくても、目は覚めたし怪我も特にねぇから今日には学園に帰るぜ」
 「あれ、悠仁さん……お父様とは暮らされないんですか?」
 「まぁな。学園は完全寮制だし、今更他の高校通ったとしても馴染める気しねぇし、親父と話し合って卒業するまでは擂乃神学園に通う事にした」

 意外そうに目を丸くして聞いてくる奏にそう返すと、にんまりと意地悪そうに笑う尋希が口を開く。

 「おやおやおやぁ?そんなこと言って本当は僕らと離れたくないだけなんじゃないですか~?先輩ったら寂しがり屋さんですね~。そうですかそうですか。そんなに僕と離れるのが嫌ですか。ならしょうがない、この心が広く慈悲深く優しい尋希くんが先輩のそばに居てあげましょう!いやぁ仕方ないですよね~!勇樹先輩がこんなにも懇願してくるんでね~!!」
 「ん、頼むよ」
 「えっ」

 からかい混じりにそうまくし立てて来た尋希にそう返すと、尋希はもちろん、尋希を止めようとしていた奏とにこにこと笑って会話を見ていた直季も驚いたのか固まった。

 「なんだよ。なんかあるなら言えよ」
 「あぁ……いえ。いつもの勇樹先輩なら『どれだけ自己評価高いんだよ』くらい言うかと……」

 確かにいつもなら言ったかもしれない。多分尋希もそう言われる事を想定してたんだろう。それでもあんな夢を……自分の理想の世界を見てしまった今なら少しくらい素直になったって良い、とそう思った。

 「勇樹の病気って確か理想の世界を創り出す夢を見せるんだっけ。どんな夢を見てたんだ?」
 「……秘密だよ、誰にも教えない」

 いつもの無表情でそう聞いてくる間乃尋に、思いっきり笑って返す。自分の理想が"いつもみたいに直季達と学園生活を送る事"、だなんて恥ずかしくて到底言えやしないのだから。











 だんだん暗くなっていく夕暮れ。あの世界の紅色とは違うそれを眺めながら擂乃神学園へと帰路を急ぐ。
 前では直季が間乃尋と奏に絡んでいて、珍しく尋希がオレの横を静かに歩いていた。

 「なぁ、尋希」

 そうオレが話かけると、尋希はこちらに振り向かないまま「なんですかー?」と軽く返してくる。

 「花術の代償を払わず使う方法ってあんの?」

 あの夢世界で死神は花術を使うには代償が要る、と話していた。そして、こうも言っていた。『"俺みたいな化け物は例外"』と。そんな方法があるなら、幼い頃花術を使って助けてくれた人ももしかしたら五体満足で生きているかもしれなくて、そう思って聞いてみたのだが、尋希がその問いに立ち止まった事に気がついた。

 「どこで……」
 「あ?」
 「どこで知ったんです?花術の事」

 感情の抜け落ちた様な無表情でそう言う尋希に、「夢世界で少し」と返して続ける。

 「あの世界に原住民が居てよ。オレがかかってた……真偽夢病だっけ?それは花術の後遺症みたいなもので、かけられた人間はその時負ったどんな傷を治す代わりに真偽夢病になるって」
 「そんな人いるんですか?……兄さん達には話さないでくださいよ。真偽夢病は僕の故郷に伝わる奇病だって話してあるんで」

 そう言いながら尋希は先を歩き始めた。この様子だとあの世界で会った死神の事は話さない方が良いのかもしれない。

 壊れゆく世界。屋上から落ちていくオレを見下ろしながら死神が言った言葉。

 『あいつの……尋希の笑顔を見させてくれてありがとう』

 そう言って笑う死神の顔は今よりも幼く見えたが、間違いなく間乃尋そのもので。それが本物なのかは分からないが、それでも、あの死神はあの世界で創られたいつもの尋希を見た。ただそれだけの事でオレを助けてくれたのだ。

 「先輩?置いていきますよ?」

 そう言って振り返る尋希に笑ってオレは「悪い」と駆け寄る。
 ────そう言えば、オレもお礼を言いそびれてたな、と思いながら。
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