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嫌だ。嫌だ嫌だ。もう何もかもが嫌だ。
こんな人生なんて終わってしまえばいい。続けていく価値なんてない。
わたしは窓を開ける。狭いベランダに出て、下を見る。遠く離れた地面がそこにある。ここは七階だから、飛び降りればおそらく生きていないだろう。
終わらせよう。もう、疲れてしまった。これ以上は耐えられない。
身を乗り出す。そして、乗り越える。空に向かって、飛び出す。わたしの身体が浮くはずもなく、あっという間に重力に従って落ちていく。
浮遊感。風切り音。わたしは目を閉じる。
暗転。
ああ、終わった。
終わったと思ったのに、わたしの意識はまだそこにあった。
痛みはない。だとしたら、わたしはいったいどうなったというのだろう。
恐る恐る目を開けてみる。全く知らない部屋で、わたしは寝ている。少し身体が凝り固まっているような気がするけれど、それだけだ。どこにも痛みはない。わたしは七階から飛び降りたはずなのに、どうして無傷のままなのだろうか。
身体を起こす。とても豪勢なベッドに寝ていることに気がつく。部屋は広く、壁のところどころに装飾が施されていて、自分の部屋ではないことがわかる。もちろん、病室でないことも。テレビや漫画で見るような、貴族が寝ているような部屋だと感じた。
メイド服のようなモノトーンのエプロンドレスを着た中年の女性が部屋に入ってくる。そして、わたしを見るなり、叫ぶ。
「××××××!」
何と言っているのかわからなかったけれど、驚いていることは伝わった。女性はすぐさま部屋を出て行ってしまう。わたしが起きているのがそんなに驚くことなのだろうか。
頭がはっきりしない。長く寝すぎた後のような感覚に陥っている。それでも、自分が生きていることは理解できる。
どうしてわたしは生きているのだろうか。マンションから飛び降りたことは覚えている。ここは天国なのだろうか。それとも、地獄? あるいは、そのどちらでもない死後の世界? もしかしたらわたしは助かってしまって、今は夢を見ているのかもしれない。しかし、どれも違うような気がした。夢よりももっと現実感があるのだ。
わたしがぼんやりとしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。壊れるのではないかと思うほどの勢いに、わたしは驚く。
入ってきたのは赤いマントを羽織った若い男性だった。金色の髪は短く整えられていて、青色の瞳が輝いている。その視線の先にはわたしがいる。彼はわたしが起きていることを喜んでいるようだった。飛び込むような勢いでわたしに近づいてきて、わたしの身体を抱きしめてくる。
「×××! ××××××!」
やはり何を言っているのかわからない。英語でもないし、わたしが聞いたことのない言語だった。ただ、何かを喜んでいることだけは伝わる。わたしが起き上がったことと何か関わりがあるのかもしれない。
男性はわたしを見て、反応がないことを気にしているようだった。わたしは表情だけで困惑を表してみる。向こうの言葉が通じないのなら、わたしの言葉も通じないのではないかと思った。わたしの顔を見て、男性の勢いが削がれていった。
「××××××」
中年の女性が男性に声をかける。男性はわたしの身体を解放した。ひどく残念そうな顔をしていたのが気になって、わたしは男性に手を伸ばした。男性はその手を取り、愛おしそうにぎゅっと握ってくれた。
なるほど。状況は少しだけ把握できた。
この男性と今のわたしは恋仲にある。わたしはきっと長く眠っていて、ずっと目覚めなかったのだろう。それが、今起きたことによって、この男性がとても喜んでいるのだ。格好から察するに彼は貴族なのだろう。あの中年の女性は使用人といったところか。
問題は、わたしがどうしてその女性になってしまったのかということだ。わたしはマンションから飛び降りたはずだ。それなのに、どうして赤の他人になってしまったのだろう? これは、わたしが天国か地獄かに行くための試練か何かなのだろうか。ここでの動向によって、天国に行くか地獄に送られるかが決まるのだろうか。
「×××××××」
男性はわたしに何かを言って、わたしの手にキスをした。そして、マントを翻して去っていく。部屋から出る際に振り向いて、名残惜しそうにしながら出て行く。
わたしが何の反応も示さなかったからか、中年の女性は心配そうにわたしを見ていた。わたしは作り笑顔を浮かべて、大丈夫だと示してみる。彼女は一礼して、部屋を立ち去った。そうして、わたしはこの広い部屋に独りになる。
さて、困った。言葉の壁というものの厚さ、高さを感じていた。誰も彼もが何を言っているのか見当もつかない。英語ならまだ単語を聞き取ってコミュニケーションを取ることができるけれど、それ以外の言語となると全くわからない。打つ手がないというのが正直なところだ。言葉が通じないというのがこんなにも大変なことなのだということを実感する。
どうしたらよいのだろうか。辞書なんてあるはずもないし、あったとしても聞き取れないのだから使うことすらできない。わたしはひとりで考え込んでいた。
だから、その声が聞こえてきた時には、神様からの救いだと思った。
「よう。言葉が通じなくて困ってんだろ」
若い男性の声だった。耳に届くというよりは、脳に直接話しかけられているような感じ。
周囲を見回してみても誰もいない。声の主はいったいどこにいるのだろうか。
「誰? どこにいるの?」
わたしの声は、わたしが知っている声ではなかった。わたしの声よりも少し幼くて、高い声だった。やはりこの身体は自分のものではないと理解する。わたしはどこかの誰かになってしまったのだ。
「俺はここだ、不運な自殺者さんよ」
ベッドの下から真っ白な蛇がにょろりと出てきた。体長は一メートルを優に超えるだろう。わたしの腕くらいの太さの胴はすべて白く、赤い絨毯の上で存在感を放っていた。あまりにも大きな蛇だったから、わたしは身構えてしまう。
白蛇は頭を持ち上げて、わたしを見る。紅の双眸がわたしを捉えている。
「死ねなくて残念だったな」
「あなたは誰? わたしは、どうなったの? どうしてあなたとは話ができるの?」
「まあ、そう焦るなよ。疑問はひとつずつ潰していこうじゃねえか」
白蛇は悠然としていた。今は、この白蛇に頼るしかなさそうだった。まともに話ができるのがこの白蛇しかいないのだ。白蛇が話していることに違和感を覚えながらも、もはやわたしが別の人物になっている時点でおかしいのだから、白蛇が人間の言葉を話していてもおかしくはないと思った。ここは人間でないものが人間の言葉を話すところなのだ。
「俺はベルズ。お前にわかりやすく言うなら、悪魔だ」
「悪魔? ここは、どこなの? 悪魔がいるような場所なの?」
「ここはお前がいた世界じゃねえ。もっと別の世界だ。ざっくりと説明するなら」
白蛇、ベルズは一呼吸置いて、言った。
「お前は異世界転生したんだ」
「……異世界、転生」
わたしはその言葉を繰り返す。
そんなもの、小説や漫画の世界でしか起こり得ないものだ。異世界転生して無双したとか、貴族の令嬢になって偉い人に愛されるとか、悪役令嬢の運命を変えるとか、そういった類の話なら知っている。まさか自分が同じ目に遭うとは思ってもみなかったけれど。
でも異世界転生したというのなら、言葉が全く通じないのも、別の人間になってしまったのも、すぐに説明がつく。というか、それ以外で今のわたしの状況を説明できるものがない。わたしはきっと知らない貴族の娘に転生してしまったのだ。
「思ったより焦らねえんだな」
ベルズに言われて、わたしは小さく頷いた。
「それ以外に考えられないから」
「頭のいい奴で助かる。さすが、俺が引っ張ってきただけはあるな」
「俺が引っ張ってきた? あなたが、わたしをここに転生させたの?」
「そうだ。お前なら俺の目的を達成させられると思ってな」
ベルズはそう言った。またわたしの疑問がひとつ増えたことを、わたしは溜息で示した。
「お前には選択肢がある。俺の仲間になるか、否か」
「それは選択肢なの?」
「お前に選ぶ権利があるんだから、選択肢だろ?」
嘘だ。ベルズは、わたしなら必ず仲間になることを選ぶと知っている。仲間になることを選ばなければ、わたしはここで生きていくことはできないだろう。それほどまでに、言葉の壁はわたしを阻んでいる。
「俺の仲間になれば、言葉が通じるようにしてやる。ただし、俺が近くにいることが条件だ」
「仲間にならなかったら?」
「この契約は破棄だ。お前は自力でどうにか生き延びてくれ」
「仲間になるからには、何か条件があるんでしょう?」
「くくっ、いいねえ、その頭の回転の速さ。お前を選んだのは間違いじゃなかった」
ベルズはわたしを褒めているのだろう。そんな気はしないけれど。
「俺はこの国に眠っている宝玉を見たい。国王だけが触れることを許される至宝だ。お前には何とかしてその宝玉を見られるようにしてほしい。手に入れる必要はねえ、見るだけでいい」
「国王だけ? そんなの、わたしにできるの?」
国王というからには、どの世界でも王国の頂点に立つ人間のことだろう。わたしはそんな偉い人に会えるような身分なのだろうか。
しかし、ベルズはこともなげに言った。
「できるさ。さっき会っただろ、あいつが国王だ。アルマス・ライ・ジョルド」
「ええ? あの、金髪の男の人?」
「ちなみに、今のお前の立場は国王の側室だからな。会おうと思えばいくらでも会える」
「側室って、じゃあ、わたしは国王の妻なの?」
ベルズはくくっと笑った。白い頭が上下に揺れる。
「そうだよ。だから、お前から国王に頼んで、俺に宝玉を見せてほしい」
「見せてって言って見せてもらえるもの?」
「さあな。俺にはわからん。ただひとつ言えるのは、その宝玉がこの国の至宝だってことだ」
その言葉は、簡単には見せてもらえないだろうとの見立てを示していた。この国の至宝というからには、さぞ厳重に保管されていることだろう。見せてほしいと言って、そう易々と見せてもらえる代物ではないはずだ。いくらわたしが側室だとしても、国王は首を縦には振らないような気がした。
「俺が出す条件はそれだけだ。お前が俺に宝玉を見せる代わりに、俺はお前にこの世界の言語を渡す。簡単な話だろ?」
ベルズは話を締めくくった。わたしが断ることなどできないと知っているように見えた。
これは、文字通り悪魔の囁きなのかもしれない。わたしにも都合が良いように見せかけて、実はわたしにとって不利な契約なのかもしれない。わたしは即決できなくて、ベルズに尋ねる。
「もし、宝玉を見せてもらえなかったら?」
「その時はその時に考える。今は、お前が成功することを祈ってるよ」
なんとも悪魔らしくない答えだ。失敗したら殺されるのかと思ったら、どうやらそうではないようだった。要は、成功することだけ考えておけということなのだろうか。
いずれにせよ、わたしには断ることができない。言葉を提供してもらえるのは大きすぎる。普通、異世界転生しても言葉は通じるものだと思っていたけれど、それは小説や漫画だけの話だったようだ。現実はそんなに甘くない。
わたしはベルズの紅い瞳を見つめて、答えた。
「わかった。頑張ってみる」
「よし。それじゃあ契約成立だな。手を出せ」
「こう?」
言われるがまま、ベルズに手を差し出す。わたしのものとは思えないくらい、白くて細い手だった。いや、実際にわたしではないのだ。わたしが転生した誰かは、どのような風貌なのだろうか。とりあえず肌は白くて綺麗ということはわかる。
ベルズは口を開いて、わたしの手首を噛んだ。
「いたっ……!」
突然訪れた痛みに顔をしかめる。ベルズの牙が肌に突き刺さり、そこから血が流れ出る。ベルズはその血を舐め取って、細い舌を動かした。
「これでお前と俺の契約は成った。宝玉を見るまでは離れねえぞ」
「うん。よろしくね」
「よろしく、か。ははっ、いいねえ、受け入れが早くて」
ベルズはまた笑った。やはりちっとも悪魔らしくない。
「ここでのお前の名はルミア。国王の第一の側室だ。といっても、側室はお前一人しかいない」
「そうなんだ。でも、側室ってことはそんなに国王に会えないんじゃないの?」
普通どれくらいの頻度で会うのかは知らないけれど、側室ということは、正室が他にいるということだ。まさか側室にべったりというわけではないだろう。
けれど、ベルズはわたしの考えを即座に否定した。
「いいや、国王アルマスはお前にぞっこんだ。見ただろ、お前が起きた時の喜び方」
「ああ、うん、恋人なんだなって思った」
わたしを抱きしめた時の彼の顔を思い出す。彼は心の底から喜んでいるような感じだった。言葉が通じない状態でも、この男性は自分のことを愛しているのだと悟らせるような、そんな勢いがあった。
「お前は一年間眠り続けていた。その間、アルマスは一度も正室を抱いていない。いいか、一度もだぞ」
「それだけ、側室を愛しているから?」
「そうだろうと俺は思っている。他の女なんて目に入らないくらい、お前を愛しているんだ」
そこまで愛された経験がないわたしには、それがどれほど深い愛なのか想像もつかない。ベルズも理解できないといったふうだった。
「わたしはどうして一年間も眠ってたの?」
「正室であるジョセフィーヌが魔女に頼んで呪いをかけたんだ。二度と目覚めることはないはずだった。俺が来なければな」
「ベルズが呪いを破った?」
「宝玉に近づくには、この側室を利用しない手はないと思った。だから呪いを解いてお前を転生さ
せた。お前が起き上がったことはもうジョセフィーヌに伝わっただろうな。今頃困惑してるだろうよ、どうして呪いが解けたんだ、ってな」
ベルズは楽しそうに言った。全く楽しくない状況じゃないか。
「呪われるくらい正室に嫌われてるってことだよね?」
「当然だろ。お前がいる限りアルマスは自分のところに来ない。本当は殺してやりたかったんだろうが、魔女の力が及ばなかったんだろうな。大して強くもない呪いだったし」
「でも、また呪われるんじゃないの? 大丈夫なの?」
「俺がお前を守ってやる。その辺の雑魚に負けやしねえよ」
わたしはベルズの言葉に頷くことしかできない。
そこまで関係が悪い正室、ジョセフィーヌと、これから一度も会わないということはないだろう。ジョセフィーヌがわたしのことを殺したいくらい憎んでいると知りながら、わたしは普通に対応することができるだろうか。できれば会いたくないなあ。正室と側室はどれくらい接する機会があるのだろうか。小説や漫画だと、お茶会みたいな集まりがありそうなものだけれど。
「お前は宝玉のことを考えてくれりゃいいんだ。お前の命は俺が守ってやるよ」
「ベルズはどうしてそんなに宝玉を見たいの?」
「あの宝玉には世界の至宝が眠ってる、らしい。俺はその世界の至宝が欲しいんだ」
「ふうん。悪魔でも宝物に興味があるんだね」
わたしがそう言うと、ベルズは笑った。
「それくらい価値のあるものが眠ってるってことだ。楽しみにしてろよ」
「わかった。とりあえず、国王様に言ってみればいいんだよね。見せてくださいって」
「やり方はお前に任せる。色仕掛けなり何なり、何でもいいから宝玉を見せてくれ」
「色仕掛け、ねえ」
わたしはいったいどんな風貌なのだろうか。ぺたぺたと身体を触ってみる。手足はとても細くて、華奢な身体だった。胸はそこまで大きくない。色仕掛けに使えそうな身体ではなさそうだった。
部屋に大きな鏡があることに気づいて、ベッドから下りる。久方ぶりに使われたからか、脚の筋肉が立ち上がるだけで悲鳴をあげているように感じた。これは、リハビリが必要なのではないだろうか。部屋から出ることさえままならないのではないか。
ふと、思った。ベルズなら何とかしてくれるんじゃない?
「ねえベルズ、立ち上がるだけで精一杯なんだけど、どうにかならない?」
「ああ、そうか、ずっと寝てたんだもんな。ほい」
ベルズの掛け声の直後、急に身体が軽くなった。何かしてくれたらしい。
「ありがと」
「他に不便なことがあったら言えよ。俺がどうにかできる部分はどうにかしてやる」
「頼もしいね」
「それだけ俺は宝玉を見たいってことだ。頼むぜ、相棒」
わたしは大きな鏡に自分の姿を映してみる。銀色の美しい髪が肩より下くらいまで伸びていて、瞳は空色。小柄で、ほっそりとした体格だった。まだ子どものようにも思える。十五、六歳くらいなのだろうか。思っていたよりもずっと可愛い女の子だった。
わたしが鏡で自分を眺めていると、部屋のドアがノックされた。ベルズはするするとわたしの身体を這い上がり、我が物顔で首に移動した。思ったよりも重い。
「ベルズ、重いんだけど」
「うるせえ。最初の難関だぞ」
「どうして?」
「どうやって俺の存在を認知させるか、だ。お前は俺を近くに置く必要がある。そのためには何か理由が必要だろ。そもそも、俺みたいなでかい蛇が側室の部屋にいること自体、おかしいと思わねえか?」
確かに。部屋に帰って、いきなりこんな大きな白蛇がいたら腰を抜かすだろう。
「ベルズが何か言ってくれたらいいんじゃないの?」
「俺の言葉は他のやつに聞こえねえ。いいか、俺と話せるのはお前だけだ。俺と話すのは勝手だが、蛇と会話してる奴だと思われるからな」
ベルズから忠告を受ける。この状況を打破するには、わたしが説明するしかないということか。うぅん、でも、どうやって説明したら納得してもらえるんだろう?
もう一度ノックされる。軽やかなノックだった。先程の中年の女性ではないように思えた。
「ルミア様ー? 入りますよー?」
わたしが応えるよりも早くドアが開けられた。わたしはベルズを首に掛けたまま、訪問者と対することになる。
訪問してきたのは、わたし、ルミアと同じくらいの年齢の女の子だった。焦茶色に近い赤色の髪をポニーテールにしている。琥珀色の瞳は丸くて、どこか幼い印象を与えた。着ている服は丈夫そうな布の服で、エプロンドレスではないから、使用人ではないのだろう。腰には彼女に不釣り合いな長剣が提げられている。
彼女はわたしを見て「うひゃあ」と声を上げた。
「ル、ルミア様、その蛇は何ですかぁ!」
言葉が通じている。わたしはそのことに安堵した。これがベルズの力なのだ。ひとまず言葉の壁を乗り越えることができてよかった。
「え、ええと、悪い蛇じゃないの」
我ながら馬鹿みたいな返しだと思った。彼女は長剣に手をかけながら、わたしに訊いた。
「どーゆーことです? それ、どこから迷い込んだんですか?」
「お、落ち着いて。わたし、この蛇のおかげで目覚めたの」
まず事実を述べてみる。すると、彼女は思いのほか簡単に剣の柄から手を離してくれた。
「んん? ちょっと、よくわかんないですけど、その蛇は魔女じゃないんです?」
「魔女じゃない、みたい? わたしにも、よくわからないの」
「ただの蛇にしては、大きいし白いですよね。何だろ、神の使いとかですかね?」
悪魔だとは言えず、わたしは曖昧に笑って応えた。後のことを考えたら、神の使いということにしてしまうほうがよかったかもしれない。
「ま、いっか。敵じゃないんですもんね」
「うん。わたしには懐いてるよ」
「じゃあ、いいことにしましょう。アルマス様の日々の祈りが届いたのかもしれないですしね」
「日々の祈りって?」
「ルミア様が目を覚ますように、毎日お祈りなさってたらしいですよ。愛の力ですね」
「そうなんだ。そのおかげなのかな」
アルマスの愛というのは底なしなのだろうか。それほどまでの愛をうけたことがないから、わたしには想像することもできない。毎日お祈りするって結構大変じゃない?
何にせよ、ベルズが言った最初の関門はこれでクリアできただろう。彼女はベルズの存在を彼女なりに受け入れてくれた。次は、わたしの番だ。
「あの、あなたは?」
わたしが訊くと、彼女はにこやかに笑って答えた。
「このたびルミア様の護衛を命じられました、カリスといいます。ルミア様がお部屋から出る時は必ず付いていきますので、よろしくお願いしまぁす」
カリスはちょこんと頭を下げた。ポニーテールがひらりと揺れる。
「お部屋から出たいなって時は電話してください。お迎えに行きますので」
「電話?」
そんなものがこの部屋にあっただろうか。わたしが訊き返すと、カリスは首を傾げた。
「はい。あれっ、電話、ないですか?」
「ごめんなさい、どれのことなのかわからなくて」
カリスはきょろきょろと部屋の中を見回す。そして、鏡台の上に置いてあったリモコンのようなものを手に取る。スマートフォンが普及する前の携帯電話のような見た目だった。
「これです。あたしを呼びたい時はこのボタンを押してください。あたしに繋がりますので、飛んでいきますね」
電話といっても機能はかなり限定的なのかもしれない。ボタンを見る限りでは、登録されている相手にしか発信できないようだった。まあ、カリスを呼ぶことができればよいのか。
「ちなみに、赤いボタンを押すとアルマスに繋がるからな。間違えて押すなよ」
「えっ、そうなの?」
ベルズが横から口を出してきたから、つい反応してしまった。カリスは目ざとく反応する。
「ルミア様、今その蛇と会話してました?」
「あの、黙っててほしいんだけど、実はね」
「やっぱり神の使いなんですよね? ルミア様のことを不憫に思った神様が助けてくれたんですよね!」
カリスはわたしの言うことが耳に入っていないようだった。わたしが口を挟む余地はなく、カリスはうっとりとした目で天井を見上げた。
「アルマス様の愛が神様にも届いたんですよ、きっと。いやぁ、いいですねぇ、謎の病も吹き飛んじゃうんですねぇ」
「謎の病って?」
「ルミア様が眠り続けたのは謎の病のせいだ、って医師が言ったんです。どこにも異常がないのに目を覚まさないから、謎の病だってことにして匙を投げたんですよ」
「そうだったんだ。何だったんだろうね」
わたしはしらばっくれてそう言った。まさかジョセフィーヌに魔女の呪いをかけられていました、などと言えるはずもない。言っても信じてもらえないだろう。わたしなら信じない。長い間眠っていて頭がおかしくなったと思われる可能性だってある。
「ジョセフィーヌ様は天罰だとか言ってますけどね。天罰を受けるのはお前だよって話で」
「カリス、正室に対してそんなことを言うのはよくないよ」
「ええ? でもでも、あの人がルミア様に呪いをかけたって噂もあるんですよ。そういうことしそうな人だからなぁ」
「カリス。誰が聞いてるかもわからないんだから、だめ」
わたしが二度たしなめると、ようやくカリスはジョセフィーヌの話をやめた。
「はぁい。あ、これは言わせてください」
「なに?」
「あたしが護衛として付けられたのは、ルミア様の安全を守るためです。護衛が付けられるくらい危ない立場なんだってこと、わかっといてくださいね」
カリスはわたしに警告した。その琥珀色の瞳を見つめると、ふわりと微笑みが返ってくる。
「ま、大丈夫ですよ、あたしがいるんで。どーんとお任せくださいっ」
「ふふ、ありがと、カリス。頼りにするね」
「はいっ、頑張りまぁす」
わたしがそう言うと、カリスは嬉しそうに笑った。その表情からは、戦場に立つような人間とは思えない純真さが窺えた。
「なるほど。アルマスも馬鹿ではないみたいだな」
ベルズが呟く。わたしがちらりと見ると、ベルズは独り言のように続けた。
「このお嬢ちゃん、見かけじゃわかんねえがかなり強い。本気でお前を守る気だ。ジョセフィーヌが犯人とは思っていないようだが、お前が狙われることは見越してるみたいだな」
「そうなんだ。わかった、気をつけるね」
「あ、また蛇と話してる。何ですか、何て言ってるんですか?」
本当にカリスには何も聞こえていないみたいだった。わたしは反応に困ってしまう。正直に話してもよいものだろうか。
「うぅん、その、狙われるだろうから気をつけろ、って」
「ああ、やっぱりそうですか。神の使いが言うんですから、そうなんでしょうねぇ」
カリスの中では、ベルズは神の使いということで落ち着いたらしい。好意的に捉えてくれて何よりだ。誰もがこんなにたやすく受け入れてくれるわけではないだろうし、わたしもちゃんとした説明ができるようにしておかないといけない。
「では、あたしはこれで。お部屋から出たくなったら必ず呼んでくださいね」
「うん、ありがと」
必ず、にかなり力を入れて言われてしまった。こっそり出るわけにはいかないだろう。カリスが責められるかもしれないし、部屋から出る時には呼ばないといけない。忘れて部屋から出ないようにしないと。
カリスは入ってきた時と同じように、軽やかな風のように出て行った。部屋の中が再び静かになる。
「夜にはアルマスが来るだろう。俺を何て説明するか考えておけよ」
ベルズはそう言った。神の使い、ということにしようと思った。それがいちばん楽だ。全ての事実を伏せたままにして、都合良く解釈させるためには、神の使いという非現実的なものにするほうがよいだろう。実際、毎日お祈りしていたらしいし。
わたしは夜に向けて思いを馳せる。国王陛下アルマス。いったい、どんな人なのだろう?
こんな人生なんて終わってしまえばいい。続けていく価値なんてない。
わたしは窓を開ける。狭いベランダに出て、下を見る。遠く離れた地面がそこにある。ここは七階だから、飛び降りればおそらく生きていないだろう。
終わらせよう。もう、疲れてしまった。これ以上は耐えられない。
身を乗り出す。そして、乗り越える。空に向かって、飛び出す。わたしの身体が浮くはずもなく、あっという間に重力に従って落ちていく。
浮遊感。風切り音。わたしは目を閉じる。
暗転。
ああ、終わった。
終わったと思ったのに、わたしの意識はまだそこにあった。
痛みはない。だとしたら、わたしはいったいどうなったというのだろう。
恐る恐る目を開けてみる。全く知らない部屋で、わたしは寝ている。少し身体が凝り固まっているような気がするけれど、それだけだ。どこにも痛みはない。わたしは七階から飛び降りたはずなのに、どうして無傷のままなのだろうか。
身体を起こす。とても豪勢なベッドに寝ていることに気がつく。部屋は広く、壁のところどころに装飾が施されていて、自分の部屋ではないことがわかる。もちろん、病室でないことも。テレビや漫画で見るような、貴族が寝ているような部屋だと感じた。
メイド服のようなモノトーンのエプロンドレスを着た中年の女性が部屋に入ってくる。そして、わたしを見るなり、叫ぶ。
「××××××!」
何と言っているのかわからなかったけれど、驚いていることは伝わった。女性はすぐさま部屋を出て行ってしまう。わたしが起きているのがそんなに驚くことなのだろうか。
頭がはっきりしない。長く寝すぎた後のような感覚に陥っている。それでも、自分が生きていることは理解できる。
どうしてわたしは生きているのだろうか。マンションから飛び降りたことは覚えている。ここは天国なのだろうか。それとも、地獄? あるいは、そのどちらでもない死後の世界? もしかしたらわたしは助かってしまって、今は夢を見ているのかもしれない。しかし、どれも違うような気がした。夢よりももっと現実感があるのだ。
わたしがぼんやりとしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。壊れるのではないかと思うほどの勢いに、わたしは驚く。
入ってきたのは赤いマントを羽織った若い男性だった。金色の髪は短く整えられていて、青色の瞳が輝いている。その視線の先にはわたしがいる。彼はわたしが起きていることを喜んでいるようだった。飛び込むような勢いでわたしに近づいてきて、わたしの身体を抱きしめてくる。
「×××! ××××××!」
やはり何を言っているのかわからない。英語でもないし、わたしが聞いたことのない言語だった。ただ、何かを喜んでいることだけは伝わる。わたしが起き上がったことと何か関わりがあるのかもしれない。
男性はわたしを見て、反応がないことを気にしているようだった。わたしは表情だけで困惑を表してみる。向こうの言葉が通じないのなら、わたしの言葉も通じないのではないかと思った。わたしの顔を見て、男性の勢いが削がれていった。
「××××××」
中年の女性が男性に声をかける。男性はわたしの身体を解放した。ひどく残念そうな顔をしていたのが気になって、わたしは男性に手を伸ばした。男性はその手を取り、愛おしそうにぎゅっと握ってくれた。
なるほど。状況は少しだけ把握できた。
この男性と今のわたしは恋仲にある。わたしはきっと長く眠っていて、ずっと目覚めなかったのだろう。それが、今起きたことによって、この男性がとても喜んでいるのだ。格好から察するに彼は貴族なのだろう。あの中年の女性は使用人といったところか。
問題は、わたしがどうしてその女性になってしまったのかということだ。わたしはマンションから飛び降りたはずだ。それなのに、どうして赤の他人になってしまったのだろう? これは、わたしが天国か地獄かに行くための試練か何かなのだろうか。ここでの動向によって、天国に行くか地獄に送られるかが決まるのだろうか。
「×××××××」
男性はわたしに何かを言って、わたしの手にキスをした。そして、マントを翻して去っていく。部屋から出る際に振り向いて、名残惜しそうにしながら出て行く。
わたしが何の反応も示さなかったからか、中年の女性は心配そうにわたしを見ていた。わたしは作り笑顔を浮かべて、大丈夫だと示してみる。彼女は一礼して、部屋を立ち去った。そうして、わたしはこの広い部屋に独りになる。
さて、困った。言葉の壁というものの厚さ、高さを感じていた。誰も彼もが何を言っているのか見当もつかない。英語ならまだ単語を聞き取ってコミュニケーションを取ることができるけれど、それ以外の言語となると全くわからない。打つ手がないというのが正直なところだ。言葉が通じないというのがこんなにも大変なことなのだということを実感する。
どうしたらよいのだろうか。辞書なんてあるはずもないし、あったとしても聞き取れないのだから使うことすらできない。わたしはひとりで考え込んでいた。
だから、その声が聞こえてきた時には、神様からの救いだと思った。
「よう。言葉が通じなくて困ってんだろ」
若い男性の声だった。耳に届くというよりは、脳に直接話しかけられているような感じ。
周囲を見回してみても誰もいない。声の主はいったいどこにいるのだろうか。
「誰? どこにいるの?」
わたしの声は、わたしが知っている声ではなかった。わたしの声よりも少し幼くて、高い声だった。やはりこの身体は自分のものではないと理解する。わたしはどこかの誰かになってしまったのだ。
「俺はここだ、不運な自殺者さんよ」
ベッドの下から真っ白な蛇がにょろりと出てきた。体長は一メートルを優に超えるだろう。わたしの腕くらいの太さの胴はすべて白く、赤い絨毯の上で存在感を放っていた。あまりにも大きな蛇だったから、わたしは身構えてしまう。
白蛇は頭を持ち上げて、わたしを見る。紅の双眸がわたしを捉えている。
「死ねなくて残念だったな」
「あなたは誰? わたしは、どうなったの? どうしてあなたとは話ができるの?」
「まあ、そう焦るなよ。疑問はひとつずつ潰していこうじゃねえか」
白蛇は悠然としていた。今は、この白蛇に頼るしかなさそうだった。まともに話ができるのがこの白蛇しかいないのだ。白蛇が話していることに違和感を覚えながらも、もはやわたしが別の人物になっている時点でおかしいのだから、白蛇が人間の言葉を話していてもおかしくはないと思った。ここは人間でないものが人間の言葉を話すところなのだ。
「俺はベルズ。お前にわかりやすく言うなら、悪魔だ」
「悪魔? ここは、どこなの? 悪魔がいるような場所なの?」
「ここはお前がいた世界じゃねえ。もっと別の世界だ。ざっくりと説明するなら」
白蛇、ベルズは一呼吸置いて、言った。
「お前は異世界転生したんだ」
「……異世界、転生」
わたしはその言葉を繰り返す。
そんなもの、小説や漫画の世界でしか起こり得ないものだ。異世界転生して無双したとか、貴族の令嬢になって偉い人に愛されるとか、悪役令嬢の運命を変えるとか、そういった類の話なら知っている。まさか自分が同じ目に遭うとは思ってもみなかったけれど。
でも異世界転生したというのなら、言葉が全く通じないのも、別の人間になってしまったのも、すぐに説明がつく。というか、それ以外で今のわたしの状況を説明できるものがない。わたしはきっと知らない貴族の娘に転生してしまったのだ。
「思ったより焦らねえんだな」
ベルズに言われて、わたしは小さく頷いた。
「それ以外に考えられないから」
「頭のいい奴で助かる。さすが、俺が引っ張ってきただけはあるな」
「俺が引っ張ってきた? あなたが、わたしをここに転生させたの?」
「そうだ。お前なら俺の目的を達成させられると思ってな」
ベルズはそう言った。またわたしの疑問がひとつ増えたことを、わたしは溜息で示した。
「お前には選択肢がある。俺の仲間になるか、否か」
「それは選択肢なの?」
「お前に選ぶ権利があるんだから、選択肢だろ?」
嘘だ。ベルズは、わたしなら必ず仲間になることを選ぶと知っている。仲間になることを選ばなければ、わたしはここで生きていくことはできないだろう。それほどまでに、言葉の壁はわたしを阻んでいる。
「俺の仲間になれば、言葉が通じるようにしてやる。ただし、俺が近くにいることが条件だ」
「仲間にならなかったら?」
「この契約は破棄だ。お前は自力でどうにか生き延びてくれ」
「仲間になるからには、何か条件があるんでしょう?」
「くくっ、いいねえ、その頭の回転の速さ。お前を選んだのは間違いじゃなかった」
ベルズはわたしを褒めているのだろう。そんな気はしないけれど。
「俺はこの国に眠っている宝玉を見たい。国王だけが触れることを許される至宝だ。お前には何とかしてその宝玉を見られるようにしてほしい。手に入れる必要はねえ、見るだけでいい」
「国王だけ? そんなの、わたしにできるの?」
国王というからには、どの世界でも王国の頂点に立つ人間のことだろう。わたしはそんな偉い人に会えるような身分なのだろうか。
しかし、ベルズはこともなげに言った。
「できるさ。さっき会っただろ、あいつが国王だ。アルマス・ライ・ジョルド」
「ええ? あの、金髪の男の人?」
「ちなみに、今のお前の立場は国王の側室だからな。会おうと思えばいくらでも会える」
「側室って、じゃあ、わたしは国王の妻なの?」
ベルズはくくっと笑った。白い頭が上下に揺れる。
「そうだよ。だから、お前から国王に頼んで、俺に宝玉を見せてほしい」
「見せてって言って見せてもらえるもの?」
「さあな。俺にはわからん。ただひとつ言えるのは、その宝玉がこの国の至宝だってことだ」
その言葉は、簡単には見せてもらえないだろうとの見立てを示していた。この国の至宝というからには、さぞ厳重に保管されていることだろう。見せてほしいと言って、そう易々と見せてもらえる代物ではないはずだ。いくらわたしが側室だとしても、国王は首を縦には振らないような気がした。
「俺が出す条件はそれだけだ。お前が俺に宝玉を見せる代わりに、俺はお前にこの世界の言語を渡す。簡単な話だろ?」
ベルズは話を締めくくった。わたしが断ることなどできないと知っているように見えた。
これは、文字通り悪魔の囁きなのかもしれない。わたしにも都合が良いように見せかけて、実はわたしにとって不利な契約なのかもしれない。わたしは即決できなくて、ベルズに尋ねる。
「もし、宝玉を見せてもらえなかったら?」
「その時はその時に考える。今は、お前が成功することを祈ってるよ」
なんとも悪魔らしくない答えだ。失敗したら殺されるのかと思ったら、どうやらそうではないようだった。要は、成功することだけ考えておけということなのだろうか。
いずれにせよ、わたしには断ることができない。言葉を提供してもらえるのは大きすぎる。普通、異世界転生しても言葉は通じるものだと思っていたけれど、それは小説や漫画だけの話だったようだ。現実はそんなに甘くない。
わたしはベルズの紅い瞳を見つめて、答えた。
「わかった。頑張ってみる」
「よし。それじゃあ契約成立だな。手を出せ」
「こう?」
言われるがまま、ベルズに手を差し出す。わたしのものとは思えないくらい、白くて細い手だった。いや、実際にわたしではないのだ。わたしが転生した誰かは、どのような風貌なのだろうか。とりあえず肌は白くて綺麗ということはわかる。
ベルズは口を開いて、わたしの手首を噛んだ。
「いたっ……!」
突然訪れた痛みに顔をしかめる。ベルズの牙が肌に突き刺さり、そこから血が流れ出る。ベルズはその血を舐め取って、細い舌を動かした。
「これでお前と俺の契約は成った。宝玉を見るまでは離れねえぞ」
「うん。よろしくね」
「よろしく、か。ははっ、いいねえ、受け入れが早くて」
ベルズはまた笑った。やはりちっとも悪魔らしくない。
「ここでのお前の名はルミア。国王の第一の側室だ。といっても、側室はお前一人しかいない」
「そうなんだ。でも、側室ってことはそんなに国王に会えないんじゃないの?」
普通どれくらいの頻度で会うのかは知らないけれど、側室ということは、正室が他にいるということだ。まさか側室にべったりというわけではないだろう。
けれど、ベルズはわたしの考えを即座に否定した。
「いいや、国王アルマスはお前にぞっこんだ。見ただろ、お前が起きた時の喜び方」
「ああ、うん、恋人なんだなって思った」
わたしを抱きしめた時の彼の顔を思い出す。彼は心の底から喜んでいるような感じだった。言葉が通じない状態でも、この男性は自分のことを愛しているのだと悟らせるような、そんな勢いがあった。
「お前は一年間眠り続けていた。その間、アルマスは一度も正室を抱いていない。いいか、一度もだぞ」
「それだけ、側室を愛しているから?」
「そうだろうと俺は思っている。他の女なんて目に入らないくらい、お前を愛しているんだ」
そこまで愛された経験がないわたしには、それがどれほど深い愛なのか想像もつかない。ベルズも理解できないといったふうだった。
「わたしはどうして一年間も眠ってたの?」
「正室であるジョセフィーヌが魔女に頼んで呪いをかけたんだ。二度と目覚めることはないはずだった。俺が来なければな」
「ベルズが呪いを破った?」
「宝玉に近づくには、この側室を利用しない手はないと思った。だから呪いを解いてお前を転生さ
せた。お前が起き上がったことはもうジョセフィーヌに伝わっただろうな。今頃困惑してるだろうよ、どうして呪いが解けたんだ、ってな」
ベルズは楽しそうに言った。全く楽しくない状況じゃないか。
「呪われるくらい正室に嫌われてるってことだよね?」
「当然だろ。お前がいる限りアルマスは自分のところに来ない。本当は殺してやりたかったんだろうが、魔女の力が及ばなかったんだろうな。大して強くもない呪いだったし」
「でも、また呪われるんじゃないの? 大丈夫なの?」
「俺がお前を守ってやる。その辺の雑魚に負けやしねえよ」
わたしはベルズの言葉に頷くことしかできない。
そこまで関係が悪い正室、ジョセフィーヌと、これから一度も会わないということはないだろう。ジョセフィーヌがわたしのことを殺したいくらい憎んでいると知りながら、わたしは普通に対応することができるだろうか。できれば会いたくないなあ。正室と側室はどれくらい接する機会があるのだろうか。小説や漫画だと、お茶会みたいな集まりがありそうなものだけれど。
「お前は宝玉のことを考えてくれりゃいいんだ。お前の命は俺が守ってやるよ」
「ベルズはどうしてそんなに宝玉を見たいの?」
「あの宝玉には世界の至宝が眠ってる、らしい。俺はその世界の至宝が欲しいんだ」
「ふうん。悪魔でも宝物に興味があるんだね」
わたしがそう言うと、ベルズは笑った。
「それくらい価値のあるものが眠ってるってことだ。楽しみにしてろよ」
「わかった。とりあえず、国王様に言ってみればいいんだよね。見せてくださいって」
「やり方はお前に任せる。色仕掛けなり何なり、何でもいいから宝玉を見せてくれ」
「色仕掛け、ねえ」
わたしはいったいどんな風貌なのだろうか。ぺたぺたと身体を触ってみる。手足はとても細くて、華奢な身体だった。胸はそこまで大きくない。色仕掛けに使えそうな身体ではなさそうだった。
部屋に大きな鏡があることに気づいて、ベッドから下りる。久方ぶりに使われたからか、脚の筋肉が立ち上がるだけで悲鳴をあげているように感じた。これは、リハビリが必要なのではないだろうか。部屋から出ることさえままならないのではないか。
ふと、思った。ベルズなら何とかしてくれるんじゃない?
「ねえベルズ、立ち上がるだけで精一杯なんだけど、どうにかならない?」
「ああ、そうか、ずっと寝てたんだもんな。ほい」
ベルズの掛け声の直後、急に身体が軽くなった。何かしてくれたらしい。
「ありがと」
「他に不便なことがあったら言えよ。俺がどうにかできる部分はどうにかしてやる」
「頼もしいね」
「それだけ俺は宝玉を見たいってことだ。頼むぜ、相棒」
わたしは大きな鏡に自分の姿を映してみる。銀色の美しい髪が肩より下くらいまで伸びていて、瞳は空色。小柄で、ほっそりとした体格だった。まだ子どものようにも思える。十五、六歳くらいなのだろうか。思っていたよりもずっと可愛い女の子だった。
わたしが鏡で自分を眺めていると、部屋のドアがノックされた。ベルズはするするとわたしの身体を這い上がり、我が物顔で首に移動した。思ったよりも重い。
「ベルズ、重いんだけど」
「うるせえ。最初の難関だぞ」
「どうして?」
「どうやって俺の存在を認知させるか、だ。お前は俺を近くに置く必要がある。そのためには何か理由が必要だろ。そもそも、俺みたいなでかい蛇が側室の部屋にいること自体、おかしいと思わねえか?」
確かに。部屋に帰って、いきなりこんな大きな白蛇がいたら腰を抜かすだろう。
「ベルズが何か言ってくれたらいいんじゃないの?」
「俺の言葉は他のやつに聞こえねえ。いいか、俺と話せるのはお前だけだ。俺と話すのは勝手だが、蛇と会話してる奴だと思われるからな」
ベルズから忠告を受ける。この状況を打破するには、わたしが説明するしかないということか。うぅん、でも、どうやって説明したら納得してもらえるんだろう?
もう一度ノックされる。軽やかなノックだった。先程の中年の女性ではないように思えた。
「ルミア様ー? 入りますよー?」
わたしが応えるよりも早くドアが開けられた。わたしはベルズを首に掛けたまま、訪問者と対することになる。
訪問してきたのは、わたし、ルミアと同じくらいの年齢の女の子だった。焦茶色に近い赤色の髪をポニーテールにしている。琥珀色の瞳は丸くて、どこか幼い印象を与えた。着ている服は丈夫そうな布の服で、エプロンドレスではないから、使用人ではないのだろう。腰には彼女に不釣り合いな長剣が提げられている。
彼女はわたしを見て「うひゃあ」と声を上げた。
「ル、ルミア様、その蛇は何ですかぁ!」
言葉が通じている。わたしはそのことに安堵した。これがベルズの力なのだ。ひとまず言葉の壁を乗り越えることができてよかった。
「え、ええと、悪い蛇じゃないの」
我ながら馬鹿みたいな返しだと思った。彼女は長剣に手をかけながら、わたしに訊いた。
「どーゆーことです? それ、どこから迷い込んだんですか?」
「お、落ち着いて。わたし、この蛇のおかげで目覚めたの」
まず事実を述べてみる。すると、彼女は思いのほか簡単に剣の柄から手を離してくれた。
「んん? ちょっと、よくわかんないですけど、その蛇は魔女じゃないんです?」
「魔女じゃない、みたい? わたしにも、よくわからないの」
「ただの蛇にしては、大きいし白いですよね。何だろ、神の使いとかですかね?」
悪魔だとは言えず、わたしは曖昧に笑って応えた。後のことを考えたら、神の使いということにしてしまうほうがよかったかもしれない。
「ま、いっか。敵じゃないんですもんね」
「うん。わたしには懐いてるよ」
「じゃあ、いいことにしましょう。アルマス様の日々の祈りが届いたのかもしれないですしね」
「日々の祈りって?」
「ルミア様が目を覚ますように、毎日お祈りなさってたらしいですよ。愛の力ですね」
「そうなんだ。そのおかげなのかな」
アルマスの愛というのは底なしなのだろうか。それほどまでの愛をうけたことがないから、わたしには想像することもできない。毎日お祈りするって結構大変じゃない?
何にせよ、ベルズが言った最初の関門はこれでクリアできただろう。彼女はベルズの存在を彼女なりに受け入れてくれた。次は、わたしの番だ。
「あの、あなたは?」
わたしが訊くと、彼女はにこやかに笑って答えた。
「このたびルミア様の護衛を命じられました、カリスといいます。ルミア様がお部屋から出る時は必ず付いていきますので、よろしくお願いしまぁす」
カリスはちょこんと頭を下げた。ポニーテールがひらりと揺れる。
「お部屋から出たいなって時は電話してください。お迎えに行きますので」
「電話?」
そんなものがこの部屋にあっただろうか。わたしが訊き返すと、カリスは首を傾げた。
「はい。あれっ、電話、ないですか?」
「ごめんなさい、どれのことなのかわからなくて」
カリスはきょろきょろと部屋の中を見回す。そして、鏡台の上に置いてあったリモコンのようなものを手に取る。スマートフォンが普及する前の携帯電話のような見た目だった。
「これです。あたしを呼びたい時はこのボタンを押してください。あたしに繋がりますので、飛んでいきますね」
電話といっても機能はかなり限定的なのかもしれない。ボタンを見る限りでは、登録されている相手にしか発信できないようだった。まあ、カリスを呼ぶことができればよいのか。
「ちなみに、赤いボタンを押すとアルマスに繋がるからな。間違えて押すなよ」
「えっ、そうなの?」
ベルズが横から口を出してきたから、つい反応してしまった。カリスは目ざとく反応する。
「ルミア様、今その蛇と会話してました?」
「あの、黙っててほしいんだけど、実はね」
「やっぱり神の使いなんですよね? ルミア様のことを不憫に思った神様が助けてくれたんですよね!」
カリスはわたしの言うことが耳に入っていないようだった。わたしが口を挟む余地はなく、カリスはうっとりとした目で天井を見上げた。
「アルマス様の愛が神様にも届いたんですよ、きっと。いやぁ、いいですねぇ、謎の病も吹き飛んじゃうんですねぇ」
「謎の病って?」
「ルミア様が眠り続けたのは謎の病のせいだ、って医師が言ったんです。どこにも異常がないのに目を覚まさないから、謎の病だってことにして匙を投げたんですよ」
「そうだったんだ。何だったんだろうね」
わたしはしらばっくれてそう言った。まさかジョセフィーヌに魔女の呪いをかけられていました、などと言えるはずもない。言っても信じてもらえないだろう。わたしなら信じない。長い間眠っていて頭がおかしくなったと思われる可能性だってある。
「ジョセフィーヌ様は天罰だとか言ってますけどね。天罰を受けるのはお前だよって話で」
「カリス、正室に対してそんなことを言うのはよくないよ」
「ええ? でもでも、あの人がルミア様に呪いをかけたって噂もあるんですよ。そういうことしそうな人だからなぁ」
「カリス。誰が聞いてるかもわからないんだから、だめ」
わたしが二度たしなめると、ようやくカリスはジョセフィーヌの話をやめた。
「はぁい。あ、これは言わせてください」
「なに?」
「あたしが護衛として付けられたのは、ルミア様の安全を守るためです。護衛が付けられるくらい危ない立場なんだってこと、わかっといてくださいね」
カリスはわたしに警告した。その琥珀色の瞳を見つめると、ふわりと微笑みが返ってくる。
「ま、大丈夫ですよ、あたしがいるんで。どーんとお任せくださいっ」
「ふふ、ありがと、カリス。頼りにするね」
「はいっ、頑張りまぁす」
わたしがそう言うと、カリスは嬉しそうに笑った。その表情からは、戦場に立つような人間とは思えない純真さが窺えた。
「なるほど。アルマスも馬鹿ではないみたいだな」
ベルズが呟く。わたしがちらりと見ると、ベルズは独り言のように続けた。
「このお嬢ちゃん、見かけじゃわかんねえがかなり強い。本気でお前を守る気だ。ジョセフィーヌが犯人とは思っていないようだが、お前が狙われることは見越してるみたいだな」
「そうなんだ。わかった、気をつけるね」
「あ、また蛇と話してる。何ですか、何て言ってるんですか?」
本当にカリスには何も聞こえていないみたいだった。わたしは反応に困ってしまう。正直に話してもよいものだろうか。
「うぅん、その、狙われるだろうから気をつけろ、って」
「ああ、やっぱりそうですか。神の使いが言うんですから、そうなんでしょうねぇ」
カリスの中では、ベルズは神の使いということで落ち着いたらしい。好意的に捉えてくれて何よりだ。誰もがこんなにたやすく受け入れてくれるわけではないだろうし、わたしもちゃんとした説明ができるようにしておかないといけない。
「では、あたしはこれで。お部屋から出たくなったら必ず呼んでくださいね」
「うん、ありがと」
必ず、にかなり力を入れて言われてしまった。こっそり出るわけにはいかないだろう。カリスが責められるかもしれないし、部屋から出る時には呼ばないといけない。忘れて部屋から出ないようにしないと。
カリスは入ってきた時と同じように、軽やかな風のように出て行った。部屋の中が再び静かになる。
「夜にはアルマスが来るだろう。俺を何て説明するか考えておけよ」
ベルズはそう言った。神の使い、ということにしようと思った。それがいちばん楽だ。全ての事実を伏せたままにして、都合良く解釈させるためには、神の使いという非現実的なものにするほうがよいだろう。実際、毎日お祈りしていたらしいし。
わたしは夜に向けて思いを馳せる。国王陛下アルマス。いったい、どんな人なのだろう?
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