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深悔marine blue.
魔法大会
しおりを挟む───海で奏が溺れてから丁度一週間後。
いつものメンバーで俺は学園の食堂で昼食をとっていた。
俺の目の前でパスタを食している奏は、あの後勇樹が呼んでいた救急車に運ばれて、病院や学園の研究室で色々と検査を受けたものの、体調に別状は無く、今では普通に夏休みを満喫している。
「いやぁ、でも良かったねぇ。奏くん元気になってさ」
「ん、まぁそうだな。……つってもあんな無茶は勘弁して欲しいけどな」
天丼を食べている直季と、コーヒーだけをすすっている勇樹がそう言うと、奏は手を止めて頭を下げて、「……その節はご迷惑をお掛けしました」と丁寧に言う。
それに対して蕎麦を食べていた尋希が茶化すように口を開いた。
「全くもう、そうですよ!泳げないってんのに無茶はダメなんですからね!」
「言っとくけどオレはお前にも言ってんだからな。人の静止を聞かずに駆け出して行った尋希、お前にもな」
「あ、あれぇ……これが巻き込み事故ってやつですかねぇ……」
「勇樹くんすっごい心配してたからねぇ。まぁ暫くは大人しく怒られておきなよ、だねぇ」
「ひ、ひぇぇ……兄さん助けて下さぁい!」
「えっ、えっと……ごめん 」
俺がそう言うと、尋希は泣き真似をしながら「仲間がどこにも居ない!!」と叫ぶ。
それに対して奏がうるさい尋希、と言うと尋希はすぐに泣き真似を辞めて口を開いた。
「まぁ、そんなに心配しなくたって大丈夫でしたって。水は僕を裏切りませんから」
「んだよ、それ。もしかしてそれがお前の魔法か?」
勇樹にそう問われた尋希はにこりといつも通りの笑顔で「まぁ、似たようなものですよ」と言う。
その尋希の答えに勇樹は何かを考え込む仕草をしたと思ったら不意に直季が、「魔法、と言えばそろそろアレの時期だよねぇ」と言った。
「アレ?」
「ん?あぁ、魔法大会か。そういやそろそろそんな時期だな」
「間乃尋くんは知らないよねぇ?魔法大会って言うのはね……」
直季と勇樹曰く、この擂乃神学園では毎年夏場に開催されるクラスごとにチームを振り分けて、魔法の実力を図るための大会らしい。
「……って言っても、別に魔法を使わなくてもいいんだけどな。怪我さえさせなければ何をしても良いんだよ」
「まぁ、完全な身体能力で、っていうのは無理があるし、魔法に自信がある人しか出ないんだけどねぇ。勇樹くんは去年に続けて今年も出るんでしょ?」
「まぁな。オレが出るって言わなくても結局出る羽目になるだろうし」
「そうだねぇ。ボクも今年最後だし思い出作りに出ようかねぇ」
「お、良いんじゃねぇの?」
そのまま魔法大会について話し合う二人を横目に見ていると、尋希は奏はどうするのか聞いているのが聞こえた。
しかし奏は心ここにあらずの様子で、ぼうっとしながら紅茶をすすっていて、それに尋希が奏の体をゆすりながら「かーなーでー!無視しないで下さいよ!泣きますよ!?」と言う。
「えっ?……あぁ、ごめん。考え事してた」
「もう、本当に大丈夫ですか?最近奏よくそうやってぼうっとしてません?この前なんかスーパーで買い物してる時素麺を買うって言いながらこんにゃくを買ってましたよね。何かあったんです?」
「……別に。お前には関係ないだろ」
奏は尋希にそう冷たく突き放すと、未だ魔法大会について話し合っていた勇樹達に向き直って、「すみません。お先に失礼します」と言って席を立って、そのまま食堂から出て行く。
その様子を尋希はじっと見つめた後、小さくため息を吐いて、いつもの笑顔じゃなく、何の感情も見えない無表情で小さく呟いた。
「ま、確かに僕には関係無い、か 」
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