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優しさが裏返る時
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町長の家に迎えられた三女は、敷地内の大きな教会に驚きました。
町長は丁重に三女を迎えます。司祭よ、この教会で過ごしなさい。
三女は深く頭を下げます。民の信仰を深めるよう尽力いたします。
三女に求められたのは、教会で司祭として信仰を説くことでした。
町長は言います。その信心深さを民に示し、より強い信仰を説きなさい。
三女は肯きます。この祈りを神に捧げ、この信心を民に説きましょう。
そうして、新たな司祭が教会に現れました。
陽光を浴びる司祭は清らかで、存在そのものが神像のようでした。
三女は述べます。さあ、神に祈りましょう。その生が満ちるように。
けれど、教会を訪れるのは富める民だけ。
三女は悩みます。何故、神の施しを受けるべき方々は教会を訪れないのでしょうか。祈りが届かなければ救われることは無いのに。
貧しい町だからこそ、皆が神に祈りを捧げなければなりません。
或る日、三女は教会を眺める貧しい子を見つけました。
三女は言いました。どうぞ、礼拝堂でお祈りください。
貧しい子は拒みました。そんなお金は有りません。
三女は訝ります。祈りにお金は要りません。何故教会が金銭を求めるのですか。
貧しい子は答えました。寄付できるお金が無い者は、教会で祈ることさえ許されません。この町の信仰はお金で決まるのです。
三女は諭します。信仰にお金は要りません。信仰は祈りで決まるもの。
富める者も、貧しき者も、皆が皆の幸せを願うことこそ、神の教えです。
さあ、共に教会で神に祈りましょう。きっと貴方の祈りは届きます。
三女は貧しい者にも教会での礼拝を勧めました。
それこそが、万物平等という神の教えを体現する行為と信じていました。
富める民の反発は信仰の名の下に鎮まり、皆が三女を崇めました。
嗚呼、司祭様。まるで現世に降臨した神の使いのようだ。
月日経たずとも、町の教会の在り方は変わりました。
寄付金の高低による差別は無くなり、皆が等しく利用できるようになりました。
三女は頷きます。嗚呼、神よ。御導きに感謝いたします。
けれど、それは寄付金を求める町長にとって大きな誤算でした。
三女に求めていたのは、教会で寄付金の尊さを説くことでした。
信心深い司祭が寄付を勧めることで、より多くの金が集まると画策していました。その司祭は、むしろ寄付金を拒むことさえあったのです。
町長は怒りました。司祭よ、民から金を巻き上げろ。信心を利用せよ。
何のために多額でお前を買ったと思っているのだ。
お前の敬虔さを慕う民から、それ以上の金を巻き上げねばならぬ。
三女は尋ねます。わたしを買われたとは、どういうことですか。
町長は答えます。両親からお前を金で買ったのだ。今頃両親は大富豪となり、この町からは居なくなっただろう。
町長は続けます。茫然とする三女を嬲るように。
お前たち三姉妹は売られたのだ。両親に棄てられたのだ。
再び集うことなど無い。既に引き裂かれたのだから。
再び棄てられたくないのなら、弱者から根刮ぎ奪い取るのだ。
三女は尋ねます。神は隣人に優しくせよと仰るではありませんか。
町長は嘲ります。お前が信じた神など居らぬ。お前が信じた優しさなど要らぬ。
生きていたいのなら奪え。従わぬ者は殺してしまえ。
奪えぬと言うのなら、何も救えぬ偶像と、役に立たぬ優しさと共に去れ。
金を稼げぬ者など要らぬ。空想しか説けぬ者など要らぬ。
その時、三女は不意に空から声を聴きました。
背く者には罰を。
信じぬ者には刑を。
敬虔なる僕には安寧を。
それは天啓。信じてきた道の行く末に希望を与える、神の声。
それは幻聴。信じてきた道を否定された絶望に喘ぐ、己の声。
三女は空に笑いました。雲一つない美しい晴天でした。
嗚呼、神よ。その気高き勅命が聴こえます。
貴方に背く者を排除しましょう。全ては御身のために。
貴方を信じぬ者を虐殺しましょう。全ては御身のために。
優しさのみで救えぬ命が有るなど、卑しきこの身では悟れぬことでした。
突如として高らかに笑う三女を見て、町長は震えます。
三女の瞳に宿るのは狂信。人を失った者しか持ち得ない狂気。
町長は衛兵を喚びます。殺せ、あの司祭を直ちに殺せ。
三女は集った衛兵を眺め、恍惚とした表情を浮かべます。
嗚呼、神よ。その御言に従いましょう。この手に賜った力を振るいましょう。
一陣の風が吹き抜けました。
風に斬り裂かれるように、衛兵たちの首が落ちました。
辺り一面は血飛沫に染まり、美しい程の紅が空を彩りました。
それはまるで、神が新たな魔女の誕生を祝うかのようでした。
町長は驚きました。無力だったはずの司祭が、突如として殺戮を厭わぬ魔女に化けたのです。
その瞳に慈悲は無く、その両手に魔が踊っていました。
それはまるで、神が裁きのための力を与えたかのようでした。
町長は乞います。待て、司祭よ、殺さないでくれ。
神を冒涜した罪は謝る。道を嘲笑した罪は謝る。
お前が魔女と化したのなら、弱者から根刮ぎ奪い取らずとも良い。
三女は言いました。背く者には罰を。信じぬ者には刑を。
三女の手が町長の胸を貫きます。
紅く染まったその手を引き抜き、三女は満足げに笑います、
嗚呼、神よ。これが貴方の御力。愚者を裁くための断罪の剣。
その手に宿るのは神の力。弱者を救うために降りてきた救済。
その手に宿るのは魔の力。弱者を殺すために手渡された破滅。
三女は空に笑いました。暗雲渦巻く薄暗い曇天でした。
そこに立っていたのは、敬虔なる信徒ではありませんでした。
三女は血に濡れた手を重ね、神に祈りました。
従わぬのなら殺しましょう。信じぬのなら裁きましょう。
嗚呼、神よ。貴方の代行者と成ること、感謝いたします。
神に従わぬのなら、たとえ姉さん方であっても、この手で。
紅く染まっていく町を、空は涙を流しながら見ていました。
*
町長は丁重に三女を迎えます。司祭よ、この教会で過ごしなさい。
三女は深く頭を下げます。民の信仰を深めるよう尽力いたします。
三女に求められたのは、教会で司祭として信仰を説くことでした。
町長は言います。その信心深さを民に示し、より強い信仰を説きなさい。
三女は肯きます。この祈りを神に捧げ、この信心を民に説きましょう。
そうして、新たな司祭が教会に現れました。
陽光を浴びる司祭は清らかで、存在そのものが神像のようでした。
三女は述べます。さあ、神に祈りましょう。その生が満ちるように。
けれど、教会を訪れるのは富める民だけ。
三女は悩みます。何故、神の施しを受けるべき方々は教会を訪れないのでしょうか。祈りが届かなければ救われることは無いのに。
貧しい町だからこそ、皆が神に祈りを捧げなければなりません。
或る日、三女は教会を眺める貧しい子を見つけました。
三女は言いました。どうぞ、礼拝堂でお祈りください。
貧しい子は拒みました。そんなお金は有りません。
三女は訝ります。祈りにお金は要りません。何故教会が金銭を求めるのですか。
貧しい子は答えました。寄付できるお金が無い者は、教会で祈ることさえ許されません。この町の信仰はお金で決まるのです。
三女は諭します。信仰にお金は要りません。信仰は祈りで決まるもの。
富める者も、貧しき者も、皆が皆の幸せを願うことこそ、神の教えです。
さあ、共に教会で神に祈りましょう。きっと貴方の祈りは届きます。
三女は貧しい者にも教会での礼拝を勧めました。
それこそが、万物平等という神の教えを体現する行為と信じていました。
富める民の反発は信仰の名の下に鎮まり、皆が三女を崇めました。
嗚呼、司祭様。まるで現世に降臨した神の使いのようだ。
月日経たずとも、町の教会の在り方は変わりました。
寄付金の高低による差別は無くなり、皆が等しく利用できるようになりました。
三女は頷きます。嗚呼、神よ。御導きに感謝いたします。
けれど、それは寄付金を求める町長にとって大きな誤算でした。
三女に求めていたのは、教会で寄付金の尊さを説くことでした。
信心深い司祭が寄付を勧めることで、より多くの金が集まると画策していました。その司祭は、むしろ寄付金を拒むことさえあったのです。
町長は怒りました。司祭よ、民から金を巻き上げろ。信心を利用せよ。
何のために多額でお前を買ったと思っているのだ。
お前の敬虔さを慕う民から、それ以上の金を巻き上げねばならぬ。
三女は尋ねます。わたしを買われたとは、どういうことですか。
町長は答えます。両親からお前を金で買ったのだ。今頃両親は大富豪となり、この町からは居なくなっただろう。
町長は続けます。茫然とする三女を嬲るように。
お前たち三姉妹は売られたのだ。両親に棄てられたのだ。
再び集うことなど無い。既に引き裂かれたのだから。
再び棄てられたくないのなら、弱者から根刮ぎ奪い取るのだ。
三女は尋ねます。神は隣人に優しくせよと仰るではありませんか。
町長は嘲ります。お前が信じた神など居らぬ。お前が信じた優しさなど要らぬ。
生きていたいのなら奪え。従わぬ者は殺してしまえ。
奪えぬと言うのなら、何も救えぬ偶像と、役に立たぬ優しさと共に去れ。
金を稼げぬ者など要らぬ。空想しか説けぬ者など要らぬ。
その時、三女は不意に空から声を聴きました。
背く者には罰を。
信じぬ者には刑を。
敬虔なる僕には安寧を。
それは天啓。信じてきた道の行く末に希望を与える、神の声。
それは幻聴。信じてきた道を否定された絶望に喘ぐ、己の声。
三女は空に笑いました。雲一つない美しい晴天でした。
嗚呼、神よ。その気高き勅命が聴こえます。
貴方に背く者を排除しましょう。全ては御身のために。
貴方を信じぬ者を虐殺しましょう。全ては御身のために。
優しさのみで救えぬ命が有るなど、卑しきこの身では悟れぬことでした。
突如として高らかに笑う三女を見て、町長は震えます。
三女の瞳に宿るのは狂信。人を失った者しか持ち得ない狂気。
町長は衛兵を喚びます。殺せ、あの司祭を直ちに殺せ。
三女は集った衛兵を眺め、恍惚とした表情を浮かべます。
嗚呼、神よ。その御言に従いましょう。この手に賜った力を振るいましょう。
一陣の風が吹き抜けました。
風に斬り裂かれるように、衛兵たちの首が落ちました。
辺り一面は血飛沫に染まり、美しい程の紅が空を彩りました。
それはまるで、神が新たな魔女の誕生を祝うかのようでした。
町長は驚きました。無力だったはずの司祭が、突如として殺戮を厭わぬ魔女に化けたのです。
その瞳に慈悲は無く、その両手に魔が踊っていました。
それはまるで、神が裁きのための力を与えたかのようでした。
町長は乞います。待て、司祭よ、殺さないでくれ。
神を冒涜した罪は謝る。道を嘲笑した罪は謝る。
お前が魔女と化したのなら、弱者から根刮ぎ奪い取らずとも良い。
三女は言いました。背く者には罰を。信じぬ者には刑を。
三女の手が町長の胸を貫きます。
紅く染まったその手を引き抜き、三女は満足げに笑います、
嗚呼、神よ。これが貴方の御力。愚者を裁くための断罪の剣。
その手に宿るのは神の力。弱者を救うために降りてきた救済。
その手に宿るのは魔の力。弱者を殺すために手渡された破滅。
三女は空に笑いました。暗雲渦巻く薄暗い曇天でした。
そこに立っていたのは、敬虔なる信徒ではありませんでした。
三女は血に濡れた手を重ね、神に祈りました。
従わぬのなら殺しましょう。信じぬのなら裁きましょう。
嗚呼、神よ。貴方の代行者と成ること、感謝いたします。
神に従わぬのなら、たとえ姉さん方であっても、この手で。
紅く染まっていく町を、空は涙を流しながら見ていました。
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