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深悔marine blue.
深海マリンブルー (Ⅱ)
しおりを挟む───いきが、出来ない。
気がつくと、俺は水中を幼い少女が落としたというぬいぐるみを片手にどんどん沈んでいっていた。
ぬいぐるみを離さないようにしっかりと握っているものの、海面の方へ向かう気力は無くて、俺はそのまま抵抗することなく、海に身を任せていた。
桜赤先輩がかき氷を買ってくると言って離れたあと。俺は暫く海を眺めていた。何かを思う訳でなく、ただ無感情に。
すると、視界の隅に泣いている少女が目に入った。近くに両親らしき人間も見当たらないので、迷子かもしれない、と放っておけなくて、声をかけたのだ。
すると、少女は泣きながら「ねこまるとお城を作ってたらねこまるが海につれていかれちゃったの」と海の方を指を指した。
見てみれば子どもが好きそうな猫のぬいぐるみが海の上をぷかぷかと浮いていた。
ぬいぐるみはそんなに遠くで浮いている訳でも無く、しかしこの幼い少女には到底無理だろうと思って、気づけば、
「お兄ちゃんが取ってくるから、君はここで待ってて」
と口にしていた。
そしてそのままいざ海に出てみると、久しぶりだというのに思ったよりしっかりと泳げて、案外簡単にぬいぐるみを手にすることが出来た。
しかし、そこで一息ついたのが悪かったのか、忘れたいと願った記憶が蘇って、息が上手く出来なくなって、身体もいうことをきかなくなった。
その後は意識を飛ばしてしまって、今に至る。
人間というのは案外丈夫にできているらしく、不思議と苦しさは無く俺はただ深くへと沈みながら太陽の光が反射してきらきらと光る海面を見ていた。
このままいったら俺は海の底へと消えていくのだろうか。……それもいいかもしれない。そう思ったらまた意識が遠くなっていく。
丈夫だと思ったこの生命にもいよいよ限界が訪れてくるらしい。だけど不思議と怖くない。
眠くなって、目を瞑ろうとする直前、何か黒い影が俺の方に手を伸ばしながら近づいてきた。
何となく、それに向かって手を伸ばすと、その影は俺の手を思いっきり掴んで、そのまま勢いよく、引っ張りあげて──────。
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