桜ノ森

糸の塊゚

文字の大きさ
上 下
12 / 26
深悔marine blue.

魔法大会

しおりを挟む

 
 ───海で奏が溺れてから丁度一週間後。
 いつものメンバーで俺は学園の食堂で昼食をとっていた。
 俺の目の前でパスタを食している奏は、あの後勇樹が呼んでいた救急車に運ばれて、病院や学園の研究室で色々と検査を受けたものの、体調に別状は無く、今では普通に夏休みを満喫している。
 
 「いやぁ、でも良かったねぇ。奏くん元気になってさ」
 「ん、まぁそうだな。……つってもあんな無茶は勘弁して欲しいけどな」
 
 天丼を食べている直季と、コーヒーだけをすすっている勇樹がそう言うと、奏は手を止めて頭を下げて、「……その節はご迷惑をお掛けしました」と丁寧に言う。
 それに対して蕎麦を食べていた尋希が茶化すように口を開いた。
  
 「全くもう、そうですよ!泳げないってんのに無茶はダメなんですからね!」
 「言っとくけどオレはお前にも言ってんだからな。人の静止を聞かずに駆け出して行った尋希、お前にもな」
 「あ、あれぇ……これが巻き込み事故ってやつですかねぇ……」
 「勇樹くんすっごい心配してたからねぇ。まぁ暫くは大人しく怒られておきなよ、だねぇ」
 「ひ、ひぇぇ……兄さん助けて下さぁい!」
 「えっ、えっと……ごめん 」
 
 俺がそう言うと、尋希は泣き真似をしながら「仲間がどこにも居ない!!」と叫ぶ。
 それに対して奏がうるさい尋希、と言うと尋希はすぐに泣き真似を辞めて口を開いた。
 
 「まぁ、そんなに心配しなくたって大丈夫でしたって。水は僕を裏切りませんから」
 「んだよ、それ。もしかしてそれがお前の魔法か?」
 
 勇樹にそう問われた尋希はにこりといつも通りの笑顔で「まぁ、似たようなものですよ」と言う。
 その尋希の答えに勇樹は何かを考え込む仕草をしたと思ったら不意に直季が、「魔法、と言えばそろそろアレの時期だよねぇ」と言った。
 
 「アレ?」
 「ん?あぁ、魔法大会か。そういやそろそろそんな時期だな」
 「間乃尋くんは知らないよねぇ?魔法大会って言うのはね……」
 
 直季と勇樹曰く、この擂乃神学園では毎年夏場に開催されるクラスごとにチームを振り分けて、魔法の実力を図るための大会らしい。
 
 「……って言っても、別に魔法を使わなくてもいいんだけどな。怪我さえさせなければ何をしても良いんだよ」
 「まぁ、完全な身体能力で、っていうのは無理があるし、魔法に自信がある人しか出ないんだけどねぇ。勇樹くんは去年に続けて今年も出るんでしょ?」
 「まぁな。オレが出るって言わなくても結局出る羽目になるだろうし」
 「そうだねぇ。ボクも今年最後だし思い出作りに出ようかねぇ」
 「お、良いんじゃねぇの?」
 
 そのまま魔法大会について話し合う二人を横目に見ていると、尋希は奏はどうするのか聞いているのが聞こえた。
 しかし奏は心ここにあらずの様子で、ぼうっとしながら紅茶をすすっていて、それに尋希が奏の体をゆすりながら「かーなーでー!無視しないで下さいよ!泣きますよ!?」と言う。
 
 「えっ?……あぁ、ごめん。考え事してた」
 「もう、本当に大丈夫ですか?最近奏よくそうやってぼうっとしてません?この前なんかスーパーで買い物してる時素麺を買うって言いながらこんにゃくを買ってましたよね。何かあったんです?」
 「……別に。お前には関係ないだろ」
 
 奏は尋希にそう冷たく突き放すと、未だ魔法大会について話し合っていた勇樹達に向き直って、「すみません。お先に失礼します」と言って席を立って、そのまま食堂から出て行く。
 その様子を尋希はじっと見つめた後、小さくため息を吐いて、いつもの笑顔じゃなく、何の感情も見えない無表情で小さく呟いた。
 
 「ま、確かに僕には関係無い、か 」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

END-GAME【日常生活編】

孤高
ファンタジー
この作品は本編の中に書かれていない日常を書いてみました。どうぞご覧ください 本編もよろしくです! 毎日朝7時 夜7時に投稿

処理中です...