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その日の夜、まだアルマスが来る前の時間。夕食を終えてカリスと別れ、自分の部屋でひとりになる。
なんだか今日は妙に疲れてしまった。使者の件もそうだし、アルマスとジョセフィーヌの喧嘩もあったし、いつもとは違うことがたくさん起こっていたような気がする。わたしはベッドに横になり、天井を見上げる。
もうアルマスとジョセフィーヌの仲を戻すことはできないのだろうか。あの後、アルマスは何と言って、何をしてジョセフィーヌを落ち着かせたのだろうか。まさか、何もせず立ち去ったわけではないだろう。ジョセフィーヌはそれくらい怒っていたはずだ。
わたしに、ルミアにできることはないのだろうか。わたしからアルマスに伝えても、おそらく何の効果もない。効果があるのなら、もうアルマスはジョセフィーヌの部屋を訪れているはずだ。効果がなかったからこそ、今のような状況に陥っているのだ。
考えても何も浮かばなかった。わたしが口を挟むような問題ではないかもしれない。でも、ジョセフィーヌの怒りをどうにかしないと、いつか本当に殺されてしまいそうだ。もう我慢できないと叫んでいたし、何か手を打ってくる可能性は高い。
わたしにはベルズがいる。カリスがいる。だから、そう簡単には手を出せないだろうけれど、そこをどうにかしてきそうなんだよなあ。女の嫉妬の力は怖い。
ベッドで横になると、アルマスがいないことを感じてしまう。わたしはもうアルマスがいない夜に耐えられないのではないだろうか。今だってこんなに寂しく思えてしまうのだから、長い夜を独りで過ごすことなんてできないのではないか。わたしはすっかりアルマスの虜になってしまっていた。
するり、とベルズがベッドに上がってくる。珍しいこともあるものだ。普段ならベッドの下で静かにしているのに。
「おい、起きろ」
「え?」
急にベルズに言われて、わたしはうまく反応できなかった。ベルズが言ったことを理解するまでに数秒を要した。
「どうしたの、ベルズ?」
「何か来るぞ。起きろ、誰か呼べ」
「え? えっ、何かって?」
「うだうだ言ってねえで早くしろ。誰でもいいから呼べ!」
ベルズに怒鳴られて頭の中にきーんと音が響く。わたしは頭を押さえながら、電話のほうに向かう。誰かって、まあ、カリスだよね。いちばん早く来てくれるはずだし。
その瞬間、窓ガラスががしゃんと割れて、黒い球体がわたしの部屋に侵入してきた。球体はぐにゃぐにゃと歪んで人の形になり、黒いローブを着た老女に変わった。老女は木で作られた杖を手にしていた。
ええ? なに、今の? この人は何者なの?
「あんたがルミアだね。悪いけど、その命、貰うよ」
老女が杖の先をわたしに向けると、光の球が飛んでくる。光の球はわたしに着弾する前に、わたしの目の前で弾け飛んだ。その拍子に、わたしは電話の赤いボタンを押してしまう。そのまま電話を取り落としてしまい、電話が床に転がった。
老女が杖を振り、もう一度光弾を飛ばしてくる。光弾はまた同じようにわたしの前で霧散した。わたしは何が起こっているのかわからず、混乱していた。
「何度やっても通らねえよ。お前より俺のほうが格上だ」
ベルズが余裕を感じさせる口調で言った。老女にはその声が聞こえているようで、老女は舌打ちした。
「ちっ、悪魔憑きめ。悪魔がいなけりゃすぐにでも殺してやるのに」
「ジョセフィーヌの手先の魔女か? ルミアに永眠の呪いをかけたのもお前だな?」
「そうさ。手先じゃないけどね。協力関係と言ってもらいたいねえ」
魔女は三度杖を振り、電話を壊した。これでは、わたしは誰かを呼ぶことができなくなる。先程ボタンを押したけれど、カリスを呼ぶボタンではなかった。使用人が来てしまったらどうしよう。わたしは自分の行動を悔いた。
「お前じゃ俺に勝てねえよ。捕まる前に逃げたらどうだ?」
「そうもいかないんだよ。すぐにでも殺せと言われているからねえ」
「ふん。無謀な戦いだぞ」
ベルズはわたしの足元に来て、魔女と対峙する。魔女は杖を構えてベルズを睨んでいる。
魔女が杖を掲げる。魔女の前に氷のナイフがいくつか浮かび、ナイフがわたしに向かって飛んでくる。けれど、氷のナイフは全て一瞬で崩れた。ベルズが何かしたのだろう。わたしには魔法の戦いの様子が全然わからなくて、ただ動かないようにすることしかできなかった。
「仕方ねえな。俺の相棒に手を出すって言うなら、俺も本気を出すか」
ベルズはそう言って鎌首をもたげた。光輪が手錠のように魔女の両手を繋ぎ、魔女が持っていた杖がひとりでに浮かび上がる。魔女は慌てたように両手を振ったけれど、光輪は解けるどころかますますきつく締まっていく。
「くっ、おのれ悪魔め、どうして私の邪魔をするんだい? 人間を守る悪魔なんて聞いたことないよ」
「こいつを守らねえと宝玉が手に入らないんでね。持ちつ持たれつってやつだ」
魔女が持っていた杖がわたしの前までふわふわと飛んできて、真ん中から真っ二つに折れた。杖は砂でできていたかのように、細かい粒子になってさらさらと消えていく。
魔女の両足を捕らえるように光輪が現れる。光輪が魔女の足をがっちりと捕まえて、魔女は逃げることもできなくなってしまう。
「俺に喧嘩を吹っ掛けたことを悔いるんだな。魔女に負けるほど弱くねえよ」
「おのれ……おのれぇっ!」
魔女は鋭い眼差しでわたしを睨みつける。わたしは今まで目の前で起こっていたことを整理するのに精一杯で、魔女の怒りを受け入れることができていなかった。
そこで、わたしの部屋のドアが開いた。
「ルミア、どうした! 何があった!」
「アルマス様? どうして?」
部屋に飛び込んできたのはアルマスだった。その腰には長剣が提げられている。
ああ、そうか、電話の赤いボタンを押すとアルマスに繋がるんだったっけ。いきなりわたしに呼ばれたから、アルマスは何事かと思って飛んできたのだろう。
「お前、魔女だな? どうしてルミアを狙った!」
アルマスは長剣を鞘から抜き、光輪で拘束されている魔女に剣先を向けた。
魔女は観念したのか、がっくりと肩を落とした。その様子は普通の老女と変わりなかった。
「全部喋るから、処刑だけは勘弁してもらえないかねえ」
「内容による。お前の裏に首謀者がいるのか?」
「いるよ。あんたの正室、ジョセフィーヌさ」
「なに? どういうことだ」
アルマスが驚いたのを見て、魔女はにんまりと笑った。
「知らなかったのかい? ルミアに永眠の呪いをかけたのも、私がジョセフィーヌから依頼を受けてやったことなんだよ」
「なんだと? それは、本当なのか?」
「永眠の呪いも、今回の襲撃も、全部ジョセフィーヌとヘイチョの命令さ。私は供物、まあ代金みたいなものさね、それを受け取って実行したんだよ」
「……にわかには信じられない。嘘を言っているんじゃないだろうな?」
「正直に喋るから処刑だけは勘弁してほしい、私はそう言っただろう。信じないのは結構だけれど、処刑だけはやめてほしいねえ」
アルマスは魔女を疑り深く睨む。すぐに信じられないのも無理はないだろう。これまでずっとジョセフィーヌが首謀者だということには否定的だったのだから。
「その光輪はなんだ? ルミア、きみがやったのか?」
「ベルズです。ベルズがわたしを守ってくれたんです」
「そうか。ベルズは魔法が使えるんだな」
「当たり前さ、その白蛇は悪魔なんだから。神の使いなんかじゃないよ」
魔女が横から口を挟む。ああ、それは、言ってほしくなかったなあ。
アルマスはまた驚いて、わたしのほうを見た。
「ルミア、それは本当なのか? この魔女は嘘を言っていないのか?」
「はい。ベルズは悪魔ですし、首謀者はジョセフィーヌ様だと思います。この魔女は何も嘘を言っていません」
「……そうか。わかった」
「今まで黙っていてごめんなさい。悪魔というよりも、神の使いとしたほうが、みんな受け入れてくれるかと思ったんです」
わたしがしおらしく言うと、アルマスはふっと微笑んで、わたしの頭にぽんと手を置いた。
「そんなことはどうでもいい。問題は首謀者が誰か、ということだ」
アルマスは腰のあたりから電話に似たものを取り出して、操作する。それが終わると、魔女に向かって言った。
「お前の主張を今は信じよう。ジョセフィーヌとヘイチョをここに呼んだ。二人が認めるかどうかで、お前の処分を考える」
「それは大丈夫さ。私たちの関係性については嘘をつけないようにしているからねえ」
「どういうことだ? そういう魔法がかかっているのか?」
「魔女の契約でそうなっているんだよ。嘘になる言葉を口に出すことはできない。だからジョセフィーヌもヘイチョも嘘は言えない。言い換えると、喋れないということは嘘を言っているということさ」
「ほお。便利なものだな。お前の嘘ではないんだな?」
「白蛇。黙ってないで口添えしておくれよ。あんたならその魔法がかかっていることくらいわかるだろ」
魔女に話を振られて、ベルズが面倒そうに首を動かした。
「嘘じゃねえ。この魔女は本当のことを言ってる。アルマスにそう教えてやれ」
「嘘ではない、そうです。信じてあげてください」
「わかった。では、ジョセフィーヌとヘイチョの主張を聞こうじゃないか」
いちばん最初に部屋に来たのはカリスだった。おっかなびっくり、といった様子でわたしの部屋に来て、わたしがいたことに安堵し、魔女がいたことに驚く。
「アルマス様に呼ばれたと思ったら、何の騒ぎですかこれ」
「カリス。そなたには罪人の連行を頼みたい」
「はあ。その、おばあちゃんですか?」
「失礼な娘だねえ。魔法が使えるならぶっ飛ばしてるところだよ」
「あ、魔女でしたか。でもどうして魔女がルミア様のお部屋にいるんですか?」
「それを今から聞くのだ。首謀者にな」
カリスはそれだけで大方を察したようだった。わたしの横に控えて、騎士らしくしゃんとしている。アルマスの前だからだろう。
そして、遅れてやってきたのは、ジョセフィーヌとヘイチョ。二人は怯えながらわたしの部屋に入ってきて、魔女を見て言葉を失った。
「な、なんですの、これは? 国王陛下、これはいったい?」
「ジョセフィーヌ、単刀直入に訊こう。魔女と共謀し、ルミアの命を狙ったのか?」
「……!」
何かを言おうとしたジョセフィーヌの口からは吐息しか漏れていかず、音にならなかった。魔女の契約が効果を発揮しているのだと思うには、充分すぎる証拠だった。
アルマスは手でジョセフィーヌを制し、続いてヘイチョに尋ねた。
「ヘイチョ。そなたも、ジョセフィーヌと共に、魔女と共謀したのか?」
「……!」
ヘイチョも同じだった。アルマスはその様子を見て、静かに言った。
「わかった。そうなのだな」
「アルマス様、そんな、何かの間違いですわ! 私は、私は……!」
「無駄だよ、ジョセフィーヌ。魔女の契約は破れないのさ。あんたは認めるしかない」
魔女がくつくつと笑いながら言う。自らの保身のために、魔女は仲間を売ったのだ。いや、最初から仲間ではなかったのかもしれない。ただ、目的を同じくするだけだったのか。
「アルマス。私はジョセフィーヌとヘイチョから依頼を受けて、ルミアを殺そうとした。ルミアを亡き者にしてしまえば、あんたの寵愛がジョセフィーヌに向く。そうしたらジョセフィーヌが権力を握れるだろうから、私にも供物を渡すことができる、ってね」
「……! ……!」
ジョセフィーヌが何かを言おうとするも、言葉にならない。アルマスは黙ったまま魔女の話を聞いていた。
「街で暗殺者をけしかけたのはヘイチョさ。あと、私にルミアを襲うよう指示したのもヘイチョ。ルミアをどうしても殺したいと言っていたのはジョセフィーヌだ。ルミアは相当恨まれていたんだねえ」
「……!」
ヘイチョは何かを言おうとして言葉に詰まり、部屋から逃げようとした。けれど、カリスが部屋のドアの前に立って、退路を断ってしまう。カリスが長剣を抜くと、ヘイチョは腰を抜かして座り込んでしまった。
「ジョセフィーヌ。我は、そなたをここまで追い込んでしまった自分を責めるべきだ」
「国王陛下、私は」
「いい。もはや何も聞くまい。魔女の証言が全てだとわかった」
アルマスはジョセフィーヌを制して、その顔を見つめた。
「そなたとは離縁する。ルミアを、側室を殺そうとした罪は重い。そのような者と夫婦関係を継続することなど不可能だ」
「そんな、国王陛下、私は……!」
「何も言えないのが証拠だろう。カリス、騎士を呼べ。罪人を連行しろ」
「先程呼びましたので、もう少ししたら到着するかと。誰を連行すればよろしいですか?」
「決まっている。ジョセフィーヌもヘイチョも、魔女もだ。まとめて厳罰に処す」
「はぁい。承知しましたっ」
アルマスは静かに、しかし怒りを湛えた声音で言った。それとは対照的に、カリスはどこか楽しそうな雰囲気さえ感じられた。
やがて数名の騎士がやってきて、ジョセフィーヌとヘイチョに手錠を掛ける。ジョセフィーヌはまだ何かを叫ぼうとしていたけれど、ちゃんとした音になることはなかった。ヘイチョはもう諦めているのか、俯いたまま何も言わなかった。
「アルマス。ルミアには悪魔が憑いているよ。それでもいいのかい」
魔女は最後にアルマスに訊いた。アルマスは鼻で笑って、答えた。
「それがどうした。悪魔が憑いていようと、ルミアはルミアだ。我の愛は揺るがぬ」
「そうかい。その悪魔に寝首をかかれないよう、気をつけることだ」
騎士たちとカリスが三人を連行していく。部屋のドアが閉まり、わたしとアルマスだけが残される。
「ルミア。ぼくの部屋に来ないか」
「アルマス様のお部屋、ですか? いいですけど、何かあるんですか?」
「うん。きみに見せたいものがあるんだ」
そう言ったアルマスの顔は穏やかで、いつものアルマスだった。
アルマスの部屋に入るのは初めてだった。政務室の隣にあることは知っていたけれど、いつもはアルマスがわたしの部屋に来るから、わたしが入ったことはなかった。
アルマスの部屋は綺麗に整頓されていて、当然ながらわたしの部屋よりも広かった。わたしの部屋のものより大きなベッド、政務に使うであろう長机、テーブルに本棚まであって、それでも悠々とした広さのある部屋だった。一流ホテルのスイートルームより広いのではないかと思ってしまう。
アルマスはわたしを部屋の中に招き入れて、長机の引き出しからガラスの球体を取り出した。片手に乗るくらいの大きさで、水晶玉のように美しい球体だけれど、わたしにはこれが何なのかわからない。
「宝玉だ。おい、もっと近くで見せろ」
わたしの肩に乗っていたベルズが身を乗り出す。わたしはベルズが落ちないように、宝玉に近づく。アルマスはベルズが見やすいように掲げてくれる。
「きみが見たがっていた、この国の至宝だよ。遅くなってしまってすまない」
「いえ、わたしというよりは、ベルズが見たがっていたものですから、大丈夫です。見せてくださってありがとうございます」
「ベルズ、どうだろう、何か感じるのかな。ぼくにはやっぱりガラス玉にしか思えないけれど」
ベルズは食い入るように宝玉を見つめる。首を動かして向きを変えて見る。
そして、わたしの頭に響いてきた声は、落胆だった。
「んだよ、ぶっ飛ばすぞ。これに世界の至宝が隠されてるとか言った奴誰だよ」
「え? えっ、どうしたの?」
「世界の至宝は愛である、って書いてやがる。何が愛だ、ふざけんじゃねえぞ」
「他には何も書いてないの? ほら、何か隠されているとか」
「何もねえよ。ただのガラス玉だ。アルマスの感想が正しい」
「ベルズは何があると思っていたの?」
「世界の至宝っていうからには、世界を揺るがす力が隠されてると思ってたんだ。そんな力があるのなら、手に入れたいと思うじゃねえか」
それは、ベルズにも問題があるのではないだろうか。わたしは何と答えるべきか迷ってしまう。世界の至宝は愛である、と言われるほうがまだしっくりくる。
「ベルズは、何て?」
「ええと、世界の至宝は愛である、と書かれているそうで、それに対して怒っています。もっと別のものが隠されていると考えていたらしくて」
「ははっ、そうか。世界の至宝は愛である、いい言葉じゃないか」
「ったく、こんなもののためにどれだけ苦労したことか。もういい、俺の用事は済んだぞ」
「もう、いいそうです。すみません、お見せいただくにも大変だったと思うんですが」
「いや、いいよ、気にしないで。イジーンに話を通しただけだから」
それが大変だったのでは、と思ったけれど、口にするのはやめておいた。アルマスがそう言うのだから、その言葉のまま受け取ることにした。
「ルミア。今回の件でジョセフィーヌと離縁したら、きみが正室になるんだ。やっと人前で堂々ときみだけを愛することができるようになる」
アルマスはとても嬉しそうだった。わたしもつられて頬が緩む。
「いやあ、ジョセフィーヌを泳がせておいたら何かしてくると踏んでいたけれど、まさか魔女を使ってくるとは思わなかったよ」
「ええ? アルマス様、ジョセフィーヌ様がわたしを狙っていることに気づいていたんですか?」
「うっすらとね。それが発覚したら、ぼくが離縁を突き付けても誰も文句を言えないだろう? そうなるのを狙っていたんだよ」
わたしは開いた口が塞がらなかった。全部アルマスの筋書き通りに進んだのだ。アルマスはこうなることを見越して、あえてジョセフィーヌを怒らせたのだ。なんて人だ。
「ルミアには怖い思いをさせてしまったね。ごめん」
「そうですよ、それならそうと教えてくださればよかったのに」
「いや、誰にも言わないほうがいいかと思ったんだ。どこから漏れるかわからないから」
アルマスはわたしを優しく抱き寄せた。ベルズは居心地悪そうにわたしの肩から下りて、アルマスのベッドの下にするりと入り込んでしまう。
「今日はここで眠ろう。たまにはぼくの部屋で眠るのもいいだろうし」
「はい、アルマス様」
アルマスはわたしに口づける。慈しむような優しいキスを受けて、わたしの心がふわりと軽くなる。
「ルミア、愛しているよ」
「わたしも、アルマス様を愛しています」
顔を見合わせて、もう一度キスをする。アルマスの腕の中で、わたしは微笑む。
そうして、二人の長い夜が始まる。二人で世界の至宝とやらを確かめあう、長い夜が。
なんだか今日は妙に疲れてしまった。使者の件もそうだし、アルマスとジョセフィーヌの喧嘩もあったし、いつもとは違うことがたくさん起こっていたような気がする。わたしはベッドに横になり、天井を見上げる。
もうアルマスとジョセフィーヌの仲を戻すことはできないのだろうか。あの後、アルマスは何と言って、何をしてジョセフィーヌを落ち着かせたのだろうか。まさか、何もせず立ち去ったわけではないだろう。ジョセフィーヌはそれくらい怒っていたはずだ。
わたしに、ルミアにできることはないのだろうか。わたしからアルマスに伝えても、おそらく何の効果もない。効果があるのなら、もうアルマスはジョセフィーヌの部屋を訪れているはずだ。効果がなかったからこそ、今のような状況に陥っているのだ。
考えても何も浮かばなかった。わたしが口を挟むような問題ではないかもしれない。でも、ジョセフィーヌの怒りをどうにかしないと、いつか本当に殺されてしまいそうだ。もう我慢できないと叫んでいたし、何か手を打ってくる可能性は高い。
わたしにはベルズがいる。カリスがいる。だから、そう簡単には手を出せないだろうけれど、そこをどうにかしてきそうなんだよなあ。女の嫉妬の力は怖い。
ベッドで横になると、アルマスがいないことを感じてしまう。わたしはもうアルマスがいない夜に耐えられないのではないだろうか。今だってこんなに寂しく思えてしまうのだから、長い夜を独りで過ごすことなんてできないのではないか。わたしはすっかりアルマスの虜になってしまっていた。
するり、とベルズがベッドに上がってくる。珍しいこともあるものだ。普段ならベッドの下で静かにしているのに。
「おい、起きろ」
「え?」
急にベルズに言われて、わたしはうまく反応できなかった。ベルズが言ったことを理解するまでに数秒を要した。
「どうしたの、ベルズ?」
「何か来るぞ。起きろ、誰か呼べ」
「え? えっ、何かって?」
「うだうだ言ってねえで早くしろ。誰でもいいから呼べ!」
ベルズに怒鳴られて頭の中にきーんと音が響く。わたしは頭を押さえながら、電話のほうに向かう。誰かって、まあ、カリスだよね。いちばん早く来てくれるはずだし。
その瞬間、窓ガラスががしゃんと割れて、黒い球体がわたしの部屋に侵入してきた。球体はぐにゃぐにゃと歪んで人の形になり、黒いローブを着た老女に変わった。老女は木で作られた杖を手にしていた。
ええ? なに、今の? この人は何者なの?
「あんたがルミアだね。悪いけど、その命、貰うよ」
老女が杖の先をわたしに向けると、光の球が飛んでくる。光の球はわたしに着弾する前に、わたしの目の前で弾け飛んだ。その拍子に、わたしは電話の赤いボタンを押してしまう。そのまま電話を取り落としてしまい、電話が床に転がった。
老女が杖を振り、もう一度光弾を飛ばしてくる。光弾はまた同じようにわたしの前で霧散した。わたしは何が起こっているのかわからず、混乱していた。
「何度やっても通らねえよ。お前より俺のほうが格上だ」
ベルズが余裕を感じさせる口調で言った。老女にはその声が聞こえているようで、老女は舌打ちした。
「ちっ、悪魔憑きめ。悪魔がいなけりゃすぐにでも殺してやるのに」
「ジョセフィーヌの手先の魔女か? ルミアに永眠の呪いをかけたのもお前だな?」
「そうさ。手先じゃないけどね。協力関係と言ってもらいたいねえ」
魔女は三度杖を振り、電話を壊した。これでは、わたしは誰かを呼ぶことができなくなる。先程ボタンを押したけれど、カリスを呼ぶボタンではなかった。使用人が来てしまったらどうしよう。わたしは自分の行動を悔いた。
「お前じゃ俺に勝てねえよ。捕まる前に逃げたらどうだ?」
「そうもいかないんだよ。すぐにでも殺せと言われているからねえ」
「ふん。無謀な戦いだぞ」
ベルズはわたしの足元に来て、魔女と対峙する。魔女は杖を構えてベルズを睨んでいる。
魔女が杖を掲げる。魔女の前に氷のナイフがいくつか浮かび、ナイフがわたしに向かって飛んでくる。けれど、氷のナイフは全て一瞬で崩れた。ベルズが何かしたのだろう。わたしには魔法の戦いの様子が全然わからなくて、ただ動かないようにすることしかできなかった。
「仕方ねえな。俺の相棒に手を出すって言うなら、俺も本気を出すか」
ベルズはそう言って鎌首をもたげた。光輪が手錠のように魔女の両手を繋ぎ、魔女が持っていた杖がひとりでに浮かび上がる。魔女は慌てたように両手を振ったけれど、光輪は解けるどころかますますきつく締まっていく。
「くっ、おのれ悪魔め、どうして私の邪魔をするんだい? 人間を守る悪魔なんて聞いたことないよ」
「こいつを守らねえと宝玉が手に入らないんでね。持ちつ持たれつってやつだ」
魔女が持っていた杖がわたしの前までふわふわと飛んできて、真ん中から真っ二つに折れた。杖は砂でできていたかのように、細かい粒子になってさらさらと消えていく。
魔女の両足を捕らえるように光輪が現れる。光輪が魔女の足をがっちりと捕まえて、魔女は逃げることもできなくなってしまう。
「俺に喧嘩を吹っ掛けたことを悔いるんだな。魔女に負けるほど弱くねえよ」
「おのれ……おのれぇっ!」
魔女は鋭い眼差しでわたしを睨みつける。わたしは今まで目の前で起こっていたことを整理するのに精一杯で、魔女の怒りを受け入れることができていなかった。
そこで、わたしの部屋のドアが開いた。
「ルミア、どうした! 何があった!」
「アルマス様? どうして?」
部屋に飛び込んできたのはアルマスだった。その腰には長剣が提げられている。
ああ、そうか、電話の赤いボタンを押すとアルマスに繋がるんだったっけ。いきなりわたしに呼ばれたから、アルマスは何事かと思って飛んできたのだろう。
「お前、魔女だな? どうしてルミアを狙った!」
アルマスは長剣を鞘から抜き、光輪で拘束されている魔女に剣先を向けた。
魔女は観念したのか、がっくりと肩を落とした。その様子は普通の老女と変わりなかった。
「全部喋るから、処刑だけは勘弁してもらえないかねえ」
「内容による。お前の裏に首謀者がいるのか?」
「いるよ。あんたの正室、ジョセフィーヌさ」
「なに? どういうことだ」
アルマスが驚いたのを見て、魔女はにんまりと笑った。
「知らなかったのかい? ルミアに永眠の呪いをかけたのも、私がジョセフィーヌから依頼を受けてやったことなんだよ」
「なんだと? それは、本当なのか?」
「永眠の呪いも、今回の襲撃も、全部ジョセフィーヌとヘイチョの命令さ。私は供物、まあ代金みたいなものさね、それを受け取って実行したんだよ」
「……にわかには信じられない。嘘を言っているんじゃないだろうな?」
「正直に喋るから処刑だけは勘弁してほしい、私はそう言っただろう。信じないのは結構だけれど、処刑だけはやめてほしいねえ」
アルマスは魔女を疑り深く睨む。すぐに信じられないのも無理はないだろう。これまでずっとジョセフィーヌが首謀者だということには否定的だったのだから。
「その光輪はなんだ? ルミア、きみがやったのか?」
「ベルズです。ベルズがわたしを守ってくれたんです」
「そうか。ベルズは魔法が使えるんだな」
「当たり前さ、その白蛇は悪魔なんだから。神の使いなんかじゃないよ」
魔女が横から口を挟む。ああ、それは、言ってほしくなかったなあ。
アルマスはまた驚いて、わたしのほうを見た。
「ルミア、それは本当なのか? この魔女は嘘を言っていないのか?」
「はい。ベルズは悪魔ですし、首謀者はジョセフィーヌ様だと思います。この魔女は何も嘘を言っていません」
「……そうか。わかった」
「今まで黙っていてごめんなさい。悪魔というよりも、神の使いとしたほうが、みんな受け入れてくれるかと思ったんです」
わたしがしおらしく言うと、アルマスはふっと微笑んで、わたしの頭にぽんと手を置いた。
「そんなことはどうでもいい。問題は首謀者が誰か、ということだ」
アルマスは腰のあたりから電話に似たものを取り出して、操作する。それが終わると、魔女に向かって言った。
「お前の主張を今は信じよう。ジョセフィーヌとヘイチョをここに呼んだ。二人が認めるかどうかで、お前の処分を考える」
「それは大丈夫さ。私たちの関係性については嘘をつけないようにしているからねえ」
「どういうことだ? そういう魔法がかかっているのか?」
「魔女の契約でそうなっているんだよ。嘘になる言葉を口に出すことはできない。だからジョセフィーヌもヘイチョも嘘は言えない。言い換えると、喋れないということは嘘を言っているということさ」
「ほお。便利なものだな。お前の嘘ではないんだな?」
「白蛇。黙ってないで口添えしておくれよ。あんたならその魔法がかかっていることくらいわかるだろ」
魔女に話を振られて、ベルズが面倒そうに首を動かした。
「嘘じゃねえ。この魔女は本当のことを言ってる。アルマスにそう教えてやれ」
「嘘ではない、そうです。信じてあげてください」
「わかった。では、ジョセフィーヌとヘイチョの主張を聞こうじゃないか」
いちばん最初に部屋に来たのはカリスだった。おっかなびっくり、といった様子でわたしの部屋に来て、わたしがいたことに安堵し、魔女がいたことに驚く。
「アルマス様に呼ばれたと思ったら、何の騒ぎですかこれ」
「カリス。そなたには罪人の連行を頼みたい」
「はあ。その、おばあちゃんですか?」
「失礼な娘だねえ。魔法が使えるならぶっ飛ばしてるところだよ」
「あ、魔女でしたか。でもどうして魔女がルミア様のお部屋にいるんですか?」
「それを今から聞くのだ。首謀者にな」
カリスはそれだけで大方を察したようだった。わたしの横に控えて、騎士らしくしゃんとしている。アルマスの前だからだろう。
そして、遅れてやってきたのは、ジョセフィーヌとヘイチョ。二人は怯えながらわたしの部屋に入ってきて、魔女を見て言葉を失った。
「な、なんですの、これは? 国王陛下、これはいったい?」
「ジョセフィーヌ、単刀直入に訊こう。魔女と共謀し、ルミアの命を狙ったのか?」
「……!」
何かを言おうとしたジョセフィーヌの口からは吐息しか漏れていかず、音にならなかった。魔女の契約が効果を発揮しているのだと思うには、充分すぎる証拠だった。
アルマスは手でジョセフィーヌを制し、続いてヘイチョに尋ねた。
「ヘイチョ。そなたも、ジョセフィーヌと共に、魔女と共謀したのか?」
「……!」
ヘイチョも同じだった。アルマスはその様子を見て、静かに言った。
「わかった。そうなのだな」
「アルマス様、そんな、何かの間違いですわ! 私は、私は……!」
「無駄だよ、ジョセフィーヌ。魔女の契約は破れないのさ。あんたは認めるしかない」
魔女がくつくつと笑いながら言う。自らの保身のために、魔女は仲間を売ったのだ。いや、最初から仲間ではなかったのかもしれない。ただ、目的を同じくするだけだったのか。
「アルマス。私はジョセフィーヌとヘイチョから依頼を受けて、ルミアを殺そうとした。ルミアを亡き者にしてしまえば、あんたの寵愛がジョセフィーヌに向く。そうしたらジョセフィーヌが権力を握れるだろうから、私にも供物を渡すことができる、ってね」
「……! ……!」
ジョセフィーヌが何かを言おうとするも、言葉にならない。アルマスは黙ったまま魔女の話を聞いていた。
「街で暗殺者をけしかけたのはヘイチョさ。あと、私にルミアを襲うよう指示したのもヘイチョ。ルミアをどうしても殺したいと言っていたのはジョセフィーヌだ。ルミアは相当恨まれていたんだねえ」
「……!」
ヘイチョは何かを言おうとして言葉に詰まり、部屋から逃げようとした。けれど、カリスが部屋のドアの前に立って、退路を断ってしまう。カリスが長剣を抜くと、ヘイチョは腰を抜かして座り込んでしまった。
「ジョセフィーヌ。我は、そなたをここまで追い込んでしまった自分を責めるべきだ」
「国王陛下、私は」
「いい。もはや何も聞くまい。魔女の証言が全てだとわかった」
アルマスはジョセフィーヌを制して、その顔を見つめた。
「そなたとは離縁する。ルミアを、側室を殺そうとした罪は重い。そのような者と夫婦関係を継続することなど不可能だ」
「そんな、国王陛下、私は……!」
「何も言えないのが証拠だろう。カリス、騎士を呼べ。罪人を連行しろ」
「先程呼びましたので、もう少ししたら到着するかと。誰を連行すればよろしいですか?」
「決まっている。ジョセフィーヌもヘイチョも、魔女もだ。まとめて厳罰に処す」
「はぁい。承知しましたっ」
アルマスは静かに、しかし怒りを湛えた声音で言った。それとは対照的に、カリスはどこか楽しそうな雰囲気さえ感じられた。
やがて数名の騎士がやってきて、ジョセフィーヌとヘイチョに手錠を掛ける。ジョセフィーヌはまだ何かを叫ぼうとしていたけれど、ちゃんとした音になることはなかった。ヘイチョはもう諦めているのか、俯いたまま何も言わなかった。
「アルマス。ルミアには悪魔が憑いているよ。それでもいいのかい」
魔女は最後にアルマスに訊いた。アルマスは鼻で笑って、答えた。
「それがどうした。悪魔が憑いていようと、ルミアはルミアだ。我の愛は揺るがぬ」
「そうかい。その悪魔に寝首をかかれないよう、気をつけることだ」
騎士たちとカリスが三人を連行していく。部屋のドアが閉まり、わたしとアルマスだけが残される。
「ルミア。ぼくの部屋に来ないか」
「アルマス様のお部屋、ですか? いいですけど、何かあるんですか?」
「うん。きみに見せたいものがあるんだ」
そう言ったアルマスの顔は穏やかで、いつものアルマスだった。
アルマスの部屋に入るのは初めてだった。政務室の隣にあることは知っていたけれど、いつもはアルマスがわたしの部屋に来るから、わたしが入ったことはなかった。
アルマスの部屋は綺麗に整頓されていて、当然ながらわたしの部屋よりも広かった。わたしの部屋のものより大きなベッド、政務に使うであろう長机、テーブルに本棚まであって、それでも悠々とした広さのある部屋だった。一流ホテルのスイートルームより広いのではないかと思ってしまう。
アルマスはわたしを部屋の中に招き入れて、長机の引き出しからガラスの球体を取り出した。片手に乗るくらいの大きさで、水晶玉のように美しい球体だけれど、わたしにはこれが何なのかわからない。
「宝玉だ。おい、もっと近くで見せろ」
わたしの肩に乗っていたベルズが身を乗り出す。わたしはベルズが落ちないように、宝玉に近づく。アルマスはベルズが見やすいように掲げてくれる。
「きみが見たがっていた、この国の至宝だよ。遅くなってしまってすまない」
「いえ、わたしというよりは、ベルズが見たがっていたものですから、大丈夫です。見せてくださってありがとうございます」
「ベルズ、どうだろう、何か感じるのかな。ぼくにはやっぱりガラス玉にしか思えないけれど」
ベルズは食い入るように宝玉を見つめる。首を動かして向きを変えて見る。
そして、わたしの頭に響いてきた声は、落胆だった。
「んだよ、ぶっ飛ばすぞ。これに世界の至宝が隠されてるとか言った奴誰だよ」
「え? えっ、どうしたの?」
「世界の至宝は愛である、って書いてやがる。何が愛だ、ふざけんじゃねえぞ」
「他には何も書いてないの? ほら、何か隠されているとか」
「何もねえよ。ただのガラス玉だ。アルマスの感想が正しい」
「ベルズは何があると思っていたの?」
「世界の至宝っていうからには、世界を揺るがす力が隠されてると思ってたんだ。そんな力があるのなら、手に入れたいと思うじゃねえか」
それは、ベルズにも問題があるのではないだろうか。わたしは何と答えるべきか迷ってしまう。世界の至宝は愛である、と言われるほうがまだしっくりくる。
「ベルズは、何て?」
「ええと、世界の至宝は愛である、と書かれているそうで、それに対して怒っています。もっと別のものが隠されていると考えていたらしくて」
「ははっ、そうか。世界の至宝は愛である、いい言葉じゃないか」
「ったく、こんなもののためにどれだけ苦労したことか。もういい、俺の用事は済んだぞ」
「もう、いいそうです。すみません、お見せいただくにも大変だったと思うんですが」
「いや、いいよ、気にしないで。イジーンに話を通しただけだから」
それが大変だったのでは、と思ったけれど、口にするのはやめておいた。アルマスがそう言うのだから、その言葉のまま受け取ることにした。
「ルミア。今回の件でジョセフィーヌと離縁したら、きみが正室になるんだ。やっと人前で堂々ときみだけを愛することができるようになる」
アルマスはとても嬉しそうだった。わたしもつられて頬が緩む。
「いやあ、ジョセフィーヌを泳がせておいたら何かしてくると踏んでいたけれど、まさか魔女を使ってくるとは思わなかったよ」
「ええ? アルマス様、ジョセフィーヌ様がわたしを狙っていることに気づいていたんですか?」
「うっすらとね。それが発覚したら、ぼくが離縁を突き付けても誰も文句を言えないだろう? そうなるのを狙っていたんだよ」
わたしは開いた口が塞がらなかった。全部アルマスの筋書き通りに進んだのだ。アルマスはこうなることを見越して、あえてジョセフィーヌを怒らせたのだ。なんて人だ。
「ルミアには怖い思いをさせてしまったね。ごめん」
「そうですよ、それならそうと教えてくださればよかったのに」
「いや、誰にも言わないほうがいいかと思ったんだ。どこから漏れるかわからないから」
アルマスはわたしを優しく抱き寄せた。ベルズは居心地悪そうにわたしの肩から下りて、アルマスのベッドの下にするりと入り込んでしまう。
「今日はここで眠ろう。たまにはぼくの部屋で眠るのもいいだろうし」
「はい、アルマス様」
アルマスはわたしに口づける。慈しむような優しいキスを受けて、わたしの心がふわりと軽くなる。
「ルミア、愛しているよ」
「わたしも、アルマス様を愛しています」
顔を見合わせて、もう一度キスをする。アルマスの腕の中で、わたしは微笑む。
そうして、二人の長い夜が始まる。二人で世界の至宝とやらを確かめあう、長い夜が。
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